会話の中で、太宰治の斜陽の台詞を引用した時に、友人が「なにそれ斜陽?」って聞いてきたら「左様(しゃよう)!」って答えたらウケるんじゃないかと思ってタイミングを狙い始めて3年が経過しました。
かわいいカパルを知ってからは2年くらいです。
それはさておき
プルルルルルル!
わたしはこの会社の電話というものが嫌いで、悪魔のベルと呼んでいる。
できることなら取りたくないと常々思っているのだ。
この種の電話は絶対に幸せを運んでこない。
電話に出たら「コングラッチレーション!」とか言われてノーベル賞受賞を知らせる電話だったなんてことは絶対にない。
新たに追加される仕事かお叱りか苦情か、歯医者への電話はそんなゴミみたいなものしか運んでこない。
できることなら取りたくない。
だからと言って電話をシカトなんてできるはずもない、その辺が社会に生きる人間として辛いところなのですが、やれやれだぜ、とかラノベの主人公みたいな感じで気だるい雰囲気を醸し出しつつ、その悪魔の電話を取りました。
「はじめまして!大変ご迷惑とは思いますが、少しだけお時間をいただけないでしょうか!」
いきなり超元気。
物凄い滑舌の良さ。
体育会系の部活で真っ直ぐ育ってきて先輩にも後輩にも慕われる、年上女性からのウケもいいみたいな人物像が容易に想像できます。
まあ、いくら純真そうで情熱ありそうな青年からの電話といっても、これ、悲しいけど勧誘電話なんですよね。
「すいません。いまちょっと忙しいんで」
この原稿を完璧に書き上げないと大変なことになってしまいますので、勧誘電話に付き合っている暇はないのです。
けれどもまあ、基本的にこういった勧誘電話を断る文句として「今忙しい」は最もやってはいけない行為なのです。
よくよく考えてみてください。
勧誘電話をかけ続ける電話の向こう側の人、唐突で無礼で誰かを騙そうとしている悪魔のような存在に思いがちですが、彼らだって人間、人の子なわけなんです。
人並みの心もあれば怒りもするし悲しみもする。
わたしたちと同じ感情を持った人間なのです。
ですから、一日中勧誘の電話をかけ続け、時には酷い言葉を浴びせかけられたり、怒鳴られたり、嫌味を言われたりするわけです。
そうなると、普通の考え方の持ち主は簡単に心が壊れてしまう。
じゃあ、彼らはどうするか。
そう、考えられないレベルでポジティブな思考にシフト。
そうすることで自分の心を守護するのです。
勧誘の電話をかけ、怒鳴られたり怒られたらどうでしょうか。
怖かったー、電話かけないようにしようって思うでしょう。
けれども、彼らは完全にポジティブになってますから、怒鳴られたということは話を聞いてくれたということだ。
興味があるに違いない。
脈アリ。
また電話しよう、となるみたいなんです。
それと同じで「今忙しいから」という断り文句は最低です。
普通なら、遠まわしにやんわりと断られていると理解できそうなものですが、彼らはとにかくポジティブにできている。
「今忙しい」→「忙しくないなら話を聞く」→「興味ある」→「ガンガン勧誘してくれ!」とこう変換されるらしいのです、ルナ先生か。
とにかく、忙しいという断り文句は彼らにとって興味あるというウエルカムと同じですので、絶対にやってはいけません。
「いりません」「興味ありません」といってガツンと断らないといけないのです。
現に今回の電話も、わたしのその「(原稿を書くから)忙しい」という言葉を聞いて途端にヒートアップ。
「忙しいといっても電話もできないくらいに忙しいってことはそうそうないですよね!」
もう完全に調子ぶっこいてますからね。
ここまで調子に乗られると清々しさすら感じられるのですけど、よくよく考えると、これって一理あるんですよ。
世の中には色々な忙しい人、激務な人っているとは思いますし、それこそ、数分、数秒の電話をする暇すらないレベルで忙しい人も少なくはないと思うんです。
でもね、どう考えてもわたしの忙しさはそんなレベルじゃない。
原稿書いてるだけですから、普通に電話に耳を傾ける時間くらいは余裕である。
よく、ツイッターとかで忙しくて死にそう、全然暇がない、って呟いている人いますけど、呟く暇はあるっていう矛盾みたいな状態になってますからね。
それと同じで、電話をできないほど忙しいわけではない、そんな結論に達してしまったのです。
「そういえばそうだね。一理ある。よく考えたらそこまで忙しくないです」
彼が言うことももっともだ。
わたしがそう答えると、電話の向こうの彼はさらにヒートアップ。オラア!カモが引っかかったぞ!という彼の心の声が聞こえてくるようでした。
「それでは聞いてください。私、○○者のXXと申します。今日はとてもお得なマンションの販売についてお電話差し上げました!なんと!大阪の一等地のマンションです!」
自分の得意分野のアニメのことを話しているオタクくらいのヒートアップさで話す彼。
まず落ち着いて欲しい。
とにかく落ち着いて欲しい。
この時点でおかしい場所が2箇所ある。
まず、わたしはお金がなさすぎて死にそうで、明日のご飯のお金をどうしようかと悩んでいるレベルの人間だ。
使ってない銀行口座の800円ほどの残高のうち、手数料を抜いた400円くらいをさらに使ってない700円ほどの残高の口座に振り込み。
自分の口座から自分の口座に振り込んで1000円以上にして下ろして食料を買おうという人間だ。
そんな人間がマンションを買えるか。
「いやー、でも自分の口座から自分の口座に金を振り込んで残高を1000円以上にしようって人間ですよ。そんな人間がマンションを買えるとは思えない」
正直にそう答えるんですけど、彼は止まらない。
「購入される方みんなそうおっしゃります。けれどもなんとかなるものですよ。逆にローンの返済となるとお金の使い道をよく吟味するようになり、逆に貯金が増えたなんて方もおられます」
とテンプレート的な回答。
本当に自分の口座から自分の口座に振り込んでるなんて皆が言ってるのかよと思うのですが、もう一つのおかしい場所を責め立てる。
「そもそも、大阪に住んでないんで、大阪のマンションを買っても仕方がないんですけど」
わたしはそもそも大阪に住んでいないし、おととし、新幹線に乗って大阪に行ったら大阪到着の7分後にマクドナルドでお釣りを貰えないとう大事件が勃発した。
完全にわたしにとっての魔都市大阪で、住むなんてなったら臓器とかまで取られかねない。
大阪のマンション買ってる場合じゃない。
「いえいえ、住むんじゃありませんよ(笑)」
かなり調子に乗っちゃってるんでしょうね。
ちょっと小馬鹿にした感じ鼻で笑いながら言われてしまいました。
「マンションに住まないなんておかしい。あんぱんを買って食べないのと一緒だ!」
わたしもまあ、全然わかってるんですけど、ここは彼を調子に乗らせたほうが面白いんじゃないかと思いましてね、彼がヒートするよう全然わかってない感じを醸し出してみました。
「実は投資用マンションなんですよ。このマンションは好立地ですからね、必ず値上がりします。ですから今、ローンを組んで買っても必ず儲かるわけなんです」
こういう勧誘の場合はですね、基本的には「値上がりする」「絶対に儲かる」という言葉を使ってはいけないんですよ。
ですから、こういう文言が入っている勧誘は1000%詐欺だと思って頂いて結構なんですけど、これを言っちゃうってことは彼も相当調子に乗ってる証拠なんですね。
さあ、ここら上手に話を展開していって極めてナチュラルに職場のパワハラ話に持って行くぞ!と思ったんですけど、途方もない事実に気がついちゃったんですね。
そう、そんなに長いこと電話をしている暇はない。
目の前にある書きかけの原稿、脱線して伝説の剣を抜きに行くとか書き出して大部分を消してしまった原稿、これを指定時間までに提出しないとわたしに未来はない。
まことに心惜しいが、今は彼の相手をしている暇はない。
一刻も早く電話をたたっきって原稿にとりかからなければ。
脱線しないように書かなければ。
でもね、ひとつだけ問題があるんです。
わたしが悪いんですけど、完全にカモを引っ掛けたとヒートアップしている彼、今も電話の向こうで不動産投資がいかに熱いか熱弁している彼なんですけど、ここまでの状態になってしまったらちょっと断ったくらいでは引き下がらないと思うんです。
断る。
それに対して彼が反論する。
また断る。
そんな不毛なやりとりがかなりの長時間に渡って繰り広げられるに決まってます。
そんなことしてるうちに原稿のリミットが訪れ、大変危険な状態になるに決まってます。
大変心苦しいですが、ここは何も断ることなく、全く予告することなく無言で電話を切るに限ります。
受話器を離しても「ですから、都市部の不動産は今後も上昇を続け・・・」という彼の必死の説明が漏れ聞こえてくるのですが、なむさん!って感じでガチャリと電話を切りました。
ふう、これで原稿を書くことができるぞ、みてろ、今度は脱線せずにきれいな言葉を並べてやる!と息巻いていると、またもや電話が鳴りました。
プルルルルルルルル!
なんだよ、と思いつつ電話に出ると、先ほどの彼でした。
彼は非常に激昂しておりまして
「勝手に電話を切るとは何事ですか!」
と完全ヒートアップ。
あまりの勢いにわたしもタジタジです。
「はあ、すいません」
あまりの剣幕ですので謝ったんですけど、それでも彼の怒りは収まらない。
「人との電話の最中に勝手に切るとかどんな教育を受けてきたんですか!」
とか言われたい放題。
さすがに温厚で知られるわたしだってこれにはカチンとくるじゃないですか。
エビフライとライスを注文したのに忘れられてて、エビフライを食べ終わった後にライスを運んでこられても怒ることなく、モソモソとライスだけを食べる温厚なわたしでもこれには怒るじゃないですか。
「あのね、仕事中に勧誘の電話かけてこられても迷惑じゃないですか。だから電話を切ったんです」
と反論するも、彼は止まらない。
ノンストップ。
「だから最初に迷惑かけるって断りを入れたじゃないですか!」
もう完全に意味がわからない。
最初に断りゃなにしてもいいのか。
彼の理論で行くと、最初に「大変ご迷惑と思いますが」と宣言しているのでどんな迷惑をかけても構わないらしい。
それを言うなら同時に「少しだけお時間を」って言ってるので、短時間でないとおかしい。
もう完全に頭にきましてね、普段は温厚で知られるわたしですよ。
うどんを頼んだのに海苔巻きが運ばれてきても文句言わずにモソモソと海苔巻きを食べているようなわたしでも頭にきましてね、こりゃあ、どこまで彼が激怒するのか見てみたい、そんな気持ちに駆られてしまったんです。
ということで、勝手に電話を叩き切ったら激怒する彼に向けて、色々な電話の切り方をして実験してみました。
1.もう一度電話を叩き切ったらどうなるか
ほんとごめんなさいって感じで謝ると、彼も気を取り直してくれたのか、またもやマンションのセールストークを始めてくれました。
「ですから、株や為替は安定した収入を得るのが難しい投資方法といえるわけです。その点、不動産投資は、ガチャ!」
我ながら絶妙のタイミングで切断できたと誇らしいのですが、これを受けて彼がどう出るか。
もちろん、切った数秒後にはすぐにかかってきました。
すごい怒ってるのが伝わってるのか、心なしか電話のベルの音もいつもより大きい気がします。
「はい、もしもし」
「あんたふざけてんですか!なんで切るんだ!不潔!」
不潔っていう罵り文句が突然出てきて意味不明ですが、言われると結構傷つくものです。
もう怒りすぎて自分でも訳がわからなくなってるんでしょうが、とにかく倍以上の怒りであることは容易に伝わってきました。
そこでもっとやってみましょう。
2.謝りつつ切ったらどうなるか
「いやー申し訳ない。切る気はなかったんですよ。急に上司が近づいてきて、マンションとか私用の電話だってバレたらまずいと思って切ったんです。悪気があったわけじゃない」
誠意を込めて謝ります。
「ホントですか?それでもいきなり切るのはダメですよ。そういう場合はちゃんと断って切ってください。いきなり切られると頭に来るんです」
徐々に彼の怒りも収まってきたでしょうか。
ダメ押しで謝罪します。
「本当に申し訳ない。次からはちゃんと断ってから切るようにガチャ」
今度は早かったですね。
さっきのかけ直して来るまでの時間を10秒くらいとするなら、今度は6秒ぐらいでかけ直してきた。
「はい、もしもし」
「@xsjんうぃえおむせいfr3prfsksjd」
もう怒りすぎて何言ってるのか全然分かりませんからね。
彼も自分の中に潜む隠れた阿修羅みたいなのを自覚して自分でもビックリしているんじゃないでしょうか。
3.口で切断音を真似したらどうなるか
インターネット黎明期、わたしの十八番と言えばダイヤルアップ接続とモデムの接続音のモノマネでした。
これがもう完全に瓜二つで、電話口でやったら本当に接続しちゃうんじゃないかと怖くなるほどでした。
こういった電話系の機械音は得意ですので、怒り狂ってる彼に通用するのか実験します。
「お怒りはごもっともです。けれどもですね、また上司がこちらに来て睨んでいたのです。もう大丈夫です。もうポマードの匂いがしないので上司は近くにいません。さあ、大阪のマンションの話をお願いします」
「ほんとですかあ?」
怒りが収まってきたのか、彼も気を取り直してまたマンショントークです。
「いま、大阪駅のリニューアルにより世界的に注目されています。今後ますます大阪という土地の価値は上がりガチャツーツーツーツー(口で言ってます)」
受話器に耳を当ててて聞き入ります。
口で言ってるだけですから当然ながら回線は繋がったままです。
わたしのモノマネが通用しているなら彼は勘違いして電話を切るはず。
そしてすぐにかけ直してくるはず。
緊張して聞き入っていると
「あのサル、また電話切りやがった。絶対許さねぇ。絶対にマンション買わせてやる!」
とか呟いたあとに向こうも電話切りました。
こえー、絶対にマンション買わされる。
とにかく、わたしのモノマネが通用したということです。
これは大変誇らしい。
もちろんまた怒り狂った彼がすぐにかけ直してくるのですが、今回はわたしが切ったわけではありません。
勘違いして向こうが切ったのです。
「はあ、わたしは口でものまねしただけですけど?勝手に切ったのはそっちですけどー!ベロベロバー!」
「なに言ってんの?お前が先に切ったじゃん!」
「ですからその音がわたしのモノマネでーす!無断で切ってやんのー!」
と小学生の口喧嘩みたいな状態になってしまいました。
4.連発で切ったらどうなるか
電話の構造って面白くて、どんな仕組みになってるのか知りませんけど、受話器を置いて切ったとしても、すぐに受話器をあげたら回線が繋がったままなんですよね。
これを繰り返したらどうなるか。
実験してみましょう。
「おい、お前、そもそもお前本当にマンション買う気あんのかよ」
もう彼は怒りで我を忘れているのか、口調が完全に変わってる。
とてもお客様にとてもお得な不動産投資の話をお勧めするのが仕事な人とは思えない。
「買う気ありますよ!」
人間ってここまで心にもないこと言えるんだと感嘆してしまうほどまっすぐと言い放ちました。
「マンションとか買う前に、礼儀とかそういったものを学んだほうがいい。お前は人に迷惑をかけてるんだぞ」
すげえ説教されてて意味不明、そもそも最初に「迷惑かける」と宣言して好き放題やってる人間の言葉とは思えない。
「はあ、じゃあ、マンション買わないほうがいいですかね」
わたしがちょっと控えめな態度を取ると彼が調子ぶっこくのも織り込み済みです。
「それでも俺はお得な投資情報を客に伝えるのが仕事だ。だから無礼といって見捨てることはしない」
なぜか切々とものすごい上からの目線、成層圏あたりから目線で語られてますが、やるならここです。
連発で切ります。
「いま、ガチャ、マン、ガチャ、ション、ガチャ、買う、ガチャ、あれ、ガチャ、また、ガチャ、切れ、ガチャ、おい、ガチャ、こら、ガチャ、なに、ガチャ、やっ、ガチャ、て、ガチャ、ガチャ、る、ガチャ」
もうブッ壊れたラジオみたいでしてね、表面に傷が付きまくったCDで出来の悪いラッパーが唄う良く分からないラップを聞いているような感じでした。
あまりの面白さにオフィスの机に突っ伏して一人でプルプル震えて笑いを堪えてた。
わたしとしてはまだまだ実験したい項目は山ほどあったのですが、ここで彼からの電話はかかってこなくなりました。
そう、あれだけしつこく、良く分からない自信に満ち溢れていた彼からの電話はかかってこなくなったのです。
さあ、ここからが本番です。
早速、彼が名乗っていた会社名で検索をかけ、電話番号を調べ上げ、電話をかけ直します。
なにせ、彼が言ったように、最初に「迷惑をかける」と宣言さえしておけばどんな迷惑をかけても構わないのです。
電話をかけると年配っぽい男性が出ました。
「申し訳ありません。先ほどマンションの件で電話をいただきまして、その際に話し忘れたことがあって電話したのですが。ご迷惑とは思いますが聞いていただけないでしょうか」
男性は、カモが電話をかけてきたとでも思ったのでしょうね。
「はい、了解しました。担当は誰でしたでしょうか」
と優しい声。
「○○さんです」
最初に名乗られた名前を伝えると、どこか別のところに勧誘電話かけていたのでしょうか、数分待たされたあとに彼が出ました。
「さきほどはどうも」
「またおめーか」
「実はぜひ聞いて欲しいのですが、ある男性が温泉に入っていると自分の右拳に謎の紋章が浮かび上がったのです」
電話の向こうから「はてな?」という雰囲気がムンムンに伝わってきたのですが、それでも続けます。
「それはその村に代々伝わる闇の紋章で、その紋章が浮かび上がった者はサタンとして村を追い出されるのです。主人公も追い出されるのですが、そこで同じく闇の紋章を持つ僧侶に出会います。そして伝説の剣を引き抜きに浮遊都市マハレンまで行かなければならないことを知ります」
ここまで話したくらいでしょうか。
何の宣言もなしに電話を叩き切られました。
すぐに電話をかけ直すと彼が出ました。
「おいおい、勝手に電話切るとは、ちゃんと教育を受けてきたのか。さあ、続きを話すよ。しかし、その浮遊都市ハガレンに行くには空を飛ぶ術を習得しなければなりません。その術は失われし民族モブロ族しか知りえないのです。モブロ族は闇の紋章を持つサタン一族に滅ぼされ、僅かな人数が細々と生きているだけでした」
ここまで話すと、彼が結構落ち着いた感じで言い出します。
ここまで落ち着いているのは逆にすげえ怒っているということだと思います。
「あのね、業務の邪魔なの、迷惑なの、かけてこないでくれる」
そう言われても仕方がありません。
「最初に迷惑をかけると宣言しましたが。モブロ族はサタン一族を憎んでいる。それでも空を飛ぶ術を手に入れるため、モブロ族の集落を訪ねます。そこで主人公は真実を知ります。あの伝説の剣を抜くことでそのサタンは死に絶え、その死んだサタンが世界を滅ぼす脅威となるのです、皮肉な運命のいたずらだなガチャ」
またかけ直します。
「○○は今席を外しております」
今度は最初の年配の方が出ました。
「そんなはずないんだけどなあ、じゃあ、アナタでいいや、聞いてください。なんと仲間になった僧侶こそがモブロ族の末裔だったのです。そして彼は言いました。まさか俺に闇の紋章が現れるとはな、皮肉なものよ、殺したいほど憎いサタンに、この俺が」
そしたら、すごい意外なことなんですけど、その相手の年配の方がすごい面白って話を聞いてくれましてね、
「ほうほうそれでどうなった?」
とか聞いてくれるもんですからわたしもすごい盛り上がっちゃってですね
「おやじいいいいい!崩れゆく浮遊都市、瓦礫に飲み込まれていく主人公の父親は笑って親指立てていた。いつまでもいつまでも、笑っていた」
とラストシーンまで1時間くらい語っていました。
「いやー、結構面白かったよ、まさか親父が黒幕とはね」
「また思いついたら電話します」
「よろしく」
何分かり合ってるんだ。
とにかく、最初に宣言さえしてしまえば免罪符になり得る。
それはとても良くない考え方のなのです。
あらかじめ言っておいたほうが突然そうなるよりいいでしょ、という考えかもしれませんが、それは言い換えれば、最初からそのつもりであるという自白でしかありません。
遅刻すると宣言するより遅刻しないように頑張る。
ミスをすると宣言するよりしないように注意する。
迷惑をかけると宣言するよりかけないように生きていく、そういったポジティブな思考こそが大切なのです。
そう、まるでマンションを売る勧誘電話の人のようにポジティブな思考が大切なのです。
ふうー、やれやれ、と時計を見ると、原稿の提出期限の20分前、こりゃあかん、1時間も伝説の剣を引き抜きに行く話を語ってる場合じゃなかった。
もうこりゃ仕方がないので、スペースを埋めるため、先ほどの伝説の剣を引き抜きに行く話を光のような速さで記述しておきました。
さすがに原稿にこんなブレイブストーリーを書くのはまずいのですが「書きたい気持ちのあまり、話が脱線するかもしれないが、それはまあ、書きたいが強いということで大目に見て欲しい」と原稿の冒頭で宣言してあるので多分大丈夫です。