安倍元首相を殺した「大義なき過激化」は防げるか 日本固有の現象に欧米式のテロ対策は効かない
東洋経済オンライン / 2023年7月8日 8時0分
SNSなども、日進月歩で監視アルゴリズムが研究され、検知は時間の問題だ。「ローンオフェンダーは事前の探知が難しい」と指摘されるが、実はそれなりの数が未然に防がれている。
それでも対応が「こぼれる」のは、短期間に過激化する者たちだ。「昨日過激サイトを見て」とか「先週改宗した」というタイプには、事実上、過激派のラベルはなく、日本の近年の例に近い。
ローンオフェンダーと過激主義を掲げない銃乱射犯などを比較したアメリカ司法省の調査でも、銃乱射犯のほうが事前に計画を漏らさないことが指摘されており、その探知はより難しい。
対テロの基本は「早期発見・早期逮捕」だが
ケンブリッジ大学が開催する情報戦の夏季講座に参加した際、元情報部の教員から、対テロ戦の基本は「早期の検知と介入」だと聞いた。私は、「肝臓病の早期発見・早期予防みたいだな」と思ったが、彼が指すのは「早期発見・早期逮捕」のほうだった。
しかしここまで書いた通り、日本の「ラベルのない過激化」は大義を伴わないため、一般的なテロ対策で「早期発見・早期逮捕」を行うには限界があり、費用対効果も悪い。
日本でじわり猛威を振るう大義なき暴力と、私たちはどう向き合うべきだろうか。社会政策と安全保障学の両方に携わった経験から、筆者は、日本のような事例には、テロや安全の専門家の思考だけでなく、社会福祉的な思考も必要ではないかと感じる。
例えば、児童虐待の文脈で、「悪魔のような親から子供を守れ」と叫ぶ人にとっての「早期予防」とは「親の逮捕」を意味する。しかし、現場にとっては、そう単純でなく、虐待の兆候をなるべく早めに発見し、孤立していないか、子供を親から引き離さずに済む方法はないかと、まずは福祉的な思考で対応する(もちろん、緊急的な場合は別だ)。
ラベルのない過激化も、単純に「危ない奴の凶行」とみるのか、「社会課題への不満の暴発」とみるかで、考え方は変わるのではないか。
そもそもの大前提として、仮に何かに不満があっても、多くの人は暴力に頼らないし、暴力の方向もさまざまだ。悩んだ末に自分の命を断つ人もいれば、子供に矛先を向ける人もいる。公人を襲ったり、大量殺害に走るのは、ごくわずかだろう。
読者のみなさんは議員会館や官公庁に墨汁をぶっかけて回るおじいさんをご存じだろうか。理由は判然としないが、過去には年金制度の不満を訴えていたようだ。これもラベルのない過激化の一例だが、彼は灯油や包丁の代わりに、墨汁を使った。
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