安倍元首相を殺した「大義なき過激化」は防げるか 日本固有の現象に欧米式のテロ対策は効かない
東洋経済オンライン / 2023年7月8日 8時0分
もちろん、山上容疑者のような、事件を起こした者が法的に追及されるのは当然だ。動機が何であれ、英雄視されたり、賛美されたりするのは明らかにおかしい。それに、警備強化や不審者の探知という地道な警察活動も短期的には必要だ。
しかし、社会から弾かれ、鬱屈とした気持ちを抱えている人たちを、単に「危ない奴」で片付けるのは正解だろうか。少なくとも暴発前である限り、ラベルのない過激化を社会課題の延長と捉え、未然に防ぐことはできないだろうか。
実際、先ほどのアメリカ司法省の調査によれば、過激主義を掲げない単独犯はローンオフェンダーと比較して、「薬物乱用歴」や「恒常的なストレス経験」があり、「不当な扱いを受けてきた」と感じていることが多いと指摘される。
地域による包摂が解決策のカギかもしれない
残念ながら、自殺や虐待と同様、即効性のある対策はないが、地域社会による包摂は一つの解決策かもしれない。児童虐待の分野では、健診や保健師訪問などの際に予兆を発見する取り組みが自治体で進む。ラベルのない過激化に向かう者は、孤立感や疎外感、怒りのようなものを抱えていると考えられ、その対策はさらに複雑で緊張感を伴う。
しかし、地域への包摂を進めることは、全体のリスクを下げ、最終的に有効ではないか。イギリスには、貧困率や犯罪率などを町会単位で可視化した「複合的剥奪指数マップ」が整備され、福祉担当者の介入の参考となっている。日本でもこういった枠組みがあれば、一般の福祉施策はもちろん、ラベルなき過激化の予防効果を高めるのに有用かもしれない。
20万件以上の事件を集積した国際的なデータベースで比較しても、福祉国家で名高い北欧諸国は、テロ攻撃の件数が英米よりもはるかに少ない。英米の件数の多さは強硬な対外政策を理由に狙われ続けたことが主要な要因だが、自国民、特にローンオフェンダーの攻撃の台頭を考えると、安定した社会ほど過激な攻撃を抑えているようにもみえる。
この20年ほど、欧米社会はイスラム教徒を敵視するあまり、(白人全体はまともだという前提で)極右主義的な白人の暴力を「少し変わった人による例外的な行動」と軽く扱ってきたとも言われる。一方で、労働者階級の経済的不満や差別意識は解決できず、過激な極右主義者を増やしてしまった。
冒頭でも触れたように、安倍元首相の殺害を挟んでここ数年、日本固有のラベルのない過激化は、思い出したように私たちの日常を脅かしている。自分とは関係のない「変わった人」のことで終わらせず、一度立ち止まり、社会のあり方について考えるタイミングではないだろうか。
髙橋 彰:政策コンサルタント
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