安倍元首相を殺した「大義なき過激化」は防げるか 日本固有の現象に欧米式のテロ対策は効かない
東洋経済オンライン / 2023年7月8日 8時0分
安倍晋三元首相が殺害されてから1年が経った。同氏の殺害と前後して、日本でも公人を狙うテロのような事件が相次いでいる。本来は単独行動のテロリストを意味する「ローンオフェンダー」という言葉も見かけるようになり、山上徹也容疑者もその一人とされる。
彼は、果たしてテロリストなのだろうか。
厚生労働省を退職してから、イギリスで安全保障、特にテロの研究をしていた筆者は、日本で近年取り沙汰される事件を、テロでも一般犯罪でもない「ラベルのない過激化」だと考えている。
具体的には、主義主張のないまま「公人や公的機関を攻撃」したり、「生活の延長線上で大量殺傷」するものであり、前者は安倍元首相殺害、岸田文雄首相襲撃、陸上自衛隊駐屯地での銃乱射、後者は2008年の秋葉原無差別殺傷事件、2019年の京アニ放火事件や2021年の大阪・北区の心療内科医院放火事件などである。
これらの犯人はいずれも政治・宗教的な大義がなく、むしろ社会から弾かれてしまった人たち、という背景が散見される。
狙われる対象も変遷した。2008年には「愛犬を保健所に殺された」という理由で元厚生事務次官が相次いで襲撃された。当時の悪役は「役人」だったが、最近は「政治家」のほうが悪いらしい。
欧米の感覚では安倍氏殺害は「テロ」ではない
欧米ではテロかどうかの区別は徹底される。安倍元首相殺害の報道でも、例えばイギリスのBBCは事件直後こそ、政治性のある「暗殺」と報じたが、事情がわかるにつれ「殺害」に表現を変えていた。政治的・宗教的な過激主義という「ラベル」がない限り、どんなにインパクトがあっても、彼らはテロとは呼ばない。
過激主義の「ラベル」が重視されるのは、対策を練るうえで相手を追いかけやすいという利点と、政権転覆などの最終目的がより重いという理由による。犯人も、大義を抱えて犯行に及ぶのが通常だ。過激思想のない銃乱射犯はいても、日本のように、大義なく公人を襲う例はあまりない。
こういった過激主義のラベルがない点で、近年の日本の例は世界的にも珍しく、海外の「ローンオフェンダー」とは似て非なるものだ。海外のテロ対策は「ラベル」があるゆえに機能しており、日本には向かないリスクがある。
例えばイギリスでは、世界有数の情報機関であるMI5や、ロンドン警視庁(スコットランドヤード)公安部や政府通信本部(GCHQ)などが、テロ対策に従事している。過激なサイトにアクセスしようものなら、たちまち監視され、たとえ単独だろうと追跡される(初期段階での本人への警告も珍しくない)。
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