警護失敗「目を閉じたらあの場面浮かぶ、苦しみは生涯背負う」…安倍氏銃撃1年
読売新聞 / 2023年7月8日 6時39分
安倍晋三・元首相(当時67歳)が奈良市で銃撃されて死亡した事件は8日、発生から1年となる。要人を守る使命を果たせなかった警察は、信頼を大きく失墜させた。警護や捜査に携わった奈良県警の警察官らが、「あの日」の記憶と胸の内を明かした。
修正指示なし
「目を閉じたらあの場面が浮かぶ。破裂音のような銃声も。この苦しみは生涯背負うしかない」。現場で警備にあたった担当者は、そう無念さをにじませた。
昨年7月8日朝。県警本部4階の警備部では、1通の文書が慌ただしく決裁された。「警護警備計画書」。前日に安倍氏の来県が急きょ決まり、完成は深夜までかかった。本部長らは1か所も修正を指示しなかった。本部長は警察庁で警備課警護室長などを歴任し、要人警護の経験が長かった。
演説場所はガードレールに囲まれ、周囲は360度ひらけていた。危険性は見落とされていた。
「ドーン」「ドーン」。午前11時半過ぎ、安倍氏の後方から道路を渡って近寄った山上徹也被告(42)(殺人罪などで起訴)が銃撃した。2発目が命中し、安倍氏はその場に倒れた。
現場には警察官十数人が配置され、安倍氏の直近には警護員4人がいた。うち1人が後方警戒の担当だったが、聴衆が増えていた前方を警戒するよう別の警護員に指示され、後方に空白が生じていた。
「暴発するかも」
発生とほぼ同時に、県警本部2階の刑事部にある無線や電話が一斉に鳴った。「銃撃を受けたのは安倍元総理」。一報に衝撃が走った。安倍氏の来県は、捜査を担う刑事部には知らされていなかった。
「とんでもないことが起きた」。捜査1課幹部が現場に捜査車両を走らせると、すぐに山上被告を現行犯逮捕したとの情報が入った。上空では安倍氏を搬送するドクターヘリの
関係先として山上被告の母親宅を訪れた捜査員が見たのは、壁に掛けられた世界平和統一家庭連合(旧統一教会)創始者の写真だった。大きな
奈良市の住宅街にある山上被告宅の捜索は、慎重に進められた。調べに対し、山上被告が「爆発物はないが、自宅には銃があり、暴発するかもしれない」と供述したためだ。真偽は不明だったが、事故が起きれば、県警への非難は更に高まる。防護服を着た警察官がX線検査装置を持って部屋に入り、爆発に備え、近隣住民を急きょ避難させた。
6畳一間の小さな部屋には、たばこのにおいが残っていた。片隅に6丁の手製とみられる銃があった。山上被告が「スイッチに触れるだけで暴発する」と説明したことから、銃口のようなものをむき出しにした状態で屋外に運び出した。
ある捜査幹部は「一つ一つの判断が難しく、異様な緊張感があった。あれほど長いと感じた日はなかった」と語った。
「空白」ないか
事件の傷痕は深い。県警には批判が相次ぎ、寄せられた電話やメールは発生から1か月で4000件を超えた。当日に警護の経緯を公表せず、翌日になって本部長が「痛恨の極みだ」と述べたことも、対応が遅いと問題視された。
事件後に警察庁がまとめた警護の検証報告書は、計画段階の不備と現場の不手際が重なったと厳しく指摘した。警察庁長官が辞職し、県警も本部長ら3人が辞める事態となった。
現場を管轄する奈良西署に捜査本部を設置し、約90人体制で捜査を続けた刑事部は、3月末まで膨大な証拠と向き合った。別の捜査幹部は「捜査でも失敗すれば、県警が沈んでしまう」との危機感を抱いていた。
警備部内には今春、「警衛・警護室」が新設された。メンバーは警視庁の警護員(SP)による高度な研修を受けている。要人警護の計画作成も「空白」がないか徹底した検討を行う。ある県警幹部は言う。「2度目は絶対に許されない」
事件後、現場の路上に設置されていたガードレールは撤去され、車道として舗装された。近くの歩道には花壇が設けられ、7日は花を手向ける人たちの姿が見られた。
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