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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~ 作者:灰島シゲル

【第一部】 有翼の少女と黄昏の光

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一日目・夕 ~ 二日目・深夜 異変

「疲れた……」



 思わずそんな言葉が口から出る。

 気が抜けたからか、一気に疲労感が押し寄せてくる。

 今すぐにでも眠ってしまいそうだったが、寝る前にやるべきことがある。

 俺はポケットの中からスマホを取り出すと、トワイライト・ワールドのアプリゲームを起動した。





 古賀 ユウマ  Lv:2→3 SP:2→12

 HP:18/18→20/20

 MP:0/0→3/3

 STR:4→5

 DEF:3→4

 DEX:2→3

 AGI:4→5

 INT:2→3

 VIT:5→6

 LUK:15→17

 所持スキル:未知の開拓者 曙光





 表示されるステータス画面。

 やはりと言うべきか、レベルが一つ上がっていた。

 ここに来るまでにかなりの数のゴブリンを倒していたからだろう。



 ゴブリン一匹でどのくらいの経験値が入るのか分からないが、俺には【曙光】がある。

 獲得する経験値増加とレベルアップによって得られるSPを二倍化するこのスキルのおかげで、通常よりも早い成長をしているはずだ。



「あれ?」



 これまで、どのステータスを上げても反応しなかったMPの上限が増えていることに気が付く。

 しかし、だからと言って身体に特別何か変化が起きたようには感じられない。

 そもそも、MPが何を示すのかまだ分かっていないのだ。



 ゲームならば説明書やQ&Aのようなものがあっても良さそうなのに、何もないのだからこのステータス画面の見方だって自分で推察しているような状況だ。


 身体に影響がないのであれば、今は一旦保留にするか。

 焦らずともいずれ分かるだろう。

 俺は気持ちを切り替えると、SPの数字へと目を向けた。 



「SPが12、か」


 口元に手を当てて、俺はSPを割り振るステータスを考える。


「筋力はあっても困らないよな。防御力のDEFも絶対に必要。それと敏捷のAGI、これももう少し欲しい」



 今日一日の戦闘を振り返る。

 回避をするのにも、モンスターに近づくのにも身体の敏捷性が高くなければ意味がない。

 さらに言えば、身体のしなやかさや身体操作は器用さであるDEXが補っているはずだ。

 自分の思い通りに身体を動かすなら、DEXも上げておいたほうがいい。



「運は……今は別に上げなくてもいいか。レベルアップすれば勝手に上がっていくし」


 運ばかり高くても意味がない。

 運ステータスは一発逆転を狙えるだろうが、不確定要素が多すぎる。

 なるべくなら頼りたくないステータスだ。




 古賀 ユウマ  Lv:3 SP:12→2

 HP:20/20→22/22

 MP:3/3

 STR:5→7

 DEF:4→6

 DEX:3→5

 AGI:5→7

 INT:3→4

 VIT:6→7

 LUK:17

 所持スキル:未知の開拓者 曙光




 STRとDEF、DEX、AGIにそれぞれSPを二つ、INT、VITにSPを一つずつ割り振った。

 SPが二つ残ったが、これは予備で残しておくことにする。

 最後にもう一度ステータス画面を確認して俺は画面を消した。



「ふあぁあ、ふ」


 大口を開けてあくびをする。

 バックパックの中から水の入ったペットボトルを取り出して、その中身を口にする。

 それから、朝の残りの食料である缶詰と――中身はみかん缶だった――乾パンをもそもそと口に運んで腹を満たした。



「寝るか」



 日が沈み、完全に暗闇となったビルの中でやることは何もない。

 俺は防寒用のローブをバックパックの中から取り出すとそれを被って横になった。

 床は固く寝心地は最悪だ。



 それでも、身体に溜まった疲労はあっという間に瞼を重くする。

 明日は夜明けとともに新宿を目指そう。

 そう思いながら、俺は瞼を閉じたのだった。






「ガルル!」

「グギャガウ!」

「グルル、ガァアア!」



 遠くから聞こえてくる獣の鳴き声に俺は目を覚ました。

 最悪の目覚めに自分の眉根に皺が寄るのを感じながら、スマホを取り出す。

 スマホに表示された時間は、深夜一時を過ぎたあたりだった。



 だいたい、七時間ほどは眠れただろうか。

 普段ならば十分すぎる睡眠量だけど、身体は怠く疲れが取れている気がしない。

 固い床で寝たからなのか身体の節々が強張っている。

 俺は寝ころびながら身体の節々を軽く伸ばした。



 耳を澄ませてみるが、近くで物音はしない。

 どうやら街のどこかで野犬が騒いでいるらしい。

 しばらく様子を伺ってみるが、その鳴き声はこのビルの付近ではないようだ。

 それなら、慌ててここから移動しなくても良いだろう。



 俺はあくびを噛み殺すと、また床の上に身体を横たえた。

 出発の予定は夜明けだから、まだまだ時間はある。

 それまでは、出来るだけ身体を休めた方が良い。

 瞼を閉じて、再び眠りにつくことにする。



「ぐるる、ガウッ! ガァアアア!」



 また、野犬の鳴き声が聞こえた。

 気のせいだろうか、聞こえてくるその声は先ほどよりも近いような気がする。

 俺はたまらず目を開けた。



 耳を澄ますと、だんだんとその声が近づいてくるのが分かる。

 そっと身体を起こし、枕元に置いていた錆びた包丁を手に取った。



「こっちに来てるのか?」


 つぶやき、俺は暗闇に耳を澄ました。


「ガルル! グルァッ!」



 さらに近くなる鳴き声。

 野犬がビルの傍にまで近づいてきていることは確かだった。

 少しばかり考えて、俺は毛布替わりに使っていた防寒用のローブをバックパックに詰めた。



 モンスターが平然といるこの世界のことだ。

 野犬、といってもただの野犬である可能性は低い。

 こっちに近づいているのは何かしらのモンスターだろう。

 俺はスマホを開いて、念のためにステータス画面を確認した。




 古賀 ユウマ  Lv:3 SP:2

 HP:22/22

 MP:3/3

 STR:7

 DEF:6

 DEX:5

 AGI:7

 INT:4

 VIT:7

 LUK:17

 所持スキル:未知の開拓者 曙光




 寝込みを襲われたときにすぐにでも対応できるよう、寝る直前にステータスを上げておいてよかった。

 鳴き声から察するに、ビルに迫る野犬のモンスターは単独ではなく複数だ。

 ステータスを上げる前でもゴブリン二匹ならば対応できていたのだから、今ならスライムやロックリザードだって倒せるはず。



 問題は、こちらに迫っているモンスターが初見のモンスターである可能性が高いということだ。

 上昇したステータスでどこまで対応できるのか分からない。

 手探りで行う戦闘は不安しかないが、なんとかするしかない。

 幸いにも、予備のSPもある。

 切り抜けるのが難しければ、AGIに割り振って全力で逃げることとしよう。



「ガウッ! グルルガッ!」



 野犬の鳴き声がビルの外で聞こえた。

 それと同時に、どたどたと何かが走る音が聞こえる。

 いよいよ距離を詰めてきたモンスターに、俺は覚悟を決めて包丁を握り締めた。



 俺はジッと息を殺して、いつでも飛び出せるよう態勢を整える。

 野犬の興奮した鳴き声と、どたどたとした足音はずっとビルの外で響いている。

 けれど、いくら待っても野犬がビルの中へと入ってくる気配がない。

 それどころか、ビルの前を何度も走り回っているその様子は、まるで何かを追いかけているかのような気配さえある。



(あいつらの目的は俺じゃないのか?)



 だとしたら、狩りか何かをしているのだろうか。

 逃げた獲物を追いかけて、たまたまこっちに来ただけとか?



「ま、バレてないならなんでもいいや」



 俺は小声で呟いて、肩の力を抜いた。

 ビルの外では未だにぎゃあぎゃあと野犬のモンスターが騒いでいる。

 どうやら、獲物がなかなか捕らえられずにモンスター同士で喧嘩しているらしい。

 この騒ぎも、いずれモンスターが獲物を捕まえて静かになるだろう。

 それまでは居場所がバレないよう息を潜めておくしかない。



「それにしても、何を追いかけてるんだあいつら」



 この時間に行動する動物といったら、夜行性の獣だろうか。

 普段は山の中を生活の拠点にしていた鹿やタヌキも、街が廃墟となればこの辺りにいてもおかしくはない。

 ジビエ肉の中でもタヌキは臭くて食べられないと聞くが、鹿肉は絶品と聞く。

 やはり、食べるのならば鍋だろうか。いや、それともワイルドに焼いて塩を振りかけただけでもいい。

 モンスターに鹿肉の味が分かるとも思えないが、モミジとも呼ばれる鹿肉は一度でいいから食べてみたい肉だったりする。



「ちょっと覗いてみるか」



 それは、小さな好奇心に過ぎなかった。

 モンスターがこれだけ騒いでまで捕まえたい獲物は何なのか。

 ただそれが知りたかっただけだった。



 受付カウンターの下から、顔だけを出して覗き見る。

 ビルの中に、ぼんやりとした光が差し込んでいた。

 街灯はあるが電気が通っていないこの世界だから、この光は月の明かりだろう。

 薄暗闇の中に、影が浮かぶ。





「――誰か、助けて!」


 その時、声が聞こえた。


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