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種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~ 作者:灰島シゲル

【第一部】 有翼の少女と黄昏の光

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一日目・朝 倉庫とクエスト報酬

「あと確認してないのはチュートリアルクエストの報酬だけだな」



 確か、サバイバルセットとかいうものを獲得したはずだ。

 しかし、その報酬自体がどこにあるのか分からない。

 首を捻って、なんとなしに画面をスワイプしてみる。



「おっ」



 画面を右から左に流すことで新しい画面へと切り替わった。

 そこは左上に『倉庫』の文字が表示され、横に三行、縦に十列の白い線で作られた箱のようなマス目がある画面だった。

 マス目の一つ一つは画面背景と同じ黒色だけど唯一、一番左上のマス目にだけ宝箱のような絵が表示されている。



 他に何かあるのか、と画面のあちこちを触ってみるが何もない。

 左から右にスワイプすると、もとのステータス画面へと戻った。

 他に画面はあるのかと試してみるが、どうやらステータス画面と倉庫画面しかないようだ。



「こんな画面、前はあったっけ?」


 倉庫画面を見ながら俺は首を捻る。

 もしかすれば、チュートリアルクエストをクリアしたことで追加された画面かもしれない。


「それにしても。倉庫、ねぇ」


 俗にいうアイテムボックスや空間収納というやつだろうか。

 試しに、ゴブリンが残した錆びた包丁を収納しようと試みる。



「収納」


 反応はない。


「倉庫」


 反応はない。


「……インベントリ! アイテムボックス! 空間収納!」


 呼び方を変えてみた。

 しかし、錆びた包丁は変わらずそこにあるだけ。

 包丁に向けてスマホをかざしてみたり、スマホで軽く包丁を叩いてみるが一向に反応はない。

 アイテムボックスや空間収納とは違うものなのだろうか。



 ……使ってみたかったんだけどなあ、そういう魔法的なやつ。



 俺はため息を吐き出して、がっくりとうなだれた。


「それじゃあ、これは何だよ」



 倉庫、とあるからにはアイテムを保管しておく場所だろう。

 気になるのは、一つだけ宝箱の絵が表示されたマス目。

 俺はその宝箱をタップしてみた。



 ≫サバイバルセットを開封しますか? Y/N



「サバイバルセットって、あれか!」



 あのアナウンスが言っていた、チュートリアルクエストの報酬だ。

 けど、どうしてそれが倉庫の中に入っている?



「もしかして、この倉庫ってクエスト報酬を保管しておく場所なのか?」



 現実のものを入れることはできないのだから、おそらくそうだろう。

 俺は画面に表示されたサバイバルセットの表示文をもう一度読んで、『Y』をタップした。


 サバイバルセットを開封した途端に、倉庫の中が三列目のマス目まで一気に様々な絵で埋まった。

 絵の並びは左上から食料、ペットボトル、鞄、上着、ズボン、靴、上着、石ころ、救急箱の順だ。



「いろいろ出たな」



 サバイバルセットだから、いろいろと入っていたのだろうか。

 左上からそれぞれ絵をタップして入っていたものを確認していく。



「食料30日分、水30日分、皮のバックパック、麻のシャツ、麻のズボン、皮の靴、防寒用ローブ、火打石、応急セット……」



 絵をタップすると画面に表示される説明文。

 そのどれもが、これから生活していく上で必要なものばかりだ。



「靴がある!」



 もう半分ほど諦めていたけど、素足で歩きまわるのはさすがに危ない。

 気にしないようにしていたけれど、足の裏はもはや擦り傷や切り傷だらけだった。



「それで、これをどうやって取り出すんだ?」


 とりあえず靴があるマスをタップ。

『皮の靴』と浮かんだ文字をタップするとさらに文字が表示される。



 ≫皮の靴を倉庫から取り出しますか? Y/N



 サバイバルセットを開封した時と同じ様に『Y』をタップした。



 瞬間、いつの間にそこにあったのか。

 気が付くと目の前には一足の皮の靴が置かれていた。

 作りも荒く、見た目は無骨でダサい。ただ、足を守るという一点のみに重点を置いたかのような靴だった。



「いつの間に……」



 スマホの画面へと視線を落とすと、靴があった場所のマス目からは靴の絵が消えて、マス目は黒へと変わっていた。

 靴を取り出したことで、そのマス目は空になった、ということだろう。

 続いて、俺は応急セットをタップした。

 また同じような文章が出てきて『Y』を選ぶ。



「……」



 視線をスマホから上げると、そこには救急箱が置かれていた。

 箱を開けてみると、消毒液や絆創膏、針や糸、ガーゼや包帯、ハサミや小さなメスなんかが入っていた。



「これがあれば一通りの処置ができる、ということか」



 救急箱の蓋を閉じて、今度はゲーム内倉庫からバックパックを選んで取り出した。

 ふと、好奇心が湧き上がる。

 このアイテムがゲームから取り出される際はどんな風に現れているのだろうか。

 俺はバックパックを選ぶと、スマホから視線を外し、目の前を注視したまま『Y』をタップしてみた。

 けれど、何も現れない。



 ……あれ? おかしいな。俺、確かにYを押したよな?


 そう思いながらも目の前を見つめ続けること数十秒。やはり現れないバックパックに痺れを切らし、瞬きを一回挟んだその時だった。



「………………」



 瞬きで視線が切れた一瞬の間に、目の前にはバックパックが置かれていた。

 登山用のバックパックぐらいの大きさはある。皮で作られたものなのか、なかなかに頑丈そうだった。



「もはや気にするのも馬鹿らしくなってくるな」



 ため息を吐いて、その検証をすることをやめた。

 スマホのゲーム画面のステータスが、そのまま現実の俺に反映されているぐらいなのだ。

 ここは現実でもあり、ゲームの世界でもある。

 気にするだけ無駄、というやつだろう。



「とりあえず、必要なものは全部出すか」



 麻のシャツ、麻のズボン、防寒用ローブ、火打ち石と打ち金を取り出す。

 食料を取り出すと、缶詰が三つと乾パン缶が三つ出てきた。

 これで三十日分かと驚いてスマホを見ると、食料があったマス目は肉の絵が入ったまま。タップすると『食料29日分』と説明文が変わっていた。



 どうやら一日分ずつ取り出せるようになっているらしい。

 それは水に関しても同じようで、水を取り出すと2Lのペットボトルが一本出てきた。

 ペットボトルの絵も食料と同じ様に残っていて、説明文もしっかりと『水29日分』と変わっていた。



「一日分ずつ取り出せるのはありがたいな」



 食料なら何とかなるかもしれないが、水を三十日分持ち運ぶのは相当大変だ。

 ゲーム内倉庫から取り出さない限り、スマホのみの重さだし便利である。

 水のペットボトルの蓋を開けて、俺はその中身を口にする。


 ぬるい。常温水だ。

 けれど、贅沢は言ってられない。カラカラに乾いていた喉に水分が染みわたり、身体の奥底から活力が漲るのを感じた。



「――っぷは! あー、美味ぇー……。生きてるって感じがする……」



 全力で走って逃げたり、緊張したりして結構汗かいてたもんな、俺。

 水を飲みたくても飲み水すら存在せず、ようやく口にした水は最高に美味かった。

 ぐうぅうう……。

 水を口にしたからか、安心したからなのか腹の虫が鳴き声をあげる。

 俺は倉庫から取り出した食料の内、缶詰と乾パン缶を一つずつ手に取った。



「中身はなんだろ」



 缶詰の外観を眺める。

 缶詰には何も描かれておらず、その中身を知る術はない。大きさは一般的なトマト缶ほどでそれなりに大きい。中身が何であれ腹を満たすことはできそうだ。



「あ、しまった。缶切り無いや」



 言ってから、缶詰がプルタブ式で簡単に開けられるようになっていることに気が付く。それは他の二つも同じで、どうやら倉庫から取り出した缶詰は缶切りといった道具は必要なく食べられるようになっているようだった。

 プルタブを起こして缶を開ける。



「桃缶か」



 そこには、砂糖水に浸かった桃があった。

 一つ摘まんで食べてみると程よい甘さが美味しい。

 お腹がすいていることもあって、あっという間に全部の桃を食べ終えた。



「あ……」



 すぐになくなった缶の中身を見つめて、ため息を吐き出す。

 お腹もそれだけでいっぱいになるはずはなく、俺は乾パン缶へと手を伸ばした。

 こっちの缶にはなぜかパッケージが印刷されていた。

 北欧の民族衣装に身を包んだ男の人が、楽器を持っているあのパッケージだ。

 プルトップ式の缶であり、こちらの缶も缶切りは不要で簡単に開けられた。



「……うん」



 もそもそと口を動かし、咀嚼する。

 ほんのりとした甘味と、ゴマの香ばしさが食欲をそそる。

 食感はクッキーそのもの。子供の頃に、消費期限が切れそうな乾パンをおやつとして出されていたことを思い出す。



 俺は一口水を飲んで口の中に残った乾パンを流し込んだ。

 乾パンというだけあって、口の中の水分があっという間になくなる。

 もそもそと乾パンを頬張って、時折水を飲んで口の中を潤しながらも無心で乾パンを胃に詰めていく。

 貴重な炭水化物だ。一つとして無駄にすることはできなかった。


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