挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
種族:人間ではじまるクソゲー攻略! ~レベルとスキルで終末世界をクリアする~ 作者:灰島シゲル

【第一部】 有翼の少女と黄昏の光

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
3/246

一日目・朝 ゲームステータス

 ≫≫黄昏の世界へと踏み出しました。これより、あなたの冒険が始まります。



 手にしたスマホより聞こえる、あの女性の機械音声。

 その声に驚いてスマホへと目を落とすのと、それが起きるのはほぼ同時のこと。

 突然このアパート全体を包む振動。



「今度はなんだよッ!?」



 悲鳴にも似た叫びをあげて、辺りを見渡す。

 けれど、どうやら振動しているのはこのボロアパートだけのようだ。

 地震かと思ったがどうやら違うらしい。


 動けないでいる俺の目の前で、アパートの共有廊下のあちこちに急速な勢いでヒビが入っていく。

 それと同時に、どこから伸びてきたのか分からない蔦が廊下やアパートの壁にまとわりつき、一斉に苔や草木が生えてきた。



 その光景に俺はハッと気が付く。

 廃墟同然に倒壊し、植物に覆われた周囲の家屋。

 昨日までは普通に建っていたそれらは、このボロアパートよりも比較的築年数が浅いものばかりだ。


 ――それなのにどうして、このボロアパートだけが無事なんだ?


「ッ!?」


 その事実に気が付いた瞬間、俺は飛び跳ねるように動き出した。



 スマホをズボンのポケットに入れて、素早く周囲を見渡して脱出経路を探る。

 まるで忘れていた事実を思い出したかのように、ボロアパートは急速に老朽化が進んでいく。



 俺の立つ共有廊下はもはやヒビだらけ。ところどころ小さく穴が空き始め、いつ落ちてもおかしくない様相だ。

 この先にある鉄筋の階段はもう通れないだろう。ただでさえ錆が浮いた階段だった。この状況なら、俺が一歩体重をかけただけで崩れるに決まっている。


 だとしたら、残された経路はただ一つ。


「ここからっ、飛ぶしか、ねえッ!」


 言いながら俺は目の前の共有廊下の先、欄干の向こう側へと走る。

 俺の部屋はボロアパートの二階。ここから地面まではだいたい三メートルほど。

 飛べない距離ではない。どんなに怪我をしても骨折程度だ。死ぬことはないだろう。



「うおおおおおっ!!」



 錆の浮いた欄干に手をかけて気合とともに飛び降りる。

 地面に着地すると同時に膝を曲げて衝撃を吸収する。けれど二階から飛び降りた衝撃は結構なもので、吸収しきれなかった衝撃で身体が前のめりで倒れてしまった。

 その瞬間だった。


 ――ビシッ。ビシビシバキッ。


 かつてないほど大きな音。

 ハッとして振り返ると、アパートの壁や屋根には裂けるような大きなヒビが入っている。


 屋根の一部が欠片となって地面に落ちたのを見て、飛び降りた衝撃でいまだに痺れる足を無理動かしてアパートから距離を取った。

 バキバキとした何かが壊れる音はどんどん大きくなっていく。

 やがて、その音が限界にまで大きくなった時、ボロアパートは自分の体重を支え切れずに倒壊した。



「うわっ、ぷっ!」



 立ち上る砂ぼこりに目を閉じて顔を覆う。

 数分ほどしてようやく砂ぼこりは収まり、俺は目を開いた。

 ボロアパートは完全に倒壊していた。

 それだけでなく、そのアパートには周囲と同じ様に草木が伸びて苔に覆われている。



「……」



 完全に周囲と同化したボロアパートを見て、俺は言葉が出なかった。

 まるで、たった数分のうちに数百年分の年月を一気に重ねたかのような光景だった。

 この廃墟を見て、つい今しがたまで建っていたと言っても誰も信じてくれないだろう。



「痛っ」



 痛みに顔をしかめると、腕と足の裏に切り傷ができて血が流れている。

 アパートが倒壊するときに飛んできた瓦礫の破片か何かで切ったのかもしれない。

 いずれにせよその痛みが、この光景はすべて現実であると非情にも教えてくれていた。



「どういう、ことだよ」



 俺が一歩、玄関から外に出たらこれだ。

 その瞬間にこのアパートの倒壊が始まったと言ってもおかしくない。

 きっかけがあるとすれば、あの機械音声だろうか?



「そうだ! このゲーム!!」



 ポケットからスマホを取り出す。

 ホーム画面を開くと相変わらずそこには例のゲームだけが存在していた。

 あの機械音声は、俺が昨夜気を失う前に聞いていたもので間違いない。だとすれば、あの音声はこのゲームから発せられたもののはずだ。



 アプリをタップして、ゲーム画面を開く。

 すると、現れる黒い背景と白い文字。





 古賀 ユウマ  Lv:1 SP:3

 HP:10/10

 MP:0/0

 STR:1

 DEF:1

 DEX:1

 AGI:1

 INT:1

 VIT:1

 LUK:3

 所持スキル:未知の開拓者



「なんで、俺の名前が」



 このゲームに、俺の名前を入力した覚えはない。

 古賀ユウマは俺の名前だ。

 ただし、悠真と記されるべき名前がカタカナ表記となっている。



「いや、それよりも」


 ジッと、名前の後に記された数字を見つめる。


「Lvって、レベルのことだよな? SPは……スキルポイント? HPは生命力、MPはなんだ?」


 ゲームだとMPはよく魔力やマジックポイント、つまりは魔法を使える回数として表示される。


「だとしたら、今は魔力がないってことか?」


 言いながら、俺はほかの数字を見ていく。


「あとのやつは、ステータスパラメーターなのか? STRは筋力で、DEFは防御力かな。DEXが器用さ、AGIは敏捷で、INTは知力だっけ。VITは耐久力か。LUKは……運だよな。なんでコイツだけ他よりも高いんだよ」



 ツッコミを入れながらも、思い当たる節はある。

 俺は、幼い頃から運動も勉強も人より突出した部分がなかった。

 すべてが平凡。

 けれど、そんな俺でも自慢できるものが一つだけある。


 それは、運の良さ。


 とは言っても、宝くじの一等を引き当てるだとかそんな豪運ではない。

 俺の運の良さは本当に些細なもので、学校の席替えで引いたクジは自分の願った席を引けるだとか、当たりつき自販機でジュースを買えば大抵当たりを引くだとかそんな運の良さだ。

 平々凡々の俺が、他の人よりもちょっとだけ優れている唯一と言っていいほどの特徴だ。


 それが、このLUKの高さに出ているのだろうか。



「いや、だとしても運以外全部1かよ」



 ため息を吐き出す。

 比較対象が居ないのでなんとも言えないが、1よりも小さい数字は0しかない。おそらくは最低値だろう。

 客観的に見ても俺の身体能力を表すなら間違っちゃいない。

 けれど、どうしてそれが昨日ダウンロードしたばかりのゲームに記されているのか。



「気持ち悪っ」



 いろいろと考えて、アプリを削除することに決めた。

 いやだって、明らかにおかしいし。なんで勝手に名前入力されているんだよ。俺の個人情報、スマホから抜き取られているでしょコレ。

 アプリを閉じて、アプリの削除を試みる。



「ん?」



 しかし、何度試してもアプリは消えない。

 それどころか、ホーム画面に固定されているかのようにアプリアイコンを移動することさえもできないのだ。

 次第に募る苛立ち。

 それは、目が覚めてから続く非現実的なこの現状に抱いた苛立ちでもあった。



「あー、くっそ! 起きたら街は廃墟になってるし、スマホは壊れて電話も、連絡先も消えてるし! ネット繋ごうにもアイコンがねぇ!! おまけに唯一残ったゲームが個人情報を抜いてくるだと? ふざけんな!」



 苛立ち紛れにスマホを地面へと叩きつけた。

 いつもなら絶対にそんなことをしないけど、もう俺の頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

 髪を掻きむしって、頭を抱える。



 いやダメだ。こういう時こそ冷静にならなくては。

 この非現実に頭が付いていかないけど、こういうときに取り乱したらダメだ。

 ゾンビ映画でも真っ先にパニックになった奴がやられるじゃないか。

 もしくは外界と遮断された無人島で起きた殺人事件で、まっさきに自分の部屋に帰る奴とかね。



 無理やり深呼吸。

 数十回ほど続けて、なんとか冷静さを取り戻す。



「とりあえず、今この瞬間を現実だと受け入れよう」



 夢でないことは腕や足の裏の切り傷の痛みが教えてくれた。

 だとすれば、次に考えるべきはどう行動するかだ。


「面白かった」「続きが気になる」と思われましたら評価していただけると嬉しいです。

  • ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいねで応援
受付停止中
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く際の禁止事項についてはこちらの記事をご確認ください。

※誤字脱字の報告は誤字報告機能をご利用ください。
誤字報告機能は、本文、または後書き下にございます。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。

名前:


▼良い点
▼気になる点
▼一言
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。