介護保険サービスを利用した場合、看護・医療的な管理下における居宅系サービス・施設サービスを受けて支払った自己負担額、交通費、おむつ代については確定申告をすることで所得税の医療費控除を受けることができます。
介護保険サービスには訪問看護や訪問リハビリなどの医療費控除の対象となるサービスと福祉用具のレンタルやグループホームなどの医療費控除適用外のサービスがあります。
デイサービス(通所介護)や生活援助中心型を除く訪問介護などの特定の居宅サービスとの併用によって医療費控除の対象となる介護保険サービスもあります。
そもそも医療費控除とは、1年間に10万円以上の医療費を支払った場合に受けられる控除です。治療を目的とした医療行為に支払った費用が所得税から控除されるため、美容整形手術などの費用は控除の対象とはなりません。
本記事では医療費控除の対象となる介護保険サービスと対象外の介護サービスについて解説していきます。
医療費控除の対象となる介護保険サービスを一覧でチェック
まずは一覧表で①医療費控除の対象となる介護保険サービス②医療費控除の対象外の介護保険サービス③対象となる居宅サービスとの併用で対象となるものについて一覧で確認していきましょう。
医療費控除の対象となる介護保険サービス | 医療費控除の対象外の介護保険サービス | 対象となる居宅サービスとの併用で対象となるもの | |
---|---|---|---|
居宅サービス※1 |
|
|
|
施設サービス※2 | 自己負担額(介護費、食費および居住費)が全額控除の対象となるもの
自己負担額の2分の1に相当する金額が対象となるもの
|
なし | なし |
※国税庁 「医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」「医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」より引用
※1居宅サービスとは、自宅で生活する人を対象とした介護保険の介護サービス全般のことです。
※2施設サービスとは、介護保険施設に入居して受ける介護サービス全般のことです。
上の一覧で医療費控除の対象となる介護保険サービスについて把握することができますが、対象サービスが多く少々わかりづらいため第2章以降でそれぞれについて詳しく解説していきます。
ピッタリの施設を診断
医療費控除の対象となる介護保険サービス
医療費控除の対象となる介護サービスは、看護・医療的管理の下における療養上の世話等に相当する居宅サービス・施設サービスの対価や、通院のため電車やバス等の公共交通機関に支払った交通費、おむつ代などが該当します。
また、デイサービスや短期入所生活介護(ショートステイ)は福祉サービスであるため、医療費控除の対象となる居宅サービスと併用して利用した場合に限って医療費控除の対象となります。
第2章では、居宅サービス、施設サービスそれぞれで医療費控除の対象となる介護保険サービスについて解説していきます。
医療費控除の対象となる居宅サービス費用
医療費控除の対象となる介護保険サービスは以下の通りです。
- 訪問看護
- 介護予防訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 介護予防訪問リハビリテーション
- 居宅療養管理指導【医師等による管理・指導】
- 介護予防居宅療養管理指導
- 通所リハビリテーション(通称デイケア)
- 介護予防通所リハビリテーション
- 短期入所療養介護【ショートステイ】
- 介護予防短期入所療養介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護(一体型事業所で訪問看護を利用する場合に限ります。)
- 看護・小規模多機能型居宅介護(上記の居宅サービスを含む組合せにより提供されるもの(生活援助中心型の訪問介護の部分を除きます。)に限ります。)
※国税庁 「医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」より引用
居宅サービス等におけるおむつ代については、医師等が発行する「おむつ使用証明書」がある場合に限って医療費控除の対象となります※。※国税庁「おむつに係る費用の医療費控除の取扱い(「おむつ使用証明書」の様式の変更等)について(法令解釈通達)」
また、通所リハビリテーションや介護予防通所リハビリステーションなど、居宅サービス等の提供を受けるために介護老人保健施設(老健)や指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などに通う際の交通費については、通常必要な物に限り医療費控除の対象となります。
医療費控除の対象となる居宅サービスとの併用時のみ控除できる介護保険サービス
医療費控除の対象となる居宅サービスと併用した時のみ医療費控除の対象となる居宅サービスは以下の通りです。
- 訪問介護【ホームヘルプサービス】(生活援助(調理、洗濯、掃除等の家事の援助)中心型を除きます。)
- 夜間対応型訪問介護
- 介護予防訪問介護(※平成30年3月末まで)
- 訪問入浴介護
- 介護予防訪問入浴介護
- 通所介護【デイサービス】
- 地域密着型通所介護(※平成28年4月1日から)
- 認知症対応型通所介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 介護予防通所介護(※平成30年3月末まで)
- 介護予防認知症対応型通所介護
- 介護予防小規模多機能型居宅介護
- 短期入所生活介護【ショートステイ】
- 介護予防短期入所生活介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護(一体型事業所で訪問看護を利用しない場合および連携型事業所に限ります。)
- 看護・小規模多機能型居宅介護(上記①の居宅サービスを含まない組合せにより提供されるもの(生活援助中心型の訪問介護の部分を除きます。)に限ります。)
- 地域支援事業の訪問型サービス(生活援助中心のサービスを除きます。)
- 地域支援事業の通所型サービス(生活援助中心のサービスを除きます。)
※国税庁 「医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」より引用
デイサービスは医療費控除の対象となる介護保険サービスと併用して利用した時のみ医療費控除の対象となります。医療費控除の対象となる場合は、施設側が請求書に「医療費控除対象額」を記載することが義務付けられているので、デイサービスの医療費控除を検討している場合は請求書を確認しましょう。
また、食費や日用品代などもともと介護保険の適用外となる費用は当然医療費控除の対象とはならないことに注意しましょう。
医療費控除の対象となる施設サービス費用
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の4つの施設サービスでは、介護費、食費および居住費に限って医療費控除を利用することができます。それぞれの施設が発行する領収証に医療費控除の対象となる金額が記載されることとなっています。
ただし、それぞれの施設で医療費控除の対象額が以下のように異なってきます。
施設名 | 医療費控除の対象 | 医療費控除の対象外 |
---|---|---|
指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
指定地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特別養護老人ホーム) |
施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額の2分の1に相当する金額 | ①日常生活費(理容費・被服費など)
②その他費用(レクリエーションにかかる費用など) |
介護老人保健施設 | 施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額 | ①日常生活費(理容費・被服費など)
②その他費用(レクリエーションにかかる費用など) |
指定介護療養型医療施設 | 施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額 | ①日常生活費(理容費・被服費など)
②その他費用(レクリエーションにかかる費用など) |
介護医療院 | 施設サービスの対価(介護費、食費および居住費)に係る自己負担額として支払った金額 | ①日常生活費(理容費・被服費など)
②その他費用(レクリエーションにかかる費用など) |
※国税庁 「医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」より引用
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の4つの施設サービスでは、施設から外部に通院する際に必要となった交通費(電車・バス代・やむを得ない場合※はタクシー代も含む)も医療費控除の対象となります。付き添いを頼んだ場合も医療費控除の対象となるので、領収証を必ず取っておきましょう。
※病状によって急を要する場合や症状によってバスや電車での移動ができない場合はタクシーも医療費控除の対象となります。また、タクシー代の中に高速道路の利用料金が含まれている場合は高速道路の利用料金も医療費控除の対象となります。
(国税庁:「病院に収容されるためのタクシー代」)
介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の個室等の特別利用料も医療費控除の対象となります。
高額介護サービス費(1カ月に支払った利用者負担の合計が負担限度額を超えた際に超えた分が払い戻される制度)として払い戻しを受けた際は、医療費の金額から差し引いて医療費控除の計算をします。なお、特別養護老人ホームのサービス費に対する高額介護サービス費については2分の1に相当する金額を医療費の金額から差し引いて医療費の金額から計算します。
ピッタリの施設を診断
医療費控除の対象外となる介護保険サービス
訪問介護やグループホームは医療費控除の対象とはなりません。また、介護予防を目的とした認知症高齢者グループホームなども対象とはなりません。
ベッドレンタルや車椅子レンタルなどの福祉用品貸与も医療費控除の対象とはならないことに注意しましょう。
第3章では居宅サービス・施設サービスそれぞれで医療費控除の対象とはならないものについて解説していきます。
医療費控除の対象外となる居宅サービス費用
医療費控除の対象外となる居宅サービス費用は以下の通りです。
- 訪問介護(生活援助中心型)
- 認知症対応型共同生活介護【認知症高齢者グループホーム】
- 介護予防認知症対応型共同生活介護
- 特定施設入居者生活介護【有料老人ホーム等】
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 介護予防地域密着型特定施設入居者生活介護
- 福祉用具貸与
- 介護予防福祉用具貸与
- 看護・小規模多機能型居宅介護【旧複合型サービス】(生活援助中心型の訪問介護の部分)※平成27年4月に「複合型サービス」から名称が変更されました。
- 地域支援事業の訪問型サービス(生活援助中心のサービスに限ります。)
- 地域支援事業の通所型サービス(生活援助中心のサービスに限ります。)
- 地域支援事業の生活支援サービス
※国税庁 「医療費控除の対象となる介護保険制度下での居宅サービス等の対価」より引用
訪問看護やグループホームが医療費控除の対象外となります。
ベッドや手すり、車椅子などの福祉用具のレンタル費用も医療費控除の対象外となることに注意しましょう。
医療費控除の対象外となる施設サービス費用
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、介護医療院の4つの施設サービスでは、介護費、食費および医療費に限っては医療費控除の対象となりますが、日常生活費(理髪費・被服費など)や特別なサービス費(レクリエーション費用)は医療費控除の対象外となります。
日常生活費や特別なサービス費はそもそも介護保険の対象とはなりませんが、同様に医療費控除の対象ともならないことに注意しましょう。
医療費控除の対象となる介護保険サービスは確定申告をしよう
医療費控除の利用には確定申告が必要です。手続きをスムーズに行うには、次の3つのポイントについて知っておきましょう。
- 対象者
- 対象の期間と申告期間
- 申告時に必要なもの
これらを押さえておくことで、よりスムーズに手続きを進められます。
対象者
医療費控除の対象者は、対象となるサービスを利用している本人やその配偶者です。ただし、遠方に暮らす家族でも生活費の大半を負担している場合などは、医療費控除が受けられます。
被介護者が寝たきりで遠方の施設に入居しているなどの場合でも、生活費の大半を負担しているなら、その家族が申請して控除を受けられます。
対象の期間と申告期間
医療費控除の対象となるのは、1月1日から12月31日までであり、1年間にかかった費用をまとめて計上できます。また、控除を適用させるには確定申告が必要であり、その期間は2月16日から3月15日と決まっているため、この点も覚えておきましょう。
確定申告は前年の所得や控除額などを申告するため、申告年が2021年の場合は、2020年の1年間でかかった費用を計算して申告します。もし申告期間を過ぎてしまっても、医療費控除は過去5年にさかのぼって申請が可能であるため、その翌年に改めて申告しましょう。
申告時に必要なもの
医療費控除で確定申告をする際には、次のものが必要です。
- 控除対象となるサービスの領収書
- 医療費控除の明細書
- 確定申告書A
- 源泉徴収票
- マイナンバーカードなどの本人確認書類
控除対象の領収書は紛失しないように保管しておきましょう。医療費控除の明細書や確定申告書Aは、確定申告会場や税務署で取得したり、国税庁のホームページでダウンロードしたりできます。
源泉徴収票は勤めている会社からもらえるため、これもなくさないように保管しておくことが大切です。確定申告の際にはマイナンバーカードなどの本人確認書類も必要であるため、これも用意しておきましょう。
各種書類をそろえたなら、申告書に必要事項を記入して、税務局や確定申告会場などで提出します。また、ネットでの申請も可能であり、この場合は明細書や確定申告書などを取得する必要はありません。
ピッタリの施設を診断
介護保険サービスの医療費控除を有効活用しよう
介護保険サービスでかかった費用は、一部のものについて医療費控除の対象となります。医療費控除を受けることで税負担を軽減でき、出費を抑えられます。
介護には高額な費用がかかることも多いからこそ、少しでも出費は削減することが大切です。医療費控除を有効活用し、介護保険サービスの費用も計上することで、金銭的な不安の解消を目指しましょう。
医療費控除の対象となる介護保険サービスは、「訪問看護」をはじめとした訪問型、「通所リハビリ」などの通所型のサービスがあります。詳しくはこちらをご覧ください。
医療費控除の対象外となる介護保険サービスとしては、訪問介護や福祉用具のレンタル・購入などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。