材料を集めに
どうしよう……まず間違いなくここで僕が割っていったら一旦僕に注目が向いて、そこからあの柄の悪い人と一悶着起きる。目的達成の為に面倒事は避けたいけど、ルクレシアさんがあのままだと僕も困るし……そうだ!何か良い感じの本があるはず……
「だったらきん……うっ!?」
「ひっ!?」
あ、いけね。ルクレシアさんも【恐怖圧】の範囲内に入れてしまったかも
「アイツいつの間に……の、呪いの掛け方 第4巻?……ほ、本が無いならもうここに用はねぇし、帰る!」
何かパッと見で怖そうな本を選んで、男の後ろの席で【恐怖圧】を出しながら読んでみた。狙い通り気味悪がって逃げて行ってくれたぞ?
「何とかなりましたか?」
「あ、ハチ……さん?」
おっ?名前を呼んでくれたぞ?
「あんな人本当に居るんですねぇ……そうだ。ちょっと読みたい本があるんですけど」
【恐怖圧】を解除してルクレシアさんに近寄る。でも、このまま会話するのも何かちょっと気恥ずかしいからプレゼントを作る為に何か情報が無いか探す事にしよう
「全く、この雰囲気ですぐに新しい本を要求します?普通……それで、何をお探しなんです?」
うん、ルクレシアさんも調子を取り戻したのか昨日と同じような感じだ
「昨日はこの森で採れる野草の冊子でしたが、今度はこの森で獲れる魔物の素材とかの冊子ってあります?」
魔物の素材であれば僕も知らない何か特殊な素材が獲れるかもしれない。プレゼントに使える物があると良いなぁ?
「魔物……どれだけ自分に自信があるか知りませんが、それは止めた方が良いですよ?貴方はまだ新入生です。そう簡単に危険な事をさせる訳には……」
「もう森に住んでるのに?」
「うぐっ……」
「もうご飯にする為に何体か倒しているのに?」
「うぐぐっ……」
「さっき困ってるみたいだったので助けたんですが、アレだけじゃ実力を示した事にはなりませんかね?」
「あぁもう!はい!これです!」
昨日の冊子と似たような作り。だからこれもルクレシアさんが作ったんだろう
「おぉ!これもまた分かりやすくて良い物ですね!」
新しい冊子を読んでみたらあの森のもっと奥地に色んな魔物が居る事が分かった。生息場所、弱点、しかも素材の情報まで纏められている。凄いなこれ?
「さっきのはいったい何なんです?」
「何でしょうかねぇ?本にでも書いてるんじゃないですか?それじゃあ行ってきます!」
【恐怖圧】の事を簡単に教えてしまったらつまらない。ちょっとくらいミステリアスな雰囲気を醸し出しつつ、退場だ。というか使えそうな素材の情報を確認しないと
「無詠唱の魔法?いや、魔法の発動をしている様には見えなかった……なんらかのスキル?」
ハチが図書館を去った後、頭の中の記憶している図書館の全ての本の内容を思い出してみたが、あんなのは魔物が使う様な物。人が使える物じゃ無いはず……
「まさか……人間じゃない?」
ハチがその場に居たらすぐに否定するだろう。でもその結論に至ってしまっても仕方が無い。本を読んでいるだけで恐ろしい気配を出すなんて普通に考えたらあり得ない
「でも……ハチさんはどう見ても人間ですし、まだ私が読んでいない本に書かれているのかも?」
本に書かれていない事だから自分の目で確かめろという意味だったのだが、それには気が付かないルクレシアであった
「おぉ?これなんか良さそうかも?」
僕が目を付けたアイテムは『粘性クリスタル』これは粘土の様に形を変えられる透明なクリスタルらしい。これを狙ってもう少し森の奥まで進んで見よう。これをドロップする魔物も森に住む魔物の中でもかなり下の強さみたいだし、無理をしない事も考えるとこのくらいの敵が良いだろう。もっと上の強い魔物からは金の糸とかも出るみたいだけど、今考えているプレゼントを作るなら粘性クリスタルの方が良い
「えっと、クリスタルスラッグ……水晶ナメクジか。森の奥の日の光が届きにくい所に居ると……これは下手をすると魔物よりも地形の方が危険だな」
生息する場所が光の届きにくい所となると、多分空が見えない。そうなると拠点の大きな木が見えなくなるから、迷う可能性が高い。迷って他の危険な場所に入らない様に行動する必要があるな?
「まぁまずは森の奥地まで行ってみるか」
何はともあれ行ってみなければ分からない。準備も既に完了しているし、行こう
「おっ?ここから先は明らかになんか違うぞ?」
今まで生えていた森の木々の種類が変わった。木と木の間隔は広がっているのに、枝葉が横に大きく広がり、他の木々と重なり合って日光を遮断している。昼間でもここを探索するならランタンとかの灯りが普通の人には必要そうだ。僕は【ゲッコー】の暗視効果で何の問題も無いけど
「森の奥の日の光が届きにくい場所。ここなら居そうだね」
クリスタルスラッグの生息地の条件と合う場所。この森の中に入る前にコンパスで目印にしている拠点の大木の方向を確認してからこの暗い森の中に入ろう。暗い森に入った途端磁場が狂ったりするならすぐに引き返したりしないとだけど……ま、その時はその時だ