図書委員長
「へぇ、あの鍵ってウォード錠って言うんだ……」
折角だし、鍵の歴史の本を見てみたら良く見る棒の先に凸凹が付いている簡単な鍵はウォード錠って言うみたいだ。魔法鍵みたいにあからさまに現実では無い鍵とディンプルキーみたいに現実でもある鍵は本の前半後半で分かれていたので、実在の鍵が書いてある後半にウォード錠の事が書かれていた時はちょっと驚いた
「こんな本を読みたいって人は中々居ないのでとても嬉しいです!他にも読みたい本はありませんか?」
「え?じゃあ……本の作り方、とか?」
「まさに本質的な物ですね!こちらです!」
また手を引かれてその本がある場所に連れてこられた。この人もしかして……
「本、その想い。です!」
「もしかしてここの図書館の本全てを暗記しているんですか?」
「はい!全て覚えています!図書委員長なんで!」
「……よく分からないですけど多分凄いんですね!とりあえずその本見せてもらいますね?」
この人が図書委員長だったのか……まぁ薄々そうなんじゃないかとは思っていたけど、ここで図書委員長の肩書きに釣られてせっかく探してくれた本を放置するのは良くない。話を聞くのは本を読んだ後でも良いんじゃないかな?
「どうぞ!出来れば本の感想もお聞かせください!」
「ははは……まずは読んでみるので、待っていただけたら……」
すぐに感想を聞かせろと言われても読んでない本の感想を言う訳にもいかないし、まずは読まなければ……
「本は我が子って良いですね……」
実際装丁とか紙の作り方が乗ってるかなぁと思ったけどこの本に載っていたのは本の書き方の様な物だった。本は我が子。自分が語り聞かせて、子がまた更に次の代へと紡いでゆく。という所が結構良いなと思った
「ですよね!やっぱりそこが良いと思いましたか!貴方お名前は?」
「僕はハチって言います」
「私は図書委員長のルクレシアです。貴方の様な本を楽しんで読んでくれる人が中々居なくて……でもやっと理解ある方がいらっしゃって本達も喜んでいます!」
「因みに他の人ってどんな本を読んでるんです?」
「攻撃魔法の強化法とか、強い魔法、相手を倒す簡単な魔法……そんな物ばかりです。そして鍛錬を積まなきゃ強くならないと分かれば本を投げ捨てていく人も居る始末で……」
うわぁ、そりゃ酷いな?魔戦会に勝つ為だろうけど、流石に本を投げ捨てるのは無いわ……
「そんな中、魔戦会とは無関係な本を読みたいとなれば気にならない訳無いじゃないですか」
この人を騙して禁書保管庫に入るのはちょっと悪い気がしてきたな……多分ルクレシアさんは本を純粋に楽しんで欲しいだけなんだ。ただの戦いの為の道具じゃなく、知識を得る事を楽しんで欲しいんだろう
「ルクレシアさん」
「どうしましたか?また新しい本が読みたくなったんですか?」
「そうと言えばそうですが……ルクレシアさん。僕に禁書保管庫に入る許可をくれませんか?」
「なっ!?何でその事を……」
やっぱりこれはまだ早かったかな……失敗だったかもしれない
「禁書は全て恐ろしい程の力を持っています。そう簡単に許可の無い人を通す訳にはいきません!どうしてもというのなら!」
ルクレシアさんが杖を取り出し、僕に向ける。うん、まずは僕の意思を伝えないとだな?
「僕は禁書が欲しい訳では無いんです」
「では何故!」
「本は我が子。自分が語り聞かせて、子がまた更に次の代へと紡いでゆく。これってつまり筆者が本を書いて、その本を別の人が読んで筆者の想いを受け取り、その人が本を別の誰かにオススメしたり、そういう事の繰り返し。ですよね?」
「……私も同じように受け取りました」
「でも、その本の内容が間違っていたら?」
著者の書き間違いはあるかもしれないが、原本に間違いが起こる事は基本的に無い
「どういうことですか?禁書の中に内容の違う本があるとでも言うんですか?」
「原本が間違っている事はほぼあり得ないでしょう。でも写本なら?違う言語を翻訳していたら?」
手書きで書き写した物なら誤読とか誤字脱字で伝えたい言葉が上手く伝わらない事だってある
「何らかの間違いがあったとしてもおかしくはない……でもそれが貴方となんの関係があるんですか!」
「修正を頼まれたんですよ。とある方に」
ニャラート様の事を言っても良いのか分からなかったし、とりあえず詳細はボカシておく
「……だとしても禁書保管庫に入れる事は出来ません!」
「ですよね。じゃあ諦めます」
「え?」
「ぶっちゃけて言ってしまうと僕がこの学校に来た理由は禁書の修正ですから。今修正が出来ないなら大人しく学生生活を過ごしますよ。御迷惑を掛けて申し訳ありませんでしたルクレシアさん」
「え?そこは私を倒してでもー!ってくる所じゃ無いんですか!?」
「僕そこまで乱暴そうに見えます?それにこんな所で戦ったら本が傷んでしまうじゃないですか?ルクレシアさんはそれでも良いんですか?」
元からやり合うつもりは無い。戦闘になってしまったらどちらかは必ず傷付くし、戦場になってしまう図書館の本が大変な事になってしまう。それはこちらの望むところでは無い
「ここに有る物語のどれにもそんな流れは無いですよ……」
「事実は小説よりも奇なりって言葉があるくらいですから、本に無い事だってそりゃあ起こりますよ」
まぁカッコイイ物語の主人公とかならここでは折れないんだろうなぁ……
「ルクレシアさんの気が向いたら僕を禁書保管庫に入れてください。まぁダメならダメで他の手段でも考えますから」
「いったいどんな生き方をしたらそんな事になるんですか……」
「うーん、どういう生き方したらこうなるんですかねぇ?」
僕も分かんないや!