ただの神
「ハチ、この地の事は任せたぞ?」
「任されるのは良いんですが、何かこれはしなければならないとかありますか?ここに来る事も簡単に出来ないのであれば色々と考えないといけない事もあるので……」
バルミュラ様に空島になったイベントエリアを任されたのは良いけど、問題はこの島は何か管理をしなければならないのか、そこが重要だ。管理をする為にたまにここに来なきゃいけないのならどうやってここに来るのか、管理にもしお金とか必要になるのなら……
「たまにここに来るだけで良い。何か必要な物などは無い。泉は用意してある」
吹き飛ばされた魔王城の前にいつの間にか旅人の泉が出現していた。あれを登録しておけばいつでも戻ってこられるって訳だ。街に辿り着いたら様子を見に来るようにするか
「眷属達がだいたいの事はやってくれるだろう。後はハチが許可を出せば指輪を持っている者ならばこの地に来る事も出来るだろう。今はハチのみしか来られない様にしているが」
お?設定を変えれば一緒に戦った人達をここに連れて来る事も出来るのか
「それは、指輪を持つ者が持たない者を連れて来る事も可能なのでしょうか?」
「ハチが許可を出せば可能だ」
フレンドのフレンドまでオッケー的な事とか出来るのか
「まぁそうだな。暫定的に金を使って施設を修復出来る様にしておこう」
「バルミュラ様。私はお金を持つ事が出来ないのですが……」
「ここの泉は他の所に比べたら格段に安い。ここを中継にして別の所に行きたい者、ここで商売をしたい者。そういった存在から修繕費という事で寄付してもらえば少しずつではあるが城を修復する事も出来るだろう。因みに城を修復出来たら恩恵もちゃんとあるぞ?」
なるほど、そういう報酬もあるのか。でも通行料とショバ代で城を再建するのか……
「私に直接お金が入らずに修繕費に当てられるから出来る芸当ですね。時間はかなりかかりそうですが」
完全に有志の方々にやってもらう事だから文句は言わない。というか言える立場じゃない
「ハチが必要だと思えば情報を広めて協力してもらうと良い。今はまだ他の者には伝えていないが」
「こちらの都合を考えていただき感謝します」
「あとは……これ以上は自分で確認してみると良いだろう。ではそろそろ別れの時間だ。眷属達を頼んだぞ?」
「はい、バルミュラ様もお疲れ様でした」
これで本当に最後だろう。ここから先は自分で調べて、何が必要か、何が出来るかを考えておこう
「あぁ、どうやら後がつかえているみたいだからな。だがハチ?気を付けるんだぞ?」
「気を付ける……とは?」
「ハチは面白いからな。どうなるかはハチ次第だが……」
え?僕何かされるの?
「まぁハチには恩がある。何かあった時には助けるさ」
「ありがたき幸せ」
世界の管理者になったバルミュラ様が助けに入るって相当ヤバい手合いだと思うんですけど……?
「ではこれで本当にさらばだ」
「はい、また何処かで」
「あぁ、また何処かで」
叶うかどうかは分からない。でも、一応それだけは言っておくべきだと思った。今後またバルミュラ様に会えるかどうかは分からないが、こういう別れならまた何処かで出会えるかもしれないと思った。光の扉が現れて消えるバルミュラ様を見て、今回のイベントが本当に終わったんだと理解した
「ぐえっ!ちょ!?」
と思っていたんだけどなぁ……?バルミュラ様が消えた瞬間。僕の体を黒い何かが掴み、何処かに引き摺り込まれた
「ここは……深淵?」
真っ暗闇空間の深淵。なんで急にここに引き摺り込まれたんだ?
「君がハチ君だね?」
「はいそうですけ、ど……」
後ろから声を掛けられたのでふりかえりながら答えたらそこには何も無かった。いや、言葉が正しくないな。話しかけてきたその存在には顔が無かった。名前を名乗ってないけどなんで知ってるんだろう?
「おぉっと。人間には刺激が強い姿かな?大丈夫?発狂する?」
触手が組み合わさり、筋繊維のようになって立つその姿に何も無い顔。実際に見た事はもちろん無い。だが、多分何らかの資料で見た事はある。それになんだろうこのノリ……アビス様のこんにちは!死ね!みたいなのと似ている様な気がするぞ?
「大丈夫です。発狂はしません。なにか自己紹介した方が良い感じでしょうか?」
「ほう?これなら話が早い」
「だから言っただろう?貴様程度に怖がる奴では無いと」
アビス様の声がする。やっぱりここは深淵で間違いないみたいだ。という事はこの人……人では無い何かはアビス様のお客さん?
「これは待った甲斐があったねぇ。君、ハチ君さぁ?ボクの信奉者にならない?」
「あ、宗教の押し売りはちょっと……」
「あははは!うんうん、良いねぇ!異界での戦闘を見てたけど、盛り上げる為にワザと負けたり、相手を絶望させる為の手札だって持ってる。君みたいなのはとても好みだよ」
もしかしてバルミュラ様が気を付けろって言っていたのはこれだったのかな?
「まずは名乗ろう。私はニャラートホテプ。面白い事大好きなただの神さ」
ただの神に拉致られて僕はいったいどうなるんでしょうか?