信奉者の誘い
「ただの神であらせられるニャラートホテプ様の目的は何でしょうか?」
聞いて意味があるのか分からないけど、ちょっと情報が少なすぎる。もし、僕が知っているニャルラトホテプに類するものなら下手に動くと発狂させられるかもしれない。出方を窺い、どんな神なのかを理解してどう話すのが失礼では無い、もしくは楽しんでもらえるかを考えないと……
「目的?最初から言ってるじゃないか。面白そうだと」
「では特に僕を困らせたいとかそう言う訳では無いんですね?」
「それが面白そうならやる事もちょっと考えるね?」
おっと、神が邪魔するぞと言ったらマジでヤバそうな妨害が来そうだ……
「この世界に降り立った時君は何をした?」
「えっ?えっと……棒を倒して行先を決めた……かな?」
あのまま街に向かっても良かったけど、せっかくなら運試しとやったはずだ
「そう!そういう所!君は初めてこの世界に降り立った時から他の者とは違う狂気を感じた!何より、君を面白いと感じたのはあのシスターから想いを託された時。あの時は痺れたねぇ」
「……自己満足の為に戦っていると言った時でしょうか?」
思い当たるとしたら多分自分が楽しむ為に戦っていると言った時の事だろう
「誰かを守りたいとかそんな聞こえの良いつまらない言葉では無く、ただ楽しみたいという本当の自分の気持ちをぶちまけた時は目が離せなかったよ!」
なるほど……最初から見られているというのは本当かもしれない
「ニャラートホテプ様の信奉者になったら何か利点とかあります?」
まぁ正直信奉者になるつもりは無いけど、利点があれば少しくらい考えても良いかもしれない
「面白い奴を取り込みたい。それが理由さ」
「あ、僕じゃ無くてニャラートホテプ様の利点ですか」
流石神。相手の事よりまずは自分優先だ
「こいつは他の神と違い少し特殊なのだ。そのせいで多少厄介なんだがな」
「違う……何が違うんだろう?」
他の神と違うらしいニャラートホテプ様。というか僕はこれ信奉者にならないと帰る事も出来ないとか無いよね?
「こやつは個であり全。全であり個。何体も居るのだ」
「それは少々誤解を生むね。ちょっと訂正しないと」
おっ?この辺に何か状況を打開するヒントがあるかも
「まず大前提としてニャラートホテプとは一個人では無く、集団の名称。種族名とでも言うべきかな?人のニャラートホテプ、猫のニャラートホテプ、ゴブリンのニャラートホテプに石のニャラートホテプ。色んな種族にニャラートホテプが居る。君の目の前に居るのは神のニャラートホテプ。ニャラートホテプの中でもリーダーの様な特別な存在だよ?」
ほうほう?ニャラートホテプはもしかしてクラン名的な物と捉えた方が良いのかな?というか石とかもニャラートホテプとかマジで万物がニャラートホテプなのでは?
「色んな種類のニャラートホテプが居るし、お互い相手がニャラートホテプと気が付かずに戦う場合だってある。でもそんな事は重要じゃない」
自分同士で潰しあうみたいな事が起きても重要じゃないって相当な気がするけど……
「ニャラートホテプ達全ての願いはこの世を面白くする事。その一点さ」
「……信奉者ってもしかしてその手伝いをしろという事でしょうか?」
話の流れを考えるなら「おめぇ面白れぇ奴だな?なら世界を面白くする事を手伝え」という事かな?
「分かってるね。で、どうだい?信奉者になるかい?」
『ニャラートホテプの信奉者になりますか? はい いいえす』
いいえすってなんだいいえすって?「いいえ」だと思わせておいて、断らせる気無いじゃないか……
「世界を面白くしたいのは分かります。つまらない世界は僕も嫌です」
でもニャラートホテプ様の意志とかも何となく分かってきた。面白い存在を引き入れて更に世界を面白くしたい。そう考えているんだろう
「じゃあ信奉者に……」
「それは辞めておきます」
提示された選択肢を手で払い、ニャラートホテプ様に向き直る。世界を面白くしたいのなら僕はここでニャラートホテプ様の信奉者になったらダメだ
「話を聞かせてもらおうじゃないか?」
触手の筋繊維が膨れ上がるような圧を感じる。神の威圧感とでも言うべきかな?下手な事を言ったら粉微塵になりそうだ
「世界を面白くしたいニャラートホテプ様の信奉者になっちゃったらニャラートホテプ様が少しつまらなくなっちゃうじゃないですか?鎖を付けた飼い犬と野放しの野犬。何が起こるか分からないのはどっちだと思います?」
信奉者になったら多分神託とか何か使える様になるんだろう。だけどいつでも従わせる事が出来る状態よりも止められない、手が出せない状態で対処の為に何かをする。そっちの方が他に何か面白い事が起きる気がする。鎖を付けた飼い犬なら誰かを追いかけたりしてもすぐに止められる。だが、野放しの野犬なら誰かを追いかけたら犬を捕まえる為に他の誰かが犬を追いかけたり、追われている人を助ける為に他の誰かが介入して来たり……他に何か起きる
「クックック、アーッハッハ!最高のおもちゃだ!君の様な存在をずっと待っていたのかもしれない!」
「そ、それはなにより……」
顔が無いのに大笑いして身を捩らせているニャラートホテプ様。中々凄い映像だと思う
「今まで信奉者になってニャラートホテプになった奴も居る。でも面白い奴が手に入らない事もまた面白い!欲しくて欲しくてたまらない。掴みたくても掴めない追い求めるこの気持ち!まさしく愛だ!」
「それはまた別の感情な気もするんです、がっ!?」
ニャラートホテプ様の両手に当たる場所の触手が僕に向かって伸びてきて掴まれた。凄い力で破裂しそう……
「手に入れたい!でも手に入らない!掴めるのに掴めない!久しぶりだよこの感情の昂りは!」
神様も昂るんだな?まぁウカタマとかも昂ってそうだし、そこまでおかしい事じゃ無いか
「だが、このまま放置して手放すなんてとてもじゃ無いけど勿体無い!という訳で唾は付けさせてもらうよ?」
『称号 【黒幕】を入手』
『称号 【黒幕】が【無貌の黒幕】にランクアップしました』
とんでもない唾を付けられてない?