「勝った後」こそ危ない
富野 それは、戦争で徹底的に空襲でやられたという経験があるから、B29に勝つものを作るしかないと思い込んじゃったんじゃないかな。それを民生でどうやるか、と考えて家電を作り、自動車を作った。それ自体は悪いことではないけれども。
僕だって大学に入るくらいまで、「フォードやクライスラーに日本のメーカーが勝てるわけがない」と思っていました。それが結局勝ち、まさに地位が入れ替わった。だからやっぱり、日本は敗戦がなければ、ここまでの技術信仰にはならなかったでしょう。
敗戦のおかげで、ジャパン・アズ・ナンバーワンまで行けた。でも、まさに頂点を極めるということが、実を言うと国家にとって一番危険なんですよね。
戦前も、日露戦争に勝って以後、日本の政治体制も軍事体制も堕落していきます。日露戦争までの、まさに明治維新の空気を知っている人たちが富国強兵を必死でやって、その達成は僕も本当にすごいと思うけれど、その上り調子のところで植民地主義に染まっていってしまった。これも当然の流れなのでしょうが、「あのロシアに勝った」と言う傲慢が軍と国家を堕落させていった。
戦前に、軍をコントロールできる政治家が育たず消えていった背景には、軍に「私たちは日露戦争で勝ったんです」と言われれば黙るしかない、というメンタリティがあったと思う。軍のほうも軍のほうで、そういうことが言えてしまうために怠けてしまう。
日本軍が第二次世界大戦で徹底的に負けた理由というのは、第一には本当の意味での戦略論とか戦術論を陸軍も海軍も育てられなかったという教育の問題があります。一方で、武器の問題もあった。明治の末期に開発した三八式歩兵銃を、一度も改良することなく太平洋戦争まで使った。50年前の銃を素人が持たされて平気で使うなんて、向こうが軽機関銃持ってきたら、それは死にますよ。