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さまようロボットの話

 地面に巨大な穴が開いていた。よく見ると地面というよりそれは巨大な建物であって穴はその建物の吹き抜けであった。建物は朽ち果てており中には誰もいない。人間はとうの昔に絶滅したのかもしれない。穴は深く、そこに物を落としても底に落ちる音を聞くことはかなわなかった。
 その建物に一つだけ動くものがあった。建物を修理するロボットだ。何百年も手入れされておらず動きにはガタが来ているし、すでに建物を直す力はない。ロボットはただただ建物の中をさまよって「この場所が壊れている」とか「この箇所が修理が必要だ」といった情報を集めるだけの存在となっていた。
 大きな鳥が空を舞っていた。食べる物がなくてだいぶやせ細っている。遠くから食べ物を求めてここまで来たらしいがあいにくこのあたりに食べ物もなければそもそも生き物もいやしない。しかし地面に開いた巨大な穴の側面に鳥は動くものを捉えた。先ほどのロボットだ。鳥はそれが食べられるものなのかどうなのかの判断もなくただそれにぶつかった。
 急に空からぶつかって来た鳥により、元々壊れかけていたロボットはいよいよバランスを保つこともできないほど壊れてしまった。自分で立つ足もおぼつかず結局ロボットは大穴に転落していった。
 落ちながらもロボットは冷静だった。落ちながら穴の側面を観察していた。どこもかしこも朽ち果てて修理が必要な箇所ばかり。そしてどこもかしこも誰もいない廃墟であった。長い時間落ち続けたが底に付くことはなく日の光も当たらなくなった。しかしロボットには暗視カメラがついているので暗闇でもあたりを見回すことができた。周りは相変わらず廃墟が続いていた。
 しばらくするとあちこちに火の手が見えた。火事が起こっているわけではない。焚火のようだ。どうやら人間が暮らしているようだ。人間は落っこちている自分に気が付いているようだった。ロボットは思い出した。そうだ、自分はこの生き物たちのために働いていたのだった。よく見ると自分と同じ型のロボットが動いているのも見えた。上の廃墟とは違いここの建物は整備が行き届いている。そうだ、自分が本来いるべき場所はここだったのだ。ここの人間に自分を修理してもらえればまた元のように働くことができる。無意味に見て回るだけの修理ではなく本当の意味での修理ができる。
 次の瞬間ロボットはようやく穴の底に着いた。だがロボットはものすごい勢いで地面に叩きつけられたので修復不可能なくらいに粉みじんにぶっ壊れた。
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