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生成AI「答えはすぐにわかるが頭に何も残らない」、思考力に悪影響懸念…回答丸写しの例も

読売新聞 / 2023年7月5日 8時8分

 文部科学省が公表した小中高校向けの生成AI(人工知能)の指針は、活用例を挙げる一方、リスクや留意点を数多く指摘する内容となった。利用を限定的に始めるとしたが、すでに試行を始めた一部の学校では不適切な使用例も報告されている。専門家は「安易な使い方をすれば、子どもの思考力に悪影響をもたらしかねない」と訴える。

1時間が18秒に

 長崎県立長崎北高校(長崎市)では6月から2年の英語の授業で、対話型生成AIのチャットGPTを試験的に取り入れ、生徒に自身の書いた英文を添削させるなどしている。

 「普段は1時間かかるのが、チャットGPTだと18秒で終わった」。今月3日、生徒たちはチャットGPTを使った感想を明かし、今後の使い方を話し合った。男子生徒(16)は「チャットGPTを使うと答えがすぐに分かるが、頭に何も残らない」と語った。

 上村 洸貴 こうき教諭(34)は「英語力向上の可能性を感じた一方、自分で答えを考えずAIに頼る負の側面も浮かんだ」と話す。

 すでにチャットGPTを使って課題を仕上げるケースも出ている。九州地方のある私立高では今年5月、男性教諭(30)が英作文の宿題を出したところ、1年の男子生徒が本人の普段の学力よりも高いレベルの解答を提出した。不審に思った教諭が生徒にその場で同じ英作文を書くよう求め、チャットGPTの回答を丸写ししていたことが判明した。男性教諭は「見抜けないものもあるが、繰り返しダメだと言うほかない」と心配する。

具体的対応 現場任せ

チェックリスト

 指針では、話し合い活動で「一定の議論をしたうえで、足りない視点を見つけ議論を深める」ための利用を活用の具体例として挙げた。

 だが、宮城県の公立中学校の男性校長は「議論を深めるとは、どの段階を指すのか不明だ。タイミングを見誤ると、子どもたちの思考を止めてしまうことになりかねない」と危惧する。

 著作権侵害についての指導も求めているが、富山県の公立中学校の男性教頭は「生徒一人ひとりの解答をチェックするのは現実的に無理だ」と語る。

 私立自由学園中等科(東京)は今月1日、外部講師を招き、生成AIが作る回答には誤りがある可能性を周知。「生成AIはネット上の言葉をつなげ『それらしい』文章を作っているだけ。必ず確認を」と注意喚起した。

 文科省は指針で、生成AI利用時のチェックリストも示したが、「最低限やるべきこと」(文科省担当者)をまとめただけで、具体的な対応は現場に委ねられる。

 東京都教委は6月13日、夏休みの読書感想文やリポートで生成AIの回答をそのまま提出させないよう、都立校の生徒に注意を促した。さいたま市教委も近く、文科省指針を踏まえた対応を打ち出すという。

過半数が慎重

 大手予備校「河合塾」が今年5月、高校と大学教員ら139人から回答を得たアンケート調査では、60%弱が生成AIを自由に使わせることに慎重な姿勢を示した。高校教員では49%が「一部制限を設けるべき」とし、7%が「禁止するべき」と答えた。「自由に使うべき」は35%。「創造性を育む時期に安易に頼ってはいけない」「制限を設けても生徒は使う」といった意見が目立った。

 主催する読書感想文のコンクールで、盗作や不適切な引用があった場合には審査対象外になることがあると応募要項に明記した全国学校図書館協議会(東京)。設楽敬一理事長が生成AIに感想文を3回作らせると、いずれも平板な印象の文章だった。設楽理事長は「AIの回答には人の心を動かす『感動』がみられなかった。思考力や表現力、 語彙 ごい力を身につけてもらうのがコンクールの狙いだ」と強調する。

 名城大学の竹内英人教授(数学教育)は「試行錯誤するときこそ脳が鍛えられる。最短距離で答えを見つけようとしてAIに頼っていれば、思考力は奪われるだろう」と指摘している。

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