プリゴジンをベラルーシに“預けた”プーチンの策略
しかし、いろいろな方向から眺めてみても、腑に落ちないこともまだ多々あります。
その最たるものが「ワグネルの乱のタイミングとロシアからベラルーシへの戦術核兵器の搬入と配備のタイミング」です。
ルカシェンコ大統領は「ワグネルが核に接近することはない」と公言しましたが、これぞWho knows?な宣言ですし、受け入れに際し「ワグネルを受け入れてベラルーシの国軍の能力向上と強化を行うべく、防衛上のアドバイスをプリコジン氏とワグネルには期待する」と言っていることから、真の狙いがちょっと透けて見える気もします。
そして何よりも“ベラルーシ入り”したプリコジン氏はまだ公の場に姿を見せておらず、彼に付き従ってベラルーシ入りしたワグネルの戦闘員の規模と装備も不明です。
これはただの推察・勘繰りかもしれませんが、【プリコジン氏はすでに秘密作戦に取り掛かっているのではないか?】という見解が出てきます。
特に今回の乱が事前にプーチン大統領と綿密に打ち合わせたうえで合意された一連の作戦だとしたらどうでしょうか?
公然とワグネルをベラルーシに移し、そこからキーウ攻撃に踏み切るという手は考えられないでしょうか。
戦術核兵器については、何とも言えませんが、確かプリコジン氏はかなり早い段階から戦術核兵器使用をすべきと言及していたような気がします。非常に気になります。
ではプーチン大統領からワグネルへの微妙なメッセージはどう理解できるでしょうか?
23日の段階では徹底的に処罰し、プリコジン氏を目指しはしないものの、「コンコルド社の社長(軍に給食を配給するプリコジン氏の会社)が欲に目がくらみ、ロシア国民を裏切った」と糾弾していましたが、24日のルカシェンコ大統領の仲介を受けた撤退後は「ワグネルによるこれまでの英雄的な戦闘に感謝する」と発言したうえで「ベラルーシにいくのはOKだし、ロシアに残るならロシア軍と契約せよ」と呼びかける形に軟化しています。
ただ後者については、明らかにワグネルよりも待遇が劣るロシア正規軍に参加するとは考えづらく、実際には皆がベラルーシ入りすることを見込んでいるように思います。
しかし、本当にプーチン大統領はこれで幕引きするでしょうか?
今回の乱により、自らのリーダーとしての威厳・メンツをひどく傷つけられていますので、何らかの形でプリコジン氏とワグネルを罰しなくてはなりませんし、これまでのプーチン大統領の流儀から見ると、側近でされ無用になったり、楯突くようになってきたりすると、冷徹に粛正してきたことを考えると(社会的抹殺)、プリコジン氏とワグネルはただではおかないことになります。
恐らくルカシェンコ大統領を使って、ベラルーシ国内で閉じ込めさせ、場合によっては暗殺も辞さないという方法も考えられます。
しかし、噂はあるものの、実際にはプリコジン氏とワグネルの高い作戦・戦闘能力を評価し、頼りにしてきたので、この時点で完全に切り捨てることもまだ考えづらいようにも思います。
そうなると、遠ざけて、ロシアから追放し、ベラルーシに“預けた”形を表面上は取り、罰したように見せかけて、実はベラルーシ起点で対ウクライナ北部攻撃と国境を接するNATO加盟国に対する工作をワグネルに行わせるという戦略の存在をどうしても疑いたくなります。
6月29日に一度はウクライナ戦を託したMr.アルマゲドンことスロビキン副司令官を、ロシア軍内の裏切り者というレッテルを貼ってFSBが逮捕したとの一報が入りましたが、その後の行方が分からないということで、もしかしたら、スロビキン司令官も所在不明にしながらベラルーシのプリコジン氏と合流させ、非常に残虐な作戦遂行を担わせているとしたら…。
何かとてつもないことが起こりそうな予感がしてなりません。
以上、国際情勢の裏側でした。
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