女性競輪選手から転身、競輪場の実況アナに 今年デビュー

杉山匡史
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 小松島競輪場(徳島県小松島市)で、プロ選手たちのレースなどを観客らに実況している岩原紗也香さん(30)は全国43競輪場で唯一、女子競輪「ガールズケイリン」選手から転身したアナウンサーだ。現役時代は未勝利だったが、「岩原=小松島」と広く知られることを目指して、実況に磨きをかけている。

 ――なぜ競輪選手に

 社会人になっても剣道の各種大会に出て楽しんでいましたが、物足りなさも感じるようになっていました。そんな折、実家の近所の同級生が競輪選手という縁で、小松島競輪場を応援で訪れました。

 迫力あるスピードや選手同士の駆け引きなどに面白さを感じ、全国の競輪場を巡るように。千葉県・松戸でガールズケイリンを初めて知りました。女子選手たちが大観衆の中で走る姿に、かつて剣道で全国の舞台に立った中学・高校時代を重ね、「自分も走って活躍し、注目されたい」と思ったことがきっかけです。

 ――どんな苦労が

 自転車競技は未経験で、スポーツ選手としての体力も落ちていました。小松島競輪場に通う中で仲良くなった選手たちが「徳島初の女子選手」の誕生に期待を寄せ、体力テストに向けた練習指導などで支えてくれました。おかげで、日本競輪選手養成所の入所試験に合格しました。

 ――重圧との戦いでした

 2020年5月に広島での新人戦でデビューし、124戦しましたが一度も勝てませんでした。見た目は華やかで多くの観客に囲まれ、賞金も魅力的な世界ですが、毎日が地道な努力の積み重ねでした。勝つ以外にはないのですが、SNSで批判されたり、目の前で説教されたり……。「徳島初」への期待に応えたい気持ちと実績が伴わず、申し訳なさで心のバランスが取れなくなっていきました。結果的に成績下位が続いたことから、22年1月に強制的に引退となりました。

 ――転身のきっかけは

 引退しても競輪と関わりたいと思っていた時、小松島競輪の実況アナの茂村(もむら)華奈さんから「やってみない」と声を掛けられました。全国の競輪場で初めての女性実況アナとして20年以上活躍し、選手の特徴を捉えた実況がファンや選手にも愛されてきた大先輩です。その後継者としてでした。

 ――今年デビューでした

 試験期間を経て4月に独り立ちしました。競技規則やレースの流れなどを再確認したうえで、1レースの実況は選手がコースに入場し、試合を終えて退場するまでの約5分間。過去のレース映像を見ながら、ファンに分かりやすく伝える練習も繰り返しました。

 実況はガラス越しにレースが見渡せる高所の個室で立っておこないます。茂村さんのように選手の特徴などを書き込んだマル秘ノートを見ながら。緊張の毎日で、「見たまま淡々と」「BGMやから」といった茂村さんの教えの実践はまだ難しいです。

 6月には大阪・岸和田であったガールズケイリンの重賞レースの実況を任されました。解説者も交えた衛星放送のテレビ番組。生放送で台本通りいかないハプニングもありましたが良い経験になりました。

 ――心がけていることは

 声出しや瞬発力を鍛えるために、動画サイトでアナウンサーや「タカラヅカ」の俳優の発声をまねたり、車を運転中に目に入る看板を大きな声で読み上げ、早口言葉の練習もしたり。日課として早起きと白湯(さゆ)を飲むこと、入浴で体を温めることで体調を管理しています。

 ――将来の目標は

 選手経験を生かして、競輪を知らない人の窓口になって競輪界を盛り上げること。そのためにも顔と名前が一致し、存在感がある実況アナになりたい。夢はいつか来る選手時代の師匠の引退レースの実況です。

     ◇

 いわはら・さやか 1992年11月、徳島県阿南市出身。小学生で剣道を始め、中学3年時に主将として全国中学校体育大会で団体優勝、全国高校総体などに出場し活躍した。卒業後は県内で就職したが、競輪選手を目指し日本競輪選手養成所試験に合格。2020年5月に広島競輪場での新人戦で徳島初の女子選手デビュー、22年1月に引退した。通算成績124戦0勝。「キャラ弁」など手料理写真をSNSに上げ、アクセサリー作りが息抜きの時間。(杉山匡史)

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