うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
なんやかんやあってトレセンのウマ娘の懐に忍び込めた俺であったが、昨日から『記憶喪失の自分』を意識して以降ずっと思考をフル回転させていたため、学園を離れて少女たちに連れられている間は完全に呆けていた。おい! なぜ俺はボロボロに打ち負かされているのだ?
「ハズキ君、もう着くで」
「──んうぇっ?」
タマモクロスの声でハッとした。というか目覚めた。
どうやらめっちゃ普通に寝てしまっていたらしい。
目の前にはやたらデカい西洋風の屋敷が鎮座しており、肝心の俺はと言うと眠っている間ウオッカにおんぶされていたようだ。髪から甘い匂い……♡
「おっ、起きたかハズ坊」
「……ウオッカおねえちゃん、それオレのこと?」
「他に誰がいんだよ。ほれ、おろすぞ」
「う、うん。ここまでありがとう……」
ポケモンみたいなあだ名を付けて距離感が急速接近な変態ウマ娘を普通に恋愛的な意味で好きになりつつ、その背中からおりて正門前に立った。
ずいぶんと豪奢な雰囲気の屋敷だが──もはや城と表現した方が正しそうな建物だ。
権威のある人物が住まいにしているからこうなっているのではなく、このあからさまな外観で存在するからこそ意味を持つ場所だと感じた。もはや住居ではないぜ。オレお城の純白ベッドの上での交尾が夢だったんだよな~。
「……っ」
「そんなに肩ひじ張らなくても大丈夫ですわよ、ハズキさん。ここはメジロ家のウマ娘が使う寄り合い所のような場所ですから、特に偉い方がいらっしゃるわけではありません」
は? 緊張するだろこれからご挨拶だぞ。娘さんをボクにください。
この普通の学校の校舎並みにデカい建物ですら別に家じゃないのヤバいなメジロ家。俺が王になったらここをハーレムパーティの拠点とする。
「ん、ハズ坊ってば寝起きでフラフラしてんな。手ぇ握るか?」
「あっ、ありがとう、ウオッカおねえちゃん……」
……先ほど眠って少しだけ回復したが、そもそも自分が子供の身体だという事をもっと自覚した方がいいかもしれない。
体力の回復速度は人間の体の中でもブッチギリで速い時期の肉体だが、その分エネルギーの消費も激しく疲れやすいのが欠点なのだ。
子供の身体で無茶をし過ぎると眠くなっていざという時に行動できない恐れがある。
「あの、タマモおねえちゃん」
こっそり姉の袖を引いた。それからしゃがんでくれた耳に囁く。ふぅ~っ♡
「どないした、ハズキ君」
「えぇと……自分でしゃべれることとかは、なるべく何とかするけど……咄嗟の判断とか、急な移動とかになったら……おねえちゃんに任せていいかな」
「……ん、わかった。ダメそうって思ったらすぐにウチの袖を引き。その場はウチがなんとかしたる」
「う、うん。おねがい」
なんだか保護者というより、丁度いい相棒っぽい対応が板についてきたタマモクロス姉には、自分では対処しきれない緊急時の対応を任せた。ピンチなときは遠慮せず彼女の力を借りよう。今の俺はどうあってもパワー半減のデバフ状態なのだ。エステティシャン失格だよ。
と、そんなこんなで執事っぽい壮年の男性などに出迎えられつつ屋敷の中へ入っていくと、純白のイスとテーブルが置かれた休憩スペースのような場所で、とある人影を発見した。
「──ラモーヌさん……?」
「あら、マックイーン。おかえりなさい」
マックちゃんのかわいいお声に反応したのは、椅子に腰かけたその姿から気品な佇まいが一目で感じられる妙齢の婦人だった。
その雰囲気もさることながら、見た目通りの印象を受ける大人な声に、思わず耳がアクメしそうになる。疲弊しきった心に潤いが戻ってくるようだよ。龍神雷神。
「……?」
そこで一つだけ疑問が浮かんだ。
あそこの女性は大人なのに、どうしてトレセンの制服を身に着けているのだろうか。飲み物をこぼしたりして、替えの服が他になかったのかな。ここは家ではなく寄り合い所のようなものだとマックちゃんが言っていたし、なるほど私服などは常備していないのかもしれない。
「うえぇっ! ラモーヌ先輩……っ!?」
「ら、ライス、こんなに間近で見たの初めてかも……」
ウオッカとおむライスの反応からしてどうやら伝説級のめっちゃヤベー先輩なようだ。たぶん数年前に卒業したOBか何かなのだろう。
「珍しいですわね……まさかラモーヌさんがいらっしゃっていたとは……」
「おかしな事なんてないでしょう。私もメジロのウマ娘なのだから、ここを利用することくらいあるわよ」
「……この屋敷でラモーヌさんとお会いしたのは、これでようやく三度目程度だと存じますが……」
さらには滅多に顔を出さないスター性をもお持ちであったらしい。生意気な女。いや、大生意気と言ったところか?
あれだ、いつもは海外とか飛び回ってて一般人なんかは滅多にお目にかかれない超有名人なのかも。
とはいえその情報すら抜け落ちている今の俺からすれば、彼女もまた一人の一般ウマ娘だ。物怖じする必要はない。孕ませてやる。
「それにしてもマックイーン。あなたも友人をここへ連れてくるなんて珍し──あら。タマモクロス……?」
「おうラモーヌ、ちと久しぶりやな。前の模擬レースぶりか」
「ふふっ……光栄ね、あなたほどのウマ娘に名前を覚えて貰えていただなんて」
「あん時ウチに勝っといてよく言うわ……」
「ハナ差だったじゃない。それに二年前はあなたが勝ったわ」
おむライスとウオッカが思わず慄くほどのウマ娘からも一目置かれてるウチのお姉ちゃん、もしかして本当にスーパー最強アスリートだったの? 俺も鼻が高いよ。け、結婚して……ボクの子供産んで……。
ていうかタマモクロスと走ったってことはほぼ同期かよこの見た目で。チッ、んだよ本当に……美人だね♡ 顔立ちが綺麗。
「……?」
そんな自慢のお姉ちゃんと話をしている美人ウマ娘を見ながら、なぜかマックイーンは怪訝な表情に陥っていた。
「……あの、ラモーヌさん。……何かあったのですか?」
「──」
マックちゃんにそう聞かれた瞬間、メジロラモーヌの顔が固まった。何か言え。絵画のようだよ。
「……どうしてそう思うのかしら」
「いえ、その……単純にいつもより謙虚さが目立つといいますか……正直に申し上げますと、元気が無いように見えまして」
その指摘が図星だったのか、彼女は観念したようにため息を吐き、テーブルに頬杖をついた。
「……ハァ。やっぱりあなたは聡い子ね、マックイーン。……ん」
そう言って物憂げな表情になった人妻っぽいウマ娘は、テーブルの上に置いてあった一口サイズのチョコを手に取り口へ運んだ。なにあれ高級そう。俺も食べたいあれ。
「……実は数時間前に
爆速ですっ飛ぶ、とか砕けた口調も使うんだあの妖艶なラスボスっぽいウマ娘。意外と仲良くなれそう。
「ダメね。いつも外にいた私の言葉では、あの子の気持ちに寄り添う事はできなかったみたい。ついさっき“もう放っておいてください”と言って部屋へ戻ってしまったわ」
「っ!? あ、あのドーベルが……?」
マックイーンがなんかすごく意外な反応しているが、俺には何が何だか分からない。
そろそろ俺も会話に入ろう。
もう頭の整理はできたし、十分に休んだ。
というか、元を辿れば話の話題になっているそのメジロドーベルと話すために、俺はここへやって来たのだ。ボクも混ぜて~♡
「あの、どういう……」
「っ? マックイーン、その少年は……」
「あ、えぇと、この子は山田ハズキさんといいまして……ドーベルの一助になると考えて、私の判断で連れてまいりました」
どうも正体不明のショタです。本当は高校生なんですけど! みんなのしょーらいの……旦那? なんですけど!
「そう……この子がドーベルの助けに、ね。……大丈夫かしら」
「っ……」
「ふふっ、そう怯えないで。取って食おうだなんて考えてはいないから」
嘘つけ絶対ショタ喰いお姉さんでしょ。そういう雰囲気が如実にあらわれているよ!
「それで、このハズキくんはドーベルとどういった関係なの?」
「ラモーヌさんにも少し前に話が届いたかと存じますが……あの秋川葉月さんの関係者です」
「っ!」
あの秋川葉月ってなに。みなさんご存じみたいな言い方やめて恥ずかしすぎる。
「……私以外のメジロ家のウマ娘が総出で、入院中の彼のもとへお見舞いに行った、と言っていたわね」
「えっ」
なにがあったらその状況になるんだよ。こんなクソデカ屋敷を休憩スペースぐらいの気持ちで利用するヤバいウマ娘たちを揃って召喚してるのどういう事? 俺もしかして本当に王だったのかな。総てを知ろしめすウマの王者。
「まぁ、この際秋川葉月の詳細やあなたについてはこれ以上もう聞かないわ。マックイーンが信じて招待したというのなら私も信じる」
「ど、どうも……ありがとうございます、メジロラモーヌ? さん……」
マジの初対面で得体のしれない子供でしかない俺をそこまで信用してくれるだなんて器が広すぎやしないだろうか。寛大もいい加減にしろといったところ。ね、ラモーヌちゃんキスしよ~よ。
「ふふっ、随分と礼節を弁えた男の子ね。私があなたくらいの年齢の頃なんて、言葉遣いよりもまず走ることしか考えていなかったと思うわ。えらい子」
エロい子? オメーのことだろ。俺を惑わせやがって、おちおちアクメもできやしないな……。
こちらの了解もなく頭を撫でるばかりかショタ特有のもちもちほっぺまで触るとは言語道断。そちらのも触らせないと不平等条約が締結されてしまうぞ。ムッチリリモンチリリ♡
「はい、チョコあげる」
棚からぼたもち。
「せっかくだから、マックイーンのお友だちもいかが?」
「えっ、俺たちもいいんすか……! ……ど、どうしますライス先輩……」
「たったたぶん遠慮したら逆に失礼なのかも……頂きますっ」
ついでにメカクレ二人組もチョコを貰ったようで、おそらく滅多に食べられないであろうメジロ家御用達の高級チョコを吟味した。
そして当然のように美味い。
うまい、のだが。
……なんか変な味するな。何の風味だこれ。
「ラモーヌさん、ドーベルは今どの部屋に?」
「二階の奥の寝室だったかしら。あそこは鍵もついていないし、完全に閉じこもっているわけではないわ。……もっとも私では説得も──」
俺たちがこの屋敷へ訪れてからの自己紹介もひと段落し、さぁ今度はドーベルと話しに行こう──といったところで。
「……あら?」
ラモーヌがこちらを見て軽く驚いたような声を上げた。
いや、俺ではない。
その視線を追うと、正確には
釣られて俺も後ろを振り返って背後を確認してみた。
「──あはは。えへへ。うぇへへ……♡」
そこには、なんだか蕩けてた目で楽しそうに笑うライスシャワーと。
「うぅ、なんかフラフラしやがる……猛烈にスカーレットにダル絡みしたい気分……どこだスカーレットぉ……」
ちょっと眠そうな表情で、しかしアクティブに周辺を歩き回る、様子のおかしなウオッカの姿があった。
「なんや、二人ともどうした……?」
そしてタマモクロスは軽く引いている。マジでどうした。
「タマモひゃ~ん」
「うぉっ!? なっ、ちょ、どないしたんやライス……!」
「えへへへへぇ……」
二人に声をかけようとタマモ姉が近寄ったところ、陽気なライスシャワーが正面から彼女を抱擁してきた。しかもめっちゃ笑顔。
「もしもし、スカーレット? あぁ突然すまん。……いや、お前に謝りたかったんだ。年始は一緒に山道のコースを走って勝負しようって約束してたのに、俺の都合でキャンセルにしちまって……ごめんな。──うぅ゛っ、ごめぇん……! どっ、どうじても先輩を探したくてぇ……ッ! ぐすっ、あぁううえぇぇえ」
こっちが見ていない間に誰かへ電話をかけ、ひたすら喋ったかと思ったら急に泣き始めるウオッカ。
どう見ても明らかに不審な行動の数々にタマモクロスと同様、俺もワケがわからず狼狽するばかりだ。
「お、お二人ともどうされましたの? 突然なにを……──はっ」
マックイーンも同じリアクションを取ったのも束の間。
彼女は何かに気がついたようで、咄嗟にテーブル上のチョコの箱を手に取った。
「ら、ラモーヌさん」
「どうしたのかしらマックイーン。あの子たちも何だか変だけれど……」
「……このチョコレート、どういった物なのですか?」
その質問にラモーヌは首をかしげる。
「……? どうって、別にいつも利用している店のチョコレートよ」
「
「えぇ、アルコールの入ったチョコ。といってもただの洋菓子に過ぎないし、度数も低いわ」
その割にはあの二人完全に酔いが回っちゃってますけども。
どう見てもウオッカは泣き上戸でライスシャワーは典型的な絡み酒だ。
「そっ、そんなものをハズキさんに勧めたのですかッ!?」
「いえ、だから度数は」
「そういう問題ではないでしょう! まだ小学生ですわよこの子はッ!?」
「……そ、そうね。確かに。ドーベルとの対話が上手くいかなくて、少しばかり気が動転していたかも……」
とてつもない剣幕で迫るマックイーンに押された人妻は、意外にも反論することなくしょぼんと落ち込んでいる。
「ぁ、あら……」
その反応はマックイーンとしても予想外だったようだ。勢いで言ったものの、先ほどまでの会話から察するに、ラモーヌはマックちゃんがズバズバと遠慮なく意見できるような相手ではないのだろう。
しかもラモーヌは俺から見ても、仮に言われたとしても答弁してそのまま説き伏せることができそうな雰囲気を持っていた。
だが現実は叱られた犬のように落ち込むばかり。途轍もないギャップだ。ナタデココのようなナタデココ。
「……十六粒入りで、残り三粒。ハズキさんとウオッカとライスさんで三つですから……短時間で十個も……?」
「待ってちょうだい、マックイーン。私は別に酔ってなどいないわ。私が陶酔するほど愛しているのはあくまでもターフだけ。あなたも知っているでしょう」
「ですが今のラモーヌさんは、少々お顔が赤くなっているように見えます。それにフラつきも……」
「それは、糖分の多量接種で血糖値が上昇してほんのちょっとだけ楽しくて眠気があるだけよ」
「……眠気だけならまだしも、楽しいのならそれは酩酊に近いのでは……?」
「ぁぅ……」
なにあの人妻っぽい人かわいい。アルコール入りのチョコをついつい食べすぎて楽しくなっちゃうとか、こうしてみると普通に高校生だな。
「ど、ドーベルは集中力を上げるためには糖分を、とよく言っていたから……これくらいなら差し入れても問題ない思って用意したのだけど……一つも手をつけてくれなくて……」
「それで余った分をご自身で……いえ、分からないワケではありませんが……ハッキリと申し上げますと、いつものラモーヌさんらしくありませんわ」
「……そ、そうね。ドーベルがあそこまで憔悴しているのは初めてだったから、焦っていたかも。……だってドーベルのアレはもう、消沈だとか挫折だとかそんなレベルの話では──」
「ラモーヌさんっ♡♡」
「きゃっ」
チョコによる酔いを醒まそうとシリアスな雰囲気を醸し出したはいいものの、ガチ酔いの酒ライスに絡まれて彼女も向こう側へ連れていかれてしまった。
「ラモーヌさんふかふか♡ タマモさんも体温高くて気持ちいい~」
「誰かに抱き着かれたのなんていつぶりかしら……」
「んん~」
「ら、ライスー!? やめ、チューはアカンって!!」
タマモお姉ちゃんとラモーヌ奥さんのほっぺにチューしまくってるわライス。おそろしい逸材……童貞を持っていかれないよう注意。
「……タマモクロスさんも巻き込まれてしまっていますし、私たち二人で何とかするしかありませんわね。悪化しないよう、一応このチョコは持っていきましょう」
「あ、はい」
そう言ってマックイーンは酔っぱらいハザードの元凶を箱ごと回収しつつ、俺と共にドーベルの待つ部屋へと向かい始めた。
まぁマクロスママならいざという時は抜け出して助けに来てくれるだろうが、今は俺を信じているからこそライスたちの介抱に当たってくれているのだろう。なんという信頼。ふ~むこれは応えなければ男として。息子として。ハピネス。
「……本来、あのラモーヌさんがメジロのウマ娘たちを強く気に掛けることは滅多にありませんわ」
「えっ?」
長い廊下を歩きながら、マックイーンがそんな事実を暴露してきた。どういうおつもり!? 一般人でありながらメジロ家の内情に詳しくなっちゃう。
「ですが、彼女がそうしているのは私たちの事を知っているからなのです。メジロ家のウマ娘一人一人を理解し、その強さを知ったうえで信じているからこそ、深く踏み入らずあえて先へ進む道だけを示してくださる──そんな、憧れすら届かないほど遠くて高邁なお方……」
マジで。さっきアルコール入りのチョコ食って『ぁぅ……』って言ってたプリティーガールが?
「もちろん励ましてくださる機会はありましたわ。それでも、海外での大切なやるべきことを中断してまで
言いながらマックイーンが立ち止まる。
そして彼女が首を向けた方向には、仮眠室とだけ書かれた表札がドア上部に括りつけられた一つの部屋があった。
「……そんなラモーヌさんが焦って戻ってくるほど、今のドーベルは──。……挫折どころの話ではない、とラモーヌさんも仰っていましたが、私もドーベルと最後に直接話したのは三日ほど前です。それも一言二言の、簡単なやり取り」
そんな話を今日出会ったばかりの俺に話しているという事は、マックイーンもまたメジロラモーヌと同じように不安と混乱を抱えているのだろう。ようするにそれほどまでにメジロドーベルの変化が著しい、という話だ。
ほっほっほ♡ これはおじさんの腕の見せ所ですよ。オラっ改心!!
上等だ、見せてやろうではないか俺の手腕。
いっそここへ連れてきたことを後悔させるレベルでドーベルちゃんのことメロメロにしちゃうもんね。本日はよろぴくお願いします♡
「正直……私も自信はありません。今のドーベルがまともに話せる相手なんて、きっとあの人ただ一人……」
「でも、秋川さんは」
「……えぇ。ですから今は私たちだけで解決するしかないのです。最悪、このチョコを使うのも……」
仮に酔わせたところであんま意味なくない? というかよっぽどアルコールに弱くないと洋酒入りチョコ程度じゃ酔わないと思われる。現に俺もまるで効果が出ていない。
……こんなガキの身体なのに全く酒の反応がないのも怖い気がしてきたな。大量食いした人妻はともかく、一個でライスもウオッカもドエロい変化を遂げていたし、おそらく度数はそれなりに高かったはずだ。この身体なら酔う以前に気持ち悪くなったり倒れたりするのが普通のはず。
なにかが俺を守っているのだろうか。お゛♡ 運命感じる♡
それとも人間とかウマ娘とかそういうの超越しちゃってる? やっぱ王だからかな~。この観察眼、真贋の判断、時代の寵児。
「……よし、では参りましょうハズキさん。準備はよろしいですか?」
「あ、はい」
「では──」
覚悟を決めたマックイーンは一度深呼吸を挟んでから、コンコンとドアを二回ノックした。二回だとトイレの個室に入ってるかどうかの確認だけど大丈夫? マックちゃん落ち着いて♡
「ど、ドーベル。少し話があるのですが……入ってもよろしいでしょうか」
「──マックイーン……?」
ドアの向こう側から、どこか懐かしさを感じる声が聞こえてきた。
まさかこの状況であっさり返事を返すとは思っていなかったが、会話ができるというのなら今がチャンスだ。突入しよう。ドンドンドン!! FBI オープンアップ!!
「……ごめんなさい、アタシ……心配してくれたラモーヌさんにひどいこと言った……」
「その自分を俯瞰できているのなら、あなたはまだ大丈夫ですわ。ドーベル」
「そうかな……もう、なにもわかんないよ」
「……あの、少しだけ話しをしていただけませんか? あなたに紹介したい人もいるのです」
「紹介、したい人……?」
ドア越しにやり取りを続けていると、しばしの沈黙の後、向こう側から返事が届いた。
「……うん、わかった。入っていいよ……」
ついに許可が下りた。
そしてゴクリと生唾を飲んだマックイーンは自分の胸に手を当て、もう一度深呼吸をしてから仮眠室の中へと入っていった。
「──マックイーン」
中は広々とした空間で、ソファの他には冷蔵庫も完備されており、件の少女と思わしきウマ娘は力なく笑いながら、ベッドの上で膝を抱えて座っていた。
──うわっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ぱっパンツ見える危なっ!!?!?! なんでよりによってきっちりトレセンの制服を着用しているのだあの女は。本当のマゾ、真実のマゾ。
おもわず目を逸らしたので何も見えなかった。というか見たら対話が不可能になる。いきなり難易度高すぎてマジでキレたわ。最高に素敵だよ♡
「ドーベル……」
「三日ぶりだね。……その男の子が、アタシに会わせたかった人?」
「え、えぇ。山田ハズキさんといいます」
「──ハズキ? …………そう」
マックイーンの言葉に一度目を見開いたドーベルだったが、またすぐに元気萎え萎えなハイライトオフの瞳に戻ってしまった。ライブで歌っていた時のお前はもっと輝いていたぞ! ピサの斜塔。
「あっ、マックイーン、それ……ラモーヌさんが持ってきてくれたチョコ?」
「そうですわ。けれど実はこれは──あっ、ドーベル……?」
ベッドから降りてこちらまで近寄ったボサボサ髪な彼女は、マックイーンが持っていた箱の中からチョコレートを一つ手に取り、口の中へと放り込んだ。
「うん、おいし。こんなに良いチョコレートをアタシの為に……ラモーヌさんに申しわけが立たないよ」
「そこまで気にする必要はないかと。あの人これドカ食いしてましたし……と、とにかく、一度そこのソファに座って話しをしましょう」
「……うん。ありがとうね、マックイーン」
極度に精神が疲弊している自分を慮ってくれている周囲の厚意に対してはしっかりと理解しているらしく、突き放すでもなく沈黙するでもなくメジロドーベルは対話を選択してくれた。
わりとマジに辛い状況でもその選択ができるあたり、決して心が弱い少女ではなかったようだ。その精神の強さ、アンナプルナ。俺のお嫁さんにふさわしいかも……。
とりあえずソファに腰かけ、マックイーンがおっかなびっくりしつつ話を始めて──それから十数分後。
「で、ですからぁ……どぉべるは、がんばっています。秋川ひゃんは必ずわたくしたちが見つけましゅから……どうか、元気をだして……あぅ」
ふとした会話の流れでドーベルにチョコを勧められ、言われるまま自らもそれを頬張ったマックイーンは、エントランスでお祭り騒ぎを起こしているライスシャワーほどではないものの、やはり酔いが回って呂律が危うくなってしまっていた。おいおい早くもダウンか? 遺憾のイだぜ?
もしかしてウマ娘ってみんなアルコールに弱いのかしら。よーし全員お持ち帰りしてやるから縦一列に並べ。オイ情けねぇメス返事しろ! めっちゃかわいいね。
「ふらふら……」
「……マックイーン、ちょっと休憩したら? アタシも今日はずっとここにいるから」
「で、ですがぁ……うぅ……グゥ……」
そして肝心の説得対象に説得されてしまったアルコールよわよわ少女は、そのままドーベルの肩に頭をのせて眠りについてしまったのであった。ママとしての矜持を保てよ。
「……こんなに皆を心配させていたなんて。……反省しなきゃ」
しかしマックイーンによる必死の元気づけは効果があったようで、自らを省みた引きこもりウマ娘は、この部屋のドアを開けたあの時のような死んだ魚に等しい目ではなく、ちょっと疲れた程度の普通の顔色にまで回復していた。
「それで……きみは確か、山田ハズキくん……だったよね」
「あ、はい。初めまして……」
遂に俺へと意識を向けてくれたメジロドーベル。
──先ほど二つ目のチョコも食べたはずだが、彼女の様子を見るにアルコールの効果は感じられない。
どうやら意外にも酒の耐性があるようだ。……というかこっちが普通なのか。そもそもチョコ一つで酔う他の三人が弱すぎる気がしてならない。かわいいからいいけど。
「詳細は聞いたけど、大変だね。記憶喪失だなんて」
「いえ、ドーベルさんに比べればオレなんて全然。今はタマモクロスさんが面倒を見てくれていますし」
「……なんというか、随分と大人びてるかも。本当に小学生?」
ふふ、と小さく笑いながら冗談めかしてそう呟いたメジロドーベル──この機は逃せない。
「いえ」
「…………えっ?」
この部屋へと入る前に、俺の耳へ飛び込んできた彼女の声は確かに
俺の心が強く感じたのだ。メジロドーベルという知識ではなく、この少女個人のことを自分は知っているのだと。
だから、ここでもまた賭けだ。いつだって博打人生。もう不安すぎて心臓の不動数がとんでもないことになってるぜ。60hzくらいかな。
「オレは小学生ではありません」
「……っ? ど、どういう……」
通常であればおかしな事を口走ったクソガキになるところだが、声を聴き、その姿を一目見た瞬間から強く感じているこの鼓動を俺は信じて進む。
もう既に決めたことなのだ。
二度と自分を疑わないと。
だからいくお~♡ つい数分前に脳裏に過った
「デカ乳──」
っぶね、間違えた。
「いえ……
「──ッ!!」
ぐぅすか眠っているマックイーンを間に挟んだまま、ソファに腰かけた俺たちは遂に顔を見合わせた。
俯いたまま話を続けようとしていたドーベルが、俺の『ベル』という言葉に反応して、咄嗟にこちらを向いたのだ。ようやく見てくれたね美人なフェイス。衝撃の単語を突然聞かされた感想はいかが? 述べろ!
「ぃ、いまなんて……?」
「たしかに今は記憶喪失だけど、これだけはわかるんだ」
悄然としたままのドーベルに構わず、俺は続ける。ここは勢いこそが勝負を制する切り札なのだ。
「たぶん
「……アタシ、を……?」
そうだ。これ以上は詳しい情報とかないからなんかもう雰囲気で誤魔化すしかないがどうしよう君ならどうする!
あれだ、それっぽいこと言おう。勢いが死なないうちに。
「そ……そんな。どう見ても子供だし……」
「……?」
「っ……でも、もしかして……本当に……」
「お、オレの本当の姿を知っているのが、きっとキミなんだ。この身体で、記憶も大半を失ってはいるが、たぶんオレは高校生だった。その時の姿をキミなら」
俺がそう言いかけた、その瞬間。
「──ツッキー!!!」
突如として豹変した鹿毛のウマ娘はこちらへ迫り、そのまま俺を力強く抱擁してきたのであった。
「………………ぇっ」
「ツッキー! ツッキーなんだよね……!? うぅっ、ツッキー、つっきぃぃ……っ!!」
「むぐっ、うッ、ぁの」
そして少女は目一杯にその胸の間に俺の顔を埋めて、もはや呼吸すら困難なほど密着して俺の口と鼻を塞いでしまった。
そう。
包まれてしまったのだ。
なんかめっちゃ甘い匂いがするムチムチおっぱいの間に、俺の顔が。
やわらかい。
フワフワ、ほかほか。
──しかし、それ以上に、あまりにも呼吸が困難だ。
「ツッキー、ツッキー、ツッキぃぃぃ……!!」
「ぅお゛ッ♡ ちょ、まっ、一回離しっ……ッ! ホォッ♡ 息、できな……ッ!!」
うわあああああぁぁぁぁぁぁイクイクイクイクイクイクイクイク