学生ローンの返済免除認めず 米最高裁、政権に打撃
【ワシントン=芦塚智子】米連邦最高裁は30日、バイデン政権による学生ローン返済の一部免除措置を認めない判断を下した。約4300万人とされる対象者だけでなく、返済免除を公約に掲げてきたバイデン大統領の再選戦略にも影響を与える。
保守派判事6人が「違法」判断
保守派判事6人が返済免除措置を違法とし、リベラル派判事3人が判断に反対した。ロバーツ長官による多数派意見は「教育省が一方的に米経済を大きく変える措置を取る前に、議会が明確に意志を表明する必要がある」とし、議会の承認を受けない大規模な返済免除措置は政権の権限を逸脱していると断じた。
バイデン氏は2022年8月、連邦政府が提供する学生ローンの借り手に1人当たり1万ドル(約144万円)の返済を免除すると発表。年収12万5000ドル未満の借り手が対象で、低所得者向けの奨学金を利用している人にはさらに1万ドルを免除するとした。
中西部ミズーリ州など6州と、学生ローンの借り手2人が措置の差し止めを求めて訴訟を起こし、下級審が差し止めを命じた。政権が最高裁に上訴していた。最高裁は州による訴訟について判断を下した。
学生ローンは新型コロナウイルス対策の返済猶予措置が8月末に失効し、借り手は10月から返済を再開しなくてはならない。返済を履行できない借り手は数百万人に及ぶ可能性がある。
バイデン氏「判断は誤り」、代替措置探る
バイデン大統領は30日、判断を受けてホワイトハウスで声明を発表し「できるだけ多くの借り手を、できるだけ迅速に」救済できる措置を取ると表明した。最高裁が認めなかった法律とは別の法律を根拠とした救済措置の実現に向けた手続きを開始する。また返済が遅れた人が最高で12カ月の間は債務不履行になったり信用情報が損なわれたりしないようにする措置を発表した。
バイデン氏は「最高裁の判断は誤りだと思う」と批判。ローンの借り手に偽りの希望を与えたのではないかとの質問に対しては「偽りの希望など与えていない。適切で、実行可能だと考えた措置を取った。(措置に反対した)共和党が本当の希望を奪った」と反論した。
共和党は返済免除が政権の権限を逸脱しており、学生ローンの返済をすでに終えた人や大学に進学しない人に不公平だと反対してきた。政権は新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた人々に不可欠な救済策だと主張している。24年の大統領選で再選を目指すバイデン氏は、若者層やリベラル派にアピールする狙いもある。
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(更新)- 竹内舞子経済産業研究所 コンサルティングフェロー、CCSIアジア太平洋 CEO貴重な体験談
アメリカの大学の学費は極めて高いが、奨学金や補助金で実際の負担額はかなり下がる。例えばハーバード大学の1年の授業料は約6万ドル(約860万円)であるが、過半数の学生は所得に応じた補助金を受けている。さらに学生の2割は米国の平均年収以下の家庭出身で、こうした家庭の学費負担はない。 それでも全米では、4年制大学卒業者の学生ローンは平均で一人当たり3万7千ドル(約530万円), 私立大学卒業生では5万5千ドル(約800万円) に上る。卒業後10年以上も返済が続くことも少なくない中で若者が希望を持てず、将来設計に消極的なのも理解できる。この構造をどう改善するかは党派を超えて解決すべき課題だろう。
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