『トラベルプラネット』
―ララ・サタリン・デビルーク 編―
―ナナ・アスタ・デビルーク 編―
―モモ・ベリア・デビルーク 編―
「・・・はい?」
「だからぁ、姉上の発明品だよ。あれを1つ借りてきたんだ」
疑問符を浮かべるモモとは対照的に胸を張って報告をするナナ。
そんなナナが抱えていたのは姉であるララの発明品らしき四角い機械だった。
「そんなもの勝手に持ち出して・・・。お姉様に御迷惑でしょう?」
「すぐ返すからっ。少しぐらい弄ってみようぜ」
そう言ってナナは躊躇なくスイッチを押した。
すると見知らぬ景色がナナとモモの周囲を囲んだ。
「・・・どこだココ?」
「多分、バーチャルワールドでしょうね。それもどこかの星にそっくりな」
「ん?この景色を見た事があるのか?」
「私の推測だけど、多分カルジン星よ」
「カルジン・・・?どんな星なんだ?」
ナナの問いにモモは渋い顔をする。
「私も詳しくは知らないけど、過去の文献で見た限り愉快な星ではないはずよ」
「そうなのか?でも・・・随分と綺麗な場所じゃないか?」
ナナが見渡す限り、森や川、そして空がきれいな大自然と言った感じの景色が広がっている。
「・・・例えば、あそこにある木に生っている実の成分は半分がバイソコと言う物質を含んでいたりするわ」
「バイソコ?」
「まだ、宇宙的には知られていないけど食べると笑いが止まらなくなるそうよ」
「笑いが?何でだ?」
「齧ってみればわかるわよ。丁度解毒剤もあるから」
「解毒剤なんて・・・どこに」
「あの木の葉っぱが解毒剤になっているの」
「へぇー。じゃあまぁ食ってみるか」
そう言うと二人は木に近づいていく。
木は二人の背丈の5倍ほどの大きさだった。
ナナは一番低い枝になる実と葉を取ると実を一齧りする。
「ん・・・普通に美味いけどな・・・んんっ!?」
口に広がる甘さを感じるとすぐに別の感覚が身体を襲う。
「あははっ!!な、何だコレ!?ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったーい!!」
ナナは自身を襲うくすぐったさに身を捩る。
「バイソコと言う物質は『こそばゆい』つまり”くすぐったい”というのが語源なの。この実を一齧りするだけで人ひとりを殺傷出来るほどの成分が含まれているわ」
「あっはっはっはっはっはっはっはっは!!た、助けてぇ~っへっへっへっへっへっへ!!」
「葉を食べれば良いじゃない・・・」
助けを求めるナナにあきれ顔でモモは言う。
「きゃっはっはっはっはっはっは、そ、そうか!!」
ナナは急いで葉を口に押し込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっとおさまった・・・」
効力から解放されたナナはその場に座り込んだ。
「この星にある水はもちろん、植物にもバイソコが含まれているわ」
「最悪な星だな・・・」
「それに、さっきの植物と言い効果が出るという事はこの空間自体も実体と何ら変わりはないということになるわね」
「つまり、ここはバーチャルワールドであって現実の星と同じってことか・・・」
「そうだとするとあまり長居は出来ないわね」
「まぁ、今すぐにでも元の世界に戻りたいけど・・・長い間居ると何かあるのか?」
「えぇ・・・滞在時間は30分以内でないと私達の体力が持たないわ」
「へっ?体力?」
モモの言葉にナナはポカーンとする。
「カルジン星と同じ環境が再現されているとすると、ここの空気には微量に・・・きゃあっ!?」
モモが説明をしようとしたまさにその時だった。
背後から伸びてきた何本かのロープがモモを捕らえた。
モモは両手を頭の上で縛られ、両足も動かないように縛られた格好になった。
「こ、これは・・・くるくるロープくんっ!?なんでこんなところに・・・」
モモを捕らえていたのはララの発明品である『くるくるロープくん』だった。
「待ってろモモ!!今助けに・・・うわぁ!?な、何だ!!」
モモを助けようとしたナナにも同じく何かが襲いかかった。
「こ、これもくるくるロープくんだっ!!」
ナナもモモと同じような格好に縛られてしまった。
「な、なにがどうなっているんだ・・・?」
「なんでお姉様の発明品が・・・」
二人が考えていると次第に物音が聞こえてくるようになった。
「な、何の音だ!?」
「何か摩擦音みたいだけど・・・」
二人が音のする方向を見ると大量の植物がこちらに向かって動いてきていた。
「なんだ、あの植物・・・」
「あんな種類の植物、見た事がないわ・・・。それに・・・」
モモはその植物について疑問を抱いていた。
「植物の声が聞こえないっ!?」
「な、ど、どうなってるんだ!?」
ナナも一大事のようにモモを見る。
「考えられる事は2つ。ひとつは私の能力がここでは発現できないか・・・。もうひとつはあれが植物でないか・・・」
「どう見たって植物だろ?」
「それにしては動きがおかしくない?あんなカクカク動く植物なんて見たことも聞いたこともない」
二人の疑問は植物が近くまで迫ってきてから解明されることとなった。
近づいてきた植物から微かに音が聞こえてきたのだ。
「これ、機械音か?」
「多分・・・機械音でしょうね・・・もしかしてコレも発明品?」
モモはララの作った世界に現にララの発明品が登場していることからこの植物が発明品であっても不思議ではないと思っていた。
植物は二人の前で止まるとツルを伸ばして二人を掴むと空中へと放りだした。
そして二人を飲みこんでしまった。
††
「・・・っ、痛てててっ・・・ど、どうなったんだ?」
植物型ロボットの中で目を覚ましたナナは辺りを見渡す。
しかし、ただ暗いだけで何も見えない。
「・・・はぁ、真っ暗だし手足の自由は利かないし・・・。それに・・・モモは?」
ナナがモモの不在に気付いたころ、モモはまた別の状況に陥っていた。
「きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!む、ムリぃ~っひっひっひっひ!!いひゃはははははははははははははははっ!!」
モモは自由の利かない身体のまま植物体内の警備コンピューターに捕まり、検査を受けていた。
『異物確認。チェックヲ開始スル。アーム解放、異物ノ形状ヲ把握』
コンピュータから飛び出した無数の触手がモモの体中を撫でまわす。
そしてその感触にモモは追い詰められていく。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!きゃっはっ!!やっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!やめてぇ~っ!!」
(何、この感覚・・・っ、スゴイっ・・・。でも、強すぎっ!!)
「ひゃはははははははははははははははっ!!ろ、ロープさえ外れれば・・・っ、きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
『構成物質ノ特定ヲ開始スル』
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!こ、構成物質って、あっはっはっはっはっはっは~っ!!」
『有害物質ト認定・・・排除スル』
「きゃっはっはっはっはっはっはっは!!は、排除っ!?あははははははっ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
モモは無数の触手から解放されると真横の穴に放り込まれた。
「それにしても・・・何か妙な音がするんだよなぁ」
ナナは先程から聞こえ始めた物音を気にしていた。
『・・・っは!!・・・や・・・っは・・・』
途切れ途切れに聞こえてくる声のようなものだ。
「もしかして、誰かの声か?・・・」
ナナが音に耳を澄ませていると突如、辺りが明かりに照らされた。
「っ!?な、なんだぁ!?」
『異物発見・・・確保スル』
突然の出来事に混乱するナナの前に、巡回してきた警備コンピュータが現れた。
「お、おわぁ!?」
そしてあっという間にナナはコンピュータに捕まってしまった。
『検査ヲ開始スル』
コンピュータの音声と共にコンピュータ内から無数の触手が飛び出した。
そして触手は身動きの取れないナナの体中を撫でまわす。
「なあっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!く、くすぐったいっ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
ナナもモモ同様にコンピュータのチェックを受ける。
『異物確認。チェックヲ開始スル。アーム解放、異物ノ形状ヲ把握』
「いっひっひっひっひっひっひっひっひ~っ!!だ、だめっへっへっへっへっへっへ!!きゃはははっ、あははははははははははは~」
ナナの全身を隅まで撫でまわす触手の感触にナナが追い込まれるまでさほど時間はかからなかった。
「あっはっはっはっはっはっはっは~っ!!だ、だれか助けっ、ひゃははははははははははははっ!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
『構成物質ノ特定ヲ開始スル』
「くっはっはっはっはっはっは!!こ、今度は何だぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
『有害物質ト認定・・・排除スル』
「ひゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!や、やめへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへ~っ!!」
ナナも触手に解放された後、真横の穴に放り込まれた。
††
『異物ノ回収ヲ完了シタ・・・消去ヲ開始』
穴に放り込まれた2人は長い管を経由して水中に投げ出された。
「ぷはっ・・・こ、今度は何?・・・ってナナ!?」
モモは水面から顔を上げると同じ管から飛び出してきたナナを見つけた。
「・・・っは!!・・・次は・・・なんだよ・・・ってモモ!?」
同じくナナも横にいるモモに気がついた。
「ナナってば、一体どこに?」
「モモこそ、どこにいたんだよ?こっちは大変な目にあったんだぞ」
「こっちだって・・・って、いつの間にかロープが外れているわ」
「あっ、ホントだ・・・」
二人は手足の自由が利くのを確認するとひとまず安堵する。
だが、すぐに次の動きが起こった。
「きゃあっ!?・・・な、何これ・・・身体が・・・ムズムズするっ・・・」
水面にいきなり電気が走った。
「ひゃんっ!!・・・な、なんだ・・・へ、変な感触が・・・」
二人はそれぞれの身体に起きた変化に戸惑う。
「こ、これ・・・さっきよりぬるぬるしているような・・・」
ナナは水面を見てつぶやく。
「ま、まさか・・・ハレンチスライムっ!?」
ナナのつぶやきでモモは水面を確認する。
すると自身の身体の変化に気付いた。
「ふ、服が溶け始めてるぅー!?」
「な、何っ!?」
二人は互いに焦り始めるがモモは何とか冷静さを取り戻す。
「・・・ハレンチスライムという事はもしかして・・・私達の感度も上がっているってことなんじゃ・・・」
「ど、どういうことだ?」
「ハレンチスライムに触れられる事で体中の感度が増すのよ。通常の2倍以上に・・・」
「2、2倍っ!?」
「それにこの種類のスライムは宇宙でも見かけられない物・・・この星で生活しているスライムだもの・・・これから何が起こるのか見当はつくわ・・・」
「も、もしかして・・・また・・・」
モモの話にナナはつばを飲み込んだ。
「えぇ、でも問題は感度の増した私達がアレに耐えられるかどうかね・・・。きっと私達を気絶させた後でゆっくりと消化するつもりだわ」
「じゃ、じゃあどうするんだ?」
「それは・・・逃げるしかないわね」
そう言うとモモは水面と天井の間に空いている微かなスペースへ飛び出そうと試みる。
そしてジャンプをしようと勢いをつけた時だった。
「きゃあっ!?あ、足を・・・っ!?きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
飛び上がろうとしたモモの足を固まったスライムが阻止し、モモの身体をくすぐり始めたのだ。
「モ、モモっ!?・・・ひゃっはっ!?やははははははははははははっ!!く、くすぐったぁーい!!あっはっはっはっはっはっは~!!」
同じくナナもスライムに動きを封じこまれくすぐられる。
二人は首から下をスライムに覆われているため、ほぼ身体全体をくすぐられている状態だ。
「あっはっはっはっはっはっは!?す、スライムが指みたいにぃ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
巨大スライムはまるで指のような動きで二人の身体をくすぐっていく。
「ふぁ!?ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
(さすがに2倍の感度に耐えきる自信はないし・・・どうすればっ)
モモは全身に来るくすぐったさに襲われながらも冷静に状況の打開策を練る。
「あっはっは!!きゃぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!だっはっは、ダメぇ~っへっへっへっへっへ~!!」
一方のナナはそんな余裕などなくただひたすらに笑い続ける。
(もうこうなったらコンピュータを破壊するしかない・・・っ)
モモはなんとか考えをまとめたものの身動きは取れず、更に全身に力が入らないためどうする事も出来ない。
「あははははははっ!!ど、どうしたらっ、きゃっはっはっはっはっはっはっはっは!!あはははっ、くすぐったすぎてっ・・・もうダメぇ~!!」
(ダメだ・・・もう考えることもできなくなっちゃった・・・)
その時だった。
二人の目の前を一筋の閃光が走り、あっという間に二人の視界は真っ二つに割れた。
ガシャンという音を立てて植物もといロボットは崩れ落ちた。
そして二人の目の前には先程までの青空が映った。
「なっ・・・どういうこと・・・」
モモとナナが顔を見合わせていると「モモーっ!!ナナーっ!!」という呼び声と共に前から1人の少女が駆け寄ってきた。
かなり見覚えのあるその顔に二人は笑顔をこぼした。
「お姉様っ!!」
「姉上っ!!」
二人に駆け寄ってきたのは二人の姉であるララだった。
「こんなところにいたんだ・・・大丈夫?」
ララは二人に手を差し伸べ起こすと安堵の表情を浮かべた。
「姉上、どうしてここに?」
「二人の姿が見当たらなかったから探してたんだけど・・・部屋で『びゅんびゅんトラベルくん』が作動しているのを見て、もしかしたらって思って」
「あの発明品ってどういったものなんですか?」
「あれはねぇ、バーチャル空間の中で宇宙一周旅行が出来る機械なんだよ」
「宇宙一周旅行?」
「うんっ♪有名な惑星から未開の惑星まで一通り全部ね。あっ、もちろんバーチャルだから植物とか動物とかは全部ロボットなんだけど、環境とかは実物とさほど変わりないんだよ」
「ええ、それは十分わかりました・・・」
ララの言葉にモモは疲れたような顔で答えた。
「でも、どうしてこの惑星に飛んだんだ?」
「うーん・・・多分ランダムなんだ。そこの調整が上手く出来なくて・・・」
ララは照れたように頭を掻いた。
「でもまぁ、これでようやく戻れる事ですし一件落着ですね」
「へっ?」
ララはポカンとした顔でモモを見る。
「え、えぇーとっ・・・どうやって戻るんだったかなぁ・・・」
「「なあっ!?」」
モモとナナはララの一言に絶句すると共にひどく落胆した。
「あっ、でもでも、セーブポイントに行ければとりあえず何とかなるかも知れないよ?」
「セーブポイント?」
「うん、途中で休憩できるようにセーブポイントを用意したの。そこまでいけば一度旅行を中断できるんだ」
「そこなら、戻れる可能性がありますね」
「じゃあ、そこを目指すか」
「どこにあるんです?」
「待って、今地図を・・・えっとぉ・・・ここから東へ2kmかな」
「なら、さっさと行こうぜ」
こうして三人は東にあるセーブポイントへと向かう事にした。
2kmならばすぐだ・・・その考えは甘かった。
「しーっ!!見つかっちゃうよ?」
「そんなこと言ったってぇ~」
「くっふ!!・・・この草、妙にくすぐったくて・・・」
三人は500mほど進んだところで動物型ロボット×6を発見し、草むらに身をひそめていた。
「あの鳥はタイクルバードが原型だな」
ナナはロボットを見てつぶやく。
「タイクルバード?」
モモは顔をしかめる。
「ああ、通称くすぐり鳥だ。名前の由来はTickleから来ているらしいけど・・・。あの羽で触られると・・・」
「うん、もうそれ以上はいいわ」
ナナの説明をモモは制止する。
「あっはっ!!そ、それにしてもぉ、くっふっふ、この草なんとかならないのか?」
ナナは隠れている草むらの草の感触に襲われていた。
「わ、私もっ、ひゃっ!!くっふ、見たことないけど・・・」
同じくモモも草の感触に襲われていた。
「あっはっはっ!!だ、だよねぇ・・・くひゃっ、私もくすぐったいよ~!!」
二人と同様にララも笑いをこらえている。
絶対に笑っては行けない状況下で草はだんだんと三人の足に絡みついてくる。
「んっ、んん~っ!!あっはっは!!・・・んっ!!」
ララは何とかギリギリでこらえているがモモとナナの二人は先程の余韻がまだ少し残っていたため余計にくすぐったく感じていた。
「うっはっはっ!!・・・くっ・・・っふっふっふ・・・も、もう・・・限界っ!!」
「あっは・・・っ!!ま、まってナナっ!!」
「あ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったーい!!」
ナナはくすぐったさに耐えきれず吹き出してしまった。
するとその声に反応したタイクルバードが群れをなして草むらに近づいてきた。
「きゃっはっ!!ま、まずいっ!!」
モモは咄嗟にナナの口を押さえるがもうすでに遅かった。
「二人とも、セーブポイントまで行って!!ここは私が何とかするから!!」
ララはそう言って立ち上がるとタイクルバードの注意を自分に向けさせた。
「お、お姉様!?」
「姉上っ!?」
二人は驚きの声を上げるとともに顔を見合わせる。
「セーブポイントまで誰かが辿りつければ何とかなると思うからっ!!」
そう言うとララは草むらから飛び出して西の方角へと駈け出した。
するとタイクルバードの群れはララを視界にとらえ後を追っていった。
「・・・行きましょうナナ」
「で、でも」
「一刻も早くセーブポイントまで辿りつかないと」
「・・・ああ」
二人はララとタイクルバードが見えなくなると再び歩みを進めた。
††
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
ララはひたすら走り続けていた。
どれだけ走り続けてもタイクルバードの群れを撒く事は出来そうになかった。
「きゃっ!?」
その時だった。
運悪くララはつまずいて転んでしまった。
そしてタイクルバードに追いつかれてしまったのだ。
「あはは・・・捕まっちゃった」
ララは体力の消耗がひどくもはや抵抗できる力もなかった。
タイクルバードたちは羽を広げるとララの身体を羽で突いていく。
「きゃっはっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったいぃ!!きゃ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
ララは全身に襲い来る羽のくすぐったさに悶絶する。
「ひゃはははははははははははっ!!いやぁ、きゃはははははははははは~っ、あっはっ!?そ、そこはダメ~っへっへっへっへっへっへ~」
『ピーチュルクーッ!!』
一羽の鳥が鳴くと他の五羽の動きが止まった。
「はぁ~はぁっ、ムズムズするよぉ」
ララはなんとか息を整える。
『ピーッ!!ピーチュルッチュー!!』
そしてもう一鳴きすると今度は一斉にララの足の裏を狙い始めた。
「いやっは!?あ、足っ!?きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!足はやめへぇ~っへっへっへっへ!!」
五羽は我先にとララの足を取りあいくすぐる。
「ひゃっはっはっはっはっはっはっは!!い、一羽一羽感触が違うっ!?ああ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったいよぉ~!!」
ララは少しずつ感触の違う羽の緩急に徐々に支配されていく。
††
「後600mか・・・」
「でもこの川、飛んで渡れるほど幅が狭くないわね・・・」
二人は残り600m地点で足踏みをしていた。
目の前には400m程の川があり、中には魚が潜んでいた。
「あれ、ドクターフィッシュの巨大版だよな・・・」
「ええ、見ているだけで足がムズムズしてくる・・・」
「くっそ!!もう、セーブポイントは見えてるのに!!」
ナナは悔しそうに地面を蹴った。
「・・・仕方がないわね。ナナ私と一緒に200m地点まで飛びましょう」
「も、モモっ!!何言ってるんだ・・・無謀だろ!!」
「脚力はナナの方があるはずよ・・・。200m地点まで行ったら私を踏み台にして向こう岸までジャンプして」
「・・・っ!!でもっ・・・」
「いいから」
「・・・わかった」
二人は後ろへ下がると助走をつけて一緒に飛び上がった。
そしてあっという間に200m地点上空まで来るとナナは更に飛び上がる準備をする。
「・・・モモ、すぐに助けるからな!!」
「えぇ、任せたわよ」
ナナはモモの肩を踏み台にして更に高く飛んだ。
そしてナナが向こう岸に着陸したのと同時にモモは川へと落ちた。
モモが川に落ちるとすぐに巨大ドクターフィッシュ型のロボットが集まってきた。
「・・・さぁ、もう好きなようにしなさいっ!!」
モモは抵抗せずにそのまま身体を差し出した。
すると、巨大ドクターフィッシュ達はモモの身体を口先で突っ突き始めた。
「ひゃっはっ!?くっふっふ・・・こ、これは結構・・・くる・・・っ!!」
ドクターフィッシュの中途半端な突っ突き方に余計くすぐったさを感じる。
「あっはっはっ!?く、ひゃんっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったぁい!!いやっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
そしてドクターフィッシュのうち一匹がモモの腋の下に口先を潜り込ませた。
「いやっは!?わ、腋ぃ!?あっはっはっ!!きゃ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!そこはダメぇ~!!ひゃははははははははははははははははっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
腋の下にくるくすぐったさがモモにとどめをさした。
††
「モモっ・・・!!」
ナナはもう目の前に迫るセーブポイントへと駈け出した。
「あと少しだっ!!」
残りの200mを全力疾走で駆け抜けるとあっという間にセーブポイントへとたどり着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、つ、ついたぁ」
ナナは目の前に設置されていた機械のボタンを押した。
するとナナの視界は普段見慣れた自室に戻っていた。
そしてナナの真横にはモモとララが倒れていた。
「も、戻ったのか・・・。っ!?姉上っ!!モモっ!!」
ナナは意識のない二人の肩を叩く。
「う・・・ん・・・、あ、あれ、戻った・・・の?」
「・・・あっ・・・私、気を失って」
二人は目を覚ますと現実世界に戻ってこられた事に気づき、ナナに抱きついた。
「ごめんね二人とも、私が変なものを作ったばっかりに・・・」
「いいえ、私達が悪かったんです。勝手にお姉様の発明品を使ったから」
互いに反省していると段々と足音が近づいてくる事に三人は気づいた。
「こ、今度はなんだぁ!?」
「おーい!!ララ、モモ、ナナ!!」
部屋の扉が開かれるとともにリトが部屋に入ってきたのだ。
「三人ともこんなところにいたのか、夕飯できたから・・・っ!?」
リトは三人を視界に入れた途端に顔を真っ赤にして硬直した。
「モモにナナっ!!お、お前ら・・・ふ、服はぁ・・・!!」
「えっ、服?」
二人はリトに言われて自身の格好をよく見た。
「あっ!?そう言えばスライムのせいで服が・・・」
「~っ!!いつまで見てんだこの変態ヤロー!!」
ナナの一撃がリトの後頭部に炸裂した。
―ララ・サタリン・デビルーク 編―
―ナナ・アスタ・デビルーク 編―
―モモ・ベリア・デビルーク 編―
「・・・はい?」
「だからぁ、姉上の発明品だよ。あれを1つ借りてきたんだ」
疑問符を浮かべるモモとは対照的に胸を張って報告をするナナ。
そんなナナが抱えていたのは姉であるララの発明品らしき四角い機械だった。
「そんなもの勝手に持ち出して・・・。お姉様に御迷惑でしょう?」
「すぐ返すからっ。少しぐらい弄ってみようぜ」
そう言ってナナは躊躇なくスイッチを押した。
すると見知らぬ景色がナナとモモの周囲を囲んだ。
「・・・どこだココ?」
「多分、バーチャルワールドでしょうね。それもどこかの星にそっくりな」
「ん?この景色を見た事があるのか?」
「私の推測だけど、多分カルジン星よ」
「カルジン・・・?どんな星なんだ?」
ナナの問いにモモは渋い顔をする。
「私も詳しくは知らないけど、過去の文献で見た限り愉快な星ではないはずよ」
「そうなのか?でも・・・随分と綺麗な場所じゃないか?」
ナナが見渡す限り、森や川、そして空がきれいな大自然と言った感じの景色が広がっている。
「・・・例えば、あそこにある木に生っている実の成分は半分がバイソコと言う物質を含んでいたりするわ」
「バイソコ?」
「まだ、宇宙的には知られていないけど食べると笑いが止まらなくなるそうよ」
「笑いが?何でだ?」
「齧ってみればわかるわよ。丁度解毒剤もあるから」
「解毒剤なんて・・・どこに」
「あの木の葉っぱが解毒剤になっているの」
「へぇー。じゃあまぁ食ってみるか」
そう言うと二人は木に近づいていく。
木は二人の背丈の5倍ほどの大きさだった。
ナナは一番低い枝になる実と葉を取ると実を一齧りする。
「ん・・・普通に美味いけどな・・・んんっ!?」
口に広がる甘さを感じるとすぐに別の感覚が身体を襲う。
「あははっ!!な、何だコレ!?ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったーい!!」
ナナは自身を襲うくすぐったさに身を捩る。
「バイソコと言う物質は『こそばゆい』つまり”くすぐったい”というのが語源なの。この実を一齧りするだけで人ひとりを殺傷出来るほどの成分が含まれているわ」
「あっはっはっはっはっはっはっはっは!!た、助けてぇ~っへっへっへっへっへっへ!!」
「葉を食べれば良いじゃない・・・」
助けを求めるナナにあきれ顔でモモは言う。
「きゃっはっはっはっはっはっは、そ、そうか!!」
ナナは急いで葉を口に押し込んだ。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっとおさまった・・・」
効力から解放されたナナはその場に座り込んだ。
「この星にある水はもちろん、植物にもバイソコが含まれているわ」
「最悪な星だな・・・」
「それに、さっきの植物と言い効果が出るという事はこの空間自体も実体と何ら変わりはないということになるわね」
「つまり、ここはバーチャルワールドであって現実の星と同じってことか・・・」
「そうだとするとあまり長居は出来ないわね」
「まぁ、今すぐにでも元の世界に戻りたいけど・・・長い間居ると何かあるのか?」
「えぇ・・・滞在時間は30分以内でないと私達の体力が持たないわ」
「へっ?体力?」
モモの言葉にナナはポカーンとする。
「カルジン星と同じ環境が再現されているとすると、ここの空気には微量に・・・きゃあっ!?」
モモが説明をしようとしたまさにその時だった。
背後から伸びてきた何本かのロープがモモを捕らえた。
モモは両手を頭の上で縛られ、両足も動かないように縛られた格好になった。
「こ、これは・・・くるくるロープくんっ!?なんでこんなところに・・・」
モモを捕らえていたのはララの発明品である『くるくるロープくん』だった。
「待ってろモモ!!今助けに・・・うわぁ!?な、何だ!!」
モモを助けようとしたナナにも同じく何かが襲いかかった。
「こ、これもくるくるロープくんだっ!!」
ナナもモモと同じような格好に縛られてしまった。
「な、なにがどうなっているんだ・・・?」
「なんでお姉様の発明品が・・・」
二人が考えていると次第に物音が聞こえてくるようになった。
「な、何の音だ!?」
「何か摩擦音みたいだけど・・・」
二人が音のする方向を見ると大量の植物がこちらに向かって動いてきていた。
「なんだ、あの植物・・・」
「あんな種類の植物、見た事がないわ・・・。それに・・・」
モモはその植物について疑問を抱いていた。
「植物の声が聞こえないっ!?」
「な、ど、どうなってるんだ!?」
ナナも一大事のようにモモを見る。
「考えられる事は2つ。ひとつは私の能力がここでは発現できないか・・・。もうひとつはあれが植物でないか・・・」
「どう見たって植物だろ?」
「それにしては動きがおかしくない?あんなカクカク動く植物なんて見たことも聞いたこともない」
二人の疑問は植物が近くまで迫ってきてから解明されることとなった。
近づいてきた植物から微かに音が聞こえてきたのだ。
「これ、機械音か?」
「多分・・・機械音でしょうね・・・もしかしてコレも発明品?」
モモはララの作った世界に現にララの発明品が登場していることからこの植物が発明品であっても不思議ではないと思っていた。
植物は二人の前で止まるとツルを伸ばして二人を掴むと空中へと放りだした。
そして二人を飲みこんでしまった。
††
「・・・っ、痛てててっ・・・ど、どうなったんだ?」
植物型ロボットの中で目を覚ましたナナは辺りを見渡す。
しかし、ただ暗いだけで何も見えない。
「・・・はぁ、真っ暗だし手足の自由は利かないし・・・。それに・・・モモは?」
ナナがモモの不在に気付いたころ、モモはまた別の状況に陥っていた。
「きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!む、ムリぃ~っひっひっひっひ!!いひゃはははははははははははははははっ!!」
モモは自由の利かない身体のまま植物体内の警備コンピューターに捕まり、検査を受けていた。
『異物確認。チェックヲ開始スル。アーム解放、異物ノ形状ヲ把握』
コンピュータから飛び出した無数の触手がモモの体中を撫でまわす。
そしてその感触にモモは追い詰められていく。
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!きゃっはっ!!やっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!やめてぇ~っ!!」
(何、この感覚・・・っ、スゴイっ・・・。でも、強すぎっ!!)
「ひゃはははははははははははははははっ!!ろ、ロープさえ外れれば・・・っ、きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
『構成物質ノ特定ヲ開始スル』
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!こ、構成物質って、あっはっはっはっはっはっは~っ!!」
『有害物質ト認定・・・排除スル』
「きゃっはっはっはっはっはっはっは!!は、排除っ!?あははははははっ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
モモは無数の触手から解放されると真横の穴に放り込まれた。
「それにしても・・・何か妙な音がするんだよなぁ」
ナナは先程から聞こえ始めた物音を気にしていた。
『・・・っは!!・・・や・・・っは・・・』
途切れ途切れに聞こえてくる声のようなものだ。
「もしかして、誰かの声か?・・・」
ナナが音に耳を澄ませていると突如、辺りが明かりに照らされた。
「っ!?な、なんだぁ!?」
『異物発見・・・確保スル』
突然の出来事に混乱するナナの前に、巡回してきた警備コンピュータが現れた。
「お、おわぁ!?」
そしてあっという間にナナはコンピュータに捕まってしまった。
『検査ヲ開始スル』
コンピュータの音声と共にコンピュータ内から無数の触手が飛び出した。
そして触手は身動きの取れないナナの体中を撫でまわす。
「なあっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!く、くすぐったいっ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
ナナもモモ同様にコンピュータのチェックを受ける。
『異物確認。チェックヲ開始スル。アーム解放、異物ノ形状ヲ把握』
「いっひっひっひっひっひっひっひっひ~っ!!だ、だめっへっへっへっへっへっへ!!きゃはははっ、あははははははははははは~」
ナナの全身を隅まで撫でまわす触手の感触にナナが追い込まれるまでさほど時間はかからなかった。
「あっはっはっはっはっはっはっは~っ!!だ、だれか助けっ、ひゃははははははははははははっ!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」
『構成物質ノ特定ヲ開始スル』
「くっはっはっはっはっはっは!!こ、今度は何だぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
『有害物質ト認定・・・排除スル』
「ひゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!や、やめへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへ~っ!!」
ナナも触手に解放された後、真横の穴に放り込まれた。
††
『異物ノ回収ヲ完了シタ・・・消去ヲ開始』
穴に放り込まれた2人は長い管を経由して水中に投げ出された。
「ぷはっ・・・こ、今度は何?・・・ってナナ!?」
モモは水面から顔を上げると同じ管から飛び出してきたナナを見つけた。
「・・・っは!!・・・次は・・・なんだよ・・・ってモモ!?」
同じくナナも横にいるモモに気がついた。
「ナナってば、一体どこに?」
「モモこそ、どこにいたんだよ?こっちは大変な目にあったんだぞ」
「こっちだって・・・って、いつの間にかロープが外れているわ」
「あっ、ホントだ・・・」
二人は手足の自由が利くのを確認するとひとまず安堵する。
だが、すぐに次の動きが起こった。
「きゃあっ!?・・・な、何これ・・・身体が・・・ムズムズするっ・・・」
水面にいきなり電気が走った。
「ひゃんっ!!・・・な、なんだ・・・へ、変な感触が・・・」
二人はそれぞれの身体に起きた変化に戸惑う。
「こ、これ・・・さっきよりぬるぬるしているような・・・」
ナナは水面を見てつぶやく。
「ま、まさか・・・ハレンチスライムっ!?」
ナナのつぶやきでモモは水面を確認する。
すると自身の身体の変化に気付いた。
「ふ、服が溶け始めてるぅー!?」
「な、何っ!?」
二人は互いに焦り始めるがモモは何とか冷静さを取り戻す。
「・・・ハレンチスライムという事はもしかして・・・私達の感度も上がっているってことなんじゃ・・・」
「ど、どういうことだ?」
「ハレンチスライムに触れられる事で体中の感度が増すのよ。通常の2倍以上に・・・」
「2、2倍っ!?」
「それにこの種類のスライムは宇宙でも見かけられない物・・・この星で生活しているスライムだもの・・・これから何が起こるのか見当はつくわ・・・」
「も、もしかして・・・また・・・」
モモの話にナナはつばを飲み込んだ。
「えぇ、でも問題は感度の増した私達がアレに耐えられるかどうかね・・・。きっと私達を気絶させた後でゆっくりと消化するつもりだわ」
「じゃ、じゃあどうするんだ?」
「それは・・・逃げるしかないわね」
そう言うとモモは水面と天井の間に空いている微かなスペースへ飛び出そうと試みる。
そしてジャンプをしようと勢いをつけた時だった。
「きゃあっ!?あ、足を・・・っ!?きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
飛び上がろうとしたモモの足を固まったスライムが阻止し、モモの身体をくすぐり始めたのだ。
「モ、モモっ!?・・・ひゃっはっ!?やははははははははははははっ!!く、くすぐったぁーい!!あっはっはっはっはっはっは~!!」
同じくナナもスライムに動きを封じこまれくすぐられる。
二人は首から下をスライムに覆われているため、ほぼ身体全体をくすぐられている状態だ。
「あっはっはっはっはっはっは!?す、スライムが指みたいにぃ!!きゃぁ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
巨大スライムはまるで指のような動きで二人の身体をくすぐっていく。
「ふぁ!?ひゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!」
(さすがに2倍の感度に耐えきる自信はないし・・・どうすればっ)
モモは全身に来るくすぐったさに襲われながらも冷静に状況の打開策を練る。
「あっはっは!!きゃぁっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!だっはっは、ダメぇ~っへっへっへっへっへ~!!」
一方のナナはそんな余裕などなくただひたすらに笑い続ける。
(もうこうなったらコンピュータを破壊するしかない・・・っ)
モモはなんとか考えをまとめたものの身動きは取れず、更に全身に力が入らないためどうする事も出来ない。
「あははははははっ!!ど、どうしたらっ、きゃっはっはっはっはっはっはっはっは!!あはははっ、くすぐったすぎてっ・・・もうダメぇ~!!」
(ダメだ・・・もう考えることもできなくなっちゃった・・・)
その時だった。
二人の目の前を一筋の閃光が走り、あっという間に二人の視界は真っ二つに割れた。
ガシャンという音を立てて植物もといロボットは崩れ落ちた。
そして二人の目の前には先程までの青空が映った。
「なっ・・・どういうこと・・・」
モモとナナが顔を見合わせていると「モモーっ!!ナナーっ!!」という呼び声と共に前から1人の少女が駆け寄ってきた。
かなり見覚えのあるその顔に二人は笑顔をこぼした。
「お姉様っ!!」
「姉上っ!!」
二人に駆け寄ってきたのは二人の姉であるララだった。
「こんなところにいたんだ・・・大丈夫?」
ララは二人に手を差し伸べ起こすと安堵の表情を浮かべた。
「姉上、どうしてここに?」
「二人の姿が見当たらなかったから探してたんだけど・・・部屋で『びゅんびゅんトラベルくん』が作動しているのを見て、もしかしたらって思って」
「あの発明品ってどういったものなんですか?」
「あれはねぇ、バーチャル空間の中で宇宙一周旅行が出来る機械なんだよ」
「宇宙一周旅行?」
「うんっ♪有名な惑星から未開の惑星まで一通り全部ね。あっ、もちろんバーチャルだから植物とか動物とかは全部ロボットなんだけど、環境とかは実物とさほど変わりないんだよ」
「ええ、それは十分わかりました・・・」
ララの言葉にモモは疲れたような顔で答えた。
「でも、どうしてこの惑星に飛んだんだ?」
「うーん・・・多分ランダムなんだ。そこの調整が上手く出来なくて・・・」
ララは照れたように頭を掻いた。
「でもまぁ、これでようやく戻れる事ですし一件落着ですね」
「へっ?」
ララはポカンとした顔でモモを見る。
「え、えぇーとっ・・・どうやって戻るんだったかなぁ・・・」
「「なあっ!?」」
モモとナナはララの一言に絶句すると共にひどく落胆した。
「あっ、でもでも、セーブポイントに行ければとりあえず何とかなるかも知れないよ?」
「セーブポイント?」
「うん、途中で休憩できるようにセーブポイントを用意したの。そこまでいけば一度旅行を中断できるんだ」
「そこなら、戻れる可能性がありますね」
「じゃあ、そこを目指すか」
「どこにあるんです?」
「待って、今地図を・・・えっとぉ・・・ここから東へ2kmかな」
「なら、さっさと行こうぜ」
こうして三人は東にあるセーブポイントへと向かう事にした。
2kmならばすぐだ・・・その考えは甘かった。
「しーっ!!見つかっちゃうよ?」
「そんなこと言ったってぇ~」
「くっふ!!・・・この草、妙にくすぐったくて・・・」
三人は500mほど進んだところで動物型ロボット×6を発見し、草むらに身をひそめていた。
「あの鳥はタイクルバードが原型だな」
ナナはロボットを見てつぶやく。
「タイクルバード?」
モモは顔をしかめる。
「ああ、通称くすぐり鳥だ。名前の由来はTickleから来ているらしいけど・・・。あの羽で触られると・・・」
「うん、もうそれ以上はいいわ」
ナナの説明をモモは制止する。
「あっはっ!!そ、それにしてもぉ、くっふっふ、この草なんとかならないのか?」
ナナは隠れている草むらの草の感触に襲われていた。
「わ、私もっ、ひゃっ!!くっふ、見たことないけど・・・」
同じくモモも草の感触に襲われていた。
「あっはっはっ!!だ、だよねぇ・・・くひゃっ、私もくすぐったいよ~!!」
二人と同様にララも笑いをこらえている。
絶対に笑っては行けない状況下で草はだんだんと三人の足に絡みついてくる。
「んっ、んん~っ!!あっはっは!!・・・んっ!!」
ララは何とかギリギリでこらえているがモモとナナの二人は先程の余韻がまだ少し残っていたため余計にくすぐったく感じていた。
「うっはっはっ!!・・・くっ・・・っふっふっふ・・・も、もう・・・限界っ!!」
「あっは・・・っ!!ま、まってナナっ!!」
「あ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったーい!!」
ナナはくすぐったさに耐えきれず吹き出してしまった。
するとその声に反応したタイクルバードが群れをなして草むらに近づいてきた。
「きゃっはっ!!ま、まずいっ!!」
モモは咄嗟にナナの口を押さえるがもうすでに遅かった。
「二人とも、セーブポイントまで行って!!ここは私が何とかするから!!」
ララはそう言って立ち上がるとタイクルバードの注意を自分に向けさせた。
「お、お姉様!?」
「姉上っ!?」
二人は驚きの声を上げるとともに顔を見合わせる。
「セーブポイントまで誰かが辿りつければ何とかなると思うからっ!!」
そう言うとララは草むらから飛び出して西の方角へと駈け出した。
するとタイクルバードの群れはララを視界にとらえ後を追っていった。
「・・・行きましょうナナ」
「で、でも」
「一刻も早くセーブポイントまで辿りつかないと」
「・・・ああ」
二人はララとタイクルバードが見えなくなると再び歩みを進めた。
††
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
ララはひたすら走り続けていた。
どれだけ走り続けてもタイクルバードの群れを撒く事は出来そうになかった。
「きゃっ!?」
その時だった。
運悪くララはつまずいて転んでしまった。
そしてタイクルバードに追いつかれてしまったのだ。
「あはは・・・捕まっちゃった」
ララは体力の消耗がひどくもはや抵抗できる力もなかった。
タイクルバードたちは羽を広げるとララの身体を羽で突いていく。
「きゃっはっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったいぃ!!きゃ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
ララは全身に襲い来る羽のくすぐったさに悶絶する。
「ひゃはははははははははははっ!!いやぁ、きゃはははははははははは~っ、あっはっ!?そ、そこはダメ~っへっへっへっへっへっへ~」
『ピーチュルクーッ!!』
一羽の鳥が鳴くと他の五羽の動きが止まった。
「はぁ~はぁっ、ムズムズするよぉ」
ララはなんとか息を整える。
『ピーッ!!ピーチュルッチュー!!』
そしてもう一鳴きすると今度は一斉にララの足の裏を狙い始めた。
「いやっは!?あ、足っ!?きゃっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!足はやめへぇ~っへっへっへっへ!!」
五羽は我先にとララの足を取りあいくすぐる。
「ひゃっはっはっはっはっはっはっは!!い、一羽一羽感触が違うっ!?ああ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったいよぉ~!!」
ララは少しずつ感触の違う羽の緩急に徐々に支配されていく。
††
「後600mか・・・」
「でもこの川、飛んで渡れるほど幅が狭くないわね・・・」
二人は残り600m地点で足踏みをしていた。
目の前には400m程の川があり、中には魚が潜んでいた。
「あれ、ドクターフィッシュの巨大版だよな・・・」
「ええ、見ているだけで足がムズムズしてくる・・・」
「くっそ!!もう、セーブポイントは見えてるのに!!」
ナナは悔しそうに地面を蹴った。
「・・・仕方がないわね。ナナ私と一緒に200m地点まで飛びましょう」
「も、モモっ!!何言ってるんだ・・・無謀だろ!!」
「脚力はナナの方があるはずよ・・・。200m地点まで行ったら私を踏み台にして向こう岸までジャンプして」
「・・・っ!!でもっ・・・」
「いいから」
「・・・わかった」
二人は後ろへ下がると助走をつけて一緒に飛び上がった。
そしてあっという間に200m地点上空まで来るとナナは更に飛び上がる準備をする。
「・・・モモ、すぐに助けるからな!!」
「えぇ、任せたわよ」
ナナはモモの肩を踏み台にして更に高く飛んだ。
そしてナナが向こう岸に着陸したのと同時にモモは川へと落ちた。
モモが川に落ちるとすぐに巨大ドクターフィッシュ型のロボットが集まってきた。
「・・・さぁ、もう好きなようにしなさいっ!!」
モモは抵抗せずにそのまま身体を差し出した。
すると、巨大ドクターフィッシュ達はモモの身体を口先で突っ突き始めた。
「ひゃっはっ!?くっふっふ・・・こ、これは結構・・・くる・・・っ!!」
ドクターフィッシュの中途半端な突っ突き方に余計くすぐったさを感じる。
「あっはっはっ!?く、ひゃんっ!?あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!くすぐったぁい!!いやっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
そしてドクターフィッシュのうち一匹がモモの腋の下に口先を潜り込ませた。
「いやっは!?わ、腋ぃ!?あっはっはっ!!きゃ~っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは~っ!!そこはダメぇ~!!ひゃははははははははははははははははっ!!あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」
腋の下にくるくすぐったさがモモにとどめをさした。
††
「モモっ・・・!!」
ナナはもう目の前に迫るセーブポイントへと駈け出した。
「あと少しだっ!!」
残りの200mを全力疾走で駆け抜けるとあっという間にセーブポイントへとたどり着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、つ、ついたぁ」
ナナは目の前に設置されていた機械のボタンを押した。
するとナナの視界は普段見慣れた自室に戻っていた。
そしてナナの真横にはモモとララが倒れていた。
「も、戻ったのか・・・。っ!?姉上っ!!モモっ!!」
ナナは意識のない二人の肩を叩く。
「う・・・ん・・・、あ、あれ、戻った・・・の?」
「・・・あっ・・・私、気を失って」
二人は目を覚ますと現実世界に戻ってこられた事に気づき、ナナに抱きついた。
「ごめんね二人とも、私が変なものを作ったばっかりに・・・」
「いいえ、私達が悪かったんです。勝手にお姉様の発明品を使ったから」
互いに反省していると段々と足音が近づいてくる事に三人は気づいた。
「こ、今度はなんだぁ!?」
「おーい!!ララ、モモ、ナナ!!」
部屋の扉が開かれるとともにリトが部屋に入ってきたのだ。
「三人ともこんなところにいたのか、夕飯できたから・・・っ!?」
リトは三人を視界に入れた途端に顔を真っ赤にして硬直した。
「モモにナナっ!!お、お前ら・・・ふ、服はぁ・・・!!」
「えっ、服?」
二人はリトに言われて自身の格好をよく見た。
「あっ!?そう言えばスライムのせいで服が・・・」
「~っ!!いつまで見てんだこの変態ヤロー!!」
ナナの一撃がリトの後頭部に炸裂した。