最近、TikTokでつい繰り返し見てしまうある動画。能面のように無表情な少女がクネクネと変な振り付けで踊るちょっと不気味なあの動画である。
全世界で再生回数15億を超えるその動画のダンスの名前は「ミーガンダンス」という。2022年、アメリカ映画。上映時間:102分。PG12指定作品。

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幼くして両親を交通事故で亡くしたケイディ(ヴァイオレット・マッグロウ)。まだ心の傷も癒えない9歳の少女は、叔母で大手玩具メーカーに勤める独身のジェマ(アリソン・ウィリアムズ)に引き取られる。
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一方、ジェマは自身が開発した新製品のブラッシュアップに余念がなかった。子供にとってはよき友達であり、保護者にとってはよき協力者となる高性能な人工知能搭載の人型ロボット「Model 3 Generative Android(通称:ミーガン)」は、すぐさま経営陣からゴーサインが出され、あとは全世界に向けた発表会で華々しくデビューを飾るだけだったが……。
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状況に合わせて常に最適な行動を選択し、自己学習によってバージョンアップを繰り返す夢のようなロボット。当初ミーガンに与えられた使命は、ケイディのよき「友達」になることだったが、いつしか開発者であるジェマの命令を無視するようになり、ケイディに対して過剰なほどの執着を示すようになった。それはまるで「保護者」のように。
そんな中、ジェマのまわりでケイディとミーガンの好まざる人物が、次々と不幸に見舞われるようになり──。

何らかの理由で魂を宿した人形が、次々と人間に襲い掛かる古典的ホラー映画『チャイルド・プレイ』や『アナベル』は、そのどちらもオカルトに理由をもとめたが、本作ではそれをテクノロジー(しかもプログラムの「バグ」と言えなくもない)に預けたことで、怖さという点では前述の2作品と比べて大きく劣っているように感じる。もちろん彼らもそれをちゃんと理解しているはず。なにしろ原案を考えたのは『ソウ』シリーズのジェームズ・ワンと、『パラノーマル・アクティビティ』シリーズのジェイソン・ブラムなのだから。
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全米オープニング興行輸入3000万ドル(30億円以上)。辛口で知られる映画批評家サイト「ロッテン・トマト」で脅威の96%と高評価。一部ではコスプレをしてミーガンダンスを踊る子供がででくるほどウケたのは、一周回った「ズレたセンス」のおかげかもしれない。
たとえばあの人形のキャラクターだ。無気味の谷に落ちずにギリギリで踏みとどまっているかのような絶妙な可愛さ。ブライスドールのような大きな目と、少し大きめな頭部はいかにもかぶり物っぽい。首の動きや目の瞬きはロボットっぽいのだが、体をクネクネさせるところは子供の動きそのものだ。実際、ミーガンの中には子供が入って演技をしている。エイミー・ドナルドという可愛らしいお嬢さんがその正体だ。こう聞くと、最近の映画にしては「ひどくアナログな」とも思うが、そのアナログ具合がホラーには不可欠なのだ。お化け屋敷で一番怖いのが生身の人間なのと同じ理屈だ。
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そして、ここがもう一つのポイントなのだが、この映画に恐怖を感じるのは、いま現在がテクノロジー発達の過渡期だからということも大きい。10年前ならギャグのようなこの映画に妙なリアリティをおぼえるのは、チャットGPTの脅威について真剣に議論しだした現在だからこそ。これを専門用語で「シンギュラリティ(※)」という。
※シンギュラリティ(技術特異点):科学技術が急速に「進化」・変化することで人間の生活も決定的に変化する「未来」を指す言葉。発明家にして思想家のレイ・カーツワイルによれば特異点とは、技術的「成長」が指数関数的に続く中で人工知能が「人間の知能を大幅に凌駕する」時点であり、これを推進することは「本質的にスピリチュアルな事業」だと言う。特異点では「われわれが超越性(トランセンデンス)──人々がスピリチュアリティと呼ぶものの主要な意味──に遭遇する」のであり、「特異点に到達すれば、われわれの生物的な身体と脳が抱える限界を超えることが可能になり、運命を超えた力を手にすることになる」ともカーツワイルは述べている(ウィキペディより)。
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つまり人間は、機械に超えられるのが怖いのだ。社会が便利になるにつれて奪われる数々の仕事。いつしか人間は機械に支配されるかもしれないという漠然とした恐怖が根底にある。実際ハリウッドでは、AIに脚本を書かせようという試みもある。それこそミーガンに「笑っていられるのも今のうちだ」と言われているような気がしてならない。
ところで、本作はすでに続編が制作されることが発表されている。その名も『ミーガン2.0』。彼女はどこまでバージョンアップを繰り返すのだろうか。