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【挑む人】第44回 村木風海「火星への憧れがすべての始まり」

回収した二酸化炭素を資源として活用

村木風海氏

──回収した二酸化炭素は、その後どうするのでしょうか。

ひやっしーと並行して行っていたのが、回収した二酸化炭素から石油の代替燃料を合成するという研究です。

実は、そこにも大きな発見がありました。当時共同研究をしていた広島大学の研究室で、二酸化炭素から天然ガスのメタンを直接作り出すことに成功したのです。これはサバティエ反応と呼ばれるもので、1902年頃にフランスの化学者であるポール・サバティエによって発見された、夢のような反応です。しかし、希少で高価なレアメタルを触媒として使う上に、高温高圧環境が必要で、実用化はかなり難しいとされていました。

そんな中、ラボのキッチン区画でふと目にしたアルミホイルを使ってみようと思い立ち、二酸化炭素とわずか1滴の水とアルミホイルをちぎったものを常温環境で激しく振ってみたところ、天然ガスを発生させることができました。安価で身近な金属であるアルミニウムを用いて二酸化炭素からメタンを生成できたことは、世界的に見ても大きな発見です。

──発生させた天然ガスはどんなことに応用できるのですか。

天然ガスの状態では貯蔵が難しいので、今はガソリンの代わりになるような液体燃料を合成する研究を進めています。二酸化酸素から作った燃料(脂肪酸エチルエステル)は軽油の代わりの自動車燃料として使うことが認められていますから、軽油を燃料とする乗用車、トラック、船、飛行機などに使うことができます。

地球温暖化対策として電気自動車や水素自動車を普及させようという流れが加速していますが、今後数年でガソリン車より普及することは難しそうですし、普及したとしても今の日本の発電構成から考えるとむしろ二酸化炭素を増やしかねません。それらの普及を待つのではなく、今ある乗り物やインフラを使って、すぐ二酸化炭素をプラスマイナスゼロにしようとする試みが「そらりん計画」です。参画したいという企業も多く、燃料としての利用のほか、使うだけで二酸化炭素削減につながる化粧品の開発なども進んでいます。

──カーボンニュートラルが世界的に叫ばれる中で、村木さんは今後どのように二酸化炭素と付き合っていこうと考えていますか。

二酸化炭素や温暖化と聞くと、文化的な生活を我慢しなければいけないとか、地球の終わりのようなネガティブなイメージばかりが先行します。しかし、私たちの研究では、空気中から二酸化炭素を取り出して、この世界の金属以外のすべての物質を合成できる。そう考えると、二酸化炭素は可能性の塊で、現代は二酸化炭素という資源があふれ返るいわばゴールドラッシュ。日本のように資源が乏しい国でも科学技術によって大気を“油田”に変えることができるのですから、わくわくする未来しか待っていないと思うのです。

──確かに、そう言われると二酸化炭素への見方が変わりますね。

だからこそ、個人レベルで二酸化炭素を回収できるひやっしーにこだわっています。地球規模で温暖化対策に取り組むことも大切ですが、それと並行して、一人ひとりが物理的にボタンを押しただけで「温暖化ストップに貢献している」と実感できるような仕組みを作っていくことを第一に考えていこうとしています。

その先には、「二酸化炭素経済圏」というものも思い描いています。二酸化炭素を回収した行為そのものにポイントを付与して、通貨に代わる新たな価値にしようというものです。そうすることで、たくさんお金を持っている人が多くのものを買える世の中から、たくさん二酸化炭素を集めた人がたくさん買えるという世の中になっていく。それで、みんなが積極的に二酸化炭素を集めていく社会をつくりたいと考えています。

村木氏が思い描く
二酸化炭素を活用した
「そらりん計画」

各家庭にひやっしーを設置して二酸化炭素を個人レベルで回収するというのが村木氏の構想だ。そうして集めた二酸化炭素から液体燃料を開発できれば、新しいエネルギーとして乗り物などのインフラに活用できる
各家庭にひやっしーを設置して二酸化炭素を個人レベルで回収するというのが村木氏の構想だ。そうして集めた二酸化炭素から液体燃料を開発できれば、新しいエネルギーとして乗り物などのインフラに活用できる

まずは成層圏に到達しその先の宇宙へも

──二酸化炭素研究のきっかけになった火星に関連した計画はありますか。

火星関連の研究ももちろん進めています。まずは、今年にも宇宙の入り口に行って帰ってくる計画です。これまでに「成層圏探査機もくもく1」と「成層圏探査機もくもく2」という直径2m程度の気球を地上35kmの成層圏に打ち上げていて、2022年3月に打ち上げる「成層圏探査機もくもく3」からは一気にギアを上げて、直径35mの巨大気球で挑んでいます。そして5月には、私自身が「成層圏探査機もくもく4」に乗って成層圏に行ってきます。それが成功すれば、アジアで初めての有人成層圏飛行となります。

──宇宙は本当に目の前ですね。

成層圏から先の未来も計画していますよ。30年には月に立ち寄り、遅くとも45年までに火星に行くことを決めています。火星にたどり着いたら都市国家などをつくるつもりですが、火星がゴールではなく、木星の衛星のエウロパ、土星の衛星のタイタンなど、太陽系を制覇した後でブラックホールに行くところまで考えています。そのためには250歳まで生きる必要があるので、これからは人間の体を健康体のまま、寿命を引き延ばす研究も進めるつもりです。

──村木さんのお話を聞いていると、そんな夢もすべてかなえられそうな気がしてきます。

小学4年生で「火星を住めるようにする!」と決めてから、二酸化炭素研究、二酸化炭素からの燃料合成、二酸化炭素経済圏構築、成層圏探索と、すべてがつながっていて、今もその原動力は変わりません。これから先もそれが揺らぐことはなく、まずは「中身は最先端、見た目はゆるふわ」をモットーに二酸化炭素回収装置のさらなる研究を進めていきます。

村木風海氏
〈取材後記〉
インタビューでうかがった内容があまりに盛りだくさんで紹介しきれませんでしたが、村木さんらCRRAのメンバーは、2021年夏に二酸化炭素から生成した燃料を使って日本を半周する船旅を成し遂げています。一見すると夢物語のような二酸化炭素の研究や火星移住計画も、こうして具現化してしまう村木さんだからこそ、誰もがその可能性に期待を寄せてしまうのでしょう。そんな村木さんを眩しく見つめるだけなく、私たち自身にできることを、今すぐやっていかなければと思わせてくれる取材でした。

特集 村木風海/了
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