Halloweenの悪夢
Twitterに投稿している山なしオチなし意味なしの書きたいとこだけシリーズ、Halloweenネタです。
2ページ目は初出です。一応1ページ目の続きかな…。
ブクマコメント等ありがとうございます☺️嬉しいです✨
ストックも尽きてきたので、そろそろ投稿頻度が落ちると思います…
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Halloweenの悪夢
「冨岡さん、ヘルプです」
平然とした声の胡蝶から電話がかかってきたのは、深夜一時過ぎのことである。
冨岡は瞬時に全身を緊張させたが、次いで「おや?」と首を傾げた。
本日、世間はハロウィンである。「いい歳をしたオトナがコスプレをして深夜まで騒ぐ」日でもある今日、喧騒に紛れた鬼の跋扈を警戒して、特殊警護部の面々は東京の各繁華街に出向いている。
胡蝶は同僚の煉獄と、それから数名の部下たちとともに、最も多くの人間が集まる渋谷の担当のはずである。煉獄がいながら、なぜ冨岡に応援要請が来るのか。よほどの強敵だったのか。それにしては、電話越しの胡蝶の声は落ち着いて、平常通りである。
「……どうした」
『恥ずかしながら、いささか困った事態になりまして。至急、こちらへ来てください』
胡蝶は場所を告げると、冨岡が質問を投げる間もないほどさっさと電話を切った。
訳が分からない。が、とにかく「何か」があったことは確からしい。冨岡は喧騒をよそ目に、ドッと地面を蹴って跳躍した。
渋谷には、こんな時間だというのにコスプレをした男女が大勢集まっているために、警察まで出動している。今夜ばかりは帯刀していても模造品だと思われやすいのだが、それでも警察に目を付けられると厄介である。鬼の気配を探りつつ、警察の目を避けて、冨岡は胡蝶を探した。
胡蝶の言った店の前には、胡蝶と、数人の男が立っている。どうやらナンパされているらしい、と気付いた冨岡は、むっと眉をひそめてずかずかと近付いた。
「胡蝶」
「義勇さん」
胡蝶は冨岡を見上げて、ぱっと顔を明るくした。わざとらしいほどにこやかに。
「義勇さん」? 何で名前??
その疑問を差し挟む余地もなく、胡蝶は冨岡に駆け寄ると、親しげにするりと腕を絡めた。
「では皆さん、ご機嫌よう。義勇さん、行きましょ」
「おい、胡蝶?」
ナンパ野郎どもに目もくれず、冨岡の困惑も意に介せず、胡蝶はさっさと歩き出した。冨岡は黙って歩きながら、胡蝶の様子を観察した。「困った事態」とは思えないほどに、いつも通りである。——服装以外は。いや、これも「いつも通り」かもしれない。
胡蝶は、女性警察官の仮装をしていた。ただ、本物よりもずっとタイトなジャケットは、胸の膨らみを妙に強調しているし、何よりパンツではなくてスカートである。それもとても短い。それに、膝上丈の黒いハイヒールのブーツ(冨岡は、「ニーハイブーツ」という名称を知らない)。いわゆるミニスカポリスのコスプレである。大変よくお似合いである。コスプレのくせに、妙に本格的なホルスターには拳銃や警棒ではなく、おそらく小型の日輪刀だの毒だのが仕込まれているのだろうが。
そんな過剰に色気を振りまく警察官がいるか、と冨岡は思わず苦った。毎度思うが、こいつの潜入任務の時の無駄な色気は何なのか。被服部の阿呆の仕業か。それをまた面白がって着る胡蝶も胡蝶だ。
それにしても「困った事態」とは何だろうか。わざわざ別地区にいた冨岡を呼びつけるほど困っているようには見えないが。大体、煉獄がいるのに。
「胡蝶。事情を——」
「そうですね、ここでいいでしょう」
胡蝶は冨岡の腕をぐいと引くと、ある建物の中に足を踏み入れた。エントランスに設えられた巨大なタッチパネルを操作して、冨岡を引っ張ってエレベーターへ。そしてそのままライトが点滅するドアを開けて、冨岡を中に押し込んだ。
「胡蝶、ここに鬼がいるのか?」
「まぁまぁ。とりあえず座ってくださいな、冨岡さん。事情は説明しますから」
訳が分からない。
背中を押されて、室内のソファに腰掛けると、胡蝶は身に付けたホルスターを外している。鬼がいるのではないのか。気配は感じられないが。
冨岡は部屋のど真ん中に鎮座する巨大なキングサイズのベッドと、連れ込まれた建物の一般名称——「ご休憩」が出来る宿泊施設だ——について考えないようにしながら、胡蝶を見やった。
「渋谷にも、鬼は二体ほどいましたよ。そちらは?」
「問題ない。片付けた」
「そうですか、結構です。で、その鬼二体は、煉獄さんと私がもう始末しました。ですけれど、実は私、血鬼術をかけられまして」
「……は?」
胡蝶はホルスターを全て外すと、鬱陶しそうに首元のネクタイを少し緩めた。そのまま冨岡の膝に乗り上がる。
「うっかりです。鼬の最後っ屁を食らうなんて」
忌々しそうに顔をしかめて、胡蝶は髪留めをパチンと外した。柔らかな髪がふわりと下りる。その髪の香りに、冨岡は知らず息を呑んだ。
「解毒剤は飲んだのですけれど、なかなか強力な術で、完全には解けないんですよね。これは手っ取り早くあなたにご協力願おうと思って、お呼び立てした次第です」
「協力?」
「血鬼術は、いわゆる催淫作用をもたらすものです。なかなか嫌らしい鬼で、オーガズムに達した時の女が一番美味い、などと宣っていましたね」
冷静に言いながら、胡蝶は冨岡の制服の襟元を勝手に緩めた。
「おい、」
細い手が、するりと喉笛を撫でた。冨岡は、不覚にも動悸が速まることを自覚した。嫌な予感と、「悦い」予感に。
「胎の中に、精を受けたら解ける、そうですよ。ということで、冨岡さん。お借りしますね、ちゃっちゃと中に出してください」
「……は?」
胡蝶はにっこりと麗しく、しかし見る者が見れば分かる、実に不機嫌な笑顔で冨岡のベルトに手を掛けた。
「待て胡蝶! 意味が分からん、何だと?」
「まぁ、分かりません? 要するに術を完全に解くために、性行為をさせてくださいと言っているんです」
冨岡は、困惑と、認めたくはないが若干の興奮で混乱したまま、とりあえず勝手に衣服を緩めようとする胡蝶の手を止めた。
胡蝶は物分かりの悪い者を見る目で冨岡を見やって、ため息をついた。腰からぶら下げた手錠(特殊支援部謹製、鬼をも拘束できる強力なやつ)を外して掲げてみせた。
「あんまり抵抗すると、公務執行妨害で逮捕しますよ、綺麗なお兄さん」
「強制猥褻罪は適用されないのか?!」
胡蝶は、まぁ、と目を丸くして、冨岡の目を覗き込んだ。
繊手がするりとそこを撫でた。大変不本意なことに、そこは既に兆しかけている。
短すぎるタイトスカートが、膝に跨ることで、下着が見えるか見えないか、ギリギリのところまでずり上がっている。ニーハイブーツとの間の、真っ白な太腿が、そこはかとなく淫美な印象を与える間接照明の下で眩しい。
「そうですねぇ。無理やりというのは無粋ですね。こう言えばいいですか、義勇さん」
胡蝶は妖艶に微笑んだ。油断ならない女の顔で。
「Trick or Treat !」
冨岡はぐっと息を呑んだ。
悪い夢としか思えない。まさか、胡蝶と自分が、こんな馬鹿な血鬼術に巻き込まれるとは!
「……菓子はない」
「じゃあ仕方ないですね、私に『イタズラ』されてくださいな。——もっとも」
細い指が、冨岡の頤をくいと持ち上げた。触れる直前に微笑んで、胡蝶は言った。
「あなたは、私にとって、とびっきりの“Treat”ですけれどね」