■殺害…少なくとも1年間で59人 トランスジェンダー

アメリカ南部・アーカンソー州の通りには、多くの人々があふれていました。トランスジェンダーの人たち数百人が集まって抗議の声を上げていたのです。

訴えていたのは「命の尊厳」。アメリカでは今、トランスジェンダーの権利を制限する動きが強まっているのです。2021年、アメリカ国内で殺害されたトランスジェンダーは、少なくとも59人で過去最多となっています。

■バイデン政権の“LGBTQ権利拡大”に対抗か

さらに、今年に入って野党・共和党の強い南部を中心に、ホルモン治療など若者への性別適合ケアを禁止する法律が相次いで成立しています。その背景には、キリスト教の保守派を支持基盤の一つとする共和党が、LGBTQの権利拡大に積極的なバイデン政権に対抗する狙いがあります。

    ◇

規制強化に翻弄(ほんろう)されるトランスジェンダーの当事者に話を聞くことができました。

中西部のアイオワ州に住むギャビー・スミスさん(16)は、生まれた時の体の性別は“男性”でしたが、今は“女性”として暮らしています。

ギャビーさんの友人

「彼女は私にとっていつも女の子だったし、それ以外と考えたことはないです」

■「本来の姿だと感じられるように」

子どもの頃から、人形やドレスが好きだったと話すギャビーさん。男性でいることに耐えられず、思春期に入る前の10歳から医療的な性別適合ケアを始めました。

医師から処方された女性ホルモンのパッチを週に2回貼り替えています。さらに、腕には男性ホルモンを抑えるための管を入れています。ギャビーさんは、医療ケアが始まり、鏡に映る自分の姿が好きになったと話しました。

ギャビーさん

「女性ホルモンを使い始めて、自分の体が本来の姿だと感じられるようになりました」

ギャビーさんの母 ティファニー・スミスさん

「娘は声変わりや喉仏が出たり、ひげが生えることをとにかく恐れていました」

■若者の5人に1人が“自殺を考えたことが…”

しかし、今年3月、風向きが変わりました。ギャビーさんの住むアイオワ州は、若者へ及ぼす影響がわかっていないとして、18歳未満の性別適合ケアを法律で禁止したのです。

ギャビーさん

「法案が可決した時はやはりショックで、自分の部屋で泣きました」

「(法案は)トランスジェンダーが、自分自身の体に違和感を感じずにいられることを妨げています」

地元でケアが受けられなくなるため、母親が周辺の州で新たな医師を探しています。

トランスジェンダーの若者の5人に1人が“自殺を考えたことがある”というデータもあり、アメリカの主要な医療団体は、性別適合ケアの禁止は「命に関わる問題」だとしています。

性別適合ケアを行う医師

「(ケアは)医学的に正しいものであり、子どもたちの命を救うものなのです」

■禁じる法律は「無効」の州も

一方、南部・アーカンソー州では、未成年に性別適合ケアを禁じる法律は「無効」とする判決が出されました。裁判の勝利を分かち合う集会には、原告となったトランスジェンダー当事者の姿もありました。

原告 ディラン・ブラントさん

「この問題に苦しんでいるトランスの人たちが大勢いると知ると、胸が痛みます」

■基本的人権は「政治によって決められるべきでない」

規制強化に危機感をつのらせるギャビーさんは、クラスメートと共に抗議の声を上げています。

ギャビーさん

「基本的人権が与えられるかどうかが、政治によって決められるべきではありません。あなたが基本的人権を持つのであれば、私たちも人権を持てるべきでは」

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時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは愛知県の70代の方からのお便り。母親から「自分が死んだら読むように」と渡された手紙に書いてあったのは――。

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手紙の後味

母が亡くなったのは、もう10年以上前のこと。亡くなる直前、母から「私が死んだらこれを読むように」と手紙を渡されていた。

読んでみて驚いた。「何年何月何日、あなたに言われたこういう言葉に傷ついた」というようなことが連綿と書かれていたのだ。昔から母とはうまくいっていなかった。それなのに当時離婚して疲れていた私は、子どもを連れて母のところへ戻る。実家のすぐ近くに自分も通った小学校があるし、働くうえでも便利という計算もあった。

しかし不純な動機で始まった同居はすぐに行き詰まることに。10年間我慢し、子どもが他県の大学へ入学したのを機に私も母の家を出た。子ども抜きで母と二人暮らしをすることは耐えられそうになかったからだ。

手紙にはそのことも「ひどい仕打ち」「裏切りだ」と――。母は、子どもが親に常に仕え、最後まで面倒を見るのが当然と考えているようだった。利用するだけ利用して、と思っていたことだろう。間違ってもいないので余計に苦しい。

母の手紙には怨念がこもっているようで、始末するのが怖い。苦いイヤな味がいつまでも残る。私が死んだ時に一緒に燃やしてもらおう。自分は周りの人に恨みつらみを残さず、この世からおさらばしようと思う。

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