大学生が県営住宅へ入居 高齢化する町内会の担い手を期待
少しでも家賃の安い住宅を探し求める大学生と、住民の高齢化に悩む団地。両者のニーズに応えようと、北陸でも進んでいるのが、県営住宅への学生入居だ。
金沢市の繁華街から犀川を隔て、南側に広がる同市平和町。周辺には塾や学校、市立病院があり、古くから団地が開発されてきた。ここに、石川県内に5379戸(今年4月現在)ある県営住宅のうち、約900戸が集まっている。
石川県は7月にも、ここへ入居する学生を募集し、8月から住み始める予定だ。対象は3DKの物件2戸で、シェアハウスも可能だ。家賃は相場より低い水準になるという。
それを待ちわびているのは、地元3町会でつくる平和町連合町会協議会の村田保夫会長(68)だ。
町内の高齢化を訴えており、「夜の見回り活動や夏祭りの準備。体力仕事も多いなか、町会活動の担い手がどんどん減っている」と語る。自営業の人や退職した高齢者が町会の役員を務めることが多いといい、「いずれ、引き受け手がいなくなるのではないか」と危惧する。
そこで、県は、町会活動の一部を担ってもらうことを条件に、学生の県営住宅への入居を認めることにした。学生の住居問題と地域の悩みを一挙に解決しようとしている。馳浩知事は今月26日の記者会見で、「住民と学生が、自治会活動などを通じて交流し、県営住宅団地の活性化、コミュニティーの維持につながっていくことを期待したい」と話した。
県によると、県営住宅に入居する65歳以上の高齢者のみの世帯は、2013年に30・3%だったが、22年は46・8%に達した。
兵庫県立大学客員研究員の久保園洋一さんによると、公営住宅への学生入居の先駆けは2011年の兵庫県営住宅の明舞団地(神戸市、明石市)のケースとされる。節目は22年3月。東京都が都営住宅への学生の受け入れを始め、全国に広がっているという。
学生を受け入れることに、課題はないのか。久保園さんは「高齢者と学生の生活リズムの違いから生じる騒音トラブルなどはあるものの、制度的な課題は少ない」と言う。一方、「自治体や自治会が事前に学生とコミュニケーションをとり、ミスマッチをなくすことが重要だ」と指摘している。(山田健悟)
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北陸で先行しているのは富山県。モデル事業として、2022年2月から県立大学の学生を対象に県営住宅への入居募集を始めた。5戸すべてに学生が入居しているという。
月1回の清掃や地域の行事のサポートなどの町内会活動に参加することを条件に、大学まで徒歩約8分の好立地の住宅に、家賃月額1万1千円で入居できる。県によると、現時点でトラブルなどもなく、今後の展開を検討するという。
一方、福井県は、県営住宅の学生入居を検討していない。県によると、県内の大学や学生から問い合わせはなく、立地の良い県営住宅の入居率が高いことなどから、議論の俎上(そじょう)にのぼらないという。県の担当者は「県内の大学生は車で通学する人も多く、需要が低い可能性もある」と話した。
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