▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 愛知特別演奏会(2022年5月21日、愛知県芸術劇場コンサートホール)
▲プログラム – Osaka Shion Wind Orchestra 愛知特別演奏会(同上)
▲同上、演奏曲目
2022年(令和4年)5月21日(土)、筆者は、「大阪難波」駅、午前10時30分発の近鉄特急アーバンライナー(110列車)で、名古屋市東区の愛知県芸術劇場コンサートホールで開かれる「Osaka Shion Wind Orchestra 愛知特別演奏会」を愉しむため、名古屋に向かった。
この時、新幹線ではなく、近鉄を使ったのには訳がある。新幹線だと、筆者が生息するエリアからいったんJR「新大阪」駅に出なければならないが、それには意外と時間がかかる。一方、近鉄だと、歩いて10分ほどの千日前通の地下に「大阪難波」駅がある。しかも、特急料金も割安だ。座席も広いし、時間に余裕があるときはこれに限る。
また、この日は、成り行きで全日本学生吹奏楽連盟理事長の溝邉典紀さんも同行するという話になったから、「大和西大寺」駅を出た溝邉さんとアーバンライナーが途中停車する「大和八木」駅で合流できるこのルートが最適だった。ただ、全車座席指定の列車なので、指定席特急券は、筆者が事前にブッキングすることになった。
そんな流れだったので、行きの道中は、まるで学生時代の遠足のバスの車中のように、ワイワイガヤガヤと吹奏楽がらみのさまざまな話題で大いに盛り上がる。当然、いい話題もあったが、残念な話題も….。
しかし、夢中になって喋っていると、時間が経つのはアッという間だ。
アーバンライナーは、やがて、終点「近鉄名古屋」駅に到着。駅周辺でランチを済ませた二人は、地下鉄東山線に乗り換えてホールに向かった。
演奏会場の愛知県芸術劇場コンサートホールは、2020年(令和2年)に急逝した親友、元NHKプロデューサーの梶吉洋一郎さんと、ヨハン・デメイ(Johan de Meij)の交響曲第1番『指輪物語』管弦楽版の日本初演(大勝秀也指揮、名古屋フィルハーモニー交響楽団、2004年2月5日)を手がけた想い出が残るホールだ。(参照:《第131話 デメイ:交響曲第1番「指輪物語」管弦楽版日本初演》)
他方、ヤン・ヴァンデルロースト(Jan Van der Roost)や竹内雅一さんが指揮する名古屋芸術大学ウィンドオーケストラの定期演奏会もしばしばこのホールで開かれ、コロナ禍以前はよく訪れていた。客席で聴く残響感の居心地の良さから、個人的には好きなホールだ。だから、溝邉さんとこのShionの演奏会が話題に上がったとき、“響きのいいホールですよ。近鉄で行けますし。”と言うと、“それなら行きます。”と即答が返って来た。
コロナ禍のため、3ヵ月前の2月23日(水・祝)に東海市芸術劇場大ホールで予定されていた演奏会が公演前日に中止されたため、結果的に、この日は、Osaka Shion初の愛知での主催公演となった。そして、そのプログラムは、以下のようにひじょうに意欲的なものだった。
・ドラゴンの年(2017版):フィリップ・スパーク
The Year of the Dragon(2017)(Philip Sparke)
・ブリュッセル・レクイエム:ベルト・アッぺルモント
A Brussels Requiem(Bert Appermont)
・交響曲第1番「指輪物語」:ヨハン・デメイ
Symphony No.1“The Lord of the Rings”(Johan de Meij)
指揮者は、西村 友。シンフォニーをフィナーレに据え、オール・オリジナルで組まれた堂々たるプログラミングで、筆者自身にとっても、作曲者全員が友人で縁浅からぬ間柄の面々が書いた曲だけがプログラムに上がるスペシャルなコンサートだった!
この内、メイン・プロの交響曲第1番『指輪物語』は、Osaka Shionの演奏メニューの中でもいわゆる“定番人気曲”の1つだ。それは、楽団の民営化以前、まだ“大阪市音楽団(市音)”という楽団名だった、ちょうど30年前の1992年(平成4年)5月13日(水)、大阪のザ・シンフォニーホールに於ける「第64回大阪市音楽団定期演奏会」で木村吉宏の指揮で日本初演。NHKもライヴ収録し、同年8月16日(日)にオンエアされてセンセーショナルな成功を収めた。(参照:《第59話 デメイ:交響曲第1番「指輪物語」日本初演》)
あれから30年が過ぎたのか!
実は、そのときのNHKの担当者も前述の梶吉さんだった。つまり、氏は、『指輪物語』のオリジナルであるウィンドオーケストラ(吹奏楽)版の日本初演のときも、その後に編曲された管弦楽版の日本初演のときもプロデュースをつとめたことになる。幸い、これら2本のライヴ録音は、放送終了後、筆者がCD化のお膳立てをする運びとなった。なので、この交響曲を彼と協力して国内に紹介できた記憶は、ささやかながら、個人的な誇りとなっている。(参照:《第64話 デメイ「指輪物語」日本初CD制作秘話》)
一方、演奏者のShionは、日本初演後も『指輪物語』の再演を繰り返し、近々では、航空自衛隊航空中央音楽隊の特別出演を得た2021年(令和3年)10月9日(土)、京都コンサートホール大ホールにおける「第4回京都定期演奏会」でも、西村 友の指揮で演奏していた。
名古屋でのパフォーマンスでは、同じ指揮者ながら、まるで第3楽章の主人公“ゴラム”が乗り移ったかのように振る舞う指揮者の“ゴラム化”は京都よりさらに進み、とくに曲調に合わせて指揮台の上で大きくシコを踏むような所作は、大いに場内を沸かせることになった。
京都、名古屋の両演奏会を聴いた溝邉さんも、『京都のときとまた違う演奏でしたね。』と、同じ曲の表現の違い、音楽の機微というものを愉しまれていた。
それにしても、このところのShionのプログラミングは、どうだ!
「第4回京都定期演奏会」からこの日の名古屋までの主催公演だけをピックアップしても、計5回のコンサートが、実は、ウィンドオーケストラのために作曲されたオリジナル作品だけで企画・構成されているのだ。
その内、3回がザ・シンフォニーホールにおける定期演奏会で、2021年11月28日(日)の「第139回」(指揮:秋山和慶)では、アルフレッド・リード(Alfred Reed)の生誕100周年を祝って、『春の猟犬(The Hounds of Spring)』や『エル・カミーノ・レアル(El Camino Real)』、『法華経からの三つ啓示(Three Reverations from the Lotus Sutra)』などの名作をセレクト。2022年3月26日(土)の「第141回」(指揮:山下一史)では、スペインのルイス・セラーノ・アラルコン(Luis Serrano Alarcon)の『インヴォカシオン(Invocacion)』、アメリカのジェームズ・M・スティーヴンソン(James M. Stephenson)の『交響曲第2番“ヴォイセス”(Symphony No.2 “Voices”)』、アンドリュー・ボス(Andrew Boss)の『サウンド・アスリープ(Sound Asleep)』、ジェームズ・バーンズ(James Barnes)の『交響曲第7番“シンフォニック・レクイエム”(Symphonic Requiem“Seventh Symphony”)』という、ウィンド・ミュージックの先端を走る作品にチャレンジ。同4月24日(日)の「第142回」では、『ウインドオーケストラのためのマインドスケープ』で知られる作曲家、高 昌師を客演指揮者に迎えた自作自演演奏会とほんとうにバラエティ豊か!
残念ながら中止になった東海市での「愛知特別演奏会」も、以下のとおり、ひょっとすれば、地元大阪の定期以上にポジティブなプログラムだったかも知れない。
・トラベラー:デイヴィッド・マスランカ
Traveler(David Maslanka)
・コルシカ島の祈り:ヴァーツラフ・ネリベル
Corsican Litany(Vaclav Nelhybel)
・リンカーンシャーの花束:パーシー・グレインジャー
Lincolnshire Posy(Percy Grainger)ed. Frederick Fennell
・オセロ:アルフレッド・リード
Othello(Alfred Reed)
・コロニアル・ソング:パーシー・グレインジャー
Colonial Song(Percy Grainger)ed. R. Mark Rogers
・知られざる旅:フィリップ・スパーク
Unknown Journey(Philip Sousa)
もう、一口に“オリジナル作品”とは語れない、そんな時代になってきたようだ。
そして、戦前から“交響吹奏楽”をテーマに掲げて演奏を積み重ねてきた、いかにもこの楽団らしい変幻自在のプログラミングだ!!
“月に一度の定期演奏会の開催”を目標に掲げるShionの夢の実現が、もうすぐそばに近づいているのかも知れない!
名古屋への小旅行の帰路は、「近鉄名古屋」駅、20時08分発の特急ひのとり(68列車)。
今日聴いてきたばかりの音楽の興奮を肴に、大いに盛り上がる二人だった。
▲▼Osaka Shion Wind Orchestra 愛知特別演奏会(2022年5月21日、愛知県芸術劇場コンサートホール)(写真:楽団提供)
▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第4回京都定期演奏会(2021年10月9日、京都コンサートホール大ホール)
▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第139回定期演奏会(2021年11月28日、ザ・シンフォニーホール)]
▲チラシ(中止公演) – Osaka Shion Wind Orchestra 愛知特別演奏会(2022年2月23日、東海市芸術劇場大ホール
▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第141回定期演奏会(2022年3月26日、ザ・シンフォニーホール)
▲チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第142回定期演奏会(2022年4月24日、ザ・シンフォニーホール)