二重奏
この公園は初めてだけど…こういうところに居るんだよね~。
ガサガサ。
「ニンゲンさんレチ?」「はじめましてレチ~」「レチ~」
…おやおや、3組同時は初めてだよ。キミたち姉妹なの?
「ワタチタチ、おねトモなんレチ。」
「うじちゃんのキョーイク任されてる近所のオヤユビちゃん同士でジョーホーコウカンするんレチ」
…へぇ~感心感心。キミたちはいいオネチャたちなんだね。
人間に誉められるとこの上なく気分が高揚するのが実装石。大も小も賢いも愚かも関係ない。
「照れるレチ~ニンゲンさん、うじちゃん抱っこするレチ?すっごくカワイイんレチー」
「ワタチとウジチャ、セットで飼いにしたいレチ?考えてあげてもいいレチュゥゥン」
「ニンゲンさん、いい人みたいレチ~きっとセレブなんレチ~?」
…あ、僕ね。僕は親指ちゃんが大切にしているうじちゃんを専門に潰す人だよ。
「「「レチ?」」」
3匹全員が固まった。
…あ、でもね、親指ちゃんが自分で「うじちゃんを潰して下さい」ってお願いしたときだけだよ。
「ふざけるなレチー!ワタチたちがそんなお願いするわけないレチー!」
「そうレチー!こいつ悪いニンゲンレチー!」
…潰したうじちゃんのオクルミ一杯にコンペイトウ詰めてあげるんだけどな~。
ピクリ、とこれには心動いたようだったがすぐ気を取り直す。
「バ…バカにするなレチー!カワイイうじちゃんをそんなもので売ったりなんかしないんレチー!」
「みんな行くレチ、こんなニンゲン相手にしちゃダメレチ」
…あ~あの~ママにこのことちゃんと報告してね~。
「言われなくてもママに言いつけてお前をギタギタにしてもらうレチー!これでも食らえレチー!!」
一匹は小石を投げてきた。うんうん、こうでないとね。
程なく3匹とも帰ってきた。
「レェェェン、人間サンに失礼するなってママにイッパイぶたれたレチィィ…コンペイトウ貰って来ないともうウチの仔じゃないって言われたレチィィィ」
「ウジチャは絶対守るレチって頑張ったらママに禿裸にされちゃったレチィィレェェェンレェェェェン」
「ウチはお前も潰してもらってコンペイトウ2倍もらって来いって言うんレチィィィ…もう何も信じられないレチィィィ…レェェェン」
…へぇ~大変だったねぇ。じゃぁイッパイぶたれた子、キミからにしようかな。僕にお願いがあるんだよね?
指名された親指は一瞬ビクンとしてから
「ウ…ウジチャをつ…潰してコンペイトウ下さいレチィィィ…レェェ…こんなのあんまりレチィィ…レェェンレェェェェン」
と泣きながら蛆を差し出した。
…そっかそっか。今日はオカワリもあることだし1匹目は軽くぷちっといくかな。
裸ウジを靴の下に置いて少しずつ力を掛けていく。
「ウ…ウジチャ…しっかりするレチ~」
…いや、それは無理だろ。潰してんだから。
ぷちゃっ
という感じであっけなく潰れた。やっぱり靴で踏んだら感触はほとんどないなぁ。
蛆服にコンペイトウを詰めて親指に渡した。
次はコンペイトウを2倍貰って来いと言われた親指を指名した。
「う…うじちゃん潰して…コンペイトウ…くださいレチ…」
親指が搾り出すようにそう言ったところで口を挟んだ。
…キミはキミ自身も潰してもらって2倍コンペイトウを持って帰るように言われてるんだよね?
「そうなんレチ…ママひどいレチ…」
…でもキミを潰したらコンペイトウを持って帰る仔がいなくなってしまう。そうだ!頭巾を貸してくれないか?それ一杯にコンペイトウを入れてあげよう。
「ホ…ホントレチ!?」
…キミの頭巾なら蛆ちゃん服の2倍は入りそうだ。それでキミは大手を振っておウチに帰れるだろう?
「ニ…ニンゲンサン、ありがとうレチ!」
…但し、代償は貰うよ。キミの髪全部だ。キミに出来るかな?
「レェェェ…」
親指はしばし逡巡していたが、すぐに意を決して自分で髪を全て抜いた。
「うじちゃん、オネチャのド根性を見るレチ!ニンゲンサン、約束守ってレチ!」
…もちろんだよ。約束は守るよ。
頭巾にコンペイトウを詰めて親指に渡した後はウジを掴んでコンペイトウを…
コンペイトウを詰め込む。
1個
2個
3個
4個目で潰れた。
そのままぐちょぐちょのウジ服に構わずコンペイトウを詰めて親指に渡した。
…これで3倍だよ、よかったね。家族で分けて食べてね。
「レェェェ…なんでこんなことするんレチィィ…」
…だってキミ、うじちゃん潰してコンペイトウください、って言ってたじゃないか。
「でもでも、頭巾のコンペイトウで足りたんレチィィ…」
…え?そうだったの?僕は約束は守るヒトだからね。ちゃんと取り消してくれないと。
「レェェェェ…」
「オマエは鬼レチ悪魔レチィィーーー!ワタチがやっつけてみんなを守るんレチーーッ!」
3匹目となった禿裸親指が泣き喚きながら小石を投げ散らす。
…わかったわかった降参降参。それじゃ僕はもう行くからね。
「ぜぇーぜぇー…やったレチ…おねトモちゃんとウジチャを悪魔から守ったレチィィ…」
完全に目的を忘れてる。
…じゃあね。僕は行くけど、ママとちゃんと話し合ったほうがいいよ~。
そういって親指のすぐ後ろの茂みを指差す。
ブバ
後ろを振り向くなり盛大に脱糞した。やっぱり気づいてなかった。
親は親であれで隠れてるつもりなのだから、可笑しい。
「う…うじちゃん潰してコンペイトウくださいレチ…」
震える声で禿裸親指は言った。人間よりママのほうが怖いらしい。
…キミは、さっきも僕に石を投げた子だね?僕はちょっと怒ってるんだよ。罰としてその石使って自分でうじちゃん殺してね。
「レ…レェェェ…ワタチが自分で…そんなひどいことできないレチィ…レェェェン」
…あっそ。それじゃ僕はもう用ないから帰るよ。
ママの低いうなり声が茂みから聞こえると、親指はビクンとして
「ま…まってレチィ…わかったレチィ…」
そういうとウジの上にまたがった。
それでも躊躇していた親指だったが、
…キミ、早くしてくれないかな。
いらだち気味の僕の言葉にギクリとして、やっと石を振り下ろした。
驚くウジ。親指が何度も何度も石を振り下ろす。
親指が小石を叩き付ける力などタカが知れている。だが裸ウジの柔肌はそれで充分傷つくほど薄く、弱い。
デタラメに叩きつけられる石でウジの胸に血がにじんでゆく。
親指はウジをしばらく石で叩いていたが、その程度ではさすがにウジでも痛がるだけで全く死に至らない。
「うじちゃん痛がってるレチ~もう勘弁してあげて欲しいレチ~」
…あのね、僕はうじちゃんを殺すように言ったんだよ。できないならコンペイトウは無し。わかったね?
「レェェェ…でもとっても痛そうレチ~血もいっぱい出てるレチ~」
…キミがモタモタしてるからうじちゃんが痛い思いをいっぱいするんだよ。ヒトオモイに楽にしてあげなよ。例えばその石、とかさ。
親指にしては大きい石を指差した。
親指は石を持ってヨロヨロとウジを追いかける。
重さに耐えかねていたのもあって、ウジの上までくると即座に石を落とした。
石はウジの柔らかな下半身を一気に押し潰したが、それでは死ななかった。内臓をひきずりながら弱弱しく逃げようと必死のウジ。
「お願いレチ、これ以上はもう出来ないレチーゆるちてレチー!」
ウジの悲惨な姿に親指は脱糞しながら許しを乞う。
…キミは頭が悪いね。あのね、うじちゃんを殺すの?殺さないの?僕はもうあと5分しか待たないよ。
わざとらしく時計をみながらいらついた声で言う。
「だって、だってうじちゃんとっても痛そうレチ苦しそうレチ…おっきなお石でもラクにならかなったレチ…どうすればいいんレチ…」
…それじゃうじちゃんのオイシを壊したら?そのへんの枝とかでオイシ狙って刺して壊せばきっとすぐに楽になるよ。
「レェェェ…うじちゃんのオイシ…どこにあるんレチ…」
…そうだね、普通は胸とかかな。
「うじちゃ…うじちゃ…痛いレチ?くるちいレチ?今おねちゃがラクにしてあげるレチ…」
ウジに小枝を持って近寄る親指。
ウジは「ラク」の意味がわからず、助けてもらえるものと思って「オネチャ」にすがろうとする。
…もっと左かな?じゃぁ下かな?
そんなやり方でウジの偽石にまぐれあたりすることは無く、ウジは小枝で剣山のようになった。
しかしまだ生きている。
…そうか、じゃぁ頭だ。
「レェェ…うじちゃんの頭を刺したりなんかできないレチ…きっと凄く痛いレチ死んじゃうレチ…」
親指はもうわけがわからなくなっている。
…早くラクにしてやるんだろ?
「そうレチ…うじちゃ…今おねちゃが痛くなくしてあげるレチ…」
意を決した親指が枝をウジの頭に刺すと、目玉が1つ取れ、その奥から緑色の小さな小石が転がりだした。
偽石が外に飛び出したせいだろうか、ウジはまだ死なない。それどころか
その石が自分にとって大切なものだということを本能的に理解しているらしく、その小さな手を必死に伸ばす。
「シャラ…」
小さな小さな音だったが、それは確かに聞こえた。
ウジの大切な小さな石は、親指の手の中で砕けて砂のようになった。
…ハイ、コンペイトウ。
約束どおりウジ服にコンペイトウを詰めて親指に渡そうとするが、反応がない。
コツンと小突くと、そのままの形で転がった。
そうか、あの音は二重奏だったか。いいモノを聞かせて貰ったよ。
…これは置いとくよ。キミのだからね。
そうつぶやき、親指の死体の傍らにコンペイトウ入りウジ服を置いた。
僕はリンガルを切り、立ち去ることにした。
背中から
「デシャァァァ!」
だの
「レヂィィィィッ!」
だの
お決まりの声が聞こえてきたが、さっきの音の余韻を楽しみたかった僕はもう振り返ることはなかった。
<おしまい>
-
前の記事
ドブに落ちた実装石 2022.01.02
-
次の記事
ボロボロのサンタクロース 2022.01.04