うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ 作:珍鎮
う~ん♡ スケベ大学総合スケベ学科一年学籍番号20220721山田ハズキです。
ちょっと冷静になって考えて、風呂場で全身ボディソープによってヌルヌルの状態で同年代くらいの女子の胸に顔を埋めるとかもうほぼ交尾だろ大変な事すぎるだろ、という事実に気がついた俺は現在、新幹線の中で景色を眺めながら悶々としていた。
ショタ化して全身ソープ洗われ確かな膨らみを感じる発展途上おっぱいに包まれプレイなんてあんなもん金払っても体験できない激ヤバ特殊プレイじゃねえか。こんな事になるなんて聞いてないヨ。男は辛いヨ。
閑話休題。
タマモクロスのおかげで九死に一生を得た俺だったが、彼女には結局シャワーを浴びたあの後に詳しい事情を打ち明けてしまった。
あの『必ず見捨てないから自分にだけは話して』という言葉をそのまま信じたわけだ。
正直に言ってしまうと、現状はタマモクロスの聖女にも等しいあの優しさに頼るしか手立てはなく、この記憶喪失状態で中途半端に事情を隠したところで大した意味はないと悟ってしまったのだ。
というわけで──
「サンデー……サンデーか。あ、確か中等部にそんな子がおったような……?」
「ほ、ほんと!」
つい数時間前に思い出した『サンデー』という名前の誰か、その情報も合わせてタマモクロスと新幹線内で目的の整理をしているのが現状だ。
「と言っても年末やし、トレセンにはギリギリ残ってるかどうか……向こう着いたらひとまずご飯でもと思っとったけど、先にトレセンへ向かったほうがええな」
とりあえずの方針は決まった。あとは当たって砕けろの精神で向かってみるだけだ。元々他に方法もない。
タママクロスお姉ちゃんに共有した情報は大きく分けて三つだ。
一つは俺が記憶喪失であること。
二つ目は東京の府中が俺の目的地であり、知り合いがいる可能性が高いこと。
三つ目は『サンデー』という明らかにウマ娘っぽい名前の何者かを今朝思い出したため、彼女に会えば俺の詳しい状況が分かるかもしれない、ということ。
解決するまではそばにいる、という言葉通りタマモクロスが俺のその情報を信用してくれたため、こうして新幹線で東京へ向かっている現在に繋がるというわけである。
「ハズキ君。他に何か思い出したことある?」
「……ううん、今のところは。ごめんおねえちゃん」
「別に謝ることやないって。焦ってもしゃーないし、ゆっくり思い出してこ」
彼女は努めて明るい笑顔で俺の頭を撫で回す。なんと淫猥な手つき……モラルを弁えろよ。
ママモクロスは昨晩からもずっと鷹揚な対応を心がけてくれている。
俺がショタで記憶喪失なのも少なからず関係があるのだろうが、それを加味してもこの少女はいささか優しすぎると思った。
その優しさにつけ込む形になってしまっている事に関しては、非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
──実はショタ化した事実だけは、彼女には伝えていない。
記憶喪失の数百倍はファンタジーな現象なので言ったとしてもどうせ信じてはもらえないだろう、という気持ちが半分。
もう半分は、かわいがって風呂まで一緒に入ったショタの中身が、自分と歳が一つしか変わらない男子高校生だと分かったら普通に引いて見限られるのではないか、という思いだ。ゆえに言わなかった。
マママクロスがここまで必死になって助けてくれているのは、きっと俺の外見が頑是ない少年そのものだからだ。
同じくらいの歳の弟がいる身であれば、なおさら。
恐らくはそういう認識なのだと考えている。
もし大阪で目覚めたあの時、身体がショタではなく男子高校生のままだったとしたら、そこで彼女が手を差し伸べてくれていたかどうかは……あまり自信がない。というか声すらかけなかったに違いない。
だから、元に戻れるまではこの秘密を話すことはない。
身体が復活した後のことはその時になってから考えよう。
「ハズキ君、ポッキー食べる?」
「う、うん」
「あーん」
「う、うん……?」
マママママスに何をされようと俺は今だけ正真正銘のショタ。ボクを興奮させるその包容力が問題なのだ! 責任を取れ! 確実なアクメで。
「ん、そろそろ到着か。在来線でも新宿で乗り換えたりするから、ウチの手は離さんようにな。はい、ぎゅう」
「ぐぁ……ッ」
やわらかおてて淫猥道中ぶらり途中下車の旅。
「いくで~」
「は、はい……」
もう完全にタマモクロスの弟の枠に収まっちゃった。握った手が温かくて……住みたい街ランキング。
年末ということもあってか駅は人でごった返している。割とマジではぐれたらシャレにならないかもしれない。
「あと二分か……ちょっと走るでハズキ君」
「わわっ」
ひょこひょことお姉ちゃんについていきつつ、思考停止だけはしないよう頭の中で今後のことを思案していく。
サンデー、という人物が誰なのかは分からない。
顔はおぼろげで、俺から見た場合にどういう立ち位置の相手だったのかも定かではない……が、現状唯一の手がかりなので彼女を探すしかないのもまた事実。
府中に行くべきだ、という根本に残っていた目的意識だけでそのサンデーさんをトレセンの生徒だと勝手に決めつけてしまっているが、いなかったらいないでそれまでの話だ。
少なくとも府中へ赴けば手がかりは何かしら見つかるはず。
とにかく今はタマモクロスが協力してくれているうちに少しでも行動しておかなければならないのだ。
それから──
「あの、おねえちゃん」
「どした?」
「新幹線の往復代、あとで必ず返すから……」
「……まぁたそないなこと言って。気にせんでええってば」
「だ、ダメです」
タマモクロスが俺に使ってくれた旅費の返済は絶対だ。
新大阪と東京の往復、それからこっちでの電車賃を合わせれば余裕で三万を超える。
そこに俺の分の料金も加算されるためマジで冗談にならないのだ。
高校生のお財布事情を考えると頭が痛くなるような激ヤバ出費であり、これは甘えるだとか子供だからとかそういう話ではなく、人としてそのまま流してはいけない案件なのである。
「ほんと、返すから。だからそのまま帰ったりはしないでください……」
「いや、そもそも貸したつもりなんて……ウチがやりたくてやっとる事やし。……まぁ、ハズキ君がそこまで言うなら了解や。勝手に帰ったりはせんから安心してな」
ぽんぽん、と頭を撫でたママお姉ちゃんは少し困ったように笑った。あまりにもかわいすぎ。そろそろいい加減にしておけと言ったところ。
返済はもちろんだが、これは一応タマモクロスをすぐ帰さないための理由作りでもある。
優しさから来る協力だけでは誤魔化されてしまう可能性があるのだ。
お金の返済という約束事まで持ち出せば、少なくとも即座に彼女が大阪へ帰ることはないだろう。
「ありがとう、おねえちゃん」
「……もう、お礼なんてそないにいちいち言わんでもええねん。……なんか小っ恥ずかしいわ」
「かわいい……」
「ん、いまなんか言うたか?」
駅構内の雑踏の音で聞こえなかったようだが可愛いって言いました。かなり言った♡ ボンビョーー♡
もう既に一度頼ると決めた相手だ。
ここまで来たら存分に助力を仰ぎまくる。
今の俺は絶対絶命の大ピンチなので、手段を選んでいる場合ではないのだ。
タマモクロスには悪いがもう少し手伝ってもらう。
この貸しは体が戻ってから返させてもらうことにしよう。なんでも言うこと聞くチケット百枚とかで手を打ちませんか? 本当に心の底から申し訳ございませんでした。
◆
電車に揺られること数十分。
タマモクロスと俺は無事に府中へ到着し、いよいよトレセン学園の校門前までやって来た。ド緊張♡
ここへ訪れた理由はただ一つ。
サンデー、という名前のウマ娘に会うためだ。
「……あれ? タマモさん……?」
「おっ、ライス。ちょうどよかったわ」
さりげなく敷地内へ入っていくと、長い前髪で片目が隠れたウマ娘がベンチに座っている姿を発見した。今の会話からして二人は知り合いなのだろう。
にしても美人な黒髪のウマ娘だこと。ぐふふ、あそぼーよ! 保健体育ごっこ。
「タマモさん、この前帰省したんじゃ……」
「あー……ちといろいろあってな。ライスこそまだトレセンに残ってたんか」
「えと、まだこっちでやらなきゃいけない事があって。とはいえ学園は出なきゃだから、ついさっきまで急いで荷物を詰めてたんです。寮はそろそろ閉まるらしいし……他のみんなも今日中には出るんじゃないかな……?」
この時期にトレセンに残っている生徒のほうが珍しいようで、周囲を見渡してもあまり人影は見当たらない。
どうやら本当にマジのガチでギリギリだったようだ。
サンデーというウマ娘の話を聞くには今日しかチャンスがないらしい。
「そかそか。……ふう、とにかく人がいる時間には間に合ったみたいで何よりや」
「……? ──ッ! え、ぁ、たっ、タマモさん、その男の子は……?」
仮称ライスさんが目線を下に向けたことでようやく俺に気づいてくれた。学校に弟を連れてくることなんてそうそう無いせいか、姿は認識されていたがタマモクロスの連れだとは思われていなかったようだ。
連れですよ。ええ。姉弟とも言うかも。
「あぁ、この子はハズキ君っていうんや。ええと……親戚の子とでも言うべきか……とりあえずワケあって今はウチが預かっとる」
「──は、
少し怪訝な表情になったライスは膝を折ってしゃがみ込み、小さい俺と目線を合わせてくれた。
「……」
きゃあ! やたら美人な上に顔が近い。もしかしなくても興奮してるんだよな? 正体見たり枯れ尾花。ボクのお姉ちゃんになりたいのなら構わないけど……。
「……葉月くん……っていうんだ」
吸い込まれるような瞳、和をもって良しとなす。よーしどうやら洗脳は完了したようだな。
「…………」
「ら、ライス? どないしたん……?」
「……え? ──あっ! えっ、えとえと、ごめんなさい! しょしょ初対面なのに急に見つめちゃってごめんなさいぃ……っ!」
ショタショタだから見惚れちゃって? まったくしょうがない仔猫ちゃんだ。あなたならいくら見つめたり何度触ったりしてもオッケーです。ライスお代わり自由。ライスお触り自由。
「平気か、ライス……?」
「は、はい。……その、好きな人にちょっと似てるなぁと思って、つい……」
「えっ……」
「──っ!? ぁっ、いや、今のはちち違うの! ごめんなさい失礼なこと言って!! ぁ、あぅ~~……!」
とんでもない焦燥だ。そんなに彼女の心を掻き乱す存在と似ているのだろうか、俺は。
というか、もしかして普通にライスが高校生の俺と関係のある人物だったりしない?
しかしそうなると彼女が好意を寄せている相手が俺ということになるが──それはちょっと天文学的な確率……♡
完全に無いわけではないが限りなくあり得ない。イメージとしては宝くじの一等くらいだ。辛くなってきた。
「あー……その、とりあえずハズキ君のことは一旦置いといて。悪いんやけどライス、ちょっと聞きたいことがあるんや」
「き、聞きたいこと?」
ようやく本題に入れたようだ。長く険しい道のりだった。
「うん、サンデーって名前のウマ娘に心当たりないか? 似てる名前ってだけでもええんやけど……」
「サンデー、さん……? ──あっ」
ママお姉ちゃんママの質問を受けたライスは少し考える素振りを見せたあと、思いついたように耳がピクンと揺れ動いた。そういうシステムなんだそのデカ耳。
「えと、マヤノちゃんといつも一緒にいる子がそんな名前だったような……」
「ホンマか! マヤノ……マヤノトップガンやったか?」
「うん。さっき見かけたからまだ学園内にいると思うよ」
「よっしゃ、ついとるで……! トレセンを出る前に探さな!」
「ぁあの、ライスもマヤノちゃん探すの手伝います……!」
「いや、顔は分かるしマヤノはウチが爆速で見つけてくるから、その間ライスはハズキ君と一緒にいたってや! 頼むでーッ!」
……と、そんな流れで俺は黒髪の少女と二人きりにされ、お姉ちゃんの帰りを待つことになったのであった。
ちなみにこの少女の名前はライスシャワーと言うらしい。
なんとなく懐かしい響きな気がする。
会話する度に
「……行方不明?」
そしてタマモクロスを待つ間にもう少々の会話を試みたところ、件の
「う、うん。クリスマスイブの夕方くらいから……それで、名前が秋川葉月さんって言うから、あなたの名前にもつい反応しちゃって……ごめんね」
「いえ、それは全然……」
葉月。
秋川葉月。
うん。
「あの、ライスさん。その人の顔がわかる写真とかあったりしませんか」
「写真? えぇっと……あ、これとかハッキリ写ってるかも。他校の合同イベントのお手伝いに行ったときに最後に撮った集合写真。……あ、この人だよ」
ライスシャワーが指差した箇所には眼鏡をかけた太っちょなお兄さんの姿があり、その隣に……こう、特にこれといった特徴がない普通の男子が立っていた。
強いて言えば前髪にほんの少しだけ白髪が混じってるように見えるくらいで、マジで痩せ型の男子高校生としか表現できない人物だ。
「……探してるの。すごく大切な人だから」
ライスシャワーは子供の俺がいる手前小さな笑顔こそ崩しはしないが、その表情には確かな陰りが見えた。
こんな美少女に好かれているにもかかわらず行方不明とはどういう了見なんだ。無事を願うのは当然として、もし真相が家出とかだったらマジで許せん。
「そうなんだ……秋川葉月さん……」
ジッ、と写真を見つめる。
「秋川、葉月…………
──ん?
「あれ……」
一回待って。
ちょっと待って。
冷静に俯瞰して考えて、自分の顔立ちも思い出して。
──この写真に写ってる男子、俺じゃね……?
「おっと……」
頭を抱えそうになった。
判明した。
これはおぼろげな記憶云々の話ではなく──確信だ。
いや、普通に俺だなコレ……。
元の高校生の姿の自分で間違いないだろう。
山田ハズキじゃなくて秋川葉月だよ俺。ハズキじゃなくてハヅキです。ねばっこい真実が写真全体にプロットされてるぞ。これは正規情報だな。
なんか都合よく連鎖的に他の記憶が戻ったとかではないものの、俺の元の姿がこの男であることは間違いない確信として心に刻まれた。
そもそも鏡やらなんやらで結局は人生で一番目にした機会が多い顔なのだ。きっかけさえあれば名前も顔も思い出せるのは当然と言える。お前が俺で俺がお前。
……ということはつまり、記憶を失っていない時代の俺は……どうやらこのライスシャワーから異性として好意を抱かれていたようだ。
──大事件じゃねえか。
さっき『好きな人』とか『大切な人』ってめっちゃハッキリ言ってたよな? こんな美人なのに俺なんぞを愛しているだなんて正気の沙汰ではないぜ。僕だけのヴィーナス♡
「で、でも、絶対に見つけるよ! 年末年始はウオッカちゃんと一緒に、マックイーンさんのお屋敷に泊まらせてもらうんだ。こっちにいないと探せないから──あっ」
「……?」
「あのっ、ご、ごめんね。こんな、話さなくていいことまで……」
気持ちが先行してこれからの予定を無関係な子供に話してしまったと考えてるらしいが気にしなくていいよ。探してる本人が俺だからね。正体を隠してて誠に申し訳ございません。
「おーいライスとハズキ君! お待たせーっ!」
ライスシャワーにどんな言葉を伝えてやればいいのか分からずしどろもどろになっていると、ちょうどいいタイミングでタマモクロスが戻ってきた。時節が良すぎ。愛するお姉ちゃんお下品だよ。イけ!
「ふうっ、うし……連れてきたで。ほらマーベラス
「この子が! そうなんだ~!」
「ど、どうも──」
ついにサンデーという名を冠するウマ娘とご対面ということで、ベンチから降りて彼女の方を向いた。
向いた。
そう、向けた。
顔を、すぐ近くまで来ていたその少女の方へ向けた。
「マッ?」
そして──ぽよん、と事故った。
「……?」
「アハハっ☆ お顔がアタシのおっぱいに当たっちゃった! ごめんね!」
……。
「……?」
──ッ?
え、いま事故った?
俺がショタ体型だから中高生のその少女よりも身長が低いのは当然として、何にぶつかって事故った?
さっきこのウマ娘、アタシのおっぱいに当たっちゃったって言ったか?
……………………ェっあぇっア゛!!?!?
「ごめんなさい!!!!!!!!」
「え? ぶつかっちゃったのはこっち……でもすぐに謝れてマーベラス☆ 気にしないでね!」
「ぁあっはっはい」
取り乱しつつも全力で謝り倒すべく土下座しようとした瞬間、それを察知したのかはたまた別の思惑があったのか、とにかく俺の顔にデカすぎる乳でダイレクトアタックをかましたその少女は俺の両肩を掴んで土下座を阻止した。恐ろしく速い。
──デカ乳デカ乳デカ乳デカ乳デカ乳。
何だコレは、何なのだコレは。あまりにもあまりにもあまりにも違法建築が過ぎるだろ。猛き神よ鎮まりたまえ……!
「っ? どうしたのかな、緊張してる? 大丈夫だよ、マーベラスだから☆」
ちょっと何を言ってるのか分からないがその比較的小柄な体躯とはアンバランスなデカデカ乳房が目の前で揺れている事だけは疑いようのない真実であった。ぐぅ、この乳が触れたことへの無頓着さと違法な大きさの乳、トレセンでは犯罪ではないんですか?
「え、えと、あの……オレ、あき──っ山田ハズキって言います……」
「アタシはマーベラスサンデーだよ☆ まさかトレセンにまで会いに来てくれるなんてとってもマーベラス! そんなマーベラスなファンの子にはマーベラス抱擁っ☆」
「ぐぁっ…………!!!」
俺を熱心なファンだと勘違いしたマーベラスサンデーが正面から抱きしめてその胸の谷間に俺を挟み込みやがったわけですが解説のタマモクロスさん、どう思われますか。世の中を甘くみちょるな? なるほどそういうことか……そうだったのか……。
「そうだプレゼント! 何かあったかなぁ……あっ、さっき買った変なお茶をあげるっ☆」
そのまま抱きしめながらズボンの後ろポケットに未開封のペットボトルを差し込んできた。うれしい♡ 変態もいい加減にしろといったところ。
「むぐゥ゛……」
「は、ハズキ君? 探してたのホンマにこの子で合っとるんか……?」
「ちっちがう気がする……」
絶対に違う。体重かけたハグ気持ちいい……ッ! 体重かけんな!
なんか心の底でこういう展開を望んでいたような気もするが、それはそれとして俺の記憶の奥底で垣間見た存在とは全く異なると、本能が強く警告している。
サンデー……確かにサンデーなのだが、たぶんちょっとどころではない不一致度だ。
この乳のデカさはもはやマーベラスサンデーではなくキャプテン・マーベラスである。派手にイグっ♡
「そ、その、体型で言うとタマモお姉ちゃんくらいで……もう少し身長が高かったような……」
「マ?」
はい、マです。百億パーセントこの少女ではない。
「でも大ファンです。大好きです」
「なんて真っすぐな目! とってもマーベラスな男の子だね☆」
驚異の……胸囲の侵略者にようやっと解放され肩で息をする。
これと言って確証のある情報ではないため、現在進行形で周囲を振り回している可能性も大いにあるが、俺の記憶の残りカスを言語化できるのもまた俺しかいないので、もし間違っていても出せる情報は出しておかなければならないのだ。出せっ♡ 出せっ♡
「た、タマモさん。そういえばマヤノちゃんは……?」
割って入るライスシャワー。正直助かる。
「あぁ、部屋で荷造りしとったで。マベちん、途中まで一緒に新幹線で帰るんだー、って」
「マヤノっ! そうだマヤノと帰らなきゃ! それじゃあキミ、今度はレース場で会おうね! マーベラース☆」
そんなこんなで申し訳ないことにサンデー違いだったマーベラスサンデーは気にする様子もなくその場を去り、まもなく友人と思われるウマ娘と一緒に学園を出ていった。
「ご、ごめんおねえちゃん。せっかく呼んできてもらったのに……」
「マーベラスも気にしてへん様子やったし、全然。……にしても、薄い体型の子か……」
言い方はちょっとアレだが概ねそんな感じです。
割と可能性が高かった学園のサンデーさんはマーベラスサンデーで、しかし目的の少女の外見的特徴は思い出せた──なんだか一歩前進したんだか振り出しに戻ったんだかよく分からない状況だ。これからどうしようか。
……ん?
「お待たせっす、ライス先輩! 荷造り終わったんで早速マックイーンの屋敷に──あれ、タマモクロス先輩?」
「ん……おぉ、ウオッカか」
校舎からライスシャワーと同じく前髪で片目が隠れたウマ娘が出てきた。
黒い髪のその少女は大きなボストンバッグを片手に俺たちのそばまで駆け寄ってきて、そこでようやっとタマモクロスの存在に気がついたらしい。
「なんや珍しい組み合わせやな。ウオッカは年末年始、ライスとお泊り会を?」
「あはは、そんな平和なモンではないっすけど……今年はこっちに残ります。やらなきゃならないことがあるんで」
努めて明るい表情で話しているが、その目はどこか覚悟が決まったような力強さを湛えている。
そういえば先ほどライスシャワーと話した時、この少女と共にマックイーンというウマ娘の自宅を拠点にして、件の男子高校生俺くんを探すと言っていた。
ここまで多くの人を巻き込んでしまって申し訳ない気持ちがある──その反面、どうして俺がそこまで周囲に探されているのかが分からない。
記憶がある時の俺、マジで何をしていたんだろうか。
何がどうなったらトレセン学園とかいう名門のエリートウマ娘たちが直々に俺を探そうとするんだ。激ヤバな恨みとか買ってました?
……ライスシャワーの件といい、もしかするとこのウオッカという少女からも、少なからず特別な感情を向けられているという可能性も無くはない。
知りたい。
以前の俺はどんな人間だったんだ。
いや、まぁ根っこは今の俺とそう変わりはしないのだろうが、どういう道筋を辿ればこんなスゴい人物たちに影響を与えつつ記憶喪失になってショタ化するというのだ。ルート選択でふざけすぎ。
「……ハズキ君、さっき言うとった身体的特徴はウオッカにも当てはまると思うけど……」
タマモクロスがコショコショと耳元で囁いてきた。お耳がふやけちゃう。
「えと、もう少し髪が白っぽかった気がして……」
「白っぽい……明るい髪か……」
なんとか段階を踏んで少しづつ思い出してはいるのだが、やはり顔が出てくる気配は感じられない。
こう、例えるなら忘れてしまった単語が喉元まで出かかってる感じだ。あと少しで思い出せそうなのだがその一歩がどうしても足りない、という感じでございます。
「うーん……明るい髪っちゅーと……あの子くらいか?」
「えっ」
タマモクロスが遠くへ視線を向け、釣られて俺もそちらの方を向いた。
見た先にあったのはトレセン学園の正門だ。
──そこには二人のウマ娘が話し合っている姿があった。
「それじゃあマックイーン、また明日の夕方頃よろしく頼むわね」
「……ええ、それはもちろんですわ。けれど……」
「ん、どうしたの?」
タマモクロスと同じでいわゆる芦毛に該当するウマ娘が浮かない表情をしている。
そして、もう一人。
「……スズカさんあなた、流石に無理をし過ぎているのではなくて?」
「っ!」
「いつもの凛々しいあなたを知っている身からすれば、目元の疲労が隠しきれていない事など一目瞭然です。スズカさんの立場は理解しているつもりですけれど……トレーナーさんに掛け合って、一日くらいは休息を──」
「……気持ちは嬉しいけど、私は有馬を制したウマ娘だから……そんなことできないわ」
わおわお! 驚異的ワオの一言。あそこにいるのは、はい、どう見てもサイレンススズカです……♡ 合宿免許なら最短二週間で童貞卒業可能。
まさか大阪の巨大スクリーンで目にしたあの今年最強のウマ娘が、あんな目と鼻の先にいるだなんて信じられない。お姉ちゃんもそう思うよね? スペスペぇ~ッ!
「私が追い越したウマ娘も……これから有馬を目指す後輩や子供たちも、私の一挙手一投足を有馬に勝ったウマ娘のものとして認識することになる。だから弱いところなんて見せられないの。私は……サイレンススズカだから」
「で、ですが……っ」
どうやら大事な話をしてるっぽいので急速接近はご法度らしい。
しかしお姉ちゃんを含めた俺たち四人は彼女らに声をかけるつもりで既に近づいてしまっていたため、咄嗟に外壁の陰に隠れたものの会話自体は丸聞こえだ。
「テレビやラジオには出るわ。雑誌のインタビューにだって答えるし……一般の人に写真や握手を求められたら、望まれたように笑顔で振る舞う。嬉しいのは本当だしね。……そうあることが、サイレンススズカとしてきっと正しいのよ」
「……正しいか間違っているかだなんて話ではありません。もしそれでスズカさんが倒れてしまったら──」
そう言いかけたその瞬間、一陣の風が吹き、栗毛の少女の前髪を揺らした。
「倒れないわ。何があっても」
そうして見えたのはどこか悲し気な、憂いを帯びた笑みであった。うひょ~なんだそれ♡ 美人でイケズな女。しかし瞳の中に光がない! これは早急に喜びを与えなければコトだな。
「
「い、命……?」
「……そういう責任が私にはあるの。……それこそ、籠ってしまったカフェさんの分まで」
「ですが、スズカさん……」
「ごめんなさい、マックイーン。夜遅くまで彼の捜索を手伝ってくれているのに、ドーベルのことまで任せてしまって。……でも今のドーベルにはあなたのような強いウマ娘がそばにいてあげないと」
「──んもうっ、わかりました、分かりましたから! ……はぁ」
ともすれば闇落ちしているようにも見える少女の言葉を遮り、一度困ったように額に手を当てる芦毛のウマ娘。
そして少々の逡巡を挟んだのち、彼女は目を開き真剣な表情でサイレンススズカと向き直った。キリっとしたお顔が素敵。
「……余計なことはもう言いませんわ。けれど、せめて睡眠はしっかりとってください。とりあえず明日の捜索は私たちだけで行いますので、スズカさんはいらっしゃらないでくださいまし。……明日のその時間くらいは休養にあててくださいね」
「えっ、でもマックイーン」
「い・い・で・す・わ・ね?」
「……え、えぇ。わかったわ……」
芦毛の少女による鬼気迫る説得が功を奏したのか、翌日の予定程度であれば多少の融通が利くようになったらしく、サイレンススズカは観念して『それじゃあまた明後日……』と呟いてその場を離れていった。うぅっ論破! 論破です!
あの芦毛のウマ娘──相手を慮り、自分が嫌われる可能性も加味した上で、それでも折衷案を意見し納得させるとは、なかなかに強かな少女だ。
マックイーンというらしいが、彼女がライスシャワーとウオッカの宿泊場所の提供者……それから先ほどの会話から鑑みて、あの少女も高校生の俺を探してくれている内の一人として見て間違いないだろう。
……もしかすると警察まで動いているかもしれないし、マジめっちゃ早急に元に戻らないと大変なことになるな。悪辣で非常識。
「ふう……捜索を続けても手がかりは見つかりませんし、どうしたものか……──あら、タマモクロスさん?」
「おうマックイーン。なんか悪いな、大変そうなときに」
「いえ、お気になさらず。多忙なんて今に始まったことではありませんから。……ところで、この男の子は?」
ようやく一人になった仮称マックイーンさんの元へ赴くと、意外にも彼女はすぐさま俺の存在に気がつき、しゃがんで目線を合わせてくれた。
「ウチがいま預かってる子や」
「ど、どうも初めまして……」
「なるほど……ふふ、礼儀正しい子ですわね。私はメジロマックイーンと申します。あなたは?」
「山田ハズキです」
「……そう、ハズキさんですか。良いお名前」
ふわりと柔らかい笑みを浮かべて俺の頭を撫でるメジロマックイーン。この距離感なら男もみんな発情することでしょう。
「ところで、すまんマックイーン。ちょっと聞きたいんやけど……サンデーって名前のウマ娘に心当たりとかないか? マーベラスサンデーのことではなくて……」
「サンデー……さん?」
もう学園内にも生徒はほとんど残っておらず、トレセンでサンデーのことを聞けるとしたらこのメジロマックイーンが最後になる。ここで少しでも手掛かりが掴めればいいのだが。
「……あ。ドーベルが以前、そんな名前をカフェさんとの会話の中であげていたような……?」
ビビるほどとんでもない巡り合い。果てしない運命力。しかし奇跡はグイグイと引き寄せるものだ。えっさこらさ。
「ほ、ほんまか! よう覚えとるな……」
「ちゃんと名前があっているかは分かりませんけれど。それで、その方がどうかされたのですか?」
「あぁえっとな、それは──うぅん……なんて言ったらええんやろか……」
タマモクロスが少し言葉に詰まったその時、俺は彼女の袖を引いて首を横に振った。
「おねえちゃん、オレから話すよ」
「ん……自分でちゃんと話せる?」
「うん、だいじょうぶ」
心配してくれるのはイクほど嬉しいが俺を誰だと思っていやがる。おじさんがここまで培った老獪な手練手管舐めるな。このような小娘一捻りじゃわい。
「メジロマックイーンさん。初対面なのにいきなり、不躾なお願いになってしまって申しわけないんですけど……ドーベルさん、という方に会わせていただけませんか」
「ドーベルを……あなたに?」
この府中に戻ってきてから一番可能性のある道が見えたのだ。ここを進まない理由は無い。
もちろんかなり無茶な要求をしているのは重々承知だが、ここはタマモクロスの連れという位置エネルギーと、俺自身の話術を信じる。
「はい。オレはいまサンデーというウマ娘を探してるんですけど……どうしても彼女に会わないといけない理由があるんです」
「……そのサンデーさんとあなたはどういった関係で?」
えへへ、わかんねえだろ。俺も分かんない。
しかし適当な理由をでっちあげてでもメジロマックイーンをこの場で納得させないと完全な手詰まりに陥ってしまうのだ。めっちゃ頑張って納得させないと。俺の意思表明を心ゆくまでご堪能ください♡
「た、大切な人なんです。家族や友人ではない……と思うんですけど、もう一人の自分と言っていいくらいの相手と言いますか……」
「……?」
勢いに任せて言いたい事から口にしていたら、なんか説明が要領を得なくなってきた。どうしよどうしよ。
「──記憶喪失なんや、ハズキ君」
「えっ?」
なんとそこで助け船を出してくれたのは偉大なるトレセンに輝く我らが大お姉ちゃんであった。
「そのサンデーって子がハズキ君の中では、正確に覚えてる数少ない身内の名前でな。警察の人らに頼っても見つからんかったから、もう自分の足で手掛かりを探すしかないのが現状……ってとこ」
「なる、ほど。そんな事情が……」
適度にウソも交えつつ状況を簡潔に伝えきるとかあまりにもフォローが完璧すぎる。ちょっと真剣にあなたとの子供が欲しくなってまいりました。子育ては雑誌とか参考にしてしっかり頑張ります♡ タマモクロス・ヒヨコクロス・コッコクロス。
俺も喋らなきゃ……。
「あの、そういうわけでドーベルさんにお会いして、少しでもいいので話を伺いたいんです」
「……そちらの事情は把握いたしましたわ。……ですが、今のドーベルもいろいろあって少々不安定な状態なのです」
そう言ったマックイーンの眉間には皺が寄っている。どうやら現時点でドーベルという少女は、こちらの想像以上にメンタルがやられてしまっているようだ。一体何があったのだろうか。
「ですから見知らぬ相手との応対は、少なくとも今は難しいかと。あなたの記憶のことは心中お察しいたします……しかし、私もメジロのウマ娘として、同輩の彼女の負担になるようなことは認められません。現在のドーベルには……とても余裕が無いのです」
「……そ、そうですか。……ごめんなさい」
彼女の言葉の内容からして、今すぐドーベルという少女とコンタクトを取るのは不可能なようだ。遂に行動に対してストップがかかってしまった。
……考えてみると、逆にここへ至るまでの道のりが順調すぎたのかもしれない。現在の俺は誰とも知り合いではないよく分からんショタなわけで、普通はこんな感じで待ったをかけられて然るべき立場なのだ。
──いや、ちょっと待て。
まず一回落ち着いて思考をフル回転させろ。レシプロエンジン。ぶるるんるん♡
いい加減この記憶喪失の状態に振り回されるのもうんざりなのだ。いまさら常識を突き付けられてストップしている場合ではないだろう。
いいから考えろ。
今さっきサイレンススズカとメジロマックイーンがしていた会話の内容を思い出せ。
あの時、二人は誰かを捜索している旨の発言を繰り返していた。
二人とも『彼』とか『あの人』だとか言って固有名詞は口にしていなかったが、いざ俯瞰して考察してみればソレが誰なのかはハッキリくっきり丸わかり♡ ではないのか。
一つ、ライスシャワーは秋川葉月を大切な人だと発言し、府中に残ってウオッカと共に彼を探すつもりだと口にしていた。
そしてもう一つ、ウオッカとライスシャワーはこれからマックイーンの屋敷を拠点にして活動するつもりだった。
その上述の二人と協力しているメジロマックイーンが『捜索』している対象が、まさかそれとは別の相手だなんてことは冷静に考えてありえないだろう。
一緒だ。
つまりマックちゃんが探している存在とは、俺のことだ。
ということは、サイレンススズカが寝不足気味で目元の疲労が見て分かる状態になるまで必死になって探している相手も──ようするに俺ということだ。
……はーい一回落ち着いてハズキ君♡ おい動揺するな! 風情がない。ショタ化してからずっと懊悩ばかりですよホント♡
うるち米。
そうだな、いま判明している状況証拠で考察すれば確かに、記憶を失う前の俺ってなぜかエリート中のエリートである中央トレセン学園のウマ娘たちが直々に探そうとするほど、その存在を求められている謎の男子ってことになるが……もうわかった。一旦それで納得しよう。
そうなんだろう。
まぁ信じ難いことではあるが、きっと俺はそうなるに値するだけのルートを進んできた男だったのだ。
今年一番のウマ娘であるサイレンススズカにすら探されているようだが、とりあえず納得しておこう。
俺はこの少女たちに必要とされている。
なんかそういう感じの立場なんだ。ウマ娘たちの関心を一手に引き受ける、王の器を持つ男なのだ。え、ホント? いやホントだ! 無理を通せば道理が引っ込むというもの。エキセントリック。
だから──俺はもう二度と自分を疑わない。
いっそ俺は俺を信じて、この場で俺自身を武器にする。いつだって切り札は自分自身なんだ。負けないお~♡
「あなたも大変なのに……ごめんなさいハズキさん。彼女の心身が良くなって以降であれば、私からドーベルに聞いておきますので。連絡先もタマモクロスさんに渡しておきます」
「……あの、マックイーンさん」
そうして話を切り上げて立ち上がった芦毛の少女に対して、今度はこちらが彼女を見上げて眦を決した。
「……申し訳ありませんが、ドーベルのことは今は」
「秋川葉月さんのこと、オレも少しだけ知ってます」
「──ッ!?」
申し訳なさそうな顔で話を切ろうとしたマックイーンに対して、俺は自分が持ちうる最大限の情報量で彼女に待ったをかけた。
秋川葉月、という単語はこの場において一度も使われていない。さっきのマックイーンとサイレンススズカの会話の中でも同様だ。出てきたのは俺とおむライスが二人きりだったときのみ。
なのでこのワードはこの状況において、何も状況を知る筈のない俺の口から出るからこそ最大限の火力を発揮する、俺が唯一無二の武器として使えるキーワードなのだ。
「そ、それはどういう……っ?」
そして予想通り、マックイーンは狼狽してくれた。近くにいるウオッカやライスシャワーも同様だ。
ママクロスママお姉ちゃんだけは、一度目を見開いて以降は静かに俺を見守ってくれているが、あれはこの場は俺自身に任せるという意思表示だろう。安心して身を任せて♡ 今日は健康診断を兼ねて検査もしていきますね。
「いまも記憶喪失ではあるんですけど……府中に戻ってきて、こうしてマックイーンさんの前に立ってから、少しだけ思い出したことがあるんです。オレは秋川葉月さんを知ってる、って」
「……例えばどのようなことを……?」
おっちょっと興奮気味かな? えっちだね。
「ご、合同イベントのとき……」
「っ!」
そんな一瞬でも記憶が蘇るはずもなく、なんとかライスシャワーから得た情報でやり繰りするしかないわけだが……まぁ当たって砕けろだ。
ミスったらその時はその時。
応用力とハッタリで上手くこの場を切り抜け、マックイーンを納得させられるかどうかでこの先の難易度が大きく変わってくるのだ。恐れている場合ではないぜ。ミミズ千匹モグラは百匹。
「マックイーンさんと一緒に問題を解決したんですよね……?」
「……発表の順番で揉めていらした演劇部と映画研究部の皆さんを仲裁した、アレですか」
それっぽいこと言ったらヒットした! ボーナス確定。
ここは失敗を恐れず追撃あるのみだ。
ライスシャワーからの情報以外で言えば、今の俺が確信として持っている過去はこのトレセンについてだ。
明らかに内部の者としか思えない知識があること自体は、大阪にいた昨日の時点でしっかり思い出していた。
それからマックイーン本人も俺を探そうとしている点から、少なくない交流もあったと考えられる──ので、ここは無関係な他校の男子ではなく割と仲良しさんだったトレセンの関係者だった、という前提で攻めていこう。この冴えわたる意識の高さ、アンナプルナ。選択と集中!
「そ、それからトレセン学園内でもマックイーンさんに助けられた」
「……ずぶ濡れで倒れていた秋川さんを見つけて、自室へ匿った話ですか?」
「そうです」
知らんけど。
「あ、あと、入院したときもマックイーンさんが……」
「……商店街で倒れていらっしゃったときは、確かに私が救急車を呼びましたわね。後日病室にも伺った……」
うまくハマってくれたようだ。俺の機転には毎度驚かされるばかりだよ。エステティシャンになれるかも……♡
ちなみに『入院』という、下手したら無かったかもしれないイベントをそれでも口にしたのは、そもそも敵っぽいナニカと闘って(?)ショタ化するまでボロ雑巾になった自分のことだから、きっと何回かは入院していてもおかしくないだろうと考えての発言だ。
そこにマックちゃんが居たかどうかは賭けだったが、彼女が自ら過去をすり合わせてくれたおかげで、フワフワな発言が実際の過去と合致してくれた。これは嬉しすぎる誤算だ。落ち着いてアクメしていきましょうね。
「……その、つまりオレは秋川葉月さんからそういう話をたくさん聞かされるほど、身近な存在だった……っていうことだと思うんです」
「なるほど……それは、確かにそうかもしれません。……今の情報からして、少なくとも無関係な存在ではありませんわね」
まあ身近な存在というか本人なのだが。本人なのでハッタリも一部真実として曲解できるぜ。
「それで、あの人が『もし俺が姿を消したらその時は』……って、何かオレに言い残していた気もするんです。その中にマックイーンさんと……ドーベルさんの名前があったような……?」
「……っ!!」
いまのは全部ウソです。ドーベルに近づく理由を付けつつ、マックイーンの関心も引けるよう彼女の名前も入れといた。コレも全てはかつての自分を取り戻すため……ゆるして……。
「そ、それはどんな内容なのですか!? 秋川さんは私とドーベルに何を……っ!?」
「あわっ」
咄嗟に両肩を掴んで迫るメジロマックイーン。焦るな! 急いては事を仕損じる。もうちょっと淑やかにアクメしてくださいね。
「えと、それを思い出せなくて……だから、ドーベルさんにお会いできればその内容も出てくるかなって。そこで彼女からサンデーさんの話も聞けたら、秋川葉月さんを見つける手掛かりも思い出せるかなって……」
ちょっとデタラメなことばかり言っているが、サンデーを知っている『かもしれない』ドーベルという少女に会えれば記憶が戻る『かもしれない』、というのは本当の話だ。仮定ばっかでイヤになってくるが。
なんにしても記憶が帰ってくれば元に戻る方法も自ずと分かるはずなのだ。
だからウソでもなんでも言いまくって状況を好転させないと。
そもそも俺がショタのままだから、周囲にいるこの少女たちを困らせているワケなのだし、彼女たちの為にも大人の身体に戻るのは急務なのだ。すすめ~! ユニーッ。
「……あなたが、秋川さんへ繋がる手掛かり……」
了承するって言ってください。言え! まちがえたイけ! ゆっくりイこうね♡ 焦らなくていいよ。
「ど、どうですか」
「……」
「あの……」
「…………分かりましたわ、ハズキさん」
「っ!」
須臾にして腹を決めたメジロマックイーンは再び膝を折り、また俺と目線を合わせてくれた。攻略完了! スタンプブチュチュンパキッスも忘れるな。
「ドーベルは確かに……今は難しい精神状態です。……ですがハズキさんもまた、記憶喪失で自らを模索し続けていて、とても辛い状況に身を置いている──その事をしっかりと考えていませんでした。申し訳ございません、ハズキさん。私が浅慮でしたわ」
「そっ、イヤあの……ご、ごめんなさい。どうかあやまらないでください、マックイーンさん。記憶喪失なのは百億パーセントこっちが悪いので……ほんとごめんなさい……」
「……っ!?」
もう腰から綺麗に折り曲げて頭を下げた。この一段階下までいくと土下座になることはみなさんご存じですね。
「えっぁ、あの、そこまで謝らないでくださいまし……! こんな、小さな男の子にここまで謝罪させてしまっては……!」
「ハハ、すまんなマックイーン。ハズキ君はこういう子なんや」
「……とても小学生くらいの男の子とは思えませんわ……」
「まぁ、せやな。ウチもそう思う。……ほらハズキ君、マックイーンもええって言うとるし顔上げて」
「わっ」
お姉ちゃん姉お姉ちゃんによって半強制的に上半身を起こされた。
──とりあえずは上手くいった、という認識で合ってるのだろうか。
「あー……わりぃマックイーン、もう話は終わったのか?」
「え、えぇ。お待たせしてすいません、ウオッカ」
「いや俺はいいけど……それにしても」
きゃあ! お顔がまた近い。
今度は後方でジッと話を聞いていた黒髪ウマ娘二人組が俺の近くへやってきた。ウオッカとライス。チップとデール。
「秋川先輩の知り合いだったのか、お前……」
「もしかしてお兄さんの……弟さん、とかなのかな?」
「おぉ、言われてみれば確かに顔立ちが似ているような……」
ちょっとそれ以上近づかないで! 動くと検査が長引くよ。良い匂いを漂わせおって淫猥な小娘め。
「はいはい、ウオッカとライスもその辺にしとき。何にせよまず移動せんと。トレセンはもう閉まるんやろ?」
「あ、そういえばそうっすね。校門前で警備さんが手ぇ振ってるし、敷地内にいるウマ娘も俺たちだけみたいだし急がねーと」
「ま、マックイーンさん。今日はこのままお屋敷へ向かうの……?」
「……いえ、時間も時間ですしひとまず昼食にいたしましょう。タマモクロスさんは……」
「ウチも行くで。ハズキ君のそばにおるって約束もあるしな。ほな、あそこのファミレスにでも行こか!」
──と、そんなこんなでタママモクロス姉と共に、ライスシャワー・ウオッカ・メジロマックイーンのめちゃ美少女パーティに合流した俺は、いろいろ頭で考えすぎたせいか若干の知恵熱を出してフラフラになりながら、彼女たちに手を繋がれてファミレスへと入店するのであった。若い女のおててあったけェ~♡ おいイくべからずだぞ。