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他人がSNS中傷を「捏造」、木村花さんの母は気づかず提訴…真偽見極め困難

読売新聞 / 2023年6月22日 10時58分

 テレビ番組に出演していた女子プロレスラー木村花さんがSNSで中傷されて自殺した問題を巡り、母親が中傷の投稿をされたとして損害賠償を求めた訴訟で、証拠とした投稿が第三者による 捏造 ねつぞうとみられることがわかった。投稿内容の捏造は技術的に容易とされる一方、それを偽物と見抜くのは難しい。ネット上には真偽不明のものが出回っており、対策が求められる。(田中俊之)

 「まさか投稿が捏造の可能性があるものとは全く思い至らなかった」。母親の代理人弁護士は取材に対し、そう語った。

 花さんは、テレビ番組での言動を巡り、SNS上で相次いで中傷され、2020年5月に自殺した。母親は、投稿者に対して刑事や民事の責任を追及。複数の投稿者が侮辱罪や名誉 毀損 きそん罪で略式起訴されたり、損害賠償を命じられたりしている。

 母親は21年8月、ツイッターへの投稿で花さんが中傷されたとして、大阪府内の女性ら一家4人を相手取り、約300万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。訴訟はその後、大阪地裁に移された。

 訴訟記録によると、母親側は投稿の画面を写したとみられる画像を入手。花さんが亡くなった直後の時間帯に「花さん息してるー? ってもう遅いかWWW」「嫌ならおとなしくしとけば良かったんに」などと送った投稿とされる。

 母親側は提訴に先立ち、投稿画像で確認したアカウント情報を基に、ツイッター社を相手取り、投稿者の情報開示を東京地裁に請求。投稿者のIPアドレス(ネット上の住所)の開示を受け、さらにプロバイダーに対して氏名や住所の開示を請求した上で、女性ら一家が投稿者であると判断し、提訴に踏み切った。

 女性側は訴訟で、こうした投稿を否定。女性側の代理人弁護士が調べたところ、画像には通常なら表示される投稿の日時がない上、投稿に使われたアカウントは非公開で、5か月前に開設されてから投稿は2回しかないことがわかった。一般的に著名人らを中傷する投稿者は積極的に情報発信する傾向にあり、女性側は、今回の投稿は実在しないものだと主張した。

 これに対し、母親側は、母親と代理人弁護士が協議の上、訴えを取り下げて弁護士費用を負担する意向も示したが、条件が折り合わなかった。女性側は今年1月、捏造された画像に基づいて不当に提訴されたとして、母親側に880万円の損害賠償を求めて反訴し、訴訟は続いている。

 母親の代理人弁護士は「中傷の投稿はすぐにツイッターから消去されることが多く、ネット上で誰かが保存した画像を証拠とするしかなかった」と話した。

 一方、女性側は訴訟で「提訴された当初は家族の中で誰が投稿したのかと疑わざるを得なかった。平穏な生活を送る権利を侵害された」と訴えている。

 SNSでの 誹謗 ひぼう中傷を巡り、国は花さんの問題を機に対策に乗り出している。投稿者の特定まで複数回必要だった裁判手続きを原則1回で済むようにしたほか、刑法上の侮辱罪の罰則も強化した。

画像加工指南サイトも

 ネット上でSNS投稿が捏造される事例は相次ぐ。

 昨年8月には、岸信夫首相補佐官(当時)をかたるツイッターの投稿が問題になった。ロシアのウクライナ侵略を巡り、「原子力発電所をミサイルで破壊しようとしている」とウクライナを非難する投稿で、本人や外務省が否定し、投稿は削除された。

 何者かが投稿を捏造し、企業によるキャンペーンを装って別サイトに誘導したり、スポーツ選手や漫画家をかたってフォロワー(登録者)を集めたりするケースもあった。

 他人のSNS画面で、不適切な内容を投稿したかのように文章を書き換え、画像を捏造するのは難しくなく、作り方を指南するサイトもある。その画像から捏造した人物を特定するのは困難だ。

 ITジャーナリストの三上洋氏は「ネット上の情報や画像を安易に信用せず、元の投稿が本当に存在するかどうか慎重に見極め、虚偽情報の拡散に加担しないよう注意してほしい」と指摘。対策について「悪質な捏造やなりすましには、警察が積極的に捜査して厳重に処罰することが必要。問題のあるアカウントに対し、SNS事業者が使用を停止する対策の強化も効果的だ」としている。

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