ミシュラン星獲得シェフと長野県小谷村の挑戦
- 2023年04月27日
「共に創るレストラン」を
4月19日、小谷村の古民家に、鳥羽シェフを始めとする料理人、地元の農家や編集者など20人が集まりました。7月にオープンするレストランで使う食材を相談するためです。
小谷村と鳥羽シェフの取り組みが始まったのは、去年の夏。 村の担当者が、地域活性化の起爆剤として鳥羽シェフに声をかけました。
その際紹介されたのが今回集まった古民家です。
古民家を見た鳥羽シェフは、その可能性に心を動かされ、この場所でレストランを開くことを決めたのだと言います。
レストランを開くにあたり鳥羽シェフが意識したのは、地元小谷村の食文化の魅力を村の人たちと一緒に伝えることでした。
鳥羽周作シェフ
僕たちがここでレストランをやるのは、店舗が流行(はや)ることが目的ではありません。長野の人、小谷村の人と一緒にやりたい。地方創生とよく言われているけれど、しっくりすることがあまりない。歴史や文化含めみんなと一緒に何かを作っていきたいと思っています。
地元の食材をもっと
会の中では、新しくオープンするレストランで地元の食材をどう使うかが話し合われ、長野在住の編集者、徳谷柿次郎さんの進行のもと、生産者が食材の魅力と課題について説明しました。
小谷村で生産されている小谷野豚。
昭和60年頃に村内で飼育が始まり、現在は3人の生産者が遊休農地を活用し年間約80頭を飼育しています。
生産された豚肉は、そのほとんどが村内、県内で消費され、県外に出ることはありません。 理由は飼育できる期間の短さ。 雪の影響で出荷できるのは、10~12月の3か月に限られます。
小谷村 観光地域振興課 松澤亮一さん
小谷村にとどまっていてもったいないと感じています。放牧しているのでストレスが少なく、締まっていて余計な脂肪が少ない。肉を切った時に角が立つとてもピュアな豚肉です。小谷の良さとしてもっと知ってもらいたい。本当は外に発信していけたらという思いがあります。
話を聞き、鳥羽さんからアイデアが出されました。
鳥羽周作シェフ
幻の豚として出せばいい。昼はしょうが焼きとしても出せると思うし、幻の小谷野豚フェアとして出して絶やさないようにするとか。単発的に店で消費するのではなく、村全体でどう使うか、発信するかを一緒に考えたいです。そうすれば、町にレストランがある意味があると思います。
発言したのは、余り野菜プロジェクトを担当する小谷村役場集落支援係の望月沙葉さん。
小谷村では、畑で栽培した野菜がたくさん余ることが課題になっています。
レストランと連携し、その課題をなんとかできないかと相談に来ました。
小谷村 観光地域振興課 望月沙葉さん
農家はみんな畑を荒らしたくないから野菜を植えていきます。どんどんできちゃうから周りに配るけれど、例えばきゅうりがとれている時にはどこの家庭にもきゅうりがあるので、配ってそれでも食べられないと捨ててしまいます。ぜひ余り野菜をレストランで活用してもらいたいです。
話を聞いた鳥羽シェフからは、レストランで食材を活用するほかにも、食材の消費を小谷村だけで考えることをやめ、村外の需要を考える必要があるという意見が出ました。
給食センターでの活用や、インターネットでの直販など、範囲を変えることで広がりが生まれ、また小谷村の取り組みとして価値が生まれるのではないかといいます。
鳥羽周作シェフ
これまで、レストランで「課題があるものを使う」という発想はありませんでした。ただレストランをやるのではなく、町の課題を解決していきたい。課題解決としてレストランがあるというほうがこの町でやる意味があると思います。
外から見るからこそ気づく価値
実際に地元の方たちが作った山菜の試食も行われました。
山蘇(やまそ)、塩丸いか、野沢菜、沢あざみ…すべて小谷村の家庭で守られてきた伝統の味です。
特徴はその作り方。
山菜をそのまま調理するのではなく、まずたっぷりの塩で漬けます。
食べるときに水で戻し、煮たり焼いたりして味を付けます。
食材が乏しい冬の時期に、塩漬けにした野菜などを食べるために生まれた文化ですが、 地元の人たちにとっては、山菜をそのまま食べるより一度塩漬けし黒くなったものを調理して食べるほうがおいしいのだといいます。
鳥羽周作シェフ
今まで食べた山菜の中で一番おいしい。すごく甘い。特に野沢菜がおいしいです。
鳥羽シェフに絶賛された、地元農家の相澤つたゑさんは、ひかえ目に話します。
相澤つたゑさん
山菜は料理にしても地味だから…。若い人にはなかなか食べてもらえないのではないかと思います。私たちはただ、自分たちが生きていくために塩漬けにしているだけなんです。
そんな言葉に、鳥羽シェフはそこに自分たちがレストランを出す意味があると指摘しました。
鳥羽周作シェフ
当たり前だと思ってやっていることは自分たちでは価値が分からないけれど、外からは分かります。それを僕たちが伝えたい。村の中の人になりきらず、いい距離感で価値をきちんと見つけられる存在でありたいなと思います。食べることは生きること。ここで生み出された文化の上で今の料理を重ねていく。今後料理をしていく意味や意義を教えてもうらうという心持ちで勉強していきたいです。
生きるために食べる
食べることは生きること
小谷村で長く培われてきた食文化と、人気シェフの料理のコラボレーションが始まりました。今後、鳥羽シェフ始めレストラン関係者は、村の野菜の収穫を手伝ったり、みそづくりを教わったりしながら、共に小谷村の食文化のつなぎ手になっていきたいと話しました。
鳥羽周作シェフ
本当に家族になっていきたいです。地元の人と過ごした日が信頼関係を築き、10年後を作ると思います。試行錯誤を重ね、共に食文化を紡いでいきたいです。