2023年4月13日、DJIが新たにInspire3を発表しました。映像制作から測量まで幅広く活用できるInspire2の最新モデルとして発表された、映像業界を震撼させるスペックと言っても過言ではない高性能ドローンです。驚くほど一新されたカメラ性能と飛行性能だけではなく、内蔵アンテナRTK測位や充実した撮影アシスト機能も搭載されており、幅広い用途で即戦力となることが期待できます。
本記事ではInspire3の基本スペックやInspire2との違いなど、Inspire3に関する詳細を解説します。
現役ドローンパイロット&ライターとして活動中 / Mini2・Phantom4 Pro+ V.2.0の2台を所有 / DJI CAMP スペシャリスト・ドローン検定3級・UAS Level2取得済 / 執筆のご相談はこちらから
<おすすめ記事>
・【ドローンパイロット監修】ドローンのリモートIDとは?おすすめ商品もご紹介!
・2022年最新!ドローンに関する航空法改正の概要や変更点を解説【前編】
・2022年最新!ドローン航空法改正を解説【後編】【操縦ライセンス】
・ドローンの機体登録制度が2022年6月から義務化!徹底解説します【事前受付開始中】
もくじ [表示する]
Inspire3の特徴や基本スペック
多くの方が気になるのはInspire3の基本スペックではないでしょうか。Inspire2との違いを比較する前に、まずはInspire3がどのような点で優れているドローンなのかをご紹介します。
格段にスペックが上昇したカメラ性能
Inspire2ではZENMUSE X7やZENMUSE X5Sのように別売りのジンバルカメラを購入・装着する必要がありました。しかし、今回発表されたInspire3ではDJI公式が「DJI史上最軽量のフルサイズ対応3軸ジンバルカメラ」と謳う専用ジンバルカメラ「ZENMUSE X9-8K Air」が搭載されています。X9-8K Airは最大8Kの圧倒的な高解像度映像を撮影できますが、それだけではありません。RAW映像を最大4K/120fpsで撮影できたり、映像制作で課題となりがちな夕方以降の薄暗い町並みや砂浜のような難易度の高い撮影を求められるシーンの撮影でも繊細に撮影できたりと、まさにプロ仕様の映像撮影を実現するDJI製品の中でも特に高性能なジンバルカメラです。
3つの映像撮影アシスト機能
Inspire3は大きく分けて3つの撮影アシスト機能が導入されています。
1つめの「リピータブル ルート機能」は飛行高度、飛行速度、ジンバル角度、カメラ設定など個別に設定する必要がある全てのパラメーターを維持した状態で作成した飛行ミッションを繰り返せる機能です。文字通り同じ飛行を繰り返せる機能であるため、山間部や建物が入り組んでいる場所の撮影や視界が優れない夜間の撮影でも利用可能です。この他、朝から夜や春から冬のように時間経過による変化をタイムラプスとして撮影することもできますね。
2つめの「3Dドリー機能」ではクレーンやケーブルカム、ドリー(移動式撮影台)のような撮影器具で撮影しているような撮影を実現できる機能です。アクションシーンのように臨場感ある撮影をする場合、撮り直しの度に撮影器具を精密に操作する必要がありました。しかし、Inspire3を使えば手軽に臨場感ある撮影を幾度と繰り返すことができる上、細かくアングルを調整しやすくなります。これら2つの機能を使用する軸となるのが「Waypoint Pro機能」です。この機能では幅広いカスタム設定を使用することで、緻密かつ精度の高い飛行ルート計画や撮影計画を作成できます。そしてRTKを使用したcm単位の誤差で済む測位を行っているため、リピータブル ルート機能や3Dドリー機能を利用すればcm単位の調整が必要な映像も撮影可能です。
フライト性能と持続時間
Inspire3に使用するTB51バッテリーは軽量化かつ合理化された、23.1 Vの電圧に対応できる最大で28分の飛行が可能なバッテリーです。TB51バッテリーに対応するバッテリー充電ハブも一新されており、急速充電モードでは2つのバッテリーを約35分で0%から90%まで充電できるため、万が一の時も予備バッテリー不足に悩まずに済みます。
なお、TB51バッテリーはTB50バッテリーと同様気温が10℃以下になることも珍しくない冬の撮影にも対応しており、バッテリー温度が-10℃以下の場合は自己発熱機能が自動で有効になるため-20℃以下の低温環境でも問題無く飛行可能です。
安全性
Inspire3は積層型セラミックアンテナが機体フレームに内蔵されており、これによりRTK高精度測位技術と呼ぶ複数の衛星を利用してより正確な位置を測定しGPS単体の測位よりも誤差を減らす測位方法を導入しています。受信できるGNSS信号はGPS、BeiDou、Galileoの3つとなっており、従来の測位方法よりも正確な指定ルートでの飛行を実現できるため、Inspire3を導入する撮影現場は安全性と一緒に撮影効率も高められることでしょう。
搭載されている積層型セラミックアンテナは磁気干渉の影響を受けにくい性質も兼ね備えているため、工事現場や港湾のような磁気干渉リスクがある場所でも安心して撮影できます。
また、Inspire3は合計で9個のセンサーを使用した全方向障害物検知システムが搭載されているため、縦横無尽に障害物の存在を感知して安全に飛行可能です。加えて、Inspire3はDJI製品では初の全てのランディングギア横に魚眼レンズセンサーを搭載した機体であり、ランディングギアの上下を問わずに水平方向の障害物も感知できます。
Inspire2とInspire3の違いは?比較するとどうなる?
Inspire3の基本的なスペックをご紹介しました。Inspire3が非常に高性能な産業用ドローンであることがお分かり頂けたと思います。しかし「Inspire3が凄いドローンだということは分かったけど、具体的にInspire2とInspire3ではどうスペックに違いがあるのか?」と思う方もいるでしょう。そんな方に向けて、具体的にスペックの違いを比較してご紹介します!
Inspire2とInspire3の違い①カメラ性能・撮影機能
先述したようにInspire2は別売りのジンバルカメラを設置する必要があり、現在DJI公式から販売されているのはZENMUSE X7とZENMUSE X5S の2つです。今回はX7とInspire3専用ジンバルカメラX9-8K Airを比較しましょう。
まずもっとも大きな違いは映像撮影時の解像度です。X7は最大で6Kという高解像度で撮影可能ですが、X9-8K Airは最大8.1Kの圧倒的高解像度で撮影可能であり、映像解像度という点ではInspire3に軍配が上がります。なお、撮影可能なアスペクト比は17:9 / 16:9 は共通であり、X7は2.44:1で撮影可能なところX9-8K Airは 2.39:1です。
そのほかでは、X7はランディングギアが上がっている時に360°パン角で撮影できるものの、X9-8K Airは360°パン角撮影機能に加えて、ランディングギアが下がっている時に上向き80°のチルトブーストに対応しています。
Inspire2とInspire3の違い②最大飛行時間
Inspire2は装着するカメラによって飛行可能時間が異なり、Zenmuse X7装着時の最大飛行可能時間は約23分です。一方、Inspire3は最大飛行時間が26分から28分となっており、Zenmuse X7装着時のInspire2より最低でも3分以上は飛行可能時間が延びていることが分かりますね。
最大飛行時間が延びた理由としては、Inspire3のバッテリーの合理化され高電圧に耐えられる構造になっていることや、機体設計が航空力学に適した設計へ改善されたことで飛行制御機能が向上したことなどが上げられます。
なお、Inspire2は2個のバッテリーを100%まで充電する際にかかる時間は90分程度です。一方、Inspire3は同条件で標準充電する際は約55分かかり、90%まで充電出来る急速充電を使えば約35分ほどで充電が完了します。
Inspire2とInspire3の違い③静止画撮影機能
Inspireシリーズを使用する方は映像撮影が目的の方が多いですが、撮影内容が全て映像のみで済むかは蓋を開けてみるまで分かりません。Inspire3は先述にある映像撮影アシスト機能が優れており、迫力満点の映像を撮影できます。
ただし、静止画撮影に関してはInspire2の方が機能は豊富です。静止画の撮影可能な画質はInspire3の8.1Kには及びませんが、それでも6Kの静止画をシングルショット・バーストショット・オート露出ブラケット・インターバル撮影などの手法で撮影できます。Inspire3は映像撮影に優れてはいますが、これらの静止画撮影モードは搭載されていません。そのため、静止画撮影という観点においてはInspire2の方が優れていると言えるでしょう。
Inspire3の販売開始日・販売価格
Inspire3の正確な販売開始日は決まっておらず、DJIは2023年6月末までに販売開始を予定していると発表しています。現在はDJI公式サイトのほか、SYSTEM5やSEKIDOなどのDJI販売代理店で先行予約受付中の状態です。以下では、Inspire3の販売価格や購入する必要があるアクセサリーなどをご紹介します。
Inspire3の基本パッケージと価格設定
Inspire3の基本パッケージにはInspire3本体の他、刷新された送信機であるRC PlusやX9-8K Air ジンバルカメラ、6個のTB51 インテリジェントバッテリー、充電ハブ、データ保存用PROSSD、送信機ストラップ、収納ケース、その他備品が含まれています。この基本セットが1,769,900円で販売されており、けして安い買い物とは言えない金額です。
なお、DJI Care Pro 【1年版】 (225,500円)を利用する場合は1,995,400円となり、DJI Care Pro 【2年版】 (418,000円)の場合は2,187,900円です。
Inspire3の基本パッケージと合わせて購入を推奨するアクセサリー類
先程ご紹介したInspire3の基本パッケージにはX9-8K Air ジンバルカメラとジンバルカメラケース、レンズ キャリーボックスが含まれていますが、肝心なレンズは同梱されていません。そのため、基本パッケージに加えて以下のレンズをいずれか購入する必要があります。専用となるNDフィルター4/8/16/32/64/128が7,425円で販売されているため、必要に応じて購入しましょう。
- DJI DL 18 mm F2.8 ASPHレンズ:160,380円
- DL 24mm F2.8 LS ASPHレンズ:171,512円
- DL 35mm F2.8 LS ASPHレンズ:171,512円
- DL 50mm F2.8 LS ASPHレンズ:158,268円
Inspire3は最大8.1Kの映像撮影が出来るドローンですが、より鮮明な8.1K映像撮影を実現するCinemaDNGコーデックとApple ProRes RAWコーデックはInspire 3 RAW ライセンスキー(142,890円)を購入する必要があります。RAW ライセンスキーを使用しない場合はInspire3のスペックをフル活用できないため、注意しましょう。
編集後記
新発表されたInspire3はInspire2より高性能な機体であり、鮮烈でリアリティ溢れる映像を撮影したいプロの方におすすめの産業用ドローンです。演者の魅力や迫力だけではなく、臨場感、繊細な眺望を撮影するにも適したInspire3であれば、きっと理想とする映像を撮影できるでしょう。とはいえ、販売価格が高めであるのは事実です。販売開始日まではまだ時間があるため、自分達が創り出したい映像に求めるクオリティと相談し、無理のない範囲で撮影を楽しみましょう。