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部活の「完全廃止」目指す市も…指導者の「脱先生」、費用負担で難題

読売新聞 / 2023年6月18日 5時0分

「赤磐クラブ」には市内外10校の生徒が所属し、住民の高木さん(中央)が指導する(岡山県赤磐市で)

変わる部活動<上>

 5月28日の日曜日、岡山県中部赤磐市の市立 磐梨 いわなし中学校のグラウンド。デザインの違うユニホーム姿の少年たちが野球の練習に励んでいた。監督の高木大地さん(33)は教員ではなく、看護関連会社を営む元高校球児だ。

 毎週日曜日に練習しているが、磐梨中の野球部ではない。市内外の公立中10校の野球部から集まった計24人が所属する「赤磐クラブ」だ。学校の部活動とは違い、教員の代わりに地域住民が指導者を務める。教員の過重労働、少子化による部員数減に悩む学校と地域が協力し、今年4月にスタートした。

 だが、課題は多い。ほぼ無償だった学校部活動と異なり、運営には人件費などの資金が必要となる。「保護者に負担をかけたくない」と参加費を年間2000円としたが、必要経費を差し引けばほぼ残らない。指導は実質ボランティアで、謝礼の支払いのめどは立っていない。

 今春、公立中を中心に休日の部活動を民間に委ねる改革が全国で始まった。日本のスポーツ、文化活動を支える部活動を学校から切り離し、約23万人の教員の負担を減らす大改革だが、指導者確保、保護者の費用負担といった難題が山積する。先行きには不透明感が漂う。

「地域の誇り」の強豪校に少子化の波

 岡山県赤磐市立 磐梨 いわなし中は元々部活動が盛んで、全国大会出場歴がある野球部は地域の誇りだ。

 赤磐市は岡山市のベッドタウンだが、少子化が止まらない。今年度の人口は約4万3000人で、合併で市が誕生した18年前から2000人以上減った。3月まで校長を務めた 出射 いでい実さん(60)が今後の新入生が最も少なくなる想定で生徒数を試算すると、2026年度には「今の約3分の1の64人まで減る」という数字が出た。

 野球部は現在部員が10人で、数年前から近隣校との合同チームで大会に出場し、部を維持してきた。だが、合同チームでは解決できない問題があった。

 どんなに部員が減っても各学校の教員が顧問を務める状況は変わらず、熱心な教員が「生徒のために」と奮闘してきた。一方で、学校現場では授業や行事といった業務が膨らみ、教員の負担軽減が急務となってきた。磐梨中でも超過勤務が常態化し、1か月の残業が国の指針が定める上限「45時間」の倍以上の100時間に及ぶ教員もいた。

 出射さんは約2年前、住民と部活動のあり方を話し合う協議会を設立した。「教員の勤務時間を減らすなら、どうしても部活動になる。学校だけでは支えられない。力を合わせましょう」。地域の祭りや清掃活動、イベントの打ち合わせに顔を出し、実情を訴えた。

 指導者を募ると住民ら約40人が手を挙げた。協議会に登録し、六つの運動部と吹奏楽部、美術部で主に休日に教える仕組みができた。

指導者への謝礼、寄付頼みも不十分

 六つの運動部の一つのホッケー部で顧問を務める磯本真希教諭(28)は、競技経験がないことが気がかりだった。だが、今は地元ホッケークラブのコーチが指導に加わる。「学校行事が近い週末に準備の時間が取れて助かる」と話す。

 地域と連携して部活動を維持する形は見えてきた。ただ、磐梨中のように先進的に取り組むケースは全国的にまだ少ない。磐梨中でも全てが解決したわけではなく、最大の懸案は、教員に代わる指導者への謝礼など運営資金の確保だ。

 国のモデル事業の指定を受けた昨年度は、既存の全ての部活動で地域指導者の時給を1000円とし、総額約190万円の謝礼を国からの委託費で賄った。だが、今年度からはモデル事業ではなくなり、自立した運営が求められる。生徒側が年間1000円の活動費を負担し、出射さんらは住民や企業に一口1000円の寄付を募ることになった。

 4月時点で約50万円が集まったが、指導者に謝礼を支払うには不十分だ。出射さんは「子どものために、という気持ちは学校も地域も同じ。力を合わせてやるしかない」と力を込めた。

 3年後の夏をめどに平日も含めて学校の部活動を完全廃止する――。国が休日からの民間移行を目指す中、こんな先駆的な方針を表明した自治体がある。静岡県掛川市だ。

 部活動が完全に学校から切り離されれば、市立中教員約180人は原則、顧問の業務がなくなる。一つの中学校だけで練習する時代は終わり、様々な学校の生徒が民間運営型のクラブに参加する。現在は市立中全9校のうち水泳部があるのは2校だけだが、今後はどの学校の生徒も水泳に挑戦できる。複数のクラブへの参加も可能になる。

 昨年11月の方針表明後、全国から視察や問い合わせが相次ぐ。同市教委の沢田佳史指導主事は「時代に合った形でなければ続かない。26年度と期限を決めたことで全員が当事者意識を持って臨める」。前例のない挑戦が始まった。

 民間移行という大変革期を迎える学校の部活動。関わる教員や地域住民、子どもたちの姿を追う。

朝原宣治さん「それぞれのニーズに応えられる場に」

 部活動はスポーツの裾野を広げ、多くのトップ選手を輩出する土壌となってきた。2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治さん(50)は中学校でハンドボールに打ち込み、陸上競技は高校から始めた。「これからの部活動も、様々なレベルでスポーツを楽しめる場であってほしい」と期待を込める。

 神戸市北区出身で、市立小部中で強豪だったハンドボール部に入り、全国大会にも出場した。「練習は週7日で、僕らも先生もオフはなかった。大変だったけど仲間がいたから耐えられたし、チームワークを学んだ」と振り返る。

 部活動で球技に触れた経験は後に生きた。夢野台高(神戸市長田区)で陸上部に入ると、ハンドボールで培った跳躍力と瞬発力を生かし、走り幅跳びで頭角を現した。次第に100メートルへ主戦場を移し、日本記録を3度マーク。10秒02は日本歴代7位の記録だ。

 自身が主宰し、多くの子どもを指導する陸上クラブでは、陸上の技術にとらわれず様々な種目の動きを取り入れたプログラムを実践する。「僕がそうだったように、幅広いスポーツの動きに触れることで可能性を広げてほしい」と願う。

 部活動改革で懸念するのは子どものスポーツ離れだ。「部活動があるから『この種目をやってみよう』と思う子どもは多い。練習して強くなりたい子も週1回でいいという子もいる。改革を機に、それぞれのニーズに応えられる仕組みになればいい」と話す。

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