Angel Garden

天使や子供をテーマにした世界のアート作品をご紹介!

彫像「Jongensfiguur」

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オランダの彫刻家、ルードヴィヒ・オズワルド・ウェンケバッハ(Ludwig Oswald Wenckebach/1895-1962)による1954年の作品「Jongensfiguur」

タイトルはオランダ語ですが、英語では「Boy Figure」日本語では「少年の姿」というそのままの意味でした。
オランダのフローニンゲン市にある「Pioenstraat」という牡丹公園に設置されています。

8〜10歳くらいの男の子のブロンズ像。
台座を含めた高さが約180cmなので、ほぼ等身大ですね。

表情がよく見えませんが、ちょっとうつむき加減で、あまり楽しそうな雰囲気ではないように感じます。
牡丹の花が咲き誇るこの公園とどんな関係があるのかはわかりませんが、木の棒を持っていることから植物に関連した背景があるのかもしれません。


作者のウェンケバッハは1913年から地元の芸術学校に通い、1915年から3年間はウィーンの芸術アカデミーで学びました。
卒業してからは石版画やエッチング(腐食作用を利用した銅版画)の仕事をしていましたが、1920年にすべての仕事をやめ、彫刻家として歩み始めました。

彼の作品は主に石像やブロンズ像でしたが、古い建物の修復や設計にも携わり、いくつかの戦争記念碑も手掛けています。
1948年から1980年にかけてオランダで発行されたコインのデザインを担当したことでも知られています。

それにしてもこの子、なぜこんな棒を持っているのでしょう?
先の部分が枝分かれしているせいか、長ネギを持っているようにも見えますね。
埼玉県深谷市のマスコットにもなれそう。


画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:Oswald Wenckebach - Jongensfiguur.jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

絵画「Bath Time」

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デンマークの画家、カール・ウィルヘルム・マイヤー(Carl Vilhelm Meyer/1870-1938)による1908年の作品「Bath Time」

作者のマイヤーはデンマークの都市、オールボー生まれ。
コペンハーゲンの美術学校で絵を学び、画家としてのキャリアをスタートさせました。

第一次世界大戦に影響を受けた作品はあまり成功しませんでしたが、終戦後に描いた肖像画や風景画は広く認められ、庶民の生活を描いたその作風からいつしか付いたニックネームは「貧しい者の画家」

たしかに彼の作品群を見てみますと、薄明かり差し込む部屋に親がいて子がいるという、ごく普通の庶民の暮らしを描いた作品が多いようです。
この絵は当時では当たり前だった、部屋の中での沐浴シーンですね。

真ん中で存在感のある後ろ姿を見せているのはこの家の長男でしょうか。
次はボクの番だと言わんばかりに服を脱いでスタンバイ。

次男はそんなお兄ちゃんを見ながら笑っていますし、末っ子はひとりで水遊び。
お母さんは長男の自己主張など意に介さず、黙々と娘の髪を結っています。

どこにでもある庶民のワンシーンであるがゆえに、そこに漂う「幸福感」のようなものを感じます。
貧しさとは無いことではなく失うことである、そんなことを思わせてくれる作品です。


画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:Carl Vilhelm Meyer - Lordagrengoring (ca.1908).jpg
ライセンス:パブリックドメイン

時代とともに姿は変わり

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人は0歳から4歳くらいまでと11歳から17歳くらいまでのあいだに、身長が急激に伸びる時期があります。
いわゆる「成長期」ですね。

私は高校生のときに身長の伸びが止まってしまいましたが、その当時の平均身長とほぼ同じだったので、今も年齢的には高過ぎず低過ぎずといったところ。
しかし私の甥っ子が高校生のときは、すでに私より5cm以上も背が高かったんです。

文部科学省の「学校保健統計調査」のデータによると、現在の高校生の平均身長は30年前と比べて0.5〜0.8cmほど高くなっています。(男子の場合)
そして中学生の平均身長は30年前の平均身長よりも2.0〜2.5cmほど高くなっています。
さらに、私が小学6年生だった頃の6年生の平均身長は142cmでしたが、現在の6年生の平均身長はそれより3cmほど高い145.2cmです。

高校生は1cm弱、中学生は2cmほど、小学生は3cmほど、昔よりも平均身長が高い。
これはつまり、第二次性徴による体の変化が昔の子よりも早い段階で起こるようになったということです。
簡単に言えば早熟になったってことですね。(精神面はともかく)
たしかに昔は12歳くらいではまだ幼さがありましたが、今の子はひと回りほど大きくて大人っぽい子も多いですからね。

昔よりも身長が高くなり、大人っぽく見える現代っ子ですが、では体形はどうなんでしょうか?
足が長くてスラリと細めの子も増えましたが、身体そのものの形はどう変化したのでしょう?

以前の記事で、国によって子供の体形に差があるかどうかを考えてみたことがありましたが、そのときはそう大差はないという結論でした。(該当記事)
しかしどの国も「時代による差」はありそうですね。


それを調べるのに最も良い方法は、昔と今の子供を見比べてみることです。
とは言っても、学校の身体測定では数値は記録しても姿を記録することはありませんし、ましてや日本に子供の体形の学術的かつ統計的な写真が存在するとは思えません。

そこで「昔の子供と今の子供の体形を見比べるのに最も良い素材は何だろうか?」と考えてみたところ、ひとつ思い浮かびました。

それは「子供相撲」の写真。
子供相撲ならその当時の子供たちの体形がわかるはずです。

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この写真が撮影されたのは1957年。
今から65年前の少年たちです。

戦争が終わって12年しか経っていない頃ですから、当然食べ物を無駄にする時代ではありません。
相撲のイベントでも太っている子はあまりいませんね。
子供たちの姿にも無駄のない力強さを感じますし、きっと体脂肪率も低いのでしょう。

画像出典:Getty Images
Copyright : Keystone Features




種子島のイベント:第49回種子島相撲大会小学生個人戦ダイジェスト
Copyright : akameeba
(YouTubeのシェア機能を使って紹介しています)

そしてこちらは最近の子供相撲の動画。
65年前の子供たちと比べて、体形に違いがあるのがお分かりになるでしょうか?
痩せている子を比べるとわかりやすいと思います。

古い時代にも太っている子はいますが、痩せている子は本当に細いですね。
しかし細いながらも腕や足には筋肉が浮き出て、その輪郭はゴツゴツとしています。

かたや現代っ子は極端に痩せているわけではなく、細めの子でも輪郭はとても滑らか。
ゴツゴツとした痩せ方ではなく、スラリとした細さ。
スタイルの良さ、見た目の美しさで言えば、現代っ子に軍配が上がるでしょう。

ただし、これは比べた映像があまりにも古過ぎました。
戦争が終わって間もない頃では子供たちの栄養バランスは決して良くはありません。
運動によって鍛えられてはいても、食生活が豊かでなくては満ち足りるはずもなく、現代っ子のほうがバランスが良いのは当たり前のことです。


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Copyright : RUKA

では「子供がもっとも美しい時代はまさに今なのか?」というと、私はそうは思いません。
私自身は、子供たちが最も美しい体形をしていた時代は1980年代だったと思っています。
今から40年くらい前ですね。

「それって自分が若い頃だから思い出補正が入ってんじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、私自身子供の頃から現在に至るまでたくさんの子供たちを見てきて確信していることです。
1980年代は体の輪郭(各部位の形)がとても綺麗な子が多かったのは確かです。

1970年代から1980年代にかけては、子供をモデルとした写真が数多く撮られていた時代でした。
雑誌で子役の特集が組まれたり、プロ・アマの作品を問わず、カメラ雑誌に子供の写真が載ることも多かったですね。
違法な本ではなく、一般向けの写真集や週刊誌・月刊誌のことです。

これは日本に限らず世界的な傾向でした。
国連により1979年が「国際児童年」と定められ、日本ではゴダイゴの「ビューティフル・ネーム」が大ヒットするなど、皆で子供を意識して大切にしていた時代でした。

その頃に買った本が今でも家にあるという人は、そこに写る子供たちと現代の子供たちの体を見比べてみてください。
水着姿だとわかりやすいと思いますが、1980年代の子供のほうが綺麗な体をしていることがわかると思います。

輪郭の滑らかさ、上半身と下半身のバランス、胸から腰そして脚にかけてのライン、お尻の丸みなどは、当時の子供のほうがより洗練された形をしています。
ある意味、男女ともに芸術性の高かった時代と言えるでしょう。

さらに、興味深いデータがあります。
文部科学省が昭和39年から実施している「体力・運動能力調査」によると、小学生の体力テストの結果がもっとも優れていたのは昭和60年頃、つまり1985年頃だったそうです。
それ以降は小学生の体力・運動能力は年々右肩下がりとなり、現在はかなり低い水準となっています。

つまり子供たちの体形の良さと運動能力の高さは、どちらもピークが1980年代だったというわけです。
ここから何か見えてくるものがありそうですね。

近年の日本では世界の流れに逆行するかのように、ビキニ水着を着る人が減ったり、体を覆い隠すファッションが増えたり、半ズボンの子供が減り、スポーツでもブルマから短パンに移行したりと、体をできるだけ隠そうとする傾向にあります。
これは日本人の体形が崩れてきていることの表れではないでしょうか?

崩れの原因が食生活にあるにせよ生活習慣にあるにせよ、体形の美しさと健康は高いレベルで融合し合うものなのでしょう。
日本人が顔の良さや体の細さにばかり「美」を見出しているうちは、本当の美しさはしばらく取り戻せそうにありません。

写真「India chillin in the pool」

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空に漂う雲のように、プールに浮かぶエアマット。
寝ながら見る空は良い眺め。
上から見る天使も良い眺め。

画像出典:India chillin in the pool
Copyright : anthony kelly
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

彫像「Mimi」

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スウェーデンの彫刻家、ピーター・リンデ(Peter Linde/1946- )による1995年の作品「Mimi」
スウェーデン中部の都市、ヨーテボリのKyrkbynという地区に設置されているブロンズ像です。

キューブ状の台座の上に立つポニーテールの女の子。
Mimiとはこの子の名前でしょうか?
ちょっとぽっちゃりした、お尻と太ももが立派な子ですね。
ブロンズですがなんとなく温かみを感じさせます。

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:Peter Linde.jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


作者のピーター・リンデはスウェーデンの現代彫刻家。
1970年から1975年までストックホルムの芸術大学で彫刻を学びました。

王立芸術アカデミーのメンバーであり、これまでにブルネス、ヨーテボリ、ルンド、ノルチェピング、シェーブデ、ストックホルム、セーデルテリエ、トレルボルグ、ウメオ、ベクショー、エルムフルト、エステルスンド等での仕事に従事しています。


Peter Linde om klassiska konstens andliga dimension
Copyright : Malin Nordstrand/Epoch Times

このサイトの写真ではMimiにカンテラを持たせています。
なるほどこのようにすれば周りを明るく照らしてくれますね。
この子は地区の住民を見守る、女神のような存在なのかもしれません。

尻の美しい...

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「尻の美しいウェヌス」と名付けられた彫刻作品があります。(元のタイトルはVenere kallipige)
1世紀か2世紀頃に古代ローマで作られた作者不詳の大理石像で、現在はイタリアの「ナポリ国立考古学博物館」が所蔵しています。

ウェヌスとは英語読みするとヴィーナス。
「尻の美しいウェヌス」は、現存するヴィーナス像の中で最も美しいお尻であるとされている彫像です。

この説明的なタイトルは後世の人間によって付けられ広まったものであり、元々の作者がそのような意図で作ったのかどうかは定かではありません。

しかし二千年の長きに渡り人々に美しいと認めさせてきたこの形。
いくら時代によって体形の流行り廃りがあろうとも、黄金比にも裏付けされた美の感覚はそう簡単に変わるものではなく、この形はこれからも美しい尻の基準となっていくのでしょう。

画像出典:Cf Naples National Archaeological Museum - Venus Kallipygos
Copyright : Jeff and Neda Fields
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


当ブログは子供と天使がテーマなのでこの彫像に関しては深くはとりあげません。
詳しく知りたい方はウィキペディアの項目をご覧ください。

ウィキペディアの「尻の美しいウェヌス」の項目


・・・で、今回の本題はここから。

この彫像が人々の目を引き、上流階級の人間からも賞賛を浴びたのは、この像が女性像だったからではないでしょうか?
1世紀頃の作品であり考古学的な価値があるのは確かですが、もし男性像だったらここまで大切にはされず、ましてや尻が美しいというタイトルが付くことはなかっただろうと思います。

女性の尻は命を育む器の土台であり、誰からも大切にされるべきものですが、美しさを問うのであれば性別で区別する必要はないはず。

数年前、とある海外の面白画像系の掲示板にて、誰かが綺麗なお尻の写真を投稿しました。
Tバック下着を穿いているお尻のアップで、他の人からはビューティフルだとかナイスだとか、褒め称えるコメントが続いていました。

ところが投稿者が次の写真を貼った途端、コメントが一転し、怒りや非難の言葉に変わりました。
投稿者が貼ったのは、女性用下着を穿いている男性の後ろ姿でした。

つまり1枚目で女性のお尻だと思わせておいて、しばらくしてからそれは自分だとネタばらししたわけです。

私がこれを見て違和感を感じたのは、コメントを付けた人たちの変わりよう。
「おいおい、綺麗な尻だと言って褒めていたその気持ちはどこ行っちゃったんだい?」ってこと。
最初に美しいと思ったことは事実なのだから、男性だとわかったとたんに豹変するのはおかしいぞってことです。

人間は「美」という感覚を持っている動物ですが、その感覚は情報によっていとも簡単に左右されてしまうものなのかもしれません。
もちろんそれではいけないと、私は思っているのですが。

女性の尻を好む男性が多いのは、生物学的には正しいことなのだろうと思います。
しかし男性の尻に美的要素がないということも決してなく、だからこそ日本でも褌姿がひとつの様式美として受け継がれてきたのでしょう。

私が今まで見てきた彫像の中で、とくに美しいお尻だと感じたのはこの2作品。

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ひとつはスイスの彫刻家、アンリ・ケーニッヒ(Henri Koenig/1896-1983)による1975年の作品「Adolescent」

スイスのジュネーブにあるヴォルテール博物館の前に設置されているブロンズ像です。
お尻だけでなく全体的に非常にスタイルの良い少年像です。

画像出典:Koenig, Henri (Swiss, 1896 - 1983)
Copyright : RinRin


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もうひとつはアメリカの彫刻家、チャールズ・レイ(Charles Ray/1953- )による2009年の作品「Boy With Frog」

ベネチアのカナル・グランデ運河の入り口にかつて設置されていた彫像です。
筋肉が発達しだす一歩手前、10歳くらいの少年の無駄のない美しさが表現されています。

画像出典:Ray, Charles (born in 1953) known for his Boy with a Frog in Venice
Copyright : RinRin


美しい尻というと前述したヴィーナス像や掲示板での出来事のように女性の尻を主体として考える人が多いのですが、実際には性別も年齢も関係なく、美しいものは美しい。

人体を鑑賞する場合は性対象としての心情(性別の好みなど)を排除して鑑賞したほうが、その良さをより深く理解できると思います。

絵画「Eros, Cupido」

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フランスの画家、ジャン・ジュール・アントワーヌ・ルコント・デュ・ヌイ(Jean-Jules-Antoine Lecomte du Nouÿ/1842-1923)による1873年の作品「Eros, Cupido」

作者の名前は長いけれど作品のタイトルは「エロース・クピド」と簡素です。
ギリシア神話ではエロース、ローマ神話ではクピドと呼ばれている、天使の姿をした愛の神。
美の女神アフロディーテの息子であり、ラテン語で愛を意味する「アモル」の名で呼ばれることもあります。

背中に大きな翼を持つエロースが弓に弦を張っているシーンですが、150年も前の作品にしては前衛的ですね。
舞台セットのような構図や、背景に文字が書かれているところなど、絵画というよりも映画のポスターのよう。

このエロース君、人間の歳でいうといくつくらいでしょうか?
そろそろ弓矢を自分のために使いたくなってくる年頃かもしれませんね。

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:L2986 - Eros - Cupidon - Jules Jean Antoine Lecomte de Nouy (1842-1923).jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


作者のジャン・ジュール・アントワーヌ・ルコント・デュ・ヌイは1842年、フランスのパリに生まれました。
兄はのちに建築家となりますが、彼は子供の頃から視覚芸術に強い関心を示し、6歳のときすでに父親と叔父の肖像画を描いています。

1861年、彼は19歳の時にスイス人画家シャルル・グレールのアトリエに入り、グレールから創造的な表現を学びました。
その後アカデミック美術の代表的な画家であるジャン=レオン・ジェロームの指導のもと、芸術の知識と技をより高めていきました。

1863年にパリのサロンでデビューした彼はその後も定期的に作品を出展し、1866年に金メダルを獲得します。
1872年にはローマ大賞を受賞し、美術館での展示や教会での装飾も成し遂げています。

その後は東アジア、ギリシャ、トルコ等を旅して外国文化の社会的、歴史的、文学的側面に触れ、そこからインスピレーションを得ています。
彼の作品にある特徴的なオリエンタリズムは、この旅によるところが大きいのでしょう。

たしかにこのエロースの絵もどことなくオリエンタルな雰囲気がありますね。
草花で髪を飾り、金色の装飾品を身に付け、翼を青や黄色に染めているところはそれまでの天使像とは違う雰囲気を感じさせます。

ジャン・ジュール・アントワーヌ・ルコント・デュ・ヌイは晩年をルーマニアで過ごしましたが、亡くなる直前にパリに戻り、1923年2月19日に死去しました。
パリの街のある通りには、彼の名にちなんだ名前が付けられているそうです。

写真「HS Ask 8.12, 1905」

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フィンランドの画家、ヒューゴ・シンベリ(Hugo Simberg/1873-1917)が1905年に撮影した写真作品。
タイトルは「HS Ask 8.12, 1905」と付けられていますが、これは記録番号的なものでしょう。
1905年の8月12日に撮影したということですね。

場所はフィンランドのニーメンラウッタという地域にある川の桟橋。
少年が右手を上げてポーズをとっています。
この子は撮影者の息子ではなく、アンデルシン・レオ(1898-1975)という名の少年だそうです。

この写真を撮影したヒューゴ・シンベリはフィンランドの画家。
画家なのになぜ写真を撮っていたのかと言いますと、彼は壁画を制作するときのデッサン画のために写真撮影をしていました。

アトリエと違い、いつまでもその場にモデルを立たせておくわけにはいきません。
写真を撮影しておけば、それを見ながら時間をかけて絵を描くことができます。
1900年頃は絵画制作に写真を利用していた画家は少なくありませんでした。

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:HS Ask 8.12, 1905 (16040322061).jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


作者のヒューゴ・シンベリは、19世紀から20世紀初頭にかけて活躍したフィンランドを代表する象徴主義画家のひとり。
1891年から美術学校で絵を学び、1895年から画家のアクセリ・ガッレン=カッレラ(Akseli Gallen-Kallela/1865-1931)の個人的な弟子となりました。

1896年にはロンドン、1897年にはフランスとイタリアに行って美術を学び、その数年間は展覧会にいくつかの作品を出品して好評を博しました。
この成功によって彼はフィンランド美術協会のメンバーとなり、「Viipuri Friends of Art」というアートスクールの教授に任命されました。

1903年に建築家のラルス・ソンクの手により聖ヨハネ教会の大聖堂の建築工事が始まると、内装を依頼されたシンベリは裸の少年の写真を撮り、巨大な花輪を運ぶ少年たちのスケッチを描きました。
1905年から1906年にかけて制作されたその壁画は、聖ヨハネ教会の大聖堂の中心的なモチーフとなっています。(該当記事)

シンベリの作品には不気味なもの、超自然的なものなど、陰鬱な雰囲気のものが少なくありません。
しかしある種のペーソスを含む独自の美しさも醸しており、彼は1900年代初頭のヨーロッパにおける新しい芸術の実践者でもありました。

神聖な教会の壁画のために少年の裸体を撮影するという手法も、当時としては新しい芸術の実践だったのかもしれません。

彫像「Joyance」

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イギリスの彫刻家、ウィリアム・ガスコム・ジョン(William Goscombe John/1860-1952)による1899年の作品「Joyance」
ウェールズの首都カーディフにある、セント・ファガンズ国立歴史博物館の庭に設置されています。

タイトルのJoyanceとは「楽しさ・喜び」という意味。
私はこの写真を最初に見た時、斜め上に向かって矢を射ろうとしている少年の像なのだと思っていました。
弓矢だけを取り外したか、あるいは弓矢のないレプリカを作って設置したのだろうと勝手に思い込んでいました。

ところがよく見てみると、左ヒジは曲がっているし、左手も握ってはいないんですね。
ということは弓矢を構えているポーズではなかったということ。

両腕を広げて上を見上げるこのポーズは、いったい何を意味しているんでしょう?

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:St Fagans Castle gardens-2821880525.jpg
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス


作者のウィリアム・ガスコム・ジョンはイギリスのウェールズの首都、カーディフで生まれました。
父親はカーディフ城の修復に携わった木造建築家で、ウィリアムは当初カーディフの芸術学校に通い、1882年からロンドンのアカデミーで学び、その後はフランスのパリに移り住んで作品を発表しました。

1901年にパリで金メダルを獲得し、1909年にロイヤルアカデミー賞を受賞。
1911年にはイギリスで騎士の称号を得ています。

1952年に92歳で亡くなりましたが、現在はカーディフの市庁舎前に彼の銅像が建てられています。


Thoughts from a Tantric Romantic - JOYANCE STATUE

上記サイトに作者の生前の写真が載っていました。
おや?手に持っているのは上の「Joyance」の原型というか、最初の模型じゃありませんか!

この写真により、先ほどの疑問はスッキリ解決!
なるほど、葉っぱの付いた木の枝を持って、それを眺めている少年の像だったんですね。

それならこのポーズも、視線の方向も、楽しさ・喜びという意味のタイトルもすべて納得です。

「ヘンリク・ルボミルスキ」という少年

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唐突ですが、皆さんは「世界で最も美しい少年」といったら誰だと思いますか?
映画が好きな人なら子役から選ぶでしょうし、「そりゃあもちろんうちの子だよ」という親御さんもいるでしょう。

ギリシア神話では、花のヒアシンスの語源となった「ヒアキントス」という少年は、太陽の神アポロンと西風の神ゼピュロスの両方から惚れられるほどの美少年でした。
花のスイセン(Narcissus)の語源となった「ナルキッソス」という少年は、泉に映った自分の姿に恋をしてしまったそうです。(自己愛を意味するナルシストの語源でもあります)
また「ヒュラス」という少年は、彼のあまりの美しさに魅了された泉の精霊たちにより、水の中に引き込まれてしまいました。

これらは神話なのでもちろん実在した人物ではありません。(宗教的には実話ってことになっているんでしょうけどね)
では、実在した人物で、数百年の長きにわたり「世界で最も美しい少年」と言われていたのは誰でしょう?

前置きが長くなりましたが、それが上の画像の少年「ヘンリク・ルドウィック・ルボミルスキ」王子です。(11歳頃の彫像)


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1777年にポーランド人の貴族の息子として生まれたヘンリク王子は、それはそれは美しい子供でした。

その美しさから男の子でありながら女の子のように育てられ、親戚の侯爵夫人(叔母)に連れられての旅行中は、行く先々で人々から賞賛を浴びたそうです。
スイスの有名な観相学者、ヨハン・カスパー・ラヴァーター(1741-1801)も彼の顔を版画化して研究していたほどです。

その衝撃的な美貌は多くの芸術家を虜にし、公爵夫人の要請により彼をモデルとした絵画作品、彫刻作品が数多く作られました。

その彫刻作品の中でもっとも有名なのが、上で紹介した大理石像です。
イタリアの彫刻家、アントニオ・カノーヴァ(Antonio Canova/1757-1822)による1788年の作品「Il Principe Henryk Lubomirski come Amore」

タイトルは訳すと「アモルのようなヘンリク・リボミルスキ王子」となります。
アモルとはローマ神話の愛の神クピド(キューピッド)の別名ですが、この像は背中に翼がなく、またタイトルも「アモルのような...」ですので、あくまでもヘンリク王子の彫像なんですね。


そしてヘンリク王子をモデルにして描かれた「絵画」では、代表的なものといえばこのふたつ。

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左はフランスの女流画家、エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン(Marie Élisabeth-Louise Vigée Le Brun/1755-1842)による1789年の作品。
右はオーストリアの女流画家、アンゲリカ・カウフマン(Angelica Kauffmann/1741-1807)による1786年の作品。

これらの絵は「神話的肖像画」と呼ばれ、モデルに神話的な衣装や装飾を施してから描いたものです。
今で言えばコスプレ写真みたいなものですね。

これら三者の作品を見て面白いなぁと思ったのは、男性作家と女性作家の作品作りに対する傾向の違い。
もちろん彫像と絵画という違いはありますが、男性であるカノーヴァは王子を他のものに例えることなくありのままの姿で表現し、女性であるルブランとカウフマンは王子を翼のあるアモルに見立ててファンタジックな作品に仕上げています。

また、カノーヴァの作品が全裸であるのに対して、女性たちの作品はどちらも赤い布で股間を隠しています。
モデルの美しさをどう表現するか、どう受け止めるかという意識の違いとも言えそうですね。
まぁ単に王子が女性の前で全裸になれなかっただけかもしれませんが。

画像出典:ウィキメディア・コモンズ
File:Prince Heinrich Lubomirski as Genius of Fame by E.Vigee-Lebrun (1789, Gemäldegalerie, Berlin).jpg
File:Kauffmann - Henryk Lubomirski.jpg
ライセンス:パブリックドメイン


じつはカノーヴァもその後、王子をアモルに見立てた作品を完成させています。

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これはアントニオ・カノーヴァによる1791年頃の作品。
13歳のヘンリク王子をモデルとした、愛の神アモルの像です。

一番上の彫像は11歳の頃なので、比べてみるとたしかにこちらのほうが少し大人っぽい雰囲気がありますね。
成長期なのに肝心の部分があまり変わっていないのは、まぁ王子様ですから、カノーヴァの配慮かもしれません。
どちらの像も、モデルを忠実に再現するカノーヴァの造形技術の高さがうかがえます。

画像出典:Canova, Antonio (1757-1822) - Hermitage (Petersburg), Louvre (Paris)
Copyright : RinRin

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このブログについて...
子供は本来この世界における夢であり希望であり、その姿は大人にとってノスタルジーや心の潤い、癒しの対象でもあります。
古くから子供の姿は愛すべきものとして認識され、絵画や彫像、写真等で様々に表現されてきました。
天使のイメージもそのひとつです。

当ブログでは天使や子供をテーマにした世界のアート作品をご紹介しています。
ふと訪れては日々の疲れを癒す天使の園・・・そんな憩いの場としてお使いいただければ幸いです。

画像の著作者は様々ですが、著作権的に問題のない方法で掲載しています。
また、公序良俗に反する画像や違法な画像、猥褻な画像は一切ありません。

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名前:RUKA
性別:男性
国籍:日本
出身:埼玉(生まれは宮城)

20代の頃に仕事で幼稚園に出向いたのを機に子供の笑顔写真を撮り始める。
1999年に「The Light of Smile 笑顔の灯り」という子供の笑顔をテーマにしたウェブサイトを開設。
サイト終了後はこのブログで世界の天使像を紹介している。
6人の甥と姪の伯父さんでもある。


メールアドレス: rukachas@gmail.com
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