「自分の店では乗り換えのうち、8割が転売ヤー」
そう語るのは、ある大手携帯電話会社の販売代理店の現役店長です。
「転売ヤー」とは、転売目的の人たち。
なぜ、販売店の契約のほとんどが「転売ヤー」で占められているのか。
その理由をたずねると、店長は、「業界で生き残るためにはやむを得ない」と事情を吐露しました。
(「クローズアップ現代」取材班)
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大手携帯電話会社の販売代理店 現役店長
「純粋なきれいな乗り換え契約は2割。あとの8割は転売ヤーですね」 「日常なので、それが当たり前。おかしいという感じもなくなってきています」
淡々とカメラの前で告白した携帯大手の販売店の現役店長。
その理由について私たちは詳しく聞いてみました。
ディレクター 「なぜそんなことになっているのですか?」
店長 「大手キャリア(携帯大手)が提示してきた目標値がすごく高いことがあるので、それに到達するために転売ヤーを呼んでいます。それはもう普通のことです。常に呼んでいる状態です。良くはないことですけど、そうするしかないので。解決策がないんです、それ以外」
店長によると、携帯大手が求める乗り換え契約の目標値が高く、それをクリアさせるために転売目的の人に声をかけ、実態に合わない契約数を稼いでいるというのです。
店長 「数字が足りない時、お店の利益を生むために転売ヤーに依頼して乗り換え契約を取っていくんです。基本、私が転売ヤーに連絡をするんですけど、8台足りないですとお願いすると8台持ってきてくれるので。それに1台3万5000円値引きをつけたり、キャッシュバックをつけたりして契約する。そんなサービスを続けてたら、ほぼ赤字になってくるのですが、それでもしないとキャリア(携帯大手)からの支援が受けられないので自転車操業状態ですね」
ディレクター 「赤字になってでも契約を取らなくてはいけない理由は?」
店長 「キャリア(携帯大手)からの支援金を受けることが店を存続させるための大きな条件になってきます。販売店の収益はキャリアからの支援金が大半を占めています。この支援金を得るためには、キャリアが求める評価目標をクリアしなくてはいけないんです。この中で1番重きをおかれているのが、新規MNP(他社からの乗り換え契約)。ここを1番取らないと評価につながらずお金がもらえない」
"MNP"とは「Mobile Number Portability」の略で、番号を変えずに他社に乗り換える仕組みのこと
販売店は、機種変更や新規契約、他社からの乗り換え契約などの数に応じて、販売奨励金が支給されます。
なかでも乗り換え契約は特に重視され、携帯大手の目標値に達しなければ、販売奨励金が減り、店舗が存続できなくなることもあるといいます。
店長 「自力で数字を取れない販売店は、自分たちで大幅な値引きをしてでも数字を取らないと、店が存続できなくなるんです。1つのお店に1人か2人は転売ヤーがおそらく固定でついていると思うので、ピンチになると呼ぶ。私たちからしたら、もうスーパーマンみたいな感じなので、やったー来てくれるという感じになりますね」
ディレクター 「良くないことであるという認識はありますか?」
店長 「良くないというのは、誰もがわかっていますが、やらないと、お店が続かないですしスタッフを抱えているので、スタッフの給料のためにもやらなければいけない。そこを守るためには、転売ヤーにお願いするしかないですね。良くないことだというのは、重々承知のうえなので、いつばれるだろう、いつどうなるかわからないという、“ひやひや”はずっと抱えています」
この店長の販売店は高齢化が進む地方にあります。
しかし、都市部と同じ数字を求められるため、乗り換え契約の大半を「転売目的の人」に依存しているのだというのです。
ディレクター 「転売目的の人に依存する店は地方が多い?」
店長 「多いと思います。地方のほうが、圧倒的に苦しいと思うので。縮小させるのが狙いかもしれませんが、乗り換え契約の数字が出ない店は、もう閉店するしかないんです。キャリア(携帯大手)は、キャリアの利益を求めてきて、いくら仕組みが変わるといえど、求められる数字は一切動かない。そうなると、母数を自分たちで増やすより、もともといる転売ヤーにお願いするほうが、圧倒的に早いというは事実です。地方と都市部の差も含めて目標設定をもう一度見直さないと、この状況は無くならないと思います」
「キャリア(携帯大手)で働くより利益出る…」 暗躍する“手配師”の存在
さらに取材を進めると、販売店が転売目的の人を集めるために、「手配師」と呼ばれる仲介役に依頼をしていることも分かってきました。
Y氏
取材に応じたのは、「手配師」として複数の販売店の窓口になっているというY氏。
携帯大手の元社員で、営業職時代に販売店や転売を行う人とのパイプができていたといいます。
ディレクター 「『手配師』はどういったことをするのですか?」
Y氏 「販売店の情報を、転売を行う人に伝えて、お互いがWin-Winになるような関係をつくっていくのが手配師になります。例えば、『とあるエリアで何台足りないんですけど、ちょっとそちらのコミュニティを使って何台どうにかしてもらえませんか』という依頼が店側から来る。その情報を転売の人に伝えて、うまくつなげるっていう。仲介するだけで転売を行う人から紹介料をもらっている人もいます。今、手配師は増えてるんじゃないかと思います」
販売店と転売目的の人をつなぐ“手配師”
Y氏は、数年前から、スマホ転売の「手配師」のビジネスが急速に広がったと話します。
その上で、自分のように、携帯業界に関わってきた人たちが、仕事を辞めて「手配師」になるケースが増えているというのです。
Y氏
「手配師の多くが、携帯(電話)関係の職務についたことがある人間にはなると思います。それを仕事、なりわいにされてる人も多いんじゃないかなと思いますね。キャリア(携帯大手)で働くよりも利益が出ると思うので、けっこう手配師に流れていますね。販売店のスタッフでも、転売を行う人のお手伝いをしている人はいると思います」
Y氏は、今後、新たな値引きルールができたとしても、「販売店と転売を行う人、そして手配師の関係性はしばらく無くならないだろう」と私たちに話しました。
Y氏 「過去にも国からの指摘で値引きのルールができましたが、いろいろな店で2万円以上の値引きをやってますし、1円でスマートフォンを売ったりもしていますよね。抜け穴を見つけては、同じことをずっとループで繰り返しています。今、手配師として販売店から様々な依頼を受けて仲介をしていると、ふと、『結局は、台数だけのために、何してるのかな』という気持ちにもなります」
野村総合研究所 北俊一さん
こうした問題について、総務省の電気通信市場検証会議「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」の構成員を務める野村総合研究所の北俊一さんは、携帯各社や国の課題を次のように指摘しています。
北俊一さん 「携帯電話各社は、販売店に対して他の携帯電話会社からの乗り換えをどれだけ取ったかということに高いノルマを課していますが、こうしたノルマの見直しがまず必要だと思います。携帯電話各社は、販売店に対して、その販売が適切に行われているかを監督する義務がありますし、結果だけでなく、数字を稼ぐプロセスについても、しっかりと管理するべきだと思います。今後、そういった管理について、国が指導を徹底するといったことも求められると思います」