阪神・岡田監督がこだわった守護神・湯浅 根底にあるブルペンの鉄則「役割を明確に」「戦い方が崩れてしまう」
目先の1勝を求めつつも、長いペナントレースを見据えた起用法だったように思う。阪神・岡田彰布監督は1点リードの九回、湯浅京己投手をマウンドに送った。
右腕は2死から四球と安打で一、三塁のピンチを招いたが、最後の打者を内角フォークで打ち取りゲームセット。見事に試合を締めた。8日の楽天戦で逆転サヨナラ3ランを被弾し、3日・ロッテ戦では最終回に3点リードを守れなかった。指揮官は一時、湯浅の守護神起用について「しんどいやろ」と変更を示唆していたが、変わらぬポジションで投入した。
湯浅も「ここ最近2回やられている中で、また行かせてもらえることに感謝しながら。絶対ゼロで抑えて試合を締めるという強い気持ちで上がりました」と信頼に応えた。「湯浅がちゃんとしてたら(交流戦)首位におるのになあ。ふふふ、ホンマやで、計算上は」と言いながら、ふーっと息をついた指揮官。それほど覚悟の起用だったのだろう。
なぜ湯浅だったのか−。故障離脱中は岩崎が代役守護神を務め、結果を出していた。それでも岡田監督は本来の形にこだわり、信じて湯浅をマウンドに送った。その根底にあるものをデイリースポーツ評論家時代に勉強させてもらっていたのを思い出した。
第一次政権時代にJFKを構築するなど、ブルペンの起用法に革新をもたらした指揮官。ちょうど2年前の2021年、阪神が開幕から快進撃を続けていた時だ。交流戦明けにセットアッパーの岩崎を1点ビハインドで投入するなど、序盤に白星を積み重ねてきた勝ちパターンを崩す試合があった。
その試合を評論してもらう中で「岩崎が1点ビハインドの状況で登板したやろ。まだシーズン中盤でチームに余裕(多くの貯金)がある時にこういう使い方をすると、これまでの戦い方が崩れてしまうんよな」。岩崎−スアレスの勝ちパターンを最大限に生かした戦い方で多くの貯金を積み上げていた。2位に大きな差をつけていた中で、あえて崩した起用だった。
それだけに「一番怖いのはブルペンの役割が不透明になってしまうこと。戦い方が固まっている時は『きょうの展開なら俺』といった形で、選手も準備ができる。これを崩してしまうと、ブルペン陣というのは簡単に崩壊してしまうんよ」と警鐘を鳴らしていた指揮官。最終的に阪神は交流戦明けの貯金21から伸ばすことができず、ヤクルトの猛烈な追い上げに屈して2位で終えた。
「リリーフ投手の使い方というのは、本当に注意せなあかん。このまま行くか、まだ分からんよ」と当時、独走していた段階で指摘していた岡田監督。あれから2年、チームは今季初の3連敗を喫していた。11日の日本ハム戦では佐藤輝をスタメンから外すなど打線のテコ入れをした一方、リリーフの起用の“順番”は変えなかった。
それだけ慎重に、覚悟を持って打った岡田監督の一手。信頼に結果で答えた湯浅も、まだボールが高めに浮く場面もあるが、本来の姿を取り戻す大きなきっかけになるかもしれない。
長いペナントレースを戦う上で、チームには必ず好不調の波が訪れる。連勝もあれば連敗することもある。苦しい時を打開するために−。評論家時代の岡田監督に学ばせてもらったのは「どうやって勝ってきたか。その原点に立ち返ることやと思うよ」だった。
虎のストロングポイントでもある投手力を生かして最少リードを守り切ったゲーム。苦しい試合を本来の形で乗りきったからこそ、新たな勢いが生まれるかもしれない。(デイリースポーツ・重松健三)