日刊スポーツ評論家の鳥谷敬氏(41)が球界の話題を掘り下げる「鳥谷スペシャル」。
23年第2弾のテーマは「四球と阪神」です。
虎は現在、両リーグ最多214四球を選んでセ・リーグ首位を快走中。好調を支える四球の影響力を、現役時代に3年連続で「四球王」にも輝いた虎のレジェンドOBが分析した。チームは13日から「日本生命セ・パ交流戦」のオリックス3連戦に突入。岡田彰布監督(65)にとって11年ぶりとなる関西ダービーでも「四球力」に注目が集まる。【取材・構成=佐井陽介】
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今年の阪神打線は四球から相手バッテリーに重圧を与える戦いを継続できています。逆転サヨナラ負けした8日楽天戦にしても、7、8回は2失策に4四球も絡めて二塁打1本で4得点を奪っています。ヒット3本でようやく1点か、1本で1点を取れるかでは、打者の心情は全然違います。「オレが打たないといけない」と気負わずに済めば、余裕を持って打席に入れるものです。
チーム全体で見れば、今年は58試合終了時点で両リーグ断トツの214四球。個人成績でも四球数の上位7人のうち4人が阪神勢。中でも特に驚くのが1番近本選手、2番中野選手の四球増です。近本選手は22年に132試合出場で41個だった四球数が、今季はすでに40個。中野選手は22年に135試合で18個しかなかった数字を、今年はもう28四球で上回っています。きっと四球が持つ価値を今まで以上にチーム内で共有できているのでしょう。
1、2番の四球には相当な重みがあります。1発があるスラッガーは長打を警戒された上での「もらった四球」が多くなるもの。一方で1、2番は出塁を警戒された中で「奪った四球」が大多数を占めます。つまり近本選手、中野選手が選んだ四球は相手に与えるダメージが非常に大きいのです。4日ロッテ戦では佐々木朗希投手から6回で5四死球を奪い、わずか1安打で1得点。この日も中野選手の四球から大山選手の決勝打が生まれています。
個人的には四球の価値は安打と変わらないと考えます。むしろ四球はファインプレーによって防がれる可能性もなく、確率の高い出塁方法と言えます。とはいえ、四球は取ると決めたら簡単に奪えるものでもありません。今年の阪神打線は考え方に変化が生まれたのだと想像します。特に感じるのは「次につなげば必ず打ってくれる」という後ろの打者への信頼感です。
象徴的だったのは5月24日ヤクルト戦。1点を追う9回表2死から3番ノイジー選手が三塁打を放ち、4番大山選手が四球を選んだシーンです。フルカウントから左腕田口投手の内角低めスライダーにグッとこらえ、5番佐藤選手の逆転打につなげました。このような後ろの打者に対する信頼感が四球数の増加につながり、打線を点ではなく線にしているように感じます。
自分は現役時代、四球数が多い方でした。通算1055四球はプロ野球歴代14位の数字だそうです。単純にボール球を打てる選手ではなかっただけですが、ボール球を振らないことに少なからずメリットを感じていたのも事実です。
四球は調子が悪い時期の逃げ道として活用できます。4打数無安打を3打数無安打1四球にできるだけで、2割7、8分の打率を3割に近づけられます。ボール球に手を出さないスタイルは、自分の打撃が崩れる可能性を最小限にとどめられる点も魅力です。もちろん、不調時にもつなぐ役割を担えれば、チームにもプラス作用が生まれます。
ボール球を見極めれば、相手バッテリーの球種、コースの選択肢を削り、失投率を上げられます。佐々木朗希投手に6回で102球を投げさせたように、球数を増やせば早めの降板にも導けます。勝ちパターンの投手が7回からそろっているチームは多くありませんし、1人でも多くの投手を登板させれば翌日の試合にも効いてくるものです。
今の阪神打線は理想的な形で四球を選べています。ボール球に手を出さず、相手バッテリーの失投を誘う、もしくは四球で塁を埋めて大量得点につなげる。この形を継続できれば、数人の打者がスランプに陥る時期に突入しても、極度の得点力不足に悩む可能性は低くなると予想します。