今永といえば日本球界屈指の左腕であり、昨年の交流戦では日本ハムを相手にノーヒットノーランを達成している。とはいえ日本ハム打線も、昨年は若手選手を積極的に起用。それなりに力はついてきている。今永を相手にどう食らい付いていくか注目していたが、初回の守備位置変更を見て冷めてしまった。
初回の攻撃が終わった直後に、「3番セカンド加藤豪」と「9番ファースト郡」の守備位置が入れ替わった。試合前のシートノックは最初のオーダーと同じポジションで守っていただけにビックリした。慌てて変更した理由を考えてみたのだが、シートノック中に加藤豪がどこかを痛めた可能性があるぐらいしか思い浮かばなかった。加藤豪の動きが気になり、スローイングや走る姿を観察したが、特別に悪いところがあるようには見えなかった。
仮にシートノックを見て、加藤豪のセカンド守備に不安を感じて変更したのなら、気の毒なのは郡だろう。今季3試合目のスタメン出場で、今季は1度も守ったことがないセカンドの守備にシートノックにも入らずに守ったことになる。慣れない守備に就けば不安にもつながる。5回に一塁手の頭を越えるツーベースを打ったときには、思わずこちらがホッとした気持ちになった。
これも、新庄監督ならではの“精神力強化”なのかもしれない。しかし敵を欺く戦術なら分かるが、自軍の選手に必要以上の負担をかける必要はない。特に郡はレギュラーを狙う立場で、思い切って力を発揮できるような環境でプレーを見なければいけない選手だと思う。
新庄監督は就任以来、同じオーダーを組んでいない。それなりに考えがあってのことだろう。しかし先発オーダーは、休養を与えたい選手を休ませたりするケースはあるものの、基本的に「その試合のベストメンバー」が並ぶもの。同じ投手や似たタイプの投手を相手にする場合もあり、「1度も同じオーダーがない」というのは不自然だと思っていた。
野手に転向したこともある投手の上原を「8番」に起用。2回無死満塁ではホームゲッツーで、4回2死一、二塁には三振した。もちろん、うまくハマる場合もあるが、打撃がいいとはいっても投手より後の打つ野手(郡)は気持ちのいいものではない。確かに今永は右打者より左打者を苦手にしているが、左打席に入る上原は今永ほどの左腕と対戦したことはほとんどないと思う。これは偶然だと考えられるかもしれないが、チャンスをつぶしたあとに上原は失点してしまった。
「固定観念にとらわれない」という考えはとても大切だと思う。それでも守備の大切さを教えるなら初回の守備変更はないし、少しでも勝てる確率を上げるための戦術なら、それなりの根拠も必要だと思う。その地道な積み重ねが、チームを強くするのだと思う。(日刊スポーツ評論家)