一ノ瀬時雨の恋情 〜リア充オタクとなんちゃってヤンキーの、激甘重ラブコメディ〜

衣更大翔(元:如月ひろか)

序 「青春とは」






 ——学生時代に告白をされたことがあるという人間は、いったいどれくらいいるのだろうか?








序 「青春とは」






 高校生くらいの少年は、学校から離れたところにある本屋に、とある雑誌を買いに来ていた。

 学校の近くにも書店はある。少年の学校は徒歩で行ける距離なので、わざわざ電車を使ってくる必要は本来ない。


 ではなぜか。

 理由は単純。買うものを誰にも見られたくないからだ。


 なるほど青少年らしくエロい本を買いに来たのだろうか。

 否、そうではない。

 残念ながら、町の本屋でそんなものを買う度胸は彼にはない。


 自動ドアが開く。軽快な入店音がなる。

 少年は脇目も振らず、雑誌コーナに向かう。

 その道筋には漫画を買いに来たのであろう中学生と思しき少女。彼女は少年の顔を見て、「ひっ」と小さく息を漏らす。


 少年の服装は、黒いジャケットに紺のジーンズと、ごく普通の服装だ。

 ……問題は、人殺しでもしてそうな鋭すぎる少年の三白眼である。

 怯える少女の動向に視線を一瞥だけさせ、彼は目的の場所に向かう。


 少年は一冊の雑誌を見つけると、満足そうな笑みを浮かべる。側から見ると完全犯罪を成立させたような表情だった。

 迷うそぶりもなく、その雑誌に手を伸ばす少年。


 そこへ……。

 何者かの手が重なった。



 あ、という可愛らしいつぶやきが。



 少年は、首を右に九〇度傾ける。

 その視線の先には。

 口をぽかんと開けた少女が、手を差し出したまま固まっていた。


 少女の風貌を端的に表すならば、今時のギャルっぽい。

 軽くウェーブした髪に、明るい茶髪。ブラウスを着崩して、キラキラしたネックレスが首元で電光を反射して輝いている。両者の出で立ちは、それはそれは、立派な不良と今時JKであった。


 そこへさらに謎を加えているのが、少年が触れているとある雑誌。


 『月刊アニメマガジン』。

 タイトルだけでわかる、アニメ系の情報雑誌だ。きわめつけは、表紙のイラスト。


 男性向けに主眼を置いているのか、恥ずかしげな表情した胸の大きな二次元美少女イラストがデカデカと描かれていた。

 一目でそれとわかる、オタク向けの書物。

 圧倒的な違和感がそこにあった。


 二人の男女はしばらく黙って見つめあっていたが……お互い急激に頬が紅潮し、あたふたし始める。

 少年は頭を抱える。少女は視線をさまよわせる。


 先手を取ったのは少女だった。



「あ、あの……! 弥生! 実は、あんたのことが好きだったの。——あた、あたしと付き合ってくれない⁉︎」



 超食い気味の告白。

 この言葉から、全てが始まる。



 ——これは、隠れオタクたちが織りなす物語。


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