この記事は、新疆ウイグル自治区で中国政府により行われているイスラム教徒の強制収容に関して、BuzzFeed Newsが独自に実施した調査のパート1である。パート2はこちら、パート3はこちら、パート4はこちらから。
このプロジェクトは、オープン・テクノロジー基金、ピューリッツァー危機報道センター、ECFJ(Eyebeam Center for the Future of Journalism、ジャーナリズムの未来のためのアイビーム・センター)の協力のもと行われた。
中国政府は過去3年間で、イスラム系少数民族を拘束する活動を著しく強化し、数多くの大規模な拘束施設や収容所をひそかに建設している。拘束者は全員釈放したと公式には主張しているものの、実際には厳重な警備が敷かれ、なかには数万人を収容できる専用の収容所が建設されている。
つまり、これまでは学校や老人ホームなどの公共施設を転用していた中国政府が、方針を大きく転換し、大量の拘束者に対応する広大かつ恒久的なインフラの建設に踏み出したことを示唆している。
BuzzFeed Newsは、一般に公開されている衛星画像と、数十名の拘束経験者のインタビューをもとに、中国の収容所システムに関して過去に例のない広範な調査を実施した。
その結果、2017年以降、強制収容所の特徴を有する構造物が260以上も建設されたことが明らかになった。
2016年後半から始まった、イスラム系少数民族の大規模な拘束。強制労働も
中国の西端にあたる新疆ウイグル自治区では、ほぼすべての県に、そうした施設が少なくともひとつは存在している。今回の調査では、中国政府が2017年以降、ウイグル族、カザフ族などのイスラム系少数民族を数十万人規模で拘束・収監するための広大なシステムを構築している事実が浮かび上がった。
そこではすでに、第二次世界大戦後で最大規模の民族・宗教マイノリティの拘束がおこなわれている。
中国政府による前例のない大規模な活動の一環として建設されているこうした施設には、これまでに100万人超が拘束されたと見られており、2019年に建設もしくは大幅に拡大された施設も複数ある。
こうした大規模な拘束が始まったのは2016年後半のことだ。さらにこの年、新疆ウイグル自治区のトップの陳全国・共産党委員会書記は、顔認証カメラ、携帯電話の追跡、検問、強圧的な治安当局の取締りにより、イスラム系少数民族を絶え間ない監視下に置いた。
同地区の人口約2500万人の半分以上を占めるイスラム系少数民族は、それ以外にも、強制不妊から強制労働まで、さまざまな迫害を受けている。なお、陳書記は2020年7月、人権侵害に関わったとしてアメリカ政府から制裁を科された。
中国政府は当初、数千を超える人々を手っとりばやく収監するために、古い学校などの建物を転用した。やがて、拘束者数の増加に伴い、2018年以降に分厚いコンクリートの壁や監視塔のような、はるかに厳重な警備態勢と恒久的な構造を備えた新施設の建設に着手したことが、BuzzFeed Newsの分析で明らかになった。
拘置所のような施設建設には通常、数年を要するが、衛星データの推移を見ると、こうした新たな施設のなかには6カ月足らずで建てられたものもあることがわかる。さらに中国政府はその間、収容所や拘置所の内部に工場も増設した。
これは、新疆ウイグル自治区で強制労働が拡大していることを示唆している。2020年8月の時点で、建設はまだ継続していた。
2018年の大部分を塔城地区の収容所内で過ごした49歳のヂェニシャン・ベルディベク(Zhenishan Berdibek)は、「こうした場所にいる人たちは、恐怖のなかで生きています」と語る。
「若い人たちのなかには、私たちほど忍耐強くない人もいます。彼らは泣き叫び、大声でわめいていました」
だが、がんを経験したベルディベクには、そんなエネルギーは絞り出せなかった。若い女性が独房へ引きずられていくのを見たときに、「私は希望を失いました」とベルディベクは語る。
「収容所の中で死にたいと思いました」
地図の空白地帯と衛星画像を照合し、268の新たな施設を特定
BuzzFeed Newsは、中国で広く使われている、グーグルマップに似たツール「百度地図(バイドゥマップ)」の空白地帯と、外部の衛星データプロバイダーが提供する画像とを照らしあわせ、新たに建設された268の複合施設を特定した。これらの複合施設の多くは、複数の収容施設で構成されている。
〈地図の説明文〉
この地図は、今回の調査で特定された、拘置所や収容所の特徴を持つ施設の場所を示している(注:この地図に対応する衛星画像の多くは、2017年以前に撮影されたものであるため、拡大したとしても、収容所と思われるものの証拠が見えるとは限らない)。
赤い丸:別の情報源によって特定または裏づけられた場所。
オレンジ色の丸:衛星画像。外壁と監視塔があるもの。
灰色の丸:衛星画像。外壁と有刺鉄線はあるが、監視塔はないもの。
紫色の丸:2017年以前に建設された収容所。
黒色の丸:過去に拘束者の収容に使われた可能性があるが、現在は閉鎖されている、もしくは警備が緩くなっている場所。
これらの施設のうち92施設は、政府調達関連文書や学術研究などの別の情報源により、収容所と特定されるか、裏づけられている。うち19施設は、ジャーナリストの訪問で裏づけられた。
それ以外の176施設は、衛星画像だけから特定されたものだ。そうした衛星画像にはしばしば、施設の周囲を囲む分厚い壁が写っている。また、有刺鉄線のフェンスにより、中庭に囲いや通路がつくられていることも多い。
この地域の複合施設の多くは壁で囲まれているが、BuzzFeed Newsが特定した施設は、それよりもはるかに厳重な警備が敷かれている。これらの複合施設のうち121施設では、監視塔も確認された。監視塔の多くは外壁に組み込まれている。
この記事で特定された施設のGPS座標とあわせて、記事に関する詳細な質問リストをニューヨークの中国総領事館に提示したところ、総領事館は、「新疆ウイグル自治区に関する問題は、人権や宗教、民族の問題ではまったくなく、暴力的なテロリズムと分離主義との闘いに関するものだ」と回答し、同地区で100万人のウイグル族が拘束されたとする主張は「根拠のない嘘」だと述べた。
総領事館は以下のように続けた。
「新疆ウイグル自治区では、職業教育/トレーニングセンターを設置している。その目的は、過激な思想の根絶、法の支配に対する意識の向上、職業能力の育成、(入所者の)雇用機会の創出により、過激で暴力的な思想の影響を受けた人をできるだけ早く社会に復帰できるようにすることにある」
さらに総領事館は、そうしたセンターでは人権が保護されており、「トレーニングを受ける者には移動の自由がある」と述べた。
その一方で総領事館は、「テロリスト犯罪者を対象とした強制的プログラム」がアメリカや英国を含む他国でも実施されていると述べ、同等のものだと主張した。
中国外交部と百度にも繰り返しコメントを求めたが、返答は得られなかった。
現在も続く大規模で重警備な収容施設の建設
新たに建設された施設は、新疆ウイグル自治区の居住地域全体に散らばっている。大きさと建築上の特徴からすると、最低1万人を収容できるほど大規模なものも複数ある(本記事の筆者の1人は建築士の資格を持っている)。
従来の施設とは異なり、新たに建設された施設はより恒久的で、刑務所に近い。構造的に見て、中国の別の地域にある重警備刑務所と似ているように見える。
最も警備が厳重な施設では、建物と建物のあいだのスペースがほとんどなく、コンクリートの壁で囲まれた小さな庭、がっしりとした石づくりの構造、両側に監房が並ぶ長い通路のネットワークといった特徴が見られる。洞窟のような設計で、自然光は建物内部にほとんど入らない。
BuzzFeed Newsは、建設途中で撮影された、屋根のない状態の写真などを含む過去の衛星写真を検証し、一部の重警備施設の内部の配置を突き止めた。
2017年末の時点で、収容所として転用された政府管理下の建物には、少なくとも数万人の拘束者がつめこまれていた。そうしたことから、中国政府は2018年春、最大規模の新施設の建設に着手し、2018年10月までに複数の施設が完成している。2019年を通じてさらなる施設がつくられ、現在もさらに複数の施設の建設が続いている。
中国政府によれば、こうした収容所は収容者の「過激思想を取り除く」ための学校や職業訓練所だという。新疆ウイグル自治区の政策に関する中国政府の内部文書では、この「教育基地」が「集中教育」という言葉で説明されている。
中国政府は、新疆ウイグル自治区でのこうした活動は、過激主義に対抗するためのものだと主張している。だが、これらの施設に入れられた人のほとんどは、いかなる意味でも過激派ではない。
・中国で使用が規制されているメッセージアプリ「ワッツアップ(WhatsApp)」をダウンロードした。
・国外にいる家族と連絡を保っている。
・礼拝をした。
・ネットで外国のウェブサイトをみた。
こうした行為はどれも、イスラム系少数民族を収容所へ送る理由になることが、過去にリークされた文書や元収容者への聴き取り調査から判明している。
中国の法のもとで、これらの行為は犯罪ではない。加えて、中国政府はこれらの収容所を刑事司法制度の一部と見なしていない。そのため、正式に逮捕されたり起訴されたりした拘束者はいない。もちろん、裁判所に出廷した人もいない。
BuzzFeed Newsが特定した複合施設には、拘置所や刑務所だけでなく、いかなる犯罪の容疑者でもない人を収監する、超法規的な収容所が含まれている可能性がある。どちらのタイプの施設にも、互いによく似た警備のための構造がある。
元収容者が明かす、過酷な生活や虐待の実態
中国政府が拘束を強化して以来、新疆ウイグル自治区の被拘束者数は大幅に増加している。
政府データにもとづくニューヨーク・タイムズの分析によれば、新疆ウイグル自治区の人口は中国全国民の2%未満であるにもかかわらず、2017年の中国における逮捕件数の21%がこの地区に集中しており、前年から8倍に増加したという。
中国共産党が支配する法廷では判決の有罪率が99%を超えるため、逮捕された人の圧倒的多数は有罪となる可能性が高い。
収容経験者らがBuzzFeed Newsに語ったところによれば、彼らは収容所で、拷問、飢え、過密状態での生活、独房での監禁、強制不妊など、さまざまな虐待を受けたという。
また、共産党のプロパガンダを中心とする洗脳プログラムを受けさせられ、中国語だけで話すことを強要されたとも語っている。工場での無賃労働を強要されたと話す元収容者もいる。
中国政府は新疆ウイグル自治区において、独立系ジャーナリストや研究者の移動を厳しく制限している。また、インターネットや国営の国内メディアも徹底して検閲している。
イスラム系少数民族は、ソーシャルメディアへの投稿を理由に処罰される可能性もある。だが、独立系プロバイダーから入手した衛星画像には、中国政府の検閲の手は及ばない。
ときには、それとは別の種類の証拠が漏れ出てくることもある。2019年9月には、髪を剃られて目隠しをされた数百人の男性の姿を映したドローン動画がネット上に公開された。後ろ手に縛られた男性たちは、「カシュガル収容センター」と書かれたベストを着ていた。
オーストラリア戦略政策研究所の研究員で、新疆ウイグル自治区の収容所・刑務所システムの衛星画像を詳細に分析しているネイサン・ルーサー氏によると、以下の動画は、2019年4月におこなわれた収容者移送の様子をとらえたものだという。とすれば、中国政府がそうした収容所は職業訓練所だと最初に説明してから数カ月が経っている。
オーストラリア戦略政策研究所が2018年11月に実施した分析をはじめ、過去の複数の分析により、初期に建設された数十の収容所が特定されている。
イスラム系少数民族の強制収容は「ジェノサイドにあたる」と国際的に批判も
ノッティンガム大学で中国のイスラム史を研究するライアン・サム氏は、以下のように述べている。
「新疆ウイグル自治区の強制収容・同化プログラムは、北米の入植者による先住民虐殺や、南アフリカで国家が公認した人種差別政策だったアパルトヘイト、産業的な規模だったナチスドイツの強制収容所、そして北朝鮮のような警察国家による日常生活への介入の論理を、併せ持っている」
中国政府の活動は、多くのイスラム系少数民族に深刻なダメージを与えている。とりわけ大きな痛手を受けているのが、ウイグル族だ。
ウイグル族は、新疆ウイグル自治区では圧倒的に人口の多い少数民族で、中国以外の国とのつながりはない。中国政府は、テュルク系少数民族の文化表現に対して重い罰を科している。例えば、カザフ語やウイグル語の教育や、国の管理するモスク以外でのイスラム教活動を禁止している。
そうした施策と強制不妊などの事例から、中国政府の行動を、国際法上の「ジェノサイド」にあたると批判する声も出ている。報道によると、トランプ政権は、中国政府の活動を正式にジェノサイドと呼ぶことを検討しているという。
民主党の大統領候補ジョー・バイデン氏の広報担当者は8月25日、バイデン氏もその呼称を支持すると話した。
ウイグル人言語学者のアブドワリ・アユップ(Abduweli Ayup)氏は、「強制収容所にいるのは平和的な人たちだ」と話す。アユップは、ウイグル族の子どもたちにウイグル語を教える幼稚園を開設した後に投獄され、のちに新疆から逃れた。
「彼らはビジネスマンであり、学者であり、エンジニアだ。民族音楽家、医師、店員、レストラン経営者、ウイグル語の教科書を使った教師だ」
「彼らは、我々の社会の柱となる人たちだ。彼らがいなければ、我々は存続できない」
中国共産党が1949年に中華人民共和国の成立を宣言して以降、イスラム系少数民族、なかでもウイグル族は、一貫して困難な立場に置かれてきた。
しかし2016年、状況が急激に悪化し始めた。中国政府がイスラム教徒を収容所に送り、「教育を通じた変化」を促す手段として、高圧的な監視と取り締まりのシステムを実行に移した年だ。陳共産党委員会書記は、新疆ウイグル自治区の当局に対して、「拘束すべき人の全てを拘束」するよう指示した。
当初は公共施設を収容所として転用していたが、収容者が急増。施設は過密状態に
その結果、数千人が拘束された。2018年3月に拘束されたトゥルスネイ・ジヤウドゥン(Tursunay Ziyawudun)さんも、その一人だ。ジヤウドゥンさんが収容所の門に着くと、数百人が宝飾品や靴ひも、ベルトを外していた。収容所に入るため、検問所で「処理」されていたと、彼女は振り返る。
中国政府は当初、学校や老人ホーム、病院などの公共施設を収容所として転用していた。中には古い収容所もあった。
BuzzFeed Newsは、2017年以前に建設され、新疆ウイグル自治区の人々を収容するために使われたことがある47の施設を特定した。
新疆ウイグル自治区における人権侵害の研究を主導するエイドリアン・ゼンツ氏によれば、数カ月で収容者を釈放する施設もあれば、収容者が実刑を言い渡される施設もあるという。
BuzzFeed Newsが取材した元収容者のうち3人は、何らかの罪に問われることなく、法律で認められているよりもはるかに長い、数カ月間にわたって拘束され、その後、収容所に移送されたと語っている。
2017年には、こうした拘束のペースが速まり、収容者が急増した。結果、人々が施設内で重なり合うように暮らすまでになったという。
BuzzFeed Newsは、計28人の元収容者を取材した
取材した元収容者の多くは、動画に映っていた男性たちのように目隠しされたり、後ろ手に縛られたりしたと証言している。
28人の大部分が、通訳を介して取材に応じた。いずれも釈放後に中国を出ており、元収容者のなかでも少数派にあたる人々だが、目の前で拡大・変化していった残酷なシステムについて説明してくれた。
28人のうち多くは、たびたび施設を移動したと振り返り、その多くが、第1世代として作られた間に合わせの施設が過密になったためではないかと話している。中国政府が拘束を開始した当初は、毎日数百人が施設に到着しており、絶えず新しい一団が出入りしているように見えたという。
複数の元収容者が、ベッド1台に2人で寝ていたと述べている。場所が足りないときは、交代で眠ることもあったという。
ほぼすべての収容者が、食事はわずかな量のご飯、蒸しパン、おかゆで、肉などのタンパク質はほとんど、あるいは全く口にしなかったと証言した。
40歳のカザフ族、オリンベク・コクシベク(Orynbek Koksebek)さんは、比較的初期の2017年末ごろに拘束された。当初は8人部屋で、全員に自分のベッドがあったそうだ。
ところが数カ月以内に、収容所に到着する人がどんどん増えていったと語る。
「ある日は、足かせで拘束された妊婦を見ました」
「赤ん坊を腕に抱き、授乳している女性も見ました」
2018年2月までに、コクシベクさんの同室者は15人に増えたという。
「毛布を共用する人や、床で寝る人もいました」
「後で聞いた話ですが、実刑判決を受けた人や、別の収容所に移された人もいたようです」
収容所では授業が行われ、共産党のプロパガンダや中国語の文字を覚えることを強制された。しかし、教室すら過密になったと、複数の元収容者が証言している。
そのため、ベッドの横でプラスチック製スツールに座り、背中を真っすぐ立て、教科書を読み続けなければならなかった。その様子はカメラで監視されていた。元収容者たちは看守から、人が多すぎて教室に入りきらないと説明された。
コクシベクさんは、閉所恐怖症に苦しんだ。
「部屋には窓が1つありましたが、とても高い場所にあり、空がほんの少し見えるだけでした」
「鳥になって自由に飛べれば、といつも願っていました」
2019年12月、空が雲で覆われた極寒の朝、北京の閉ざされた複合施設にある中国国務院新聞弁公室で、新疆ウイグル自治区のナンバー2にあたるショハラト・ザキル(Shohrat Zakir)主席が異例の記者会見を開いた。
国務院新聞弁公室は、国内外のジャーナリストに定例会見を行う数少ない政府機関のひとつだ。
収容者は「全員卒業した」と主張。その間にも進む、新収容施設の建設
ザキル氏は、4人の当局者とともに、小さな部屋の前方にある長い演壇に座った。4人の当局者は、新疆ウイグル自治区の経済成長を強調したうえで、中国政府によるテロリズムとの闘いは成功していると主張し、中国の人権侵害を批判する米国政府を偽善者と呼んだ。しかし、全世界で見出しを飾ったのはザキル氏だった。
ザキル氏は、収容所にいる人々を「訓練生」と呼び、バラ色の光景を描き出した。
「(収容者は)全員卒業しました。政府の支援によって安定した雇用を手に入れ、生活の質を向上させ、幸せな暮らしを送っています」
記者たちがザキル氏の会見で発言のメモを取っている時でさえ、北京から約4000キロ離れた新疆ウイグル自治区では、自治区の中心地にあたる疏附(そふ)県の近郊で、警備が厳重な巨大複合施設の完成に向けて工事が進められていた。曲がりくねった川のすぐ南側に位置し、周囲には牧場が広がっている。
疏附県は、中国の基準では小さい県で、人口は約30万人だ。目抜き通りには、郵便局や宝くじ売り場、蒸しパンや牛肉麺を出す食堂などが並ぶ。巨大複合施設は、そこから車で20分足らずの農地に建設された。
2019年3月に工事が始まる前には、一帯はすべて農地で、緑に覆われていた。衛星画像によると、2019年8月までに、分厚い外壁が築かれた。外壁の四隅と中央には、高さ6メートル近い監視塔もある。
その次に建物がつくられた。建物の配置はU字形になっており、U字の下部分が2階建て、左右が5階建ての建物だ。
2019年10月までに、コンクリート製外壁の両側に、2重構造になった有刺鉄線のフェンスが設置された。衛星画像にはその影が映っている。
西側の壁のすぐ外に、警備員の詰め所が2棟つくられた。いずれも、壁に囲まれた細い通路で外壁とつながっており、警備員が監視塔と外壁の上部にアクセスできる。入り口の前にも、看守や警官が使用できる建物が並ぶ。
BuzzFeed Newsの計算では、この巨大複合施設には約1万500人を収容できる。収容所の混雑を長期的に解決する計画と見られる。巨大複合施設の衛星画像を分析したオーストラリア戦略政策研究所のルーサー氏は、これは新たにつくられた収容所だと述べた。
「収容所の大多数には、監視塔や内側のフェンス、頑丈な外壁を持つ出入り口があります」
既存の建物を転用した古い施設とは異なり、これらの新しい収容所・拘置所は警備が厳重だ。門は4階建てのものもあり、敷地の外壁は分厚く、多くの場合、主要な壁の両側に有刺鉄線が張り巡らされている。これらの特徴は、従来よりはるかに多くの人を長期収容できることを示唆している。
BuzzFeed Newsの取材に応じた元収容者らによれば、収容所には眠るための監房だけでなく、教室、診療所、食堂、シャワー室、独房、警察の建物、管理事務所、小さなビジターセンターなどもあるという。
また、多くの複合施設が工場を併設している。粉体塗装された青い屋根と鉄骨構造が特徴で、建設中に撮影された衛星画像で確認できる。施設の入り口付近には通常、警備員や管理職員が使用する警察の建物がある。
中国政府が警備の厳重な収容所を使用する傾向、専門家が警告。
新疆ウイグル自治区の収容所・拘置所の所在地は容易には入手できない。しかし、百度地図の空白地帯と外部の衛星画像を照らし合わせれば、場所を特定し、施設を分析できる。
Google Earthのような衛星画像地図は、長方形の衛星画像をつなげてつくられている。中国の検索大手で、Googleとよく似た地図サービスを提供する百度の場合、収容所、軍事基地などの政治的にデリケートな施設は、明るいグレーの画像を重ねて、見えなくしていることがわかった。
こうした「マスク」画像は、地図を拡大すると現れる。何かを読み込むことができないときに表示される画像は、少し暗いグレーの透かし模様で、両者は微妙に異なる。
すでに取り除かれているが、ジャーナリストが訪問し、存在を確認した収容所の所在地も、「マスク」画像で隠されていた。
BuzzFeed Newsは、Google Earthやプラネット・ラボ、欧州宇宙機関(ESA)センティネル・ハブの衛星画像地図を使って施設を特定した。これらの地図は、施設の画像を隠していない。
高解像度の画像が公開されていない場所については、プラネット・ラボが自社の人工衛星で新たに画像を撮影し、BuzzFeed Newsに提供した(調査方法については、こちらの記事を参照していただきたい)。
これらの画像には、数カ月の間に建設された施設が映っていた。画像を詳細に調べると、施設の大きさや規模を大まかに把握できる。例えば、建物の窓を数えると、何階建てかがわかる。
衛星画像を見る限り、こうした施設は多くの場合、古い収容所や拘置所の隣に建てられ、駐車場、管理施設、警官の宿舎などを共有している。
BuzzFeed Newsはさらに、かつて収容所として使われていた可能性が高い50の施設を発見した。長方形に配置された有刺鉄線のフェンス、建物同士を結ぶ閉鎖型の通路、監視塔などの警備機能が失われていた。少数ながら、すでに解体されていた施設もある。
ルーサー氏をはじめとする専門家によれば、これは中国政府が活動を弱めていることを示唆するものではないという。こうした施設の多くは現在も、警備の緩い収容所として運営されている可能性が高いそうだ。
新疆ウイグル自治区で見られるはるかに重要な傾向は、中国政府が警備の厳重な収容所や拘置所を使用するようになっていることだ、とルーサーは述べている。
既視感のある収容所は、かつて娘が通った中学校だった
ニューヨークの中国総領事館に質問したところ、2019年12月のザキル氏の会見とよく似た回答が返ってきた。
「標準中国語の読み書き、法の理解、職業能力の育成、過激思想の排除のコースを受けた訓練生は全員、訓練を終了し、社会で安定した雇用を手に入れ、通常の生活を送っています」
BuzzFeed Newsが取材した元収容者は皆、かなり前に釈放されたため、新しい施設のいずれにも入ったことはない。
多くの元収容者は、中国から永久に逃れる前には事実上の軟禁状態に置かれ、警察の許可を得なければ、集落の外に出ることができなかったと述べている。
多くの元収容者、特に正規の教育をあまり受けていない人は、どのような施設に収容されているのか、なぜ収容されているのかさえわかっていなかった。
元収容者たちによると、彼らは毎週、自身の「信頼できない」行動について警察から質問を受けていた。彼らはこの尋問の内容から、自分が拘束された理由を推測したと述べている。
中高年のカザフ族であるヌルラン・コクテウバイ(Nurlan Kokteubai)さんは2017年9月、収容所に到着してすぐ、既視感を覚えたという。そこは、少し前まで中学校だった場所だった。
「娘があの学校に通っていました。迎えに行ったこともあります」
1992年に生まれた娘の話をするとき、深いしわが刻まれたコクテウバイさんの顔には笑いじわが現れる。
コクテウバイさんの娘はカザフスタンに移住していた。カザフスタン政府が再定住政策を推し進めているため、カザフ族の多くの人が、中国からカザフスタンに移り住んでいる。
コクテウバイさんの娘は夫とともに、カザフスタンから、父親の釈放を訴え続けた。YouTube動画を発信したり、人権擁護団体に長い手紙を送ったりした。コクテウバイさんは2018年3月に釈放されたが、これは娘たちの活動のおかげだと信じている。
かつて娘やほかの生徒たちが数学や歴史を学んだ教室は宿舎に変わり、40~50人の収容者たちが、数の限られた二段ベッドで眠っていた。
施設そのものは新しくなかったが、周囲を取り囲む高い壁と有刺鉄線など、新しい機能がいくつも加えられていた。施設の至るところに監視カメラが設置されており、コクテウバイさんは看守から、200メートル先の物体も撮影できると言われたという。
新しいものがもう1つあった。門をくぐると、「中国共産党第十九回全国代表大会の精神を学びましょう」という巨大な赤い文字に迎えられた。
最大3万2500人を収容可能だった施設もさらに拡張。キャパシティを約1万人分増加
コクテウバイさんだけでなく、BuzzFeed Newsの取材に応じた元収容者の数人が、連行された施設を認識していた。徒歩や車で通り過ぎたことのある施設、あるいは、過去に収容されたことのある施設だった。
これらの転用施設は、もともと収容者を入れるためにつくられたものではなかったため、中国政府が拘束しようとしたイスラム系少数民族を残らず収容できるほど大きくはなかった。
2019年前半、ウルムチ市南部の達坂城(たつばんじょう)区で、収容所を拡張するための整地が始まった。その1年前、BBCとロイターの記者が訪問し、悪名が広まった収容所だ。
この収容所は、すでに地域最大級の規模を持っていた。BuzzFeed Newsの分析では、2018年10月の時点で最大3万2500人を収容可能だったが、拡張後は、さらに約1万人を収容できるようになった。
2019年11月までに、約1万人の収容能力を持つ別の施設が完成し、収容能力が4万人を超えた。ニューヨーク州ナイアガラフォールズ市の人口に匹敵する規模だ。
ワシントンDCのシンクタンクCSISで人権プログラムの責任者を務めるエイミー・レア氏は、本記事で取り上げた3施設を調査した後で、「これらの施設の特徴は、CSISが過去に分析した、新疆ウイグル自治区の超法規的な収容所の特徴と一致している」と認めた。
達坂城区の施設について、ルーサー氏は以下のように説明している。
「(施設は)ウルムチ市の主要な収容所で、全長2キロに及びます。2019年後半、道路を挟んだ西側に、1キロ分の新施設が追加されました」
長さだけを比べると、ニューヨークのセントラル・パークの約半分だ。
コクテウバイさんは、自らが収容所に入れられた正確な理由を知らない。最終的には、カザフ族であることを理由に、カザフスタンに定住できた。
釈放された日、コクテウバイさんは喜びも悲しみも、何も感じなかったと語る。
「うれしくも悲しくもありませんでした。何かを感じることができませんでした」
「カザフスタンで親族と再会したときでさえ、久しぶりの再会を喜んでいるように見えないと言われました」
「うまく説明できませんが、あそこに入れられていた間に、私の感情は枯渇してしまったようです」
この記事は英語から翻訳・編集しました。翻訳:梅田智世、米井香織/ガリレオ 編集:BuzzFeed Japan
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