Indiana Jones Theme/John Williams
続・イタリア紀行(Indiana Jones Theme/John Williams)
やぐらも明日には解体が待っている。作っては壊し、壊しては作り、派遣のバイトはオラオラ系の社長の手足になって動くシヴァ神のお手伝いである。とはいえ、3Kの仕事だけでなく迎賓館にも銀座松屋の催し物コーナーでも仕事をした。その中でも光が丘の強制撤去は大分堪えた。強制撤去とは家賃滞納者の財産の差し押さえ兼文字通りの住人の追い出しである。居住者がごねると大分長くなるのでずーっと目張りされた外部も外部からも見えないトラックの中でじーっと待機している。どんなにごねようとも無表情な執行官は無慈悲に法の名の下に強制撤去開始の鐘の音を告げる。迅速に、迅速に。目の前にフィリピン人とそのハーフの子どもがいても、気にしない。それわかちこわかちこ~♪下っ端のぼくは水回りを任された。
ほの暗く温水洋一。先ほどまで湯に浸かっていたのかまだ人肌の生温かさが余韻嫋々、金目のものは全て回収しろとのお達しだから、お嬢ちゃん、ちょっとそこをどいてくなせぇ、あっしの邪魔になるでごんす、と黙々と、ベルリンフィルのようにザ・マシーンとして職務を坦々の冒険とこなす。フランス語ではタンタンも英語読みではティンティンになる。マスクに覆われた顔の下、ぼくを見上げる二つの無邪気な眼に気付いた。手にはふなっしーのぬいぐるみを抱えている。あぁ、本当にこういうシチュエーションってあるんだ、と自然が芸術を模倣したのを見て少しばかり驚いた。芸術が自然を模倣すると語ったのはゲーテだったが、一見そー借る事件的な発言にも思えるワイルドもなかなか的を得たことを語った。少年よ、その曇りなき眼で世界を見通していっておくれ。強く、生きて。生きねば!ダン!彼女を見ていたら、派遣先の先輩がやってきて女の子からふなっしーを取り上げた。そんな、まさか、ぼくは最悪の自体を想定した。不安そうに上を見つめる女の子、先輩はそれを掲げて、スーツ組の人には話しかけてはならないから、さらにその後ろの業者のリーダーに確認を取っている。みなそれを知ってか知らずか黙々と自らの作業をこなしている。弁護しよう等とは誰も思わない。そんなことをしていてはきりがない。この家の住人のクオリアは世界で一つしかない尊いものであるが、この強制執行は何十もの小さなボロアパートの一に過ぎない。いちいち相手にしていては霧ヶ峰。霊峰の朱鷺。随分とものの多い家だから帰る時間が大分押しそうだ。少しでも早く帰れるように皆協力して滞り無く円滑に作業を進めること、それがここでは一番大事マンブラザーズ。強制執行は本当に家の扉を開けてみるまで何があるのか分からないそうだ。開ける時に皆で息を飲む瞬間はあたかも、くら寿司の5枚皿を戻すと始まる陳腐なゲームのインディージョーンズ風のイベントで一つ目のレーザービームの部屋を潜り抜けて、宝の鍵をゲットして部屋を開ける瞬間を彷彿とさせるらしい。そのたとえの意味が少しばかり分かるぼくはやっぱり芸大に通っていても下流なのかなと、悲喜こもごもの感情を抱きつつ、先ほどまで待機していた。はじめの家はラッキーだった。今日は2件あるとはじめのオリエンテーションで業者の人が語っていたのを思い出した。一件目は大はずれだった。これはものすごくいい案件で、つまり中が既に空なのだ。住んでいた人があらかじめ強制退去の日取り前日までにものをまとめて出て行ったケースがこれだ。部屋をさっさと放棄と掃除機でキレイにすればいい。窓ガラスのシールに紫外線でボロボロになった仮面ライダー龍騎のシールが張ってある。それをぼにゃりとエポケーして眺めていたら、業者の人からそれ剥いで、と指示された。次の居住者のために前に住んでいた人の痕跡は可能な限りひっぺがす。かりかりと爪で剥いでみると意外にしっかり張り付いていてやきもきした。貴金属、貴重品。それから個人情報の特定できるもの、液体、ゴミと段ボールにそれと分かる印を付けてベルトコンベアのように黙々と朴訥にドアへ送る。写真アルバムなんかを段ボールに入れる時には業者や先輩もの目を盗んで一瞬チラ見して、箱に詰める。家族でディズニーランドに行ったのを見た日には盛者必衰の理をあらわすで〜す(イクラちゃん風、cv:桂玲子(1940年生まれ))!で時計、醤油、塩、胡椒、ありとあらゆるものを回収撤去するのだ。文字面通り、部屋を空にする。正真正銘一切合切部屋を禅寺の空気で満たす。これでルンバも困らない。