交響曲第4番イタリア/メンデルスゾーン
続・イタリア紀行(交響曲第4番イタリア/メンデルスゾーン)
かの文豪ゲーテがイタリアを初めて訪れたのは彼が37の時であった。ひょんな偶然から私は彼よりも10年早い27の青年期に彼の地を訪れることになる。この天佑を必然のものとする為に私はこの旅を自らが伝説となる為の試金石とすることにした。当然、向かうのならばもはやそれは観光ではない。畢竟自分は目的がなければ動こうとはせぬ億劫な人間だから、かの全世界史が結びついている永遠の都ローマに足を踏み入れるからにはそれなりの覚悟を持たなければならぬ。お遊び気分で街を巡る気は到底ない。彼のゲーテと同様に第二の誕生をする為に私は赴くことにする。そうやって自分を納得させてこそ益々この石は輝きを増していく。そうだ!そうなのだ!それでいい!私は真の再生を私自身の魂に促す為に私はかの地に行かねばならなかったのだ!そう、真の人間になる為に!
諸君たちよ、今もって君たちに告げておかねばならぬことがある。それは本書はイタリアの観光案内記ではないということだ。もし諸君たちがこの書からイタリアに関しての蘊蓄や歴史的名所、はては地元の風俗事情なるものを期待して読み進めようと思うのならば、それは時間の無駄になるから即刻止めたほうがいい。本書を置いて速やか立ち去り、プライオリティー高きものへと、その各人の貴重な時間やリビドー、魂といったものを費やすべきだ。本書はいわずもがな、私というひとりの詩人が体験した極私的な記録の断片の集積物である。かの地で何に触れ、何を見て、何を感じ、そして何を考えたかといったことがのべつまなく徒然と延々と続く詩的で私的な、あまりに私的な御開帳中学生日記なのである。
前もって断っておくがこの紀行文、憧れの地ローマは基、ピレネーを超え、ドーヴァーをも超えて行く。アドリア海の女王ヴェネツィア、霧の都ロンドン、はては華の都パリといった帝都に桜咲く名だたる歴史溢れる都市の数々。私が何に関心を持ち、何に心動かされ、人世の機微や折に触れどのような人生の真理を詠んだかは私の勝手気儘なのである。ゲーテが数多く言及した古典古代の美術や鉱物といった博物についてその紙片を多く費やすかもしれないし、また彼が黙殺した美術以外の芸術、ラテン文学やゴシック建築、はては音楽、衣食住等といった多岐にわたるものまでその範疇は及ぶかもしれない。ゲーテがかのイタリア紀行中で飽き飽きするほどにまで言及した当時の天気や気候のように、私も諸君たちが飽き飽きするほどにまで自身の体調やうんちの色、はては臭いといったことまで細々と延々と自由気我儘に縦横無尽に論じ記すかもしれない。なかばこれは私のゴーマニズム体験記とでも思ってくれたほうがいい。長々と前置きを打ったが、それでは早速紐解くことにしよう。赤裸々な私の体験を、我が生涯の恥部をよく弄ってくれたまえ。本書が諸君たちの教養書たれば是幸いであると心の底で望んでいる。
主要登場人物紹介
一ノ瀬健太
本書の筆者。新潟出身、6浪。東京大文Ⅰ類を目指すも挫折、その後の紆余曲折を経て、どこぞのしあわせなサイエンスの総裁のように大悟し芸術の道に進む。現在東京芸大3年。近著『人間芸術家宣言!』は大ヒット御礼中!。。。ではなく、実際には数冊しか売れていないのが最近の悩み。
ピノ子
愛媛出身、1浪。容姿は、巷で馬の骨を投げたら誰かに当たると仮定した時に、誰に当たるかわからないけれども、仮に当たったとしたら、それくらい平均的な容姿、といったそれくらいなレベルだがチビデブであることは認めざるを得ない事実。本書の著者に惚れている。属性は肉。感極まった際には、あっちょんぶりけが発動する。現在筆者と同学年同学科。あだ名は、ピノコ、パロサウルス(正式名称はパキケファロサウルス/石頭恐竜)、肉猫即噛み女、鼻息荒子、歩き方力士女、暗黒肉弾魔人改め善明肉弾魔人、アザラシ女、レッドキング女…、等々。適宜千変万化する。ベティ・ブープ似。