超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 本来ならカズマ先生のお話はここで終わる予定でした…。
なぜならカズマ先生を含めて、全ての役割を終わらせる予定だったからです。

―追記
カヤ終わった終わったと思ってたら、カンナになってたことに感想を眺めててようやく気が付きました、脳内で自動変換されてました…申し訳ありません。
違う違うカンナは尾刃カンナ、カヤは不知火カヤよ…


エピローグ(1)

――連邦生徒会 中会議室 連邦生徒会役員総員 

 

 

「――辞令。

 連邦生徒会防衛室 防衛室長、不知火カヤ。

 カイザーコーポレーションとの癒着の疑い及び、

 アビドス地区売却に関する不正の疑いが認められたため…、

 本日をもってその任を解任するものとする。

 

  ただし、いままでの防衛室長としての実績及び、その功績を鑑み、

 連邦生徒会防衛室直属、矯正局局長に任命し、

 その任を全うすることを期待するものとする――」

 

 

 「――拝命します……」

 

 

 「………………残念です、カヤ…」

 

 

 「………………」

 

 

 連邦生徒会役職の礼装から、矯正局の礼装に衣装を変えたカヤは、表面上なんでもないように辞令という名の左遷を受け入れた。現職の連邦生徒会役職付き生徒全てに見守られながらも、カヤは背筋をびしっと伸ばし、最後まで堂々とした態度で儀礼をこなし、粛々と、なんの瑕疵もなく別れの儀式までの段取りは終了した。そして、誰に特になんと言い訳するでもなく、惜しむわけでもなく、まるで未練などないかのように、カヤは与えられた次の職場へ向かった…。

 リンは、そんなカヤを玄関まで見送り、車に乗せられたカヤの姿が見えなくなるまでその場から動かず、じっと虚空を見つめるようにしていたが、やがて大きく溜息をつくと、同じように隣に立つカズマ先生に声を掛けた。

 

 

 「――先生、これで、本当に良かったんでしょうか…?」

 

 

 「良かったもくそもねーだろ…、

  お前らが温情温情うるさいからこの程度にしてやった、俺を寧ろ褒めろ」

 

 

 「………クーデター、ですか」

 

 

 リンは今でも夢の中にいるようだと考えずにはいられない。連邦生徒会秘密金庫、カイザーコーポレーションとの癒着、アビドス地区の不正売買…、どれもが、証拠として押さえられた後、ミレニアムの技術によって丸裸にされたものばかりであり、この程度なら、まだ丸く収めることは出来た。

 だがクーデター計画はダメだった。半数以上のメンバーから反対があり、ヴァルキューレに拘束させろ、矯正局入りにしろという強硬な意見をリンでは抑えることが出来ず、泣く泣くカズマ先生に泣きついた。

 

 クーデターで真っ先に始末される予定だったカズマ先生本人に泣きつくのもどうかと思ったが、念のためにアユムを連れて行き、小一時間ほどギリギリなセクハラまがいのことをされた結果、結果的に内部からは罰則人事と分かるが、外部からは左遷程度に見えるという妙案を示されたのだ。

 

 

 「先生が、七囚人のうちの一人である、狐坂ワカモとお知り合いであるというか…、

  シャーレに所属させていることは存じ上げていましたが…、

  彼女に定期的に入所させて、脱獄させるなんて言い出した時には正気を疑いましたが――」

 

 

 「ワカモの所属はシャーレだからな…、俺が責任を取る形でなら、

  演習という形で、公式に発表すれば問題ない…。

  その後の捜索ですら、演習の範囲内で済ませられる。

 

   そもそもの問題が、囚人の脱走を防げない練度不足だからな。

  何の前触れもなく、実戦形式で気を抜く間もなく鍛えられるんだから、いい案だろ…?」

 

 

 「先生は鬼ですか…?」

 

 

 「――命の対価にしたら安い方だろ…?

  それに鬼なのは俺じゃなくてお前らの方だろーが…。

  

   これから毎日、顔色が悪くなっていくカヤを見て満足しろ、と言ったら言ったで、

  全員してドン引きしやがって…。

  なんで被害者の俺が、悪者にならなきゃなんねーんだよ…」

 

 

 「それは、その…、大変申し訳ありません」

 

 

 「――……はぁ。じゃあ、俺がお前らに出来ることはこれで全部終わりだ。

  SRT特殊学園も当初の予定通り、俺の直属から離れて連邦生徒会直属になるが…、

  以前みたいに、お前らの機嫌次第で運用できる組織じゃなくなったからな…、

  ――各学区の、常任理事と仲良くしろよ?」

 

 

 カズマは、重荷からようやく解放されたような顔をしてリンにそう告げると、これで連邦捜査部S.C.H.A.L.Eは存在する意味なんかないようなもんだと言い捨てて、気軽そうにその場を去っていく。

 

 

 「――お待ちください、先生」

 

 

 連邦捜査部S.C.H.A.L.Eを示す制服を、もはや着ることのなくなってしまったカズマ先生に、リンは思わず声を掛けた。どうして、だとか。もっと一緒に、とか。言いたいことは沢山あるはずなのに、ここまでキヴォトスに尽くしてくれた先生に対して、もっとこれ以降も、一緒に頑張ってほしいという二の句を告げることが出来ず、吐き出しかけた言葉は宙を舞うばかりで、リンはカズマ先生に一歩踏み出した姿勢のままで固まってしまう。

 

 

 「……なんだよリン、俺はこれからバカンスなんだ。

  アビドスの連中がくじ引きで当てた南の島に連れてってくれるんだと。

  ま、今すぐってわけじゃないが…、

  俺もこれでお役御免だし、遊興にいそしめるってもんだぜ」

 

 

 カズマがどうにか知恵を捻り、なんとかカヤをこの程度で済ませるために根回しをした代価として、財務室長から今回のSRT特殊学園が全学区で暴れまわった補償分を出させるようリンに交渉するよう要求したのもあって、今のカズマは、流石に借金があり過ぎて売りつけることもできなかったアビドス温泉郷から、カズマに払われる二割の継続収入だけが残ったので、ギリギリ人間として生きていける金は残った。

 

 そして、そのSRT特殊学園も、もはやカズマの手の内にはない。当たり前だ。あんな危ないものをいつまでも持っていないといけないなんて、誰に頼まれても御免被る。

 

 

 「――先生、そんな寂しいことを仰らないでください…!」

 

 

 「……あのなぁ、アユム。

  これから俺の代わりはお前らと、お前らのSRT特殊学園がやるんだよ。

  お前らの機嫌次第でどうこうできるようにせずに、

  各学区の治安維持組織からの出撃要請があったら即応する部隊にしただろーが…

 

   今回みたいな防衛室の暴走がないよう、各学区から常任理事も置いたし、

  以前みたいにいかなくても、今回みたいなことはしばらく起きないだろーよ」

 

 

 「……先生、なんだかんだ言ってるけど、面倒くさいことから逃げたいだけじゃないのー?」

 

 

 いつの間にか後ろにやってきていたアユムからの情に縋った声をひらりとかわし、モモカからほぼほぼカズマの本音を言い当てられてしまうが、今回に関しては、それだけではない。なにしろ命に関わっていた話なのだ。

 

 

 「――お前らには以前話したが、

  俺が連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの先生であるというだけで危ういんだよ。

  頼りにされる反面、俺一人に権力が集中し過ぎている…、分散が必要だ。

 

   だからこそ、しばらくの間はお前ら連邦生徒会が、

  キヴォトスの顔になってもらわないと、今回みたいに俺が殺されかける…」

 

 

 「うーん、それは否定できないかも…」

 

 

 「じゃ、じゃあじゃあ、私たちがしっかりやれば…、

  また先生は戻って頂けるんですか…?!?!」

 

 

 「――え、いやだけど?」 

 

 

 「せんせぇええええええっぇええええええええ?!?!?!」

 

 

 「――うおっ、待て待て待て待て! 待ってくださいお願いします!!

  肩っ、肩痛いって…! 痛い痛い痛い潰れる潰れる潰れるっ…!!

  縦に横に上下に揺らすのをやめろぉぉぉっぉぉぉォおおおおおおおおおお…!!

 

  わっ、分かった!うぇあかった、分かったから!

  お前らがエデン条約うまくやったら帰ってくるって…!!」

 

 

 「――本当ですか…?(グスッ」

 

 

 「――本当本当!」

 

 

 「よかったですぅうううううう……」

 

 

 危うくミキサーに掛けられた野菜みたいにされるところだったカズマはほっとする。なんだか勢いでそのまま約束してしまったが、そもそもそのエデン条約とやらがうまくいけば、更に仕事はなくなるのだ。つまりその後に復帰するという事は、もう何もしなくていいという事を意味する。今度こそ、連邦生徒会のメンツからの用事がなくなったと判断したカズマは、これ以上妙な言質を取られぬよう、足早に退散することにした。

 

 

 「――カズマ先生、今後とも、よろしくお願いしますね……」

 

 

 「……しょーがねーなー」

 

 

 去り行くカズマに掛けられたリンからの言葉に、カズマは棒読みで答えると、その場を後にした…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――んでお前らは、なんで四人そろってこんなところにいるんだよ?」

 

 

 歩くことしばし、カズマの後ろには、まるでそれが当たり前であるかのように、現SRT特殊学園の生徒会メンバーが付き従うように歩いていた。彼女たち四人は特に気負うでもなく、それが自然であるかのような態度で語りだす。

 

 

 「――都合が悪くなったらポイですか?」

 

 

 「おいやめろ、俺が最低男みたいに聞こえるだろ」

 

 

 「聞こえるも何も、そうだろうが。

  私たちは聞いてないぞ、こんなことになるなんてな」

 

 

 「そりゃ、言ってないからな。

  そもそも何が不満なんだよ?

  ――お前らが望む通りの結果になったろーが」

 

 

 「なんで私たちのトップがさー、先生じゃなくて、連邦生徒会なわけ?

  私たちを捨てたところに、先生がまた投げ捨てるのは流石に酷くない…?

  申請すれば、前よりもっと過激な兵器を扱えるようになったのはいいけどさー」

 

 

 「その辺はお前らには話しただろ…?

  このままだとキヴォトスに存在する全ての学区の経営と同じく、

  更にその上に君臨する、サトウカズマという名前の独裁政権が誕生する…。

 

  キヴォトスはどこを向いても独裁政権ばかりだ、やばすぎる…。

  今まではそれらを連邦生徒会長とかいう…、

  超人独裁者がまとめていたんだろうが、俺にはどだい、無理な話だ。

  ――今回の件で、俺はそれを痛感したよ…」

 

 

 「で、でも。先生のお陰で、全部、うまくいきました、よ…?」

 

 

 「――たまたまだ、たまたま。

  こんな綱渡り、二度とやりたくないし…、

  そもそも、その連邦生徒会長とやらも無理だと予見したから、失踪したんだろ…?

  俺にぶん投げてもうまくいくかどうか分かんないってのに、いい迷惑だよ…」

 

 

 「でも、結果が全てです。

  先生は、カズマ先生は。連邦生徒会長から託された役割を全うされました。

  そこだけは変わりません…」

 

 

 「やめろやめろやめろ、そんな真っ直ぐな瞳で俺を見るんじゃない…。

  お前らもいい加減、俺と長いから分かるだろうが、俺はこういう人間だよ。

  責任は取りたくないし、面倒くさいことからは逃げたい。

  そしてミヤコの言う通り、お前らからも逃げさせてもらうところだ…

 

  ――じゃあな、達者でやれよ」

 

 

 カズマは、元ホームレス共に対して散々こき使ってきた負い目がそれなりにあり、今回こういった形で、後々問題にならないように根回ししてやることが、手切れ金になるかと考えていた。結果、彼女たちが収まるべきところに収まるようにしたのだが、ある意味今後のことを考えた厄介払いとも言えた…。

 カズマとしても、SRT特殊学園という特記戦力を失うのは大変惜しかったが、その後に待ち受けているであろう更なる面倒ごとを考えると、もうカズマ一人の手に負える事態ではないと判断したのもある。

 ……本来なら、今回の、ワカモを除く七囚人を全て捕まえた功績を祝って一席設けてやりたかったが、それも今となっては難しい話だ。カズマの立場と、SRT特殊学園の立ち位置がそれを許さない…。非常にデリケートな問題なのだ。

 だからこそ、そういうのに疎いであろう彼女たちを気遣っての憎まれ口であったが、このキヴォトスで、カズマの手練手管を一番見る機会が多く、一番実戦に取り入れてきたのは、この四人なのだ。いい加減学習もするというものである。

 

 

 「そうですか、残念ですが…、

  SRT特殊学園の生徒としては、受け入れて下さらないようなので、

  私たちのもう一つの身分を使いましょう…」

 

 

 「連邦捜査部シャーレの部員として、私たちをねぎらうことを要求する。

  SRTじゃなかったらいいんだろ?」

 

 

 「そういえば、まだ、その身分は残ってるんだよねぇ~。

  ここに来る前にシャーレに入れたことを確認してきたからさー。

  言い訳はできないよねぇ~」

 

 

 「(じーーーーーーっ……)」

 

 

 「………おまえら、詭弁にもほどがあるだろ」

 

 

 「「「「――先生に言われたくない(です)」」」」

 

 

 「あー、分かった分かった、目撃されると困るから

  シャーレの建物内でしかできないからな…、文句言うなよ?

  ったく、しょがねぇーなー…」

 

 

 その後、ささやかながらお疲れ様会がカズマとSRT生徒会と、折角だからとカンナも呼んで開催され、それが終わった後、彼女たちは連邦捜査部シャーレの部員から、除名された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、カズマはようやく夢を見る。夢のような、夢ではなかったとようやくわかった、かつての終わり。そしてハジマリの日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――??? 列車内

 

 

 ガタン、ガタンと列車がどこかに向かって行く音が聞こえた気がして、カズマは目を覚ました。いいや、それは目を覚ましたというよりかは、明晰夢を見ているような感覚だった…。

 目の前の座席には、青色の美しい髪を、長く伸ばした長身の女性が、左肺か心臓の部分を撃ち抜かれた状態のまま行儀よく座り、苦悶の表情も見せず、淡々と言葉を紡いでいる。

 

 

 「……私のミスでした。

  私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。」

 

 

 アビドスは砂に沈み、ミレニアムは灰塵と帰し、ゲヘナとトリニティは地上からその姿を消した。そんな情景が、なぜだかフラッシュバックのように鮮明に思い出せる。クーデターが起き、連邦生徒会はカイザーとゲマトリアの手に落ちた。そして、シッテムの箱は破壊されても、持ち前の能力で逃げ回ったカズマは、なんとか連邦生徒会長を確保して、退路を開くことに成功する。そんな記憶だ。

 そして同時に、これは違うと判断する。夜のサキュバスのお姉さんの店に通い詰めたカズマの脳が、これは、誰かから、夢の領域に干渉を受けていると理解した。なにせ、カズマはその夢に干渉するスキルを、こっそりお姉さんから教えてもらっていたからだ…。   

 

 

 「結局、この結果に辿り着いて初めて、

  あなたの方が正しかったことを悟るだなんて……。」

 

 

 「………………お前か」

 

 

 「……今更図々しいですが、お願いします。

  カズマ先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。

  何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから……」

 

 

 「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――お前かぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁあぁあああああああああ!!!!!!」

 

 

 「ひゃあぁぁぁああああああぁあああああああああああ…!!!!」

 

 

 「――ふっざけるんじゃねぇぞ!!

  何処のどいつかも分からない、こんの疫病神が!!

  お前みたいに青髪で偉そうにふんぞり返ってそうなやつは、

  いつもいつも余計な面倒ごとを俺に押し付けてないと生きていけないのか…?!?!

 

  ――この口か?!?!

  この口で、連邦生徒会に伝言して俺に面倒ごと全部押し付けやがったのか?!?!?」

 

 

 「――いひゃい!いひゃいれす!ハシュマしゃえんしぇい!!!

  ほほをひへははいへふははい…!!」

 

 

 「心臓撃ち抜かれてんのに普通に喋れるこの青髪エイリアンが!

  喋りやすいように今すぐ治してやるよ!おらセイクリッドハイネスヒール!!」

 

 

 「――ぷはっ、いたたたたた…。

  そういえば、最終的に先生に治して頂けたんでしたね…

  でも、あの時と同じで、既に私のアーカイブ化は始まっています…」

 

 

 見ると、彼女の姿は徐々に透け始めて来ており、しかしそれが何を意味するのかカズマは思い出すことは出来なかった。しかし、確かこの場面は…、だんだん思い出してきた。末期を迎えるように遺言を残す、どうにもならなくても懸命に戦った、一人の生徒のお願いごとを、本当に仕方なく聞いてやった場面だったはずだ。 

 

 

 「――そうかよ…。で、今更、こんなことしてまで本当に何の用だ…。

  言っとくが、前と同じで多分今しか覚えてないからな」

 

 

 「カズマ先生は…、

  このねじれて歪んだ先の終着点の、別の結果を、もう三つ迎えました…。

  しかし、あと一つ残っています…。」

 

 

 「――エデン条約のことを言ってるなら、俺はもうやる気がないぞ。

  この後起きたらゲヘナに歓待されて、ミレニアムに歓待されてで、

  アビドスとも旅行に行くしで、しばらくパーティ三昧だ。

  その前に、いい加減目を回してる、ヒフミのフォローもいるしな…」

  

 

 「――このまま放置すれば、ゲヘナとトリニティが地図上から消え、

  仕掛けたアリウスすらその動乱に呑み込まれて、全てが消えても、ですか…?」

 

 

 カズマは、ここまで誰かから、心の底から貴方を信じていますという視線を強く向けられたことは、人生でただ一度しか身に覚えがない。

 世界の滅亡を防ぐ最前線、その中心の白亜の城で、鬼に金棒となるように育てられた第二王位継承者。そういえば、こいつとも常に、何か困ったことが起きて、何とかしないといけなかった時には、そういう関係だったなと思いだす。

………カズマは盛大にため息をつくと、可愛い妹分の言うことを、仕方なく聞いてやることにした。

 

 

 「しょーーーがねぇーーーなぁーー…。

  だけどな、お前がさっき言ってた通り眼がさめたら忘れるからな?

  俺がやる気が出るなにがしかを用意しとけよ…?」

 

 

 「――はい!!」

 

 

 満面の笑みを浮かべるその姿をカズマは見て、頼むから生徒たちの笑顔が最高のご褒美ですとかいう、何度もしてやられたつまらない落ちだけは勘弁してほしいなと、この夢を覚えていないだろう、未来の自分に向けて、祈った…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

――シャーレオフィス カズマの自室

 

 

 騒いで遊んで疲れたSRT生徒会とカンナがいる部屋で、カズマはハッと目を覚ました…。体全体が大きく汗をかいていて非常に暑苦しい。――と思ったら、どうやらSRTの四人に絡みつかれて寝ていたらしい。カズマはバカ四人を起こさないように慎重に拘束を解くと、ゆっくりと起き上がり、水でも飲むかと部屋を離れた。

 

 体中にべっとりと張り付くような汗をぬぐいながら考える。――悪夢を見ていたのは間違いない。何を見ていたのかはさっぱり思い出せないが、とにかく酷い夢だった記憶だけが残っていて…、このままじゃ寝れそうにないから、一度シャワーでも浴びて寝なおそうと、シャワー室に向かい、服を脱いでいると、違和感を覚えた。

 

 

 

 ――――なにか、硬くて四角い、薄いものの、感触がある。

 

 

 

 ズボンのポケットに入っているそれを取り出してみると、それはカードだった。クレジットカードだ。はて、こんなところに不用心にクレジットカードなんか入れていたか?とカズマは考えて、まぁ何か用事があって忘れていたのかもしれないなとそこまで追求することなく完結する…。

 そして、すぐ違和感なく受け入れて、財布にしまい込んだ後には、気にもしなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――――――――大人のカード。

 

 

 

 

 乱用すれば、とある結末を迎える事になり得る兵器を獲得したことを、この時のカズマは、まだ、知らなかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 その一、終わり。
アビドスに、カヤとSRT、連邦生徒会のゴタゴタに関してはこれにて終わりです。

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