超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
やりたいことが全部終わって、結構困りましたので、ブルアカ第二章ED聞きながら書きました。
いやぁ長かった。
――これにて第二部後半戦、及び第二部閉幕です。皆さんまた逢う日まで!!
――機動要塞A.H.A. アリスへの精神干渉 カズマとゲーム開発部
名もなき神々の王女の玉座
いいから!カズマ先生も来て!と、やけに強引なモモイに押し切られてダイブ装置に乗り込み、廃墟しかないアリスの精神世界をダラダラと案内されることしばし、かつてカズマがアリスを起こすことをめちゃくちゃ嫌がった、問題の玉座まで辿り着いた。
しかし、アリスはそこにはいなかった。
「――ど、どうして…?!」
「……前の時は、ここにアリスちゃんがいたのに…」
「精神に隙間を作ってもらって、行けた場所がここだったのに…、
ど、どこにいるの? アリスちゃん…」
うーん、という顔をしながらカズマは思い出してみる…。かつて、アクセルで馬鹿やってた…、今でもおそらくバカやってるであろう仲間のバカ三人組が、それぞれらしくもなく、いつものようじゃなかった時のことを。――こういう時、思い詰めたバカは本当に好きなものから背を向けて逃げだすのだ。
それは叶えたい野望を諦めることであったり、家族と仲間を想う故の自己犠牲だったり、自分自身の存在理由を求めて変な方向に逃避したりと、人によって様々だが、とりあえずは、本人のゆかりのある場所に逃げ込むのがセオリーだ。
「………………王女は。
王女は、ここにいません…」
中央の玉座にザザッとノイズのようなものが走り、アリスと瓜二つの、Keyと名乗る少女がその場に降臨する。それに気がついたゲーム開発部の面々が、すぐさま戦闘態勢を取って警戒心を露わにしているのをよそにして、カズマはその辺の段差によっこいせと腰掛けて、様子を見てみることにした…。
「アリスは、アリスはどこ…?!」
「貴方がどこかにやったんですか…、
それとももう、人格を書き換えたの…?!?!」
「アリスちゃんと、会わせて、くださいっ…!!」
三人ともが悲壮な顔をしてKeyに躙り寄るように次々と責め立てているが、そうやって詰め寄られているKeyの方は、気のせいか、まるで病人のように顔色が悪そうだ。いやいや、AIに健康管理とか感情表現があるのかと、いろいろ突っ込みたいところはあるが、アリスと同じ姿形をして縮こまるようにしている姿を見ていると、なんだか哀れに思えてきて、思わずカズマは立ち上がってKeyを庇うように前に出てしまう。
「――おいお前らその辺にしてやれ…!
さっきからこいつ小動物みたいにプルプル震えて、泣きそうになってんじゃねえか…。
何か喋ろうとするたびにお前らが詰め寄るもんだから、さっきから、なんか辛そうだろ!」
「う、ううううう…ぐすぐす……」
「ほらみろ、ガチ泣きし始めたぞ!
こうなると長いんだからな…! お前らも責任とって機嫌取れ…!」
「ぇ、ええええええ…??」
「先生…!その子はアリスちゃんと同じ姿をしてるけど、
この事態を引き起こした元凶なんだよ…!!」
「で、でも、先生の言うとおり、悲しそうに泣いてるのも…、
嘘じゃ、なさそう、だよ…?」
色々と反対意見はあったが、この精神世界の中での唯一の情報源でもあったため、ゲーム開発部はカズマに説得されて、どうにか頑張ってKeyをあやすことにした。
ごめんごめん言いすぎた、とか、囲まれて詰め寄られて怖かったよね、ごめんね、とか、強く言いすぎてごめんなさい、とか、色々と言葉を尽くしていた。Keyはこの場での自分の味方がカズマしかいないと本能的に悟ったのか、外見通りの幼さを発揮してカズマに抱きつき、とにかく頭を撫でることを要求した。
そうやっているとようやく落ち着いてきたのか、カズマに抱きついたまま、カズマの体の影に隠れるようにして、たどたどしく質問に答え始める。
「――さ、最初は、確かに私がエリドゥを取り込みました…。
悲しみと絶望の檻に沈む王女は大人しく玉座についてくださったので…。
でも、そうやっている間に、王女は調べ上げたんです…。
私が構成した、情報操作の真実を一一」
一連の騒動の流れを、クソゲー開発部の三人から聞いていたカズマはこの時点ですでに嫌な予感がした…。しかし、同じように話を聞いているゲーム開発部の面々は真面目な顔をして、話を止める様子もないので、そのまま耳を傾けるしかない。
「お、王女は、一時的に茫然自失になっていただけで…、
あっという間に、自己生存の理由を取り戻して…。
こんなの許しません!私がカズマ先生を救いに行きます!と言って…
一一の、乗っ取られて、しまいました…」
「――舐めんな!!!」
カズマが、全財産溶かしてまで、いままでやってきたことはなんだったんだという、万感の思いがこもった悲鳴は、とても短かった…。
カズマはずっと不思議に思っていたことがあった。クソゲー開発部は、基本的にモモイが他のメンバーを引っ張ることで成り立ってる。ミドリもユズもアリスも、それぞれやりたいことは沢山あるのだが、引っ込み思案だったり、遠慮がちだったり、そもそもの常識不足だったりして、もう一歩を踏み出せないところを、モモイが先導して、それぞれのパフォーマンスを引き出している。かといってモモイ一人だけで何でもできるというわけでもなく…、いうなれば、モモイは起爆剤なのだ。
その爆発力は、カズマも認めているところであり、相乗効果で次々と連鎖的に爆発していく彼女たち四人の連携があったからこそ、クソゲー開発部は廃部を免れたと言っていい。その絆を持ち出され、一度は説得されたアリスが、カズマくらいのことで、ここまで追い込まれるほどの事態を引き起こすトリガーになるうるのか?というのが、ずっと引っかかっていたのだ…。
「つまり、なんだ…。
俺たちが今まで散々苦労させられて戦ってきたのは全部、アリスだったってことか…?」
「いいえ、機動要塞が完成し、しばらくの間は散発的な抵抗を受けて、
まるで実験でもするかのように、意味のない攻撃を受けていた時は、
制御権は私が握っていました。」
「うん」
「当初の予定ではそのままサンクトゥムタワーへ向かい、
これを破壊し、新たなサンクチュアリを建立する予定だったのですが――」
「うん」
「ことの次第を全て突き止めた、怒り狂ったアリスに詰め寄られて、
光の剣で吹き飛ばされてしまって…」
「うーん…、だから、突き刺さってたらしい光の剣がなくて、
さっきお前が現れた玉座とか言う場所がクレーターみたいになってるのか…」
「はい……」
もうなんか哀れすぎて見ていられなかった…。しかし、こうなってしまったのも、考えてみれば当然と言えば、当然であった。実際にカズマと触れ合い、その手練手管にやられ続け、常に次をどうするかと考え続けてきた、ある意味英才教育を実地で行っていたアリスに対し、Keyは、なんの危機感もなく見ていただけなのだ。
同じ性能を持っている別個体の、学習速度とでも言えばいいのか、より洗練された状況適応能力とでも言えばいいのか。一一その割にアリスはカズマのやり方に毎回引っかかって後で悔しがっていたが…。
「で、でも、それだとおかしくない?
――アリスには私たちが見えてなかったって言うの?
エリドゥで拘束されていた時は、ぜんぶ見てたじゃない!」
「あれは、私が見せていたので…」
「じゃあ、いったいどういうことなの…?
なんだかさっきから言ってることがチグハグで、よく分からないよ…!」
「ふ、二人とも、落ち着いて…」
「だからお前らは、そう熱くなってすぐ詰め寄るなって…!
ほら、また泣きそうになってるだろ!」
「(ぎゅーーーーーー)」
「――あっ…」
「ご、ごめんね…」
「ほっ」
モモイとミドリが終始興奮して話にならなかったので、少し距離をとってカズマとユズによって聞き出したところ、最終的に制御の取り合いになり、都市サイズ光の剣を強奪してカイザーコーポレーションを光の剣する(表現規制)ことと、サンクトゥムタワーを光の剣する(表現規制)ことが条件一致した結果、ウルを襲うことになった、らしい。
その後、一手早かったKeyによって視覚情報やネット情報が遮断され、制御の取り合いで滅茶苦茶になった機動要塞は自動で動き続けたんだとか。
「今すぐ何も聞かなかったことにして帰って寝たい…」
「せ、先生…。
で、でも、持ち直したアリスちゃんが抵抗したおかげで、
私たちは準備を整えられましたから…」
「それはそうかもしれんが、
どーーしてどいつもこいつも、もうちょっと穏便にできないんだよ…」
カズマはがっくりと肩を落とすと、この世界の中でのゲーム開発部に向かうことにした。
――機動要塞A.H.A. アリスへの精神干渉 カズマとゲーム開発部
ゲーム開発部 部室棟前
あとはアリスに顔を見せれば、安心したあの勇者脳はホイホイついてくるだろうというカズマの目論見は最初から外れた。ゲーム開発部の部室がある部室棟はまるで要塞のように自動機械によって防御が固められており、迂闊に踏み込もうものなら、ハチの巣にされる未来が待ち受けているだろうということは、理解に難くなかった。
「――おーい、アリスー、
迎えに来たぞー、出てこーい…」
仕方ないので部室棟の外延に設置されているインターホンを押して、呼びかけてみると、反応は劇的であり、自動機械の群れは景色に溶けるように消えていく。
「アリスはここにいるのかな…?」
「で、でも、先生の呼びかけに応えて自動機械はなくなったよ…」
「い、行ってみよう…」
周囲の状況は静寂の一言に尽きた。環境音すらしないのもあって、カズマ一行の息遣いと足音だけが、妙に甲高く耳に響く。まるでホラー映画かパニック映画が始まる直前のように、異様に恐い思いをしながら廊下を抜け、ゲーム開発部の部室前まで辿り着く。先頭を歩いていたカズマは、え?これ俺が開けるのか…?と思って後ろのメンツを見るが、全員からブンブンと首を振られてしまった。
仕方なくゆっくりと、ギィイイイィィイイ、と立て付け悪く鳴り響くドアの音にビビりながら、ドアを全開にすると、ゲーム開発部の内部の様子が見えてくる。どうやら室内は電気もつけていないようで真っ暗だが、テレビゲーム用のモニターが煌々と部屋を照らしていて、普段の散らかりっぱなしのゲーム開発部そのものが再現されているのが見えて来て――
こちらに背を向けて画面も見ずに、膝を抱えて座るアリスの姿がそこにあって、なんだよいるじゃんか、ビビらせんじゃねぇよと思いつつ、カズマはさっさと帰りたかったのもあって、気軽に声を掛けた。
「――おいアリス、帰るぞ」
「――アリスは……、帰れません。
アリスがみんなのそばに居たら……
みんなはその分、傷ついてしまいます。」
「――まぁ、それはそうだな」
特に否定する要素がなかったので、カズマは条件反射で答えた。モモイがそんなカズマに対して慌てた様子を見せているが、知ったことじゃなかった…。
「せっ、先生、ちょっと…!!」
「いーや、この際だから言わせてもらうが…、
今更被害者ぶりやがって、お前が俺を殺しかけた回数がいくらか教えてやる…。
――38回だ、38回!!
無邪気な顔してガンガン振り回してぶっ放しやがって…、
傷つくどころか普通に死ぬわ!――というか蒸発するわ!」
「はい…、アリスのせいで先生にもたくさんたくさん、
怪我をさせてしまいました…」
「本当にそうだよ…、
なんだ、今日はいつもの勇者脳じゃなくてほっとしたぜ」
「アリスは……勇者ではなく、魔王ですから」
「都市サイズの勇者の剣と、500基の勇者の剣でぼこって、
――もう原型残ってないぞ、その魔王」
「そう、魔王は、勇者のカズマ先生によって斃されました。
だから――、アリスは、このまま消えるのが、正しいのです…」
なんだろう聞いてた話と違う。……もしかしたら、アリスは先程の戦いを見ることが出来ていたんじゃないだろうか。Keyは外部への視覚情報は奪っていたと言っていたが、この様子だとどうもそう言う感じではない。まぁそれはそれで自分自身がやらかしてしまった結果をしっかり受け止めてくれてるのでまぁいいかと、カズマはそのまま話を続けた。
「じゃあ、負けたお前は、俺の言うことを聞く義務があるな。
どんなゲームでも常に歴史は勝者が作る、敗者のアリスは俺に従う」
「……? アリスはもう消えますから、
それまででいいのでしたら…」
「いいや、俺の気が済むまで付き合ってもらうぞ。
――まず、そこにぶっ刺さってる勇者の剣は俺が貰う。
今代勇者とか自信満々に自称するバカがいた気がしたが…、
俺の気のせいだったみたいだからな」
「――あっ、……はい。
それは勇者の、カズマ先生に相応しいものです」
「モモイ、ミドリ、ユズ。
こっちに来い、引き抜くぞ」
「ちょっと、先生どういうつもり! アリスを連れ戻すって…!」
「そうだよ、どうしてあんなに酷いことを…」
「カズマ、先生…」
三人が悲しそうな顔でカズマのことを非難していたが、カズマの知ったことではなかった。いいから手伝えと渋る三人の手を引いて、協力して光の剣を部室の外に運び出す。
「――よし、これで勇者の剣も、勇者カズマのものだ…
文句ないな」
「……はい」
「――じゃあ、最後に、その勇者バッチを返せ」
「――――――――え?」
その時になって初めて、初めてそんなことを、言われてから気が付いたと言わんばかりの驚いた顔をして、アリスは自分の胸元を見つめた。そこには、アリスが勇者としてキラキラと煌めいていた頃、カズマ先生から貰った大事な大事な勇者バッチが、ピカピカ輝きながらその存在感を主張していた。
その時になってようやく、終始、顔を俯けていたアリスは顔を上げた。いやだと声高く叫びたかった。それは、なぜだかわからなかったけれど、決して手放してはいけないものの気がしていたから。
「――俺は、お前が、勇者アリスだと知っているんだけどな。
なんせ、それをお前に与えたのは、お前を勇者だと認めた、
先代勇者カズマとかいう、最高のハンサムで…、
その勇者が任命した仲間も全員、
勇者アリスが配った、勇者の仲間バッチを付けてるのにな…」
「――――――あ」
膝を抱え込んだままでいたアリスが、ガバっと立ち上がり、急いでテレビの画面を叩き出す。そこには傷つきながら、戦いながらも、アリスがかつて配ったそのバッチだけは傷つかないように戦う、勇者の仲間たちの姿があって。
「………ア、アリスは、アリスは――」
瘧(おこり)のようにふるえはじめ、一生懸命なにかの言葉を紡ぎ出そうとするアリスに。アリスから貰った、手造りで貰った、今までずっと付けていた、先代勇者のバッチを、カズマはゴミでも扱うかのように、胸からもぎとった。
「――俺はその勇者からわざわざ、手造りの、先代勇者バッチを貰ってたんだが…。
もういないみたいだから、ここに捨てて――」
「――いっ、いやですっ……!!!!」
燃え尽きたと思っていたアリスの心に、再び炎が宿り始める。モモイ、ミドリ、ユズにもそのバッチは付いていて…、今まで見ているようで見ていなかった戦いの中で、ミレニアムの面々全員が、アリスが配ったバッチを付けていたことを、アリスはようやく認識する。
――勇者アリスを助けるために集った仲間たちが、戦って。
――アリスを勇者と認める、仲間たちがこの場にもいて。
「……なにが嫌なんだ?
アリス、お前はさっきからずっと言い続けてるのに気づいてるか?
アリスはもう魔王だから、勇者じゃないから――
仲間の証なんてものは、無効だってな」
「ち、違いますっ…!
――モモイもミドリもユズも、それでも仲間だって言ってくれましたっ…!」
「……そうだな。
お前が否定しても、こいつらは優しいからそう言うだろうさ…
だけど俺はそうじゃない…いいか、よーく聞けよ。
俺がここに辿り着くまでにかかった総額は、おおよそ1200億だ…!!」
モモイ、ミドリ、ユズは、もしかしたら先生には何か考えがあって、わざと突き放したようなことを言ってるんじゃないかと思いながら、アリスとのいきさつをハラハラしながら見守っていた。そして、とうとうモモイが我慢が効かなくなって、カズマ先生に飛びかかろうとしたところで飛び出た1200億という天文学的な数字を聞いてピタリと止まる。
「………せせせせ、せ、先生…? せんにひゃくおく、ってなに…?」
「お姉ちゃん…、そういえばあの第二都市も、
カズマ先生が、全額立て替えて作った都市だって聞いたよ…」
「じゃ、じゃあもしかして、500基の勇者の剣、も……?」
「――全部俺が出した、処分してきた全財産で」
三人は開いた口が塞がらなかった。シャーレが全学区に手を出していろいろやっていることは知っていたが、その資産までは把握していなかったというのもあるが、本気になった大人がどこまでやるのかを言うことを思い知らされたような面持ちだった。
「……え? 待って待って待って整理が追い付かない…
カズマ先生って、こうなったアリスを助けるために1200億使ったの?」
「――というか、お前ら関係の騒動が終わってから…、
ずっと長い時間かけて、こうならないために備えてたぞ。
エリドゥも、その迎撃機構も、トキのアビ・エシュフも、ウルも。
全部が全部、アリスを助けるために、俺が金を出した」
「たった一人の生徒を、アリスを助けるために…?
――せんせい、もしかして馬鹿なの…?!」
「(世界が滅ぶから)俺にとって、アリスにその価値があると思ったからやったんだよ…
だってのに、本人の目の前に来たらすげなくされるんだぜ?
俺じゃなくてもやる気なくなるだろ…?」
「あ、あわわわわわわわ……(真っ赤」
「――金のことを言い出すと、なんだかんだと言ってくる奴がいるが…、
この金は、素寒貧の俺がキヴォトスに来てから…、
文字通り、血のにじむような思いをして手に入れた金だ…
キヴォトスに来てからの、俺の全てが詰まってると言ってもいい金だ…
本来ならこれは、より多くの生徒の為に少しずつ使う予定だった金だが
アリスがこんなことになったと聞いて、捨て値でかき集めた俺の人生そのものだ…!!
――おい、アリス!」
「――はっ、はい!!」
燃え尽きたと思っていたアリスの心に、別の意味で再び炎が宿り始める。……それはそうだろう、この男、カズマは頭に血が上っていて全く気が付いていないが、アリスのことを、カズマの人生そのものだと言っているのに等しいのだ。
1200億という天文学的な金額がどのくらい凄いのかくらいはアリスでもはっきりと理解できる。そしてそのお金を、ただ一人アリスのためだけに使い続けたと言われた日には、もう熱烈なアプローチを受けているとしか考えられない…。アリスは目をグルグル回しながら、今この瞬間に新たな世界が開けていくのを感じていた。
「――1200億だぞ、1200億…!
せめてちょっとでも返済してから、消えるなりなんなりしやがれ!!」
「い、一億だとしても、とてもアリスには稼げません…」
「じゃあ、死ぬまででいいからそこまで払えなくても、
せめて俺への感謝の形として、パシリでもなんでも一生させてやるよ!!
俺の気が済むまで開放してやらねぇからな!!!!
それまでこの勇者の剣は没収だ! お前は今日から勇者改め、パシリ勇者だ…!」
「――ア、アリスは、アリスは今あらためて理解しました…
カズマ先生は、やっぱり魔法使いですぅうううう……」
モモイ、ミドリ、ユズの呆れたような視線に見守られながら、カズマはアリス救出ミッションに成功した。
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――シャーレオフィス 機動要塞A.H.A.後片付け カズマ
その後、アトラハーシスのコアが暴走して臨界を迎える前に帰ってきたカズマによって、コアをテレポートであらかじめ登録していた火山口に叩き込み、排熱機構が制御できずに爆発しそうなアトラハーシスを背に、全員でとっとと列車に乗り込んで、ウルもろとも更地になっていくのを見届けてから、今回の一件はようやく終わった。
幸いなことに、あとあと見つかるとまずい色々なものは、その時に全て消え失せるように置いてきたので、後顧の憂いもない。
アトラハーシスを撃破するときに壊れた未来観測機関「讖(しん)MkII」の残骸も、500基の廉価版:光の剣の残りやその残骸も、塵も残らず大爆発の中に消えたことを確認した。
この後にも、アビドスと便利屋68に頼んだことの確認や、SRTがもたらした成果について、連邦生徒会と協議する必要が出てくるだろうが、とにかくもうカズマは休みたかった…。――とはいうものの、そのための事後報告やら書類整理やら、こうなった以上、絶対にやっておかなければならないこともあり、かといってやる気が出るはずもなく、カズマはとりあえず形だけは執務室の机に就き、秒で体を投げ出して右頬に冷たい机の感触を味わっていた…。
「――ククッ…やはり、貴方は素晴らしい…
一連の騒動を、全て見させていただきました、サトウカズマ先生…」
「――おい、確かにここは生きるのに困った生徒やら、
工事関係の業者やらが入ってきていいようにはしているが
今俺は疲れてるんだ、大した用事がないなら、後にしてくれ」
「そう冷たいことを仰らずに…、私の話を聞いていただければ、
きっと、そのお気持ちも変わることでしょう……」
机にべったりと顔と両手を投げ出して、ぐったりとしているカズマには、視線の高さのせいで顔までは見えないが、喪服のようなスーツを折り目正しく着込んだ、紳士然とした男が机の側に立っているのが見えていた。急に目の前に現れたようにも見えたが、キヴォトスもアクセルと同じく変態ばかりが集う土地であり、今更その程度のことでカズマは驚いたりしない。
「で、誰だよお前…」
「――これは失礼を…、
私のことは、そうですね、黒服とでもお呼びください…」
――そして、カズマは、その黒服と名乗る不審者との交渉の結果、未来観測と少し違う形ではあるが、同じような形で取引に応じることとなる。それが、どういう意味と未来を、キヴォトスにもたらすのか、分からぬまま――。
超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 【第二部 完】
はい、今度こそ、(短編)サトウカズマ先生、完!! でいい気もする。
連載形式が短編のままでしょ? 許して、許して…。
そろそろ諦めが強くなってきましたが、私の代わりに続きを書いてくださるかたは引き続き募集しています…(懇願
第三部…? 知らない子ですね…。(エデン条約編
そもそもエデン条約編をやってやってという感想が初期から多かったので、後半戦でちゃんと盛り込みましたから…、つまりこれで全編終了ってことだなガハハ()
なので、エピローグは、エデン条約編の希望が多ければ、そういう感じにします…。