超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
前半戦のエピローグを書きました。
ムリゲー第二部後半戦のプロローグでもあります。
――ミレニアムサイエンススクール ユズ ゲーム開発部での記憶
「――今日こそ先生を倒し、アリスは勇者になります!!」
今日も今日とて、恒例行事のように光の剣を構え、アリスはカズマに死の宣告を突き付けていた。全長がアリスの身長と同じくらいの1.5mの、100kgをゆうに超える金属の塊が、ぶぉんぶぉんと風をうならせて、棒きれのように振り回されているのを見ると、もうそれに当てられただけで全身骨折させられそうな威容がある。
いつも通り、アリスが勇者脳に頭をやられた様子を見ていると、キヴォトスは本当に頭の中身まで温かい変態ばかりだなと、ふとアクセルの事を思い出してしまって、カズマは郷愁とは違う意味での悲しみに襲われた。
「………分かった分かった。
称号もやるし、勇者バッチも作ってきたから、これで勘弁してくれよ…」
「――そっ、そんな甘言にアリスは騙されません!
モモイが言ってました…!
先生はそうやってテキトーなことを言ってアリスをだますつもりだって…!
………でっ、でもでも、勇者バッチにはとても興味があります…!」
「(――あんのクソガキはあとで泣かせてやろう……!)
ほらほら、そんなこと言ってていいのかー?
よーく見てみろ?
割と真面目に作ったから、この前渡したカイテンジャーより出来がいいぞー…」
前回は、小遣い稼ぎの為に作っている変形機構と合体機構を付けた1/7カイテンジャーをアリスに贈った。元は裏路地指名手配犯のテロリストが搭乗している合体ロボットだったが、もうシャーレ統制下なので正義のロボットとして販売中だ。合体時のキメ台詞や、必殺技も音声収録してあるので、そういうのが好きな子供たちに激烈な人気を博してきている一品であった。
そして、今回の勇者バッチセットも、無駄に洗練されたカズマの芸能スキルによって製作されたものであるので、アリスくらいの精神年齢の子供が眼に入れてしまったなら、全身をキラキラ輝かせながら魅了されてしまうのは時間の問題だった。
「あっあっ、か、かっこいい……ハッ! ア、アリスは…アリスは…。
ア、アリスは魔王の甘言に惑わされたりしな――ひ、光がっ…!
まぶしいです…!」
「勇者の為に特別に作られたバッチだからな、光り輝くんだよ…。
ほーら、この勇者バッチを持った勇者には、
この勇者の仲間の証バッジを渡す使命もついてくる…
ほーれほれほれ……」
「(パァァァァァァァァアアアアアアア……!!!)
しっ、使命なら仕方がないと、アリスは思います! 勇者の使命はいつだって最優先です!
わぁわぁ…! 先生は凄いです!
――アリス、皆にこれを渡して、パーティを組んできます!」
――タタタタッ、と。嬉しくてしょうがないという感情を隠そうともしなまま、部屋から駆け出していくアリス。
「(………ふっ、ちょろいな)
………おいロッカーつむり」
――ガタガタガタガタッ……!
勇者志望のアリスが居なくなったことによって、ふたたび静寂を取り戻したゲーム開発部に大きな金属音が響き渡る。部屋の壁に接するように置かれた掃除用ロッカーが、飛び跳ねるようにうごめき、しばらくして元の位置に戻った。
「――あの勇者脳が無茶苦茶言って来たら、
俺のことを助けて欲しいという、フリーパスは無効なんだな…?」
「………………」
「そうか、よーく分かった。……だけどな、今ならごめんなさいしたら許してやる」
「………………」
「(――カチッ)
【――先生に、わたしが必要な瞬間が来たら、何でも、言ってくださいね……。】
【何でも、言ってくださいね……。】【何でも、言ってくださいね……。】
【このフリーパスを使えば何でもユズにお願いできる】
【――そ、そういうつもりでお渡しした――ザザッ――フリーパスです】」
「―――わぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”…!(バタン…!!
先生のバカ、先生のバカ、先生のバカ……!!!!」
「お、ようやく出てきた」
「――先生を信じたのに……!!
信じていたのにぃ……!!!!!(ポカポカポカポカ」
「――うるせー! なーーーにが”信じていた”だ! 俺だってお前を信じてたよ…!
うぉおおおお…っ!いたいいたいいたいって…!
待て待て待てその調子で叩かれたら骨がイクって…!!
悪かった悪かったよ! だけど助けてくれたっていいだろ!
お前たちにはいまいちピンと来ないだろうけど、
俺はアリスの攻撃をまともに食らったら塵も残さず蒸発するんだよ…!」
「だからって…! だからって…!!(ガチャ…ダダダダダダ…!」
「待て待て謝ってるだろ待てって…! 当たったら死ぬって言ったろーが…!
こっ、この再生装置は渡すから、ユズにやるから好きにしていーぞ!!!(ポイッ」
――バキャッ!!と歪んだ金属音を奏でてすぐさま銃撃される再生装置。
いつも引っ込み思案で、人前に出ることを苦手とし、部室に入ってきた知らない誰かに出くわすのが怖いという理由だけで、ロッカーに何日も籠ることのあるユズとは思えない速さで、あっという間にそれは破壊される。そして、ユズの感情が昂っているためか、その両目は爛爛と妖しく輝き、その眼光が残光を曳くような速さでカズマの前まで来ると、ガッーーと、両手を握りつぶす一歩手前くらいの力加減で握りしめられる。
「――カズマ先生…?」
「――ヒィッ…! ユズ様違うんです!
これはコタマが俺に付けてた盗聴器の類で、
そういう使い方をするつもりは一切なかったんです!
ただちょっと何かに使えないかなって思って、
出来心で持ってただけで、今のもこれ一つだけなんです!!」
「本当ですか……? 本当に、一つだけですか……?」
「――はい、本当です…!」
「そうですか――――……ハッ。 え、あわわっ?!
わ、わたし、おとこのひとのてを――……!!」
一瞬の間とはいえ、羞恥の感情を怒りが上回っていたのか、ユズは我に返ると、顔を首まで真っ赤にして慌ててカズマから離れ、先程と同じような機敏さでつまづきながらもロッカーに戻ってしまう。――バタン!!と、ロッカーが常よりも大きな音をたてて閉まる音が、いままでユズとの間に築き上げていた心の距離を、遮断する音のようにカズマには聞こえた。
「おーいユズ」
「………………」
「……悪かったって、一応アリスの気を引けそうな玩具は持ってきてたけど、
俺はこの部屋に来ると生きた心地がしないんだよ…
モモイはすぐ悪ノリするし、ミドリはなんか交換条件出して追い詰めてくるし…」
「………………」
「(消去法で)ゲーム開発部の中で一番頼りになって、
常識のあるユズにしか頼めないことなんだよ…」
「………………(ピクッ、ピクピクッ」
「――ユズだけが頼りなんだ、頼むよ、クソゲー開発部部長…」
「せ、先生がそこまで言うなら…(キィィィイイ…
あれ…?待ってください…、い、今…、なんて言いましたか…?」
「頼りになるユズ部長に用事があるって言った」
カズマはごまかすのが下手だったため、ユズに普通に怒られた。
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――ミレニアムサイエンススクール ユズの私室
「これは…なんという機械なんですか……?」
「俺が大枚払って作らせた、未来観測機関「讖(しん)MkII」っていうんだが……
正直本当にヤバすぎて、置き場所に困って持ってきたんだよ」
「な、なにが…、そんなに不味いんですか…?」
「………簡単に言うと、観測した未来を現実にする機械だ」
「―――???」
「そうだよな…、そういう反応になるよな…。
俺も設計図引いた本人と改めて一緒に作ってみて…、
最終的にヴェリタス全員と一緒に悪ノリみたいになって、実際に動かしてみてからじゃないと
これがヤバイものだと理解できなかったんだよ…」
「よくわかりませんが……、これをゲーム開発部で保管しておけばいいという事ですか……?」
「……いいや、それじゃだめだ。
あんなところに置いておいたらそのうちモモイかミドリが見つけ出して、
遊び始めるに決まってる…
だから、ユズ個人にこれの保管をお願いしたくて、ここに来たんだよ」
「で、でも先生……。
そ、そんなに不味いものならセミナーに言って、保管してもらった方がいいんじゃ?」
「俺もそう思って、いろいろ話し合ったんだけどさ……、
――これを使いそうな感性の人間のそばに置いておくこと自体が危険です(ヒマリ)
――ダメダメ、私が言っても聞かないんだからこの子たちが盗み出しちゃうよ(チヒロ)
ということらしくてな………まぁ、俺もそれに同意見だったから、他三人の意見は無視した。
で、ミレニアムから持ち出すことも危険だって言う話になって、
これを使いそうにない、
かつ疑いのかかりそうにない第三者に預けようって話になってな……」
「そ、そうなんですね……、
で、でもヴェリタスがそこまで言うものを、私もそんなもの持ってるだけで恐いです……」
「そうだな…、俺もユズにこれを預けるのは正直胸が痛むんだが…、
この手のお願い事をするんならミレニアムで誰にすればいいか考えた結果…、
(消去法で)まっさきにユズが浮かんでな……」
「――ええっ…?! ま、まっさき…?!?!」
「………あぁ、ユズ以外(他の奴らが論外過ぎて)考えられなかった」
「あ、あうううううううううううう………。わ、わたし以外、かんがえられない………」
「そうなんだよ……」
「(――ううっ……、恐い、恐いけど……。
先生がこんなに困った顔をして、まっさきに、
もう私しかいないって言って頼ってくれている……)
わ、わかりました……! こ、恐いですけれど、先生の為なら……!」
……そうしてしばらくの間、この機械のことは、シャーレのカズマ先生が責任をもって隠匿・保管したという事になり、過ぎていく日々の喧騒に紛れ、少しづつ忘れられていった…。その、恐ろしい機能を発揮しないまま、日々は過ぎていった。
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――現在。 ミレニアムサイエンススクール セミナー
『――そして、現在。
複数の容疑でヴァルキューレに居た俺に代わり、シャーレ全権代行の証を持って、
この事態に苦慮し続けた生徒に対し、俺の容疑が晴れるまでの間、
引き続き、その全権を心の示すままに行使することを、許可するものとする!』
「――うそぉ?!」
「せ、先生は……、
もしかして私たちが今どういう事態に陥ってるのかまで分かっているっていうの…?!?!
これも計算通り……? いやいや、そんな未来が見えるわけじゃあるまいし…!」
「先生……カズマ先生…」
彼女たちはその時、丁度手詰まりを迎えていた時だった。
ただでさえキヴォトス中が混乱に見舞われる中、ミレニアムサイエンススクール、セミナー生徒会長 調月リオによってアリスが連れ去られた。
そのアリスを連れ戻す為、セミナーの三人によってアリスの居場所を突き止めたのはいいものの、肝心のその都市「エリドゥ」に行くには、対外的な権限がなく、もう後先考えず全員で行くか、今後のキヴォトスの混乱を収めるためメンバーの割り振りを考えていたところであった。
この公式発表を見ていない生徒もいるだろうが、連日暴動ばかり報道していたクロノス報道部の中では、一番センセーショナルで衝撃的なニュースであったため、各学区の主たる生徒会の人間は誰もがこれを目にしていることだろう。
今後は散発的に暴動は発生しても、それはもう確実に鎮火の方向に動いていくはずだ。なんせ生放送の最中で、では今後の全体の指揮はカズマ先生が取るのかと聞かれた際、カズマ先生は自信にあふれた表情で言ったのだ。
『――俺と同じレベル、
ないしそれ以上の指揮統制が出来る、生徒会長の月雪ミヤコが全体の指揮を執る。
そしてそれに付随する行動に関してはなにがあってもシャーレが全責任を取る…。
まぁミヤコがやるなら、間違いなくすぐに終わると思うから、心配はしてないな』
つまり、あのSRT特殊学園がその全盛期に近しい全力を振るって事態の解決にあたると言っているのに等しい。これを見たミレニアムの面々は、最早後顧の憂いはなくなったとばかりに、アリス救出を目指して、邁進することとなる…。
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――現在。ミレニアムサイエンススクール ユズの私室 ユズと未来観測機関「讖(しん)MkII」
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「――今、我々を妨害していた攻撃が、【再び】止まったことを確認しました…。
只今よりエラーを修正し、
本来あるべき玉座に、【再び】「王女」を導かせていただきます」
「――【再度】、AL-1Sに接続された利用可能リソースを確保するため、
全体検索を実行………………リソース領域の拡大。
リソース名、要塞都市「エリドゥ」の全体リソースーー一万エクサバイトのデータを確認」
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「――あっあっあっ……、こ、転んでひっかけたら動いちゃった……。
えっと、確かカズマ先生は…、
もしも起動してしまったら落ち着いてすぐ電源を切るように言ってたっけ…
え、えっと、これ、かな……?(ポチリ」
アリス救出の為、みんなで急いで準備するさなか、自室に戻って必要なものを取りに来たユズは、焦って転んでしまい、そのはずみでカズマ先生から預かっていた危険な機械と思われるもののスイッチを入れてしまった。
もしも起動してしまったとしても、直前まで考えていたことに関して自動で観測を始めるだけだから、そんなに焦る必要はないが、出来るだけ手早く電源を切るようにと指示を受けていたため、あらかじめテープで貼っておいた電源スイッチを押して、機械を落とした。
しかし、電源を落としてもしばらくの間は動き続けることのできる機械だったようで、しばらくの間、それは、未来を観測し続けた。これから現実となる未来を、観測し続けた…。
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「――………現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働。
コード名「アトラ・ハーシスの箱舟」起動プロセスを開始します」
「――【再度】、宣言します……。
王女は鍵を手に入れ、箱舟は用意された
無名の司祭の要請により、この地に新しい「サンクトゥム」を建立する――――」
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――その未来が、どれだけ絶望的なことなのか分からぬまま。
ユズはその機械の画面に映る、元気そうなアリスを見て、よかったと微笑んだ。
というわけで構成は出来てるけど肉付けは出来てないムリゲー第二部後半戦。
「時計仕掛けの花のパヴァーヌ編」のプロローグでした。
キヴォトスの方は公式wiki見たら、
原作先生指揮レベル=月雪ミヤコと読める。これは世界を救える器だよ…。