超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 ガンガン評価が入ってくるので三日目の連続投稿です。
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励みになっております…。

カズマさん、全部知りました(無慈悲


二話 打出小槌 サトウカズマ

――公安局局長室 カンナ

 

 「――以上が、現在のキヴォトスの現状になります…」

 

 「――――。」

 

 詰 ん で る。 そういう感想しか出てこない。

最早なつかしいアクセルの街や、アルカンレティア、紅魔の里、王都、魔王軍幹部、機動要塞デストロイヤー、ギャンブル、冬将軍、古代遺跡のゴーレム、魔王…。まるで走馬灯のように、カズマの脳裏を駆ける過去に対面せざるを得なかった異常事態の数々が、思い浮かんでは消えていくが、どれも今は助けになりそうにない…。

 

 時刻は深夜を少し過ぎたころ。

カズマはカンナの先導によって、業務の為に使用するカンナ専用の執務室、公安局局長室に連れてこられて、TVを見せられながら現状についてすべての説明を受け終えていた。

 

 ――わざわざここが完全防音だとか、しかし規則によりここでの会話も録画録音しなければならないだとか、かといってこの録画を先生の不利になるような証拠として使うつもりがないだとか、いろいろと、いろいろな逃げ道を先に示してから、カンナは何かに耐えるような表情をしながらカズマに全てを語った。

 

 TVで語られていることはもちろん、その裏も。

カイザー、連邦生徒会防衛室、矯正局、七囚人。余計に悪化してこじれる事態。誰もかれもが正しい情報を得られるわけではなく、理性的に動けるわけもなく、誰もが事態を解決しようとして、あるいは都合のいいように片付けようとして、より混沌とする事態。

 

 その混沌とした事態に対応してきたカンナの表情は、なんていうか見てられなかった。連日の出動とそれによる緊張状態によって、その最高責任者であるカンナの顔はそりゃもうひどいものだ。目は血走り、色濃く隈が付き、頬はコケ、全体的に体もやつれていて、満身創痍と言っていい。

 

 もしカンナに精神的、そして体力的な余裕があればそれらを取り繕う余裕もあったかもしれないが、見るからにダメそうだ。その状態のままでカズマを部屋まで先導し、どうぞと椅子をすすめられ、対面になって向き合った後でさえも、カンナは体をふらふらとさせ、目がギョロギョロと蠢めかせて視線が定まっていない。よくよく見ると、今着ているカンナのヴァルキューレ警察学校の制服には戦闘の痕跡が所々に感じられ、少々煽情的になってしまっているのにも関わらず、全く頓着している様子がなかった。

 

 なんだろう…、いつもならキヴォトスにいる抜群の美女、美少女たちの、その黄金比のように均整の取れたプロポーションに対して、嘗め回すような視線を送っては白い目で見られているカズマだが、この時ばかりは哀れ過ぎて、そういう眼では全く見れなかった…。

 

 カンナから発せられる瘴気なようなものが、カズマには見えるような気がした。その姿は、切り捨てられることが分かっていても、職責を果たそうとして限界まで懸命に戦った、折れて地面に突き刺さった刃先のように見えた。しかし、いつも感じるカンナの鋭い眼光はそこにはなく、職責という柱によって支えられていた硬い巌のような精神も、いまや風の一押しで崩れ落ちそうな廃墟と成り果てているかのように感じられた。

 

 

 「だから、頼れるのはもう、カズマ先生しか…」

 

 

 「お願いします…」

 

 

 「…私の命を賭けて約束します、どんな指示であろうと従います――」

 

 

 そしてこの土下座である。ヴァルキューレ警察学校のTOPである公安局局長が己の全存在を賭けて行っているそれに、カズマは正直言ってドン引きしていた…。

 

 まぁつまり、その土下座の言わんとするところは、詰んでるこれ(キヴォトス)を何とかしろということなんだろうが、あんまりにもあんまりな事態に一周回って冷静になったカズマはもはや途中から話を聞いていなかった。現実を見ていたくなかった。――というか、もう大きく口を開けながら逃げ出す算段ばかり考えていた。しかし、目の前で今の自分以上に惨めな目に遭ってきたカンナを見て少し考えを改める。

 

 これでもカズマはその職責上ヴァルキューレ警察学校の生徒や、そのTOPである公安局局長であるカンナに接する機会は多い方だ。それなりの頻度でカンナからヘルプコールが掛かってくるので、公園で暇をしているホームレス共に仕事を回して一緒に事件を解決したこともあり、決して知らない仲ではない。

 

 仕事をしている最中のカンナは、基本的に堅物という言葉を文字通り人間にしたような性格ではあるが、隠してほしいと頼まれたおでん屋では年相応の姿を見せることもあって、日々気苦労の絶えないカンナを同情と共に気遣うくらいのことはカズマもしていた。だからだろうか、職務上ではあるが信頼関係を築けていたように思う……、そういう仕事仲間的な事情もあって、目の前で今にも使い捨てられようとしている姿を見ていると、カズマは素寒貧で異世界に放り出され、食う寝る住むに困っていた根なし草の冒険者時代を思い出してしまい、なんだか凄くいたたまれない気持ちになってきた…。

 

 

 「………………はぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああもう…」

 

 

 カズマは両手で頭を抱えると盛大に溜息をついた。

 

 それは現状に対する嘆きであったり、どうして俺はいつもいつも合理的な判断が出来ないんだというような自分自身への失望であったり、いままで助けてきた生徒たちからもらったお礼の品やお礼の言葉を裏切ることに対するうしろめたさを捨てきれない己の甘さへの落胆であったりした。

 

 

 「――しょうが ねぇ なぁあああああああああああああああああ…!!!」

 

 

 天を仰いでやけくそ気味にそう叫ぶと、本当にやりたくないし関わりたくもないが、仕方がないので善後策を考えてみることにした…。とはいっても、カズマにとっては非常に残念なことに、このレベルで悪化した事態に対するカウンターに関して、カズマはキヴォトス着任初日から考えていたことがあった。おそらくなんとかできる。

 

 でもいやだなー、やりたくないなー、いやほんとうにいやなんだよなー…。やっぱり、この、頼まれれば今すぐにでも手放してやりたいこの糞みたいな役職のせいで、金も命も社会的地位も奪われようとしていることを考えると、いや金と社会的地位は別になくなってもいいというかあったら困るものだからまだいいんだが……、いやいやいや流石にこれを見捨てるのも…。

 

 一度決断したわりに、まだまだ葛藤が続くカズマがちらっとカンナを見ると、いまだに土下座をしながらぶつぶつ呟いている姿が見えて気分がとてもどんよりする。一度声を上げてしまった以上きまりが悪いし、ここで梯子を外したらカンナの精神状態はさらに悪化してどうなるかわかったもんじゃない…あーくそっ。

 

 

 「――ぁあ、もう! ほら、もういいから立てってカンナ。

  分かった分かった、今すぐ今聞いたこと全部忘れて逃げ出したいほど嫌だが、

  ほんっ―――――とーに嫌だが、手がないこともない……」

 

 

 「ほ、本当ですか……?」

 

 

 ぁー、いやだなー。カンナが地獄に垂らされた蜘蛛の糸にすがるような路地裏の不良学生共みたいな眼をしてるのが本当にいやだ。

 

 

 「ただその前に、ちょっと言いたいことがある…」

 

 

 「……? ――はい」

 

 

 「――――スゥゥゥゥウゥウウウウウウウウウウウウウウウ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――こんっ、ちくしょうがぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 ――切れた。天を仰いで吼える。

 

 

 

 「――どいつもこいつも困ったらすぐカズマ先生カズマ先生言いやがって! 

  そもそも俺は教員免許取ってないんだよ!!

  連邦生徒会長がどこのどいつだか知ったこっちゃないが、

  面倒ばかり残していきやがって!!

  ――俺は振ったら願いの叶う打ち出の小槌じゃねーんだぞ!!

  パンパンパンパン無理難題吹っ掛けてきやがって、俺が何をしたっていうんだよ!

 

  ――ぁあ!! もう分かった。

  そっちがそのつもりなら、俺はもう自重をやめてやるよぉ!!!」

 

 

 

 魂からの叫びだった。――というか愚痴だった。

正直カズマは、いまのいままで自分にしては珍しく、滅茶苦茶頑張ってきたことを褒めたたえてもいいんじゃないかと思うくらい、八面六臂くらいの活躍をしてきたと思っていた…。ゲームで言ったらエンディングに到達していてめでたしめでたしで終わっていてもいいくらいには働いたはずなのだ。

 

 ところがどうだ。これだけやっても一向に楽になるどころか、更なる無茶ぶりが押し寄せてきただけだった。絶望しかない。

 

 ……そもそも、カズマにとってキヴォトスの連中は殺意が高すぎるんじゃないかと感じていた。なんせ、着任した初日から明確に悪意を感じる上に、その発生源が特権を侵害されている各学区や連邦生徒会の中にいる誰かだともはや確信に似た思いを抱いてしまっていたし、カンナの話からその時の感覚が完全に補正されてしまって、もうなんか最悪だった。

 

 もともとそういう嫌な予感があったからか、幸運にかなり助けられたとはいえ、生存のための努力を怠ったことはなかった。当たり前だ。悪意が常にそこいると分かっていたのだから。

 

 ――だからこそ、気を付けていたつもりでもあった。

権力を可能な限り持たないように生徒に実権を持たせて、儲けても金銭をすぐ放出するようにしてバラまいて、功績をばらまけるよう、主要な学校組織への顔に泥を塗ることがないよう努めていた。

 

 ここまで整えた土台が安定してしまえば、後の行政処理に関しては全部丸投げして、最終的に長い目で見れば連邦生徒会がいることによって、キヴォトス全体が安定しているという形に持っていけるというビジョンが見えていたのだ。

 

 あとはカズマ自身が今までの功績を基に、事業後見人ポジションにでもついて、権威はあるけど実権を持たないというソフトランディングに繋がるようフェードアウトしていって、ニート生活を送ろうという完璧な計画……じゃない生徒の自主性を最大限に尊重した完璧な計画を立てていたのだ。

 

 このことに関しては連邦生徒会、行政主席官、七神リンへの根回し済で同意を得ていることでもあり、今後の為に連邦生徒会全体への説明会だって行ったほどだ。それで? ここまでの成果を見ての? そっちからの答えがこれだってか?

 

 

 「――あぁそうかよ、分かった分かったよぉおおおおおおく分かった。

  いままでやってこなかったあれもこれもそれも全部、

  連邦捜査部S.C.H.A.L.Eが!!俺が!!

  舐められているから!!軽んじられているから!!

  そう言うことが出来るんだってことがなぁ!!!!!

  いいだろうそんなに知りたいなら思い知らせてやる…!!

  

  ――俺を本気で切れさせたら、

  泣いて謝ってもゆるしてやらねぇってことをなぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

 ………ふぅ。思いのたけを叫んだら大分落ち着いてきた。大丈夫、大丈夫だ。ここまで事態が悪化するとは思ってなかったが、このレベルの事態にどうやって対応すればいいのかということは、常に考えてきたはずだ…。俺は弱い。それはアクセルの街であっても、俺が魔王を倒した勇者パーティを率いたリーダーだとしても、そしてキヴォトスにおいても、俺は最も弱い、最弱職の冒険者だ。

 

 あの冒険の日々の始まりから終わりまで、俺自身が急激に強くなることなんてのは一度もなかった。いや一度だけあったが、それだって俺の弱さとなってる部分はそのままで、ただ手数と選択肢を増やすための舗装工事を、金とコネで敷き詰めて可能な限り無限方向に増やすことが出来たっていう話でしかない。小狡く、小賢しい、相手の意識の隙間を縫うような一撃が、あの時と変わらず、今も必要とされているだけという話なのだ。

 

 ――着任してすぐその日に、そしてあの公園のホームレス共を拾ってから本格的に考えていたことがある。一番使いたくなかった、最後の手段を使うその時がとうとうやってきてしまったのだと、カズマは仕方なく、本当に仕方なく、カンナの泣き落としを受けたことによって、覚悟を決めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、カンナはいきなり大声を上げて怒髪天を突いたと思ったら、虚空を睨みつけながら沈思状態に入ってしまったカズマのことを、暫くの間は戸惑うように見ていたが、その長い沈黙に耐え切れなかったのか、おずおずと話しかけてきた。

 

 

 

 「……せ、せんせい…?」

 

 

 「なんだよ子供のころの夢は保安局員だったけど、微笑んだだけで子供に泣かれた鮫面カンナ」

 

 

 「――さ、さめっ…!」

 

 

 カズマは冷静なつもりだが、その実、怒りのボルテージが最高潮に達してしまっていて、全力で回転するその頭脳は、血が上り過ぎて全く冷静ではなかった。しかし、今もカンナから話しかけられたことを切っ掛けに、口を開きながら、この事態に、キヴォトス終焉といっても過言でない事態にどうすれば片を付けられるかの道筋を、どうすればこの堅物を丸め込めるかを考えている。

 

 

 

 「――いいかよく聞け鮫面、

  連日の緊張状態で疲れ切っていまいち血の巡りが悪い

  お前の頭でも分かりやすいように話をしてやる。

  お前が大好きな屋台のおでんみたいに出汁が良く沁みて、

  話が終わるだろう頃には一日の疲れがさっぱり取れるような、そういう話だ」

 

 

 「…あ、あのっ…おでんの話ひみつ――」

 

 

 人前で余り口外して欲しくないとお願いしていた話を、録画録音されている状況で持ち出されたカンナは連日の疲労もあってか、常より大きく動揺する。いける。カズマは確信する。今はいつもの平穏な状況(というには普段のキヴォトスとカズマの知る一般常識には大分隔たりがある)ではないこともあって、カンナは大きく揺れている。ここで畳みかける。――というかこれが通らなかったら、もう本気でどこかに逃げようと、保険として逃走経路のことも考えておく。

 

 

 「――いいか、俺はキヴォトスに来てから過去最高に頭に来てる。

  後ろでほくそ笑んでるその糞アマが泣いて謝るまで

  絶対に追い込んでやるから覚悟してついて来い、実は子供が大好きな鮫面カンナ」

 

 

 「――いちいちその解説要らないですよね先生…!!」

 

 

 「いいやいる。いいから没収されてるシッテムの箱をよこせ」

 

 

 「……し、少々お待ちを…、どうぞ、こちらです」

 

 

 「――おう、アロナ。あー元気元気。

  超元気だから一旦その怖いほどある着信履歴全部消してくれない…?

  すげえ特定人物から連コール来てて夢に見そう……。

  よし、で。公園のホームレス共に繋げるか…? ――よしよし。

  ………もしもし、あー俺俺、はいはいカズマさんです。無事だ無事。

  ――突入準備してた? 丁度いいからそのまま公安局局長室まで来い。 

  説明?来てからいくらでもしてやるって…。お前らが作戦の肝だ」

 

 

 「……その、先生何を――」

 

 

 その言葉を待ってましたとばかりに、怪しく両眼を光らせて、さも悪いことを思いついたかのような顔で不気味に微笑むカズマ。その様子は、まるで出来の悪い生徒に、1たす1の結果がどうなるかを教えたくてたまらないといった顔をしていて…。

 

 

 「この状況でとり得る選択肢なんてのは、たった一つだ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――SRT特殊学園の、臨時開校式を行う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作は置いてきた、この先の戦いについてこれないからな…(二回目

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