超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生   作:奈音

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 書いているうちにカズマさんを忘れるので、
アマプラでこのすばを再履修しながら書いてます。
このすばはいいぞ!(このすばおじさん構文


第二部 キヴォトス二大騒乱
プロローグ


――某日 学園艦 VIPルーム

 

 とある目的の為、ゴールドマグロ大漁という釣果を得たカズマは、遠洋漁業に協力してくれた船主にお礼のマグロを大量に渡した後、ちょっとした騒動に巻き込まれ、それも終わったので、さっさと港からおさらばしようとした。

 しかし、船主から今後のことで話を聞いてほしいと、旨そうに調理されたゴールドマグロをチラチラちらつかされてしまって、ふらふらとVIPルームまで誘導されてしまった。

 

 「――カズマ先生、あれで本当に良かったんですか?!

  せっかくゲットできるはずだった利益、ほとんどぜーんぶ、

  あんな奴らに渡すことになっちゃいますよ!」

 

 

 「あれはあれでいーんだよ……。

  いや、やっぱぜんぜんよくないわ…、一尾あたりの値段すげぇよな」

 

 

 「――まぁ、すごいのはすごいですね!

  ………にひひっ、その利益が私にも…こんなにも!

  船を出した見返りにこーんなに、いただけちゃって!」

 

 

 「……あーまぁそれは、船代だからいいんだが。

  コユキお前、あのお守り渡してからめちゃめちゃ上り調子だな。

  お守りの効果の調子を聞こうと思ってたんだが…、

  こんだけでかい学園艦を自分のものにしてるのを見る限り、

  今までの不運具合が嘘みたいなことになってんな…」

 

 

 「効果があるなんてもんじゃないですよ、カズマ先生!

  やばいですよこれ!!!!」

 

 

 「――近い近い近い。え、そんなにやばい…?」

 

 興奮し過ぎて顔を上気させたように赤らめるコユキは、今までに自分自身が被ってきた不運を思い出しながら、心底楽しくてたまらないと言わんばかりに熱狂していた。

 

 

 「もう笑いが止まらなくって!! にはははははははははははははははは!!」

 

 

 「……言っとくが、それそのうち効果切れるぞ」

 

 

 「いつもなら私が何企んでも、セミナーやC&Cの先輩たちがぴゅーって駆けつけて来て、

  すーぐおなわになっちゃうのに!!

  ――待って待って待ってカズマ先生、今なんて言いました…?」

 

 

 「そんなにやばい?」

 

 

 「違いますよその前!!じゃないその後!!」

 

 

 「効果切れるぞ」

 

 

 「――先生!私は先生を信じていますよ…っ!!

  お願いですもう反省部屋は嫌なんです…!! 頼れるのは先生だけなんです!!!

  それとも、まさかこのまま私のことを見捨てたりはしませんよね?!?!?!?!

  ――――ねぇっ…!!!!」

 

 打って変わって顔面を蒼白に染めたコユキは、カズマの襟首をババっとつかむと首がガクガクになるほど振り回しながら、部屋のドアを開けながら海の方に向かってものすごい勢いで追い詰めていく。

 

 「――うおっ待て待て待て力つよっ、海に落ちっ――落ちるだろうがあぶねぇっ…!!

  ……はぁ。いやそれを渡したのは気の迷いというか…、

  お前が能力の割りに余りにも運に恵まれなさ過ぎてる話を聞いて、

  ちょっと昔を思い出して不憫になっちゃったというか…。

  ――それは俺的には絶対に使っちゃいけない禁じ手で、

    そこまで効果を発揮してるのを見ると流石にこれ以上はなぁ…」

 

 どうどうと、暴れまわるコーギーをなだめるように機嫌を取りながら、半泣きになっているコユキを部屋に押し戻していくカズマ。想像以上に薬(お守り)が効いてしまったらしく、その必死さはまるで薬物中毒になってしまった末期症状者のようだ…。頭痛をこらえるかのように両手を頭に当て、髪を振り乱しながら半狂乱になって叫んでいる姿は正直引く。

 

 

 「あの部屋に! あーんな狭っ苦しい反省部屋にまーた閉じ込められて、

  私が何もできなくなっちゃうじゃないですかぁ!!」

 

 

 「……お前それ捕まえてるC&Cの前でも言ってこいよ」

 

 

 「――それはそれ!! これはこれ!!

  もーう出来ることが増えちゃってから、次から次へと面白い計画が、

  どんどんどんどん浮かんじゃってぇ!

  楽しくてしょうがないんですよぉ! に・は・は・は~!」

 

 さっきから喜んだり悲しんだり忙しい奴だなと、顔面で百面相を奏でるコユキを眺めながら、カズマは頬杖をつきながらゴールドマグロのカルパッチョをパクパクつまむ。うまいうまい、と思いながらも、なんで俺の人生というか、会う女遭う女、見た目が抜群でも中身に問題があるやつばっかりなんだろうなと考えるとナイーブな気分になってきた。

 

 「――ほどほどにしとけって…。

  ただでさえ日頃ユウカから、お前を捕まえるように言われてるんだからさ…。

  ゲヘナ関連の仕込みもこれで終わったから、

  次に何か言われるとしたら一番仕事を手伝わせてるミレニアムからになるはずだ…。

   俺は余計な仕事なんかしたくないからいつも通り普通に断るが、

  普段からシャーレの仕事を手伝わせている以上、強く迫られると断りづらい。

  ……だからあんまりやりすぎるなよ。

  それに別にセミナーもC&Cも、嫌いってわけじゃないんだろ?」

 

 

 「まーいつもいつもつまんない仕事ばっかり振られて、退屈でしょうがないですけど、

  嫌いではないですよ!

  なんだかんだ言って、みなさん私なんかの面倒を見てくれようとしますし!」

 

 

 「……ユウカが一番心配してたぞ、ちゃんとご飯は食べてるかだとか、

  変な人に騙されておかしな場所に連れ込まれたりしてないかとか」

 

 

 「――先生に連れ込まれましたよ?」

 

 ダンッ――!とカズマは立ち上がり、そうかそうかどうやらお前は自分の立場を分かってないらしいなと溢すと、窓を開けて海に向かって投球フォームを取り始めた。

 

 「………よーしっ。これが要らないみたいだな、海に――」

 

 

 「――わーっ!!! 待って待って待ってください!

  嘘です嘘ですごめんなさいごめんなさい!!

  違うんですよへへへっいやだなぁ先生のお陰でご飯が食べられてますし!

  私がしたかったことや行きたかったところに連れて行ってもらえて大変感謝してますよぉ!」

 

 

 「――ぇえい!腰にしがみつくなすりすりするな!

  いろいろと絵面が危ないんだよっ…!はなっ――離れろって、このっ…!

  ………はぁ、はぁ、はぁ。いいかコユキ。

  俺は感謝されるのは好きだが、言うことを聞いてくれる生徒ならもっと好きだなー…」

 

 コユキにとってもはや命綱と同じ意味になってしまった、薬(お守り)を目の前でちらつかせる。フラフラとカズマの手の動きに合わせて動く薬(お守り)に釣られて、コユキの首がメトロノームのように動いている様子が最早ホラーかなにかに思えてきた。

 

 

 「――はい!やりすぎないようにします!C&Cの先輩方も解放します!

  ある程度気が済んだら反省部屋に向かいます!! ――これでよろしいでしょうか?!」

 

 

 「……なぁ、これ持ってる時と持ってない時で、そんなに運勢変わるのか?」

 

 

 「そりゃもう!いまはこうやって先生と楽しく遊べてますけど、

  普段なら絶対どこかで足が出て反省部屋監禁コースですよ!」

 

 

 「反省部屋監禁コース」

 

 ミレニアムサイエンススクールに限らず、キヴォトスの学校はどこも過激な罰則が多いということを聞いてると、いつもながらカズマの中の常識がガラガラと崩れるような思いがして、複雑な気持ちになる…。

 

 「でもそうはならなかったんですよ!今回は!

  今までもセミナーの先輩方から逃げるのはなんとかいけてたんですけど…、にはははは…。

  最終的にC&Cの先輩方からは逃げられた試しがありませんねー…。

  今回が特別みたいなものです!」 

 

 

 「………はぁ。しょーがねぇなぁ…自分で言ったことは守れよ…、――ほれキャッチ」

 

 

 「――っと、ととぉ!! にひひっ、先生ありがとうございます!!

  これで反省部屋に戻ることになっても生きて行けそうです!」

 

 

 「………お前はなんか”人生楽しい…っ!”て感じでいいよなー…。

  ――俺はこの後のことを考えると気が重いってのに…」

 

 

 「にははははっ、なーにいってるんですかぁ! 先生が私に教えて下さったんですよ?」

 

 

 「…え、なんか俺お前に教えたことあったっけ」

 

 カズマとしては、コユキとの出会い方は微妙だったので、積極的にやりたくはないが、やっといたほうがいい便利アイテムの実験台にしたくらいで、特に何かを考えて働きかけた要素に覚えがない。 

 

 

 「――無理だと思ってたことが成功すると、

  すっごく気持ちいいってことを教えてくれたじゃないですか!

  ダメだって言われてることほど、やってやったときに爽快なのはもう病みつきですよ!

  先生のやることはギリギリを責めすぎてて、

  倫理的にダメですけど、こうやって誰かの役に立つって楽しいですよね!」

 

 

 「……………そーかよ」

 

 そうやってコユキが目をキラキラさせながら嬉しそうにしているのは、なんだか気まぐれに高級フードをあげたら懐いてしまった気難しい野良猫を見ているような気分になってほっこりしたので、まぁいいかとカズマはテキトーに流した。

 

 そう、それはコユキにとってもキラキラした思い出だった。――この日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

――ミレニアムサイエンススクールでの記憶 コユキ

 

 セミナーでつまらない仕事を振られても、頼られるのは悪い気はしなかった。生徒会の一員というのも強い自己肯定感になっていた。

 

 しかし、セミナーで働き始めてから強く強く感じるようになっていった。

どうしてこの程度が出来ないのか、こんな簡単な話を振ってもどうして理解できないのか、共感してくれる人が、どうして誰もいないのか…。ミレニアムの役に立ってると言われても、この程度のことがなんの役に立っているのか全く理解できず、周囲との理解の溝は深まるばかりで…。

 

 気が付けばコユキは、この程度のことはやらなくていいだろうと考えてよくさぼったり、校舎から抜け出していろいろな場所に出かけては、この程度の事で大騒ぎする方がおかしいよね?という感覚のもと、その能力を全力で使って暴れに暴れた。

 

 ――私のできること、やってることなんて、大したことない、大したことない。

 

 それは小さな子供が、親に構ってほしいからという理由でわざと悪戯するような無邪気なもので…、誰よりも自分のことを分かっていなかったコユキは、そのまま失敗し続けた。

 

 振られた仕事の達成率、成功率は100%なのだが、コユキにとってそれは成功の内に入らない些事でしかなかった。健康な人間が、呼吸をすることを生きることに成功したと言わないのと同じように、コユキにとっての成功とは、非常にハードルの高いものとなっていた。

 

 だから、コユキは今でもその日のことを覚えている。

いつも通りに暴れて捕まって、とうとう生徒会も外されちゃって、反省部屋の窓から、それは見えた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

――ミレニアムサイエンススクール 第8演習場

 

 「――光よ!!」

 

 「ぅぉォぉおおおおおおおおおおおおおおお―――――!

  しっ、死ぬっ…! ここに来てから一番死を身近に感じるっ…!

  頼むアリスちょっと待て待て待って、あっ―――ぶな!!

  いやもう魔王よりお前の方が間違いなく強いからもうやめにしようぜ――」

 

 「でもそれではアリスが勇者になれません!」

 

 「……先生が調子に乗ってアリスに魔王戦を再現するとかいうからだよ」

 

 「がんばれがんばれー!」

 

 「……が、がん、ばって…!」

 

 「――先代勇者を倒し、アリスが勇者となります!」

 

 「――ばっか野郎、俺はお前らみたいに頑丈じゃないから一発でもかすったら

  ――――死ぬ死ぬしぬぅぅうううう!

  いまのはマジで危なかったぞこの野郎……、

  ガキだと思って遠慮してたが、いい加減にしないと全員泣かす」  

 

 「アリス止めよう」

 

 「アリスー、先生疲れたって言ってるからこの辺にしとこ、ね?」

 

 「……アリス、ちゃん、もうやめたほうが――」

 

 「アリスは諦めません! ………えっ? あれっ?」

 

 そして、外から来た武器も持たない先生が、あっという間に四人を制圧してしまった。武器も暴力も使わずに。………ちょっと言葉に出せない方法で。いやどうやってやってるのか分からないけれど、やり方に大分問題があると、頬を引きつかせながらコユキは思った。

 

 でもその光景があまりにも面白すぎて、思わず大きな声を上げて笑ってしまい、その区画をあっという間に電子的にロックしたコユキは、それをネタにしてカズマ先生に近づいた。

 

 カズマ先生は最初は嫌がったけれど、最終的に”お前もその類かよ、なんで俺はこんなのばっかりと縁があるんだ…”と言いつつも私の面倒を見てくれた。

 

 そうして、その後から、こんなにも世界が面白かったなんてことを、色づいて見えるだなんてことを、カズマ先生は私に教えてくれた。別に語って聞かせてくれたわけじゃない。カズマ先生の後ろについていくだけで、悪い顔をしているカズマ先生と遊ぶことが、私に新しい価値観と余裕のようなものを与えた。

 

 それは今まで得られることのなかった、掛け替えのない宝石のようなもので、だから。だから――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

――現在。 ミレニアムサイエンススクール セミナー

 

 「――助かりました、コユキちゃん」

 

 「……にひひっ、まぁ私に掛かればこんなもんですよ!

  キヴォトスに存在する程度のセキュリティソフトじゃあ、相手にもなりません!」

 

 「……でも私も驚いたわ。

  あのコユキがセキュリティを解除するだけじゃなくて、

  保護する技術も同レベルで身に着けていたなんて――」

 

 あれから。いいやあの後。誰よりも早く動いたのは私だとコユキは自負していた。……カズマ先生は時たまこぼしていた。ブラックに限りなく近いグレーな手段ばっかり使ってるから、いつか絶対問題になると。

 

 そういうのに目敏い奴が、どれだけ注意深く気を付けていても、必ず噛み付いてくると。その時に暇だったら助けてくれたらいいと。暇だったら?暇に決まっている。だって、カズマ先生がいないんだから――。

 

 「にはははっ、私だってこれでもミレニアムの一員ですからねー、でも一番の理由は…。

  ――面 白 そ う だ なと、思ったからですよ?」

 

 「――そう、なの?」

 

 真意を隠したままコユキはセミナーに復帰した。だって恥ずかしいから。

 

 いつもコユキへの当たりが厳しいセミナーのノアとユウカも、この日ばかりはコユキを褒めたたえていた。なんせコユキはすぐさまシャーレのセキュリティを掌握、オリジナルのセキュリティソフトのパッチを充てて秘匿性を確保。

 

 危ない帳簿は、カズマ先生の部屋に置いてあると聞いていたので、電子機器を遠隔操作で発火させ、空調で火の通りを操作し部屋を燃やし尽くしてからスプリンクラーで鎮火。

 

 ヴァルキューレが迫るシャーレにいるノア先輩を誘導して、今後必要になるであろうデータを確保させ、セキュリティを意図的に操作することで脱出経路を確保。余りにも徹底的過ぎる上、完璧な対応にノアもユウカも最初は開いた口がふさがらなかったが、そんな場合ではなかったため、三人ともその全能力を駆使して頑張った。

 

 その成果もあって、シャーレはヴァルキューレに制圧されたが、カズマ先生の今後を占うデータは全てミレニアムが確保に成功した。そしてそのままコユキはセミナーへの復帰が認められ、こうして今も、今後の為の対応策を、一緒に熱心に考えている。考えてくれている。

 

 ………そんな場合ではないとは分かっているが、人間観察を習慣のように行っているノアは一緒に作業を行いつつも、少し不安げな様子で、いつもと少し違うように見えるコユキを、ずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ――気のせいかその瞳が、どろり、と強く粘性を以て、鈍く光っていたように、ノアには感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




――カズマさんの速報ネタが三つなのは、
三つの不運と関わったからです…という導入でした。

アクア枠・美食研究会
めぐみん枠・温泉開発部
ダクネス枠・セミナー(コユキ)

まだ第二部は準備段階だったので日間更新は無理無理…
エピローグ2からの次回予告PVとメイドイベントPV見ましたが、百鬼夜行
って今まで存在が9割ギャグ枠だと思ってた…。
これパッ見、行政機関制圧からの時間遡行で過去改変系では…?

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