超法規的組織シャーレ で 仕事をしたくない サトウカズマ先生 作:奈音
――温泉開発部書くの滅茶苦茶疲れる。
「――私が、いや!! 我々が温泉だ!!!!!!」
カズマは今すぐ仮眠室にこもって眠りたくなった。現実から目を背けていたかった。というか実際そうした。多分俺は逃げ出すだろうから助けてくれと頼んでおいたユウカの宥めるような視線がなければ、そのまま帰ってこなかっただろう。精神を落ち着けて被疑者の声に耳を傾ける。
「――そこに温泉があるから我々がいる!いいや、たとえ温泉がなくても我々がいる!!」
「――とにかく何でも掘り出して温泉にしてしまえばいい!!!
だから!我々がいるのだ!!!」
「ユウカだめだこいつらは俺の手に負えないチナツには悪いが諦めよう」
「せ、先生…気持ちは分かりますけど…相手も人間ですし、
こうやって対面できてるわけですから…」
「…ユウカ、お前ゲヘナじゃなくてよかったな」
「それについては深く同意できますね…」
地球外生命体を見つめるような瞳で、カズマとユウカが見据える先には、温泉開発部の部長と現場監督の代表者の2名が座り…、最初は座っていたが、温泉に対してのリビドーを爆発させるや否や芝居がかったボディパフォーマンスを繰り返し、自分たちの世界から帰ってこない。
カズマなんぞは、いつも通りキヴォトスの生徒のレベルの高さに目を奪われ、非常に無作法な目移りをしていたがために何度もユウカから脛を蹴られていたが、二人の温泉に対する熱い、暑過ぎる情熱にやられてしまい、見つめる目線が爆裂狂とドM騎士を残念に思う郷愁の瞳に成り果てていた。
「――そう!それが!それこそが!!」
「温泉があると聞けばどこへでも、ゲヘナ学園の、温泉開発部だよ!!!!」
「……そうか、分かりたくはなかったが、大体わかった」
「――先生今までので何が分かったんですか?!?!?!」
したり顔でうんうん頷くカズマにユウカは驚愕する。私には何一つ理解できなかったんですけれども!
「……いや、俺も別に理解したくはないんだが、類似例を二つ知ってるというか、
なにかに狂ってる人間ってだいたいこういう感じだよなって言うか…。
この手の類は、人の話は全く聞かないが、方向性を与えることはできる…。
――というかそれ以上は無理だ。
そんな分かってる俺から言わせると、お前らはまるでなっちゃいない…。
――的外れもいいところだ」
「ほぉ……我々のなにがなっちゃいないというんだい?」
片方のでかい赤髪おっぱいは自分の世界から帰って来ずにまだ何かをまくしたてているが、もう一人の小さい温泉開発部の部長であるカスミは、カズマの挑発的な発言に目を細めて先を促した。
「――まず一つ、余計な場所を爆破し過ぎだ。
というか破壊し過ぎて毎回風紀委員会と戦闘になってて、職分の半分以上が戦闘になってる」
「温泉という国家を護り、保全し、繁栄させていくためには仕方のない犠牲だ
――それとも、先生になら不必要な破壊なしに、温泉(国家)を見つけられるとでも?」
「――いや見つけられるだろ」
「……………………………………うん?
聞 き 間 違 い でなければいいんだが、先生――」
「(…先生! 先生!)」
「(なんだよユウカ、今話し合ってる最中で)」
「――そ、れは。我々の叡智に、受け継がれてきた技術に、脈々たるこの大地に、
先生は、挑 戦 し て い る と捉えても?」
なんか怒ってるこわ。
背後でユウカがあわあわと慌てふためき、気持ちよさそうにボディーパフォーマンスを奏でていた赤髪おっぱいも剣呑な瞳でこちらを見つめてきていることから、カズマはようやく、こいつらが話を聞く気になってくれたと判断する。そしてこれ以上、煽る必要もなくなった。
狂人ってのはどいつもこいつも分かりやすいくらい、分かりやすい。その第一人者を自称し、その自称自体に、己の人生全てを賭けてきた強靭な矜持があるからこそ、挑戦を挑まれると逆に冷静になるのだ。
まぁそれは冷静というよりも、どうやってこいつに思い知らせてやろうかという仄暗い、冷気のような鋭さを持った剣先を突き付けてきているようなものなのだが。
「――そういうと思って用意しといたんだよ…ユウカ! ――ユウカ?」
「…ハッ、はい先生! 言われた通り、各学区の地図を用意しておきましたけれど…」
「おう、サンキュ…。
はい、じゃあそんななってない、なんちゃって温泉開発部に質問だ。
ここと、ここと、ここ…あとここもか、あーこれもそうだな・・・」
「――アビドス、ゲヘナ、トリニティ、ミレニアム、レッドウィンター、百鬼夜行、山海経、
ヴァルキューレ、クロノス、ワイルドハント、連邦生徒会…カイザーも??」
「カスミ部長、私これ分かるよこれ…、
これ私たちがすぐ先生に会いにこれなかった理由だよ…」
「なに…? ――まさかっ!」
「――そうだ、俺が百発百中で掘り当てた温泉だ」
「…ぇえ????? 先生、最近何かしてるなと思ったら、そんなことしてたんですか?」
ユウカは呆れ果てたような目線でカズマを見ているが、温泉開発部のカスミとメグは、地獄に仏を見つけたかのような崇拝の視線50%/疑念の視線50%をカズマに注いでいた。その視線によしよし釣れた釣れたとカズマは安堵する。どうにかこうにか温泉開発部をシャーレに呼び寄せたところで話にならないだろうことを予見していたカズマは、裏社会の頭領:BIG HIFUMIを矢面に立てて、各所への温泉開発の為に動き回っていた。
――というかカズマ自体が精神的に参っていたため、使うのはやめようと思っていた、駄女神から習得したいくつかのスキルを使いまくっていたのだ。その中には的中率100%を誇るダウジングも含まれ、土地開発をするときに水脈を掘り当てたり、温泉を掘り当てたりするのは朝飯前。ついでに地脈水脈も操作できる。
温泉運営に依る儲けの8割を相手に投げ渡すことで、無料で入れる銭湯をキヴォトス中に作ることが出来、なおかつ感謝もされるし、社会奉仕活動にもなるという…、一挙三得の方法だったと思っている。
相変わらずそれがもたらす政治的効果に関しては無頓着なので、カズマは引き続き自分が何をやったのかはわかっていないが。
「ふ、ふふ…ははは……ハーッハッハッハ!
そんなすぐばれる嘘に騙される私だと思ったか! 知っているぞ!
いまや公然の秘密たる、裏社会を統べる頭領(ドン):BIG Hの指揮統制の下、
この大事業がなされたということぐらいはな!」
「おっ、そうだな。おーいヒフミー」
「…なんですかぁ、先生…。
もうすぐ各所への指示が終わりそうなんですけれど…眠いですぅ…」
「――BIG H!!! なぜここに!!」
「なぜ…? なぜって、先生の言うとおりに皆さんと一緒に温泉掘ってたら…、
…帰れなくなっちゃって…ふぁああ…」
「あぁ…ヒフミちゃん、まともに歩けてないじゃないの…こっちに来なさい」
「ユウカちゃん…ありがとうごさいましゅ…。
ふふふ…もう終わるんです…開発が…温泉に入…って…」
ヒフミが力尽きるのを、ユウカが支えている様子を横目に入れながら、カズマは渾身のキメ顔を作って言い放つ。
「――温泉に茹ったお前らの頭も、どうやらその様子だと冷えたようだな…」
「先生うまくないです」
「(無視)だが、この通り。我が手先、裏社会の頭領:BIG Hも。
その指示に従って社会奉仕作業をした部下も連日の温泉開発で疲労困憊だ
…ぁーどこかにいないかなー、温泉を見つける能力はなんちゃってレベルだけど、
開発能力に関してはキヴォトス最高峰の能力を持つ部活がどこかにいないかなー…」
その言葉と共に、カズマが机に展開した写真には各学区の代表者と握手をしながら温泉開発成功を祝う生徒たちの写真が写っていた。中には感動し過ぎて、生徒たちから胴上げされている写真も存在しており…、こんなものを偽造しても温泉開発部にはすぐわかってしまう。そして、ここに来るまでにこうやって開発されてきた全ての温泉が本物であるという裏取りは終わっていたのだ。首謀者をBIG Hと勘違いしたまま。その裏に君臨するシャーレの先生など気づきもしなかった…。だからカスミは心を決めた。
「――感服した、いや眼福である!
そこまで腕を買われてしまって応えぬのは無作法というもの!!
未だ半信半疑だが、実に面白い!そして悪くない!!
その大事業とやらに協力してやろうではないか!! これから宜しく頼むぞ! 先生!!」
温泉開発部、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eとの交渉により、キヴォトスの素行不良生徒と協力し、穏当に温泉を開発し始める(社会奉仕活動)、――が、それはそれとして「先生の予知は完璧だが、それに頼ってばかりでは我々の腕がなまる、そうだな!」というカスミ部長の号令により、度々爆発することになるが…。
全ての力を尽くしたカズマにとって、どんなに陳情が来ても、もうこれ以上できることはないと匙を投げてしまった。
備蓄は底をついた…
温泉開発部(めぐみん枠)解決。
美食研究会(アクア枠)…?知らない子ですね…。