健康情報誌で有名なM出版が民事再生、経営破綻の裏側に労使対立があった
健康情報誌のM出版が経営破綻
2023年3月2日、M出版(東京都中央区)が東京地裁に民事再生を申請し、同日、監督命令を受けました。
同社は1977年設立の出版社。大手出版社から独立しました。健康雑誌のパイオニアであり、商品情報誌も読者の支持を得ていました。雑誌のほかに、健康本やムックなど年間およそ100点の書籍を発行していました。M出版の倒産は出版業界でも大きなニュースになりました。
実は、私はM出版が民事再生法の適用申請をする前から同社の資金調達に関わってきました。申請時の債権者は約90名、負債額は約15億7200万円ですが、M出版は決して債務超過に陥っていたわけではありません。それなのに、なぜ経営破綻に至ったのか。今回は、報道されていない事情と経緯を多少なりともお伝えできるのではないかと思います。
民事再生申請の理由は債務超過ではなく資金ショートだった
M出版が民事再生を申請した直接的な理由は、単純な資金ショートです。2020年2月末に約4億円あった現預金は、2022年2月末には約2億円、民事再生を申請する直前の2023年2月末には6000万円台しか残高が残っていませんでした。このままでは3月の給料の支払いすらできないということで、民事再生法を申請したのです。
言うまでもなくM出版も経営改善の努力を行なってきました。売上高のピークは2004年2月期の約36億1800万円。以降、インターネットの普及、活字離れ、購読者の高齢化などによる出版不況に飲み込まれ、特に雑誌の売上げが大幅に減少しました。ウェブサービスへの移行や、本社移転、人員削減などを進めて業績回復をはかりましたが、2022年2月期には売上高が約14億5600万円と、ピーク時の4割まで落ち込みました。それほどまでに出版不況は深刻です。
出版業界独特の商慣習にも問題があります。出版社の会計処理は非常に特殊で、「返品」と相殺された額を売上高として計上します。そのため、現時点での財務状況が明示できず、金融機関の理解を得るのが難しいのです。経営者が自社の財務状況を掴みづらく資金繰りの悪化に気づくのが遅れるというデメリットもあります。M出版の場合、系列の子会社との貸借関係が問題視されたこともあって、銀行から融資を受けることができませんでした。
私的整理が成立しなかった背景にあった労使対立
2022年10月頃から、M出版は自力再建、つまり、私的整理を目指してスポンサーを探し始めました。スポンサー企業に株式を譲渡し、資本提携しようと考えたのです。そのときのスポンサー候補は3社。1社は投資会社、2社は出版社でした。
しかし、スポンサー候補が当然のように要求したリストラをM出版の社員らが拒んだため、スポンサー交渉は決裂しました。一般的には新オーナーはリストラが必然ですが、社員は全員の雇用を求めました。労働組合の発言力が強く、人件費の調整もままならないという状況です。経営陣も労組出身で、社内で社員に対して強く言える人もいませんでした。
このように、M出版が私的整理をなし得なかった背景には、労使がうまく協調できなかったということがあったのです。
申立て後、異例のスピードで事業を再開できた理由
結局、私的整理は成立しなかったものの、そのために準備し書類を整えていたことが、民事再生の適用申請後、異例のスピードでの事業再開につながりました。当初からスポンサーが数社手を挙げていたので、プレパッケージ型民事再生ではないものの、通常、事業再開まで少なくとも3ヶ月程度はかかるところを、2週間ほどで事業再開できました。
M出版が3月7日に行なった債権者説明会では、資産内容を公開して事業再生計画案を提示することができ、4月上旬にはスポンサー候補として9社が名乗り出ました。
会社再生のカギは、経営者と従業員が一致団結すること
いくつもの会社がスポンサーに立候補するのは、M出版の社員たちの仕事が、主要な健康情報誌の知名度を上げ、会社の価値を高めてきたおかげです。その一方で、同じ社員たちが経営方針を受け入れることができていたならば、自力再建の段階で経営を立て直すことが可能だったかもしれません。
会社再生の基本は、売上げを増やすこと、経費を減らすこと、事業をセグメント化して整理することです。いずれも従業員が会社全体のことを考えながら動かないとスムーズに進められません。経営者と従業員が一致団結できるかどうか、それが会社再生のカギを握るのです。
>次号につづく 「【続報】なぜM出版の民事再生は頓挫し、破産することになったのか」
●関連記事:「『倒産』を選択する前に......『私的整理』で事業継続の道筋をひらく」[2022.7.9配信]
[2023.5.28]
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