お礼掌編 「とある夏の日 熱砂の調教 豚あずさ編」 雲ひとつない、とある真夏の昼前。 人気のない海岸脇の、防砂林の合間に作られた無舗装の駐車場に、場違いな1台の高級乗用 車が止まった。 ドアが開き、1人の女性が車から降り海岸を見下ろした。 「ふうん……なかなかいい海岸じゃない。今の時期でも人がいないなんて、地元の人間しか知 らない穴場ってだけのことはあるわね」 そういって小早川葉月は海岸を見渡した。 サングラスに夏服姿で潮風になびく髪を抑え、満足そうに頷いた葉月は、振り向いて車の中 を覗き込んだ。 「貴女もそう思うでしょう、あずさちゃん?」 「むぐうー!」 車の助手席に座っていた少女から帰ってきたのは、くぐもったうめき声だ。 少女は季節はずれも甚だしいコートを着込み、口にはマスクをしている。 どう見てもおかしい格好だが、大型マスクに顔の半分を隠されながらも相当な美少女だとい うことが雰囲気でわかる、そんな少女だった。 怒りに燃える吊り気味の目からは意志の強さを、ポニーテールになっている黒髪からは躍動 感が垣間見える。 その少女、小早川葉月の奴隷こと田中あずさは、いまだ認めていないご主人様をキッと睨み つけた。シートベルトに抑えつけられた体をもぞもぞと動かし、マスクに覆われた口元でムグ ムグと何事かを喚く。 「あらなあに? きちんと喋ってくれないとわからないわねえ」 馬鹿にするように嗤った葉月は、運転席のドアを閉めてから助手席側にまわりこんでドアを 開けた。 あっという間にマスクをはぎ取り、あずさの口を封じていたガムテープを、目で訴えかける 少女に構わずビリっと一気に剥がす。 「痛ぁっ! ちょっと、なにすんねん! 痛いやないか!?それに暑い!はよこれ脱がしぃや!!」 「……相変わらず元気ねえ」 猛烈に噛みついてくるあずさに、葉月は思わずつぶやく。 表情や態度にこそ出さないが、彼女としては内心で頭を押さえたい気分だった。 相変わらずの威勢のよさ。自分に対しても怖気づかず容赦なく反発してくるその気骨に、苦 笑半分ため息半分である。 (やっぱりいい加減、このあたりでキツイお仕置きが必要ね。 これ以上増長させると、深雪や霞への調教にも差支えるわ。 ……叩きのめしてあげないと、ね) これからを思い、葉月の口元に残忍な笑みが浮かぶ。 それを見たあずさの目に、一瞬だが脅えが混じる。 そのことに満足した葉月は、助手席座ったままのあずさの胸元に手を伸ばした。ボタンを外 して首元まで隠されていたコートをはだけると、その下に隠されていたものがあらわになる。 「んっ……」 「ふふ、よく似合ってるわよあずさちゃん」 現れたのは、素肌の上から黒いラバースーツに全身を覆われた、あずさの体だった。 ピッチリと張りついたゴムは、あずさの首から下をくまなく覆っている。 体のラインはこれでもかと強調され、滑らかな光沢に覆われて艶めかしい色気を放っていた。 手は後ろで手錠をかけられていて、シートベルトと合わせてあずさの自由を束縛している。 顔を俯けるあずさにかまわず、葉月は性的な視線で、その肉体を舐めまわした。 あずさの場合、特になんといっても太ももとうなじが素晴らしい。 むっちりと肉感的な深雪、ボーイッシュな霞とはまた違う、ある程度の筋肉と控えめな脂肪 からなるスポーティな色香がたまらない。 「……もうええやろ。脱がしぃな。 クーラーが利いとってマシやったけど、ドアが開いてるからもう暑いんや」 恥ずかしさを振り切るためか、あずさは必要以上に攻撃的だった。 いや、足をこすり合わせてもぞもぞさせているということは……。 「ふふ、おしっこしたいのかしら、あずさちゃん? もうほとんど丸1日我慢してるものね?」 「し、知らんわそんなん!」 真っ赤になって顔をそむけるが、震える足元は耐え難い尿意を示している。 しかし、今のあずさは自分で排泄することができないのだった。 あずさの股間には3日前以来、特殊なカテーテルが挿入されている。 このカテーテルは膀胱で先端が膨らんでとれなくなるもので、尿道の先からほんの少し出る 程度の長さしかなく、先端には弁と別のカテーテルとの「繋ぎ」を兼ねた、小さい器具が付い ている。 これは事実上の排泄制御器具である。栓をしたままにしておけば、装着者がどれだけいきん でも小用を足せない仕組みだった。 しかも弁には特殊なロックをかけることもでき、両手を常に後ろ手で拘束されていたあずさ では自分で勝手に外すこともできなかった。 ちなみに。必要なら先端の器具でチューブを繋いで延長することもできる。 このカテーテルを入れられてから、あずさは小用を足すのにいちいち葉月に許可してもらわ なければならなかった。しかもただ出すのではなく、カテーテルを延長されて空の点滴液の袋 に排泄させられている。 そして一昨日の晩からは今この瞬間まで一回も許してもらっておらず、あずさの膀胱はパン パンになっているようだ。 その姿に満足し、葉月はあずさの首にダッシュボードから取り出した茶色く分厚い首輪を掛 けて、リードを繋いだ。シートベルトを外す。 「いい具合になってきたわね。それじゃああずさちゃん、お外に出ましょうか?」 あずさは意味がわからないという顔をする。 外は燦々と真夏の太陽が照りつける、木陰もない海岸脇である。 そんな中に、全身のほとんどをラバーに覆われた格好で出ていく……あずさはその意味を飲 み込むと、脅えを滲ませながらも気丈なままに、 「い、嫌や。こんなに暑いのにこんな恰好で外に出ろて、殺す気か? 絶対に嫌や!」 と、本気で拒否する。 葉月はにっこりと笑みを浮かべた。 「あらあら本当に強情なのね――でも」 あずさの首が閉まることも無視して思い切りリードを引っ張る。 「ぐっ……がっ!」 「お前の意見なんて誰が聞いたの? 私が出ろと言ったら出なさい」 冷たい声色と切りつけるような葉月の視線に対し、あずさはグッと葉月を睨み返す。 だがそれも数秒で諦めに溶け、しぶしぶと車から降りた。 ほのかに葉月の胸中で勝利の快感が湧きあがる。 「さあ、これからあずさにはお仕置きをしないといけないわね。 最期のチャンスよ、土下座して許しを請いなさい。 靴を舌で綺麗にして「私は葉月様専用の便器です」って言ったら勘弁してあげてもいいわよ」 「だ、誰がいうかいそんなこと!」 「そう? なら残念だけどお仕置きね。 覚悟なさい、ちょっとキツイわよ」 葉月はそういって、車から持ち出したトランクを開け、中に詰まっていた拘束具や道具を取り 出した。 ブタマスク、ローター、ブタの蹄を模した靴、そして……ピンク色の革製拘束具。 「いいでしょう、これ? ブタ面にぴったりの間抜けな色の拘束具よ。思いっきりマヌケで惨 めな姿にしてあげるわ」 「い、嫌……嫌ぁ……!」 逃げようとするあずさを、葉月の持つリードが引き戻す。 抵抗したくとも後ろ手では身をよじる程度しかできないし、ラバースーツを着せられて尿意 まで我慢しているあずさでは葉月に対抗できない。 それ以前に、そもそも本気で対抗できるとはあずさも思っていないだろう。 手錠の鍵をもっているのも、ここまで車を運転してきたのも葉月だ。 いや、仮にそういうことがなかったとしても、やはりあずさは強硬手段には出られない、出 ない。 (なぜなら――あずさもまた、マゾだから) 深雪や霞、睦月達とはまた違うタイプの、それでいて同じくらいに変態のマゾヒスト――そ れが葉月の見抜いたあずさの本質だ。 結局のところ、あずさのやっていた抵抗も自分の運命を先延ばしにするためのものに過ぎな い――認めたくないのだ、自分が変態だということを。 なんと健気か。なんと往生際が悪いのか。 その必死の努力を一方的にブチ壊す。人の尊厳を剥ぎ取り、プライドを叩き折る。 それこそがサディストの本懐、特権、そして愉悦そのものだ。 「さあ、お散歩のお化粧をしましょうか、あずさちゃん?」 それから数分後。 「むごお!! むおお!?」 真夏の海岸には、ついさっきまであずさと呼ばれていた、1匹の豚が立っていた。 裸体を覆い締め付けていた黒のラバースーツは、その上から着せられた拘束具でさらにギチ ギチに締め付けられていた。 顔面の強制開口具、胸のブラジャーフレーム型、そして股間を覆う貞操帯型――どれも下品 なピンク色のそれは、黒いラバースーツからよく目立ち、異様な印象をより強めている。 あずさの綺麗な顔は、無理やり被らされたブタマスクによって鼻と両目しか露出していない。 噛まされた口枷は幅広のベルトが左右と上の3方に伸び、後頭部でしっかりと固定されてい る。鼻を吊りあげ豚にしている鼻フックからは鼻水が漏れ、垂れる豚耳はあずさの無様さを増 していた。 ラバー越しからも明らかに固くなっているのがわかる胸の乳首にはおもりを兼ねたローター がクリップで挟みつけられ、揺れるたびに刺激を与えている。 なにより奇異に映るのは股間を覆う貞操帯から延びたカテーテルが、そのまま顔まで伸び、 口を覆う強制開口具の、しっかりと押し込められた栓に取り付けられていることだ。 さらに貞操帯を固定するための腰を締め付けるベルトには、左右に黄色い液体が満たされた 点滴袋が吊るされていて、そこから延びたカテーテルはあずさの尻、アナルの部分に向かって いる。 中身はここ数日採取され続けた、あずさの小便である。 「あーはっはっは、あはは、いや、くふ、本当に、ぷぷ、よく似合うわよぉあずさちゃん?」 葉月が腹を抱えて笑う。 「むうおお!むふ、んごおお!!」 あずさが抗議するように頭を振って喚き散らすが、意味のないうめき声にしかならない。 豚耳が振り乱れ、ギチギチと軋む拘束具がかえってあずさ自身の被虐感を高めただけだ。 明らかなオーバーリアクションなのはもちろんわざとだった。 これが美雪や睦月ならこんなリアクションをすればむしろ覚めてしまい逆効果だが、負けず 嫌いの上にいまだ自分のマゾ性を認めようとしないあずさには、このくらい大げさな方が有効 なのである。 足は豚の蹄を模した金属製の靴――ブタスーツの「足」用とよく似ている――が嵌めこまれ、 更に鎖でつながれ肩幅より広い程度までしか足を開けないようにさせられていた。 これらの拘束具には要所で鍵が掛けられ、あずさにはどうあがいても外す手段はない。 さらに。 「んごお――んぐっ、ごふ……うえぇ……んぐ」 あずさの目が見開かれ、何かを飲み込んだように喉が鳴った。 「自分のおしっこは美味しい?なにしろこれだけ暑いから、喉が乾いたら自分で飲めるように してあげたのよ。上の口にも下の口にも、両方にね」 「うぐ! うぐうぐぁあ!」 「量は絞ってあるから、ゆっくり何時間もかけて飲み干せるようになってるわ。まあ、だから 焦らずに啜るのね」 「んごぅ!?」 「さて……私はもうそろそろお暇しようかしらね? 何しろここ暑いし、直射日光は美容の敵 だしね。ああ、そうそう。あなたの拘束具の鍵だけど、実はこの砂浜のどこかに捨てちゃった のよね、下見の時に」 「んぶぉ!?」 驚愕に目を見開くあずさ。 「うそや」とでも言うように左右に首を振りながら後ずさる彼女に、葉月はやれやれとばかり に肩をすくめて、首輪に繋いだリードを外した。 「言っとくけど本当よ。まあ、一応は目印になるように鈴をつけておいたんだけど……」 海岸に目をやり、端から端までをできる限りに見渡そうとする。 「さあ、どこに行ったのかしらね。もしかしたら波にさらわれてるかも」 「んぐ、んぐ!」 「スペア? そんなもの無いにきまってるじゃない。 その拘束具を外したいなら自分の力で見つけなさい。いいわね」 そう言い、葉月は荷物をもったまま防砂林へ踵を返し、車のある簡易駐車場へと足を向けた。 「んぐぉ!!」 追おうとするあずさだが、ただでさえ歩きにくい海岸の砂場に、金属の靴、足枷でほとんど 思うように歩けない。しかも彼女の尻穴には今もゆっくりと自分由来の浣腸液が流し込まれて いて、徐々に腹が辛くなりつつあった。 必死に言葉の様なものを叫び、時折口にたまった自分の尿を飲み込みながら葉月を呼ぶあず さ。 その願いが通じたのか、葉月が足を止め、振り向いた。 「むあ……」 一瞬、ほっとしたあずさだが、葉月は道具を入れていたトランクを開け、1枚のプレートを 取り出す。 「そうそう、忘れてたわ。私としたことが、これがないと未完成よね」 そういって、葉月は取り出したプレートをあずさの首輪のリードを繋いでいたリングに紐を 通して掛けされた。 『変態奴隷調教中』 白いプレートにはそう書かれている。 「やっぱり奴隷にはこれがないとね」 「んが!がもう!!」 「最後に教えておいてあげるけど、この海岸って地元の子供たちがよく遊びにきているそうよ。 貞操帯はしてあるし、顔もその豚面じゃわからないでしょうから、もしも出会ったら安心して 彼らと遊んであげなさい」 「んぐうお!?」 「それじゃ。 早く鍵を見つけないと、目の周りが日焼けしてパンダになっちゃうから頑張りなさい」 「おごおおお!!」 葉月は背中にあずさを残して、今度こそ本当に車にもどり、エンジンを掛けて駐車場を出て 行ってしまった。 残されたのはあずさ1人。碌に身動きもとれず、助けも求められない真っ黒な豚奴隷だけだ った。 (嫌や……こんなん嫌や……) 「んぐ、ゴク、んん……」 あずさが海岸に放置されて既に1時間が経過した。 必死にあずさは葉月の言っていた鍵を探して海岸を彷徨っている。 開口具を奥深くまで噛ませられた口には、歩くたびにチョロチョロと小便が垂れ続け、もう 口の中はアンモニア臭でいっぱいだった。 吊りあげられて痛みに苛まれる豚鼻から呼吸をするたび、放置された便器の匂いが肺に充満 するようだった。 時折乳首に振動が奔るのも、いつかと身構えていなければならず、辛い。 小便浣腸によってお腹もだんだんと苦しくなり、足取りも重くなる。 ただでさえ遮蔽物のなく、雲ひとつない空から降り注ぐ太陽光に熱されたこの砂浜で、こん な黒いラバースーツを着ている上から施された数々の拘束。 猛暑が全身を苛み、足に絡みつき歩きにくい熱砂に体力を吸われ、腸にはおしっこで浣腸さ れ続け、そして自分自身の排泄物をも密閉され拘束された口に流し込まれる……。 並みの少女の体力だったらとっくに参っていてもおかしくなく、体力に溢れ我慢強いあずさ だからこそ、いまだに耐えられているのだった。 (鍵……鍵なんて見つからへん。 あかん、もしかして本当に波にさらわれてしもたんか……?) ぼんやりした思考の中、絶望的な可能性に身を震わせる。 (そんな、助けて。深雪ちゃん……睦月はん……葉月、さまぁ……) 「もごぉ……うえ、ひっく……ゴク、んご、おおおおお」 もう最初の気丈さなどどこにもなく、あずさは涙をたたえた哀れっぽい目で啜り泣きながら、 助けを求めるように海岸を見渡し、よろよろと歩き続けていた。 夏の海岸線。 捨てられた一匹の豚が、ご主人様を求め彷徨っている。 迎えが来るのかは、いまはまだわからない。